悪魔憑きと盲目青年   作:桜桃 

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「知ってるの?」

 周りは賑やかな住宅街。ママ友と思われる子供連れが沢山おり、人の邪魔にならないように道の端で話している。

 他にも、車の通りはあまりないためか。子供が自転車に乗り楽しそうに話していたり、歩きながら何かを見せあっている人の姿もあった。

 

 そのような、楽しそうな空気が満ちている場所に一人。どんよりとした雰囲気を纏った青年が、家を囲っている壁に手を付きながら、ゆっくりと歩いている姿があった。

 

 黒いロングパーカーを身にまとい、フードを深く被り顔を隠している。ジーパンにスニーカーを履いて、なるべく目立たないように人を避け、ただひたすらに歩いていた。

 フードから見え隠れしているのは黒い前髪と赤い布。口を結び、顔を隠すようにフードを右手でしっかりと抑えていた。

 

「やっぱり、外になんて出るんじゃなかった……」

 

 震えた声で呟いたのは、先程旧校舎の家庭科室で着替えをしていた月海だった。

 カタカタと足を震えながらも一歩、また一歩と。前へと進み、目的地へと向かっている。だが、もう旧校舎から出て一時間は経とうとしていた。

 普通の人ならもう買い物は終わり、旧校舎に戻っている時間。

 

 月海は周りの人や物に怯えながら、一歩一歩。ナマケモノのようにゆっくりと歩いているため時間がかかっていた。それだけではなく、人込みを避けるため何度も道を変え遠回りしていた。

 

 そのようなペースでやっと辿り着いたのは薬局。

 目の前に建っている建物を見上げている彼の顔は青い。息も絶え絶えで、今にも倒れてしまいそうな顔色をしていた。

 

 見上げていてもどうする事も出来ないため、月海は不安げにドアを見えない目で見つめる。眉間には深い皺が刻まれ、苦々しい顔浮かべつつ。数秒の間をえて、お店の中へと足を踏み入れた。

 

 お店の中からは、少し優しい音楽が流れ空調もちょうどいい。様々な物が棚に置かれてあり目移りしてしまう。だが、月海は他の物には一切目をくれず、一つの棚へと向かって行った。

 その棚の上には『風邪薬』と書かれている。

 

 棚に置かれている薬を一つだけ手に取り、その後は軽い食べ物を数個持って真っ直ぐお会計へ。

 レジの人に話しかけられるだけで肩をビクつかせ、キョドり気味に返答している。そんな彼に店員は不思議に首を傾げるが、特に何も言わずお釣りを渡して見送った。

 

 そのままお店を出て人がいない建物の隙間へと逃げるように入っていく。

 薄暗くなっていく道。周りは高い建物に囲まれているため、太陽の光が遮断されていた。

 月海はそんな道の途中で止まり、後ろをゆっくりと振り返った。そこには誰もおらず、暗闇が道を包み込んでいるのみ。

 

 人の気配を感じない事がわかり、再度前を向き直す。そのまま壁に背中を預け、ずるずるとしゃがんでしまった。

 

「…………………はぁぁぁぁぁあああああ」

 

 今までにないほどの長いため息を盛大に零す。

 顔を両腕で抱えている膝に埋め、動かなくなった。袋がカサカサと音を鳴らし、彼の手からするりと落ちる。

 力が抜けた月海の手は、何も握らず、落ちた袋に手を伸ばす事もしない。同じ体制のまま、時間だけが過ぎる。

 

 それから数分後、月海はやっと動きだし顔を上げた。落ちた袋からは、水やおにぎり。一番重要な風邪薬が顔を覗かせている。

 のそのそと動きだし、地面に落ちた袋を拾い立ちあがった。

 

「早く、帰るか……」

 

 顔は青いままだが、来た道を戻ろうと顔を向ける。その時、背後から男性と思わしき声が聞こえ立ち止まった。

 その声は甘く優し気に聞こえるが、何かを企んでいるようにも感じ怪しい。そのような声の人に声をかけられたため、月海の肩が大きく飛び跳ね周りを見渡し始めた。

 

「え、僕……?」

「そう。貴方ですよ。魁輝月海(かいきるか)さん」

 

 いきなり月海の背後から一人の青年が姿を現した。今にもぶつかりそうなほど近く、彼の耳元で囁くように名前を口にする。それにより、彼は恐怖と困惑でその場から動く事ができず、顔を少しだけ動かし人物だけでも確認しようとした。

 

 見られている彼は、深緑色のウェーブかかった髪を翻し、鎖骨が見えるくらい広い赤いTシャツ。その上には黒色のロングパーカー。スキニーズボンを履き、革靴でコツコツと音を鳴らしていた。

 

「っ! 君、どこから来たの。気配なんて全く感じなかったけど」

 

 やっと我に返り動けるようになった月海は、掴まれていたわけではないため。その場から勢いよく前へと移動し、すぐさま人の気配を感じ取った方向に振り向いた。

 

 額から汗を流している月海を、少しニヤついた顔を浮かべながら見ている青年。その視線はねっとりとしており、うす気味悪い。怯えとはまた違う思いで、月海は体を震わせた。

 

「な、なに……?」

「ほぅ。()の事を忘れておるのか。それは、実に残念だ。魁輝月海よ」

「は、忘れてる?」

 

 距離をとりつつ、月海は何かを思い出すように眉間に皺を寄せる。だが、何も思い出せなかったため、言葉を発する事ができない。

 

「と、いうか。なんで、その名前を()()()()()?」

 

 体はまだ震えているが、恐怖より嫌悪感の方が強く口を歪ませる。そんな彼の反応を楽しむように、男性は下唇を舐め妖艶に笑った。

 その美しさが逆に恐ろしく、月海は肩を大きく跳ねさせ、我慢の限界に達し青年とは反対の方向に駆け出した。

 

「ほぅ、逃げるか。ここで見逃しても良いが……」

 

 艶やかな唇から覗き見える白い八重歯。逃げる彼の背中を見て、赤い瞳を歪ませ怪しく笑う。

 

「今度こそ、あやつの心をここで壊し。眼だけではなく、感情を――……」

 

 喉を鳴らしながら楽しげに笑い、青年は革靴を鳴らし歩き出した。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

できれば評価などよろしくお願いします(>人<;)
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