「………ん。あれ、月海さん?」
暁音はベットの上で目を覚まし、月海が居ない事に気づくと体を起こし周りを見回した。だが、探し人はどこにもいない。気配すらなく、不思議に首を傾げる。
「……なんか、嫌な予感がする」
目を伏せ、暁音は右耳に少しだけ乱れている横髪をかける。そのまま慌ててベットから降り、床へと立った。すると、軽く頭痛が走り顔を歪ませる。まだ本調子ではないため、安静が必要だ。
右手で頭を支え、眩暈で力が入らずその場に片膝をついてしまう。
「っアカネ! 大丈夫?」
小学生くらいの悪魔、ムエンが黒いモヤと共に姿を現し、心配そうに暁音へと近づき顔を覗き込んだ。不安げに眉を八の字にし、彼女の肩に手を置く。
暁音の顔色は悪く、汗がにじみ出ていた。息が荒く、症状はまだ良くなっていない。
「まだ寝ていた方がいいよ?」
「平気。それより、嫌な予感がするの。月海さんの身に何か……」
ベットに手を置き、ふらつきながらも立ち上がり廊下へと出る。
ムエンはそんな彼女を心配そうに見ていたが、下げていた眉を上げ、人差し指と親指で乾いたような音を鳴らした。すると、黒いモヤがムエンを包み込む。そして、次に姿を現した時には少年ではなく、青年へと姿を変えていた。
佇まいはどこかの執事を連想させ、少年の時とは違った雰囲気を醸しだしながら暁音の隣に移動した。
「どちらに向かいますか、暁音」
「ムエン……。その姿、力を消耗するからあまり使わない方が……」
「暁音のためなら何でもしますよ。さぁ、ご命令を」
丁寧な口調。動作一つ一つに品ががあり、高貴な印象。
右手を胸元に持っていき腰を少しだけ折る。その言葉と行動に、暁音は頷き口を開いた。
「まずは、私をこの旧校舎にある"家庭科室"に連れて行って」
☆
狭く、ジメジメとした路地裏を月海は青い顔を浮かべながら走っていた。
所々にはゴミ袋や自転車が投げ捨てられており道を塞いでいる。だが、何一つぶつかる事なく、体をねじったり横に避けたりと。見えないはずの視界で全て避けながら走っていた。
口元を恐怖で歪ませ、荒くなる息など気にせず先ほどの青年から逃げる。だが、なぜか一向に人通りのある道に出る事ができない。無限に続く道をただひたすらに走っている気分になり、精神的にも追い込まれる。
恐怖が月海の身体を襲い、それに加え逃げる事が出来ない空間。元々慣れない住宅街を歩いて疲弊していた体だったため、月海の体力やメンタルは限界を迎えていた。
とうとう月海は逃げられないと悟ってしまい、舌打ちを零しながら足を止めてしまった。膝に両手を付け、額から流れ出る汗を右手で汗を拭う。
「ど、どうなってんの。これじゃ、まるで……」
「人を追い込めている時のもう一人の自分のよう──だと、思ったかのぉ」
「っ?!」
月海は慌てて声が聞こえた、自分の後ろを振り向く。だが、そこには誰もいなく、光がない闇が広がるのみ。先を見通す事が出来ず、何もない空間から逃げるように自然と後ずさる。体がカタカタと震え、手に持っていたビニール袋が地面に落ちる。
どんどん後ろに下がり、
「っ、完璧にからかってんじゃん…………」
後を見るが、何もない。壁にぶつかっておらず、人もいる訳がない。
手の上で踊らされているような感覚になり、苛立ちと焦りが今の月海を奮い立たせた。
拳を握り震わせ、刃を強く噛みしめる。それでも、今の現状を冷静に考えるため、落ち着きを取り戻す。
「………………ふぅ。これは多分。暁音の所にいるムエンと同じような力かな」
深呼吸をして、空を見上げる。周りが高い建物に囲まれているため空を見る事が出来ないが、それでも落ち着く事ができ冷静に分析を始めた。
「そういえば、あいつ。我の事を覚えていないのかって……。もしかしてあいつ」
何かを思い出したのか、月海はハッとなり前方に顔を向けた。すると、上から楽しげな声が聞こえ始める。
「ほぅ。思い出したか月海よ。いや、思い出したのであればこちらの名前で呼ばせてもらおう。
「っ、その名前で呼ぶな!!!!!」
上空から人の名前が聞こえたかと思うと、いきなり月海が上を見上げ叫んだ。そこには、黒い翼を広げ、妖しい笑みを浮かべ彼を見下ろしている青年の姿がある。重力など関係なしに、建物の側面に足をつけ立っていた。
「なぜ怒る。こちらの方が本名だろう信喜海大よ。生き物にとって、名前は大事なものだろう? 忘れてはいかんよ」
「黙れ!!! それ以上その名前を呼ぶな、その名前を口にするな!!」
「哀れやのぉ海大や。両親からはネグレクトを受け、友人には裏切られ。唯一仲間だと思っていた幼馴染には──……」
「黙れぇぇぇええええ!!!!!」
青年が楽し気に口元へ手を持っていき話している時、月海は喉が裂けそうな程の声量で叫び散らした。
地面に落ちていた石を拾い上げ、前に立っている青年へと感情のままに投げた。だが、それは片手で受け止められてしまう。
垂れている髪は風で揺れ、組んでいた両手は石を受け止めるためにほどく。その行動全てに余裕があり、逆に月海はいつもの冷静さが欠け、感情のままに行動してしまっている。余裕がなく、判断力が鈍っていた。
「そう取り乱すでない。まだ、心が壊れるのは
取り乱している月海を見て、青年はコツ……コツ……と。革靴を鳴らしながら徐々に月海へと近づいていく。
ゆっくり移動している青年の動きを感じ、月海は顔を逸らさないように気を付けながら横に一歩。足を踏み出した。その瞬間、青年は姿を晦ませ。いつの間にか月海の目の前に現れた。
目の前に突如として現れた気配により気が動転してしまい、月海は何も行動できなかった。体が硬直し、何もできない。青年の赤い瞳が、彼を逃がさない。
「まだまだ、こんなに綺麗ではないか。ダメだ。このままでは、面白くない。もっと、我好みの黒い感情を寄越すのだ。昔、幼馴染に裏切られた時のような感情を」
両手を月海の顔に添え、生き物とは思えない異様な笑みを浮かべながらねだる。不気味な笑い声が裏路地に響き、月海は体を大きく震わせる。
絶望的な状況。逃げられず、体が動かない。その時、どこからか女性の冷静な声が響いた。
「そんなに相手が怖いなら、
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