「何を話しているかわからんが、下手な動きを見せればこの娘がどうなるか…………。安易に分かるとじゃろぉ?」
「そうだな。今俺達が動けば、そいつは簡単にあの世逝きだろうな。もう、赤子をひねるより簡単なんじゃないか」
「そうじゃのぉ。じゃから、余計な事をしない方が良い。こやつを悲しませたくないじゃろ?」
「安心しろ。そいつは死ぬ事に対してなんとも思ってない」
「それにしては、嫌がっているみたいじゃがのぉ」
「お前の事が嫌いなんだろ?」
「それは残念じゃのぉ」
二人の会話に、暁音は体を固定されていることとは別にげんなりした。何言ってんだろうと思いながらも、暁音は逃げるタイミングを計っている。だが、熱で集中力も欠け、頭痛や関節の痛みも気になり始めた。早くどうにかしなければ、熱で倒れる可能性もある。
「残念と思ってないな。まぁ、思っていたとしても、そいつは俺のもんだ。誰にも渡さねぇし、殺させねぇ。たとえ、お前のような人外相手だとしても」
「人外か。そういえば名乗ってなかったのぉ。我は堕天使、アルエザ。これからは気軽に名前を呼んでもらえると嬉しいのぉ」
「キモイ断る興味ねぇ」
「…………さすがに傷つくのじゃが」
「そのまま精神的にも肉体的にも死ね」
「ひどいのぉ」
クスクス笑いながら、アザエルは月海とムエンを見る。その時、先ほどとは違う違和感に気づき笑みを消した。
口を閉ざし、瞬きを繰り返す。違和感はあるが何が違うのかわからず、目を細め違う所を探す。
「…………下手な動きをするなと。我は言ったんじゃがのぉ」
何かに気づいたアルエザは、暁音の顔から手を離し指を鳴らす。その時、ムエンの後ろの地面から突如として、黒い水のようなものが飛び出してきた。
高い波のようなものが二人に向かって降り注ぎ始め、慌てて走り間一髪避け地面に倒れ込む。
ムエンは驚きながら後ろを振り向き、月海も同じく片膝を立て後ろを見た。
地面に黒い液体が広がり、うようよ動いている。波のようなものは、スライムのように動き一つに集まり大きな物体になった。触手のようなものが伸び、二人を襲う。
月海は瞬時に立ちあがり、カッターナイフを構え切り落とす。ムエンもすぐさま空中に舞い、黒いモヤを操り小さな鎌を二つ作りだし次々と切り落とし続ける。だが、無限出てくる触手は元をどうにかしなければどうすることもできない。
月海は触手の気配を全て感じ取り、顔色を変えず踊るように避けている。その様子を感心したようにアザエルは見ていた。
「貴方は月海さんを舐め過ぎよ」
「どういう事じゃ?」
「貴方が思っているより、月海さんは強いという事よ」
「なるほどぉ」
まだいまいちわかっていないような態度のアザエルを気にせず、暁音は真っすぐ。二人の動きを見ながら質問をした。
「それより、瑠爾はどうしたの?」
「ん?」
「貴方、さっき食べた人物になれるといっていたじゃない。もしかして、瑠爾を食べたの?」
「そうじゃよ? お主に近付くため、利用させてもらっただけじゃが。何かあったか?」
「……………………そう」
人を殺したとは思えないほどサラッといい放たれ、暁音の元から死んだような瞳はもっと黒く濁り触手から逃げている二人を見続ける。
「どうしたんじゃ?」
「なんでもない」
暁音の反応が曖昧過ぎてアザエルは困惑する。もっと泣きわめいて絶望の顔を浮かべると思っていたアザエルからすると、なんともつまらない反応。だが、アザエルにとって暁音の反応はどうでも良かった。今一番見たいのは、表人格の月海の絶望したような顔。それが一番欲しいと思っていた。
「ねぇ、貴方は月海さんのなに? どこで月海さんをみつけたの?」
「気になるかのぉ?」
「うん」
「素直じゃのぉ…………。調子が狂う。ま、まぁ良い。簡単に教えるとな、あやつが過去。絶望していた時に出会う事が出来てのぉ。その時の顔がたまらなくて、輝いて見えて。もう、離したくないとも思った。だが、あやつはそんな我の気持ちを無視し姿を晦ませた」
話しているアザエルは、最初顔を高揚させ万感胸に迫るような面持ちで語っていたが、徐々に冷めていき、口調が淡々となる。見上げると、赤くなっていた頬は白く、横に伸びていた赤い唇は閉じられた。
目は細められ、カッターナイフを握る月海へと向けられている。
「あんなに素晴らしく絶望の淵に落ちた顔は見た事がない。床にうなだれ、両目から流れ出る雫は綺麗に輝き。泣き叫んでいる声はのどが切れ掠れていた。そして、何より。人を怨み、呪い、憎悪の塊りと化したあの瞳。たまらなかった。だから、もらっただけだというのに、あやつは…………」
「…………え? もらった?」
黙って聞いていた暁音だったが、一つの引っかかりを感じ聞き返した。
「そうじゃ。もらったんじゃよ。あやつの、きれいに黒ずんだ。左右色違いの瞳をのぉ」
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