肉が切れる音。紫の血が飛び散り、地面や床を汚す。月海にも降り注ぐが気にせず、口元に付いた血を軽く舐めた。
倒れかけるアザエルの身体から、いきなり噴水のような霧が噴射され三人を包み込む。いきなりだったため、逃げる事ができず、月海は顔を覆い、暁音はムエンを庇うため覆いかぶさった。その時、ムエンは目を覚まし横眼だけでアザエルを見た。
「アカネ…………」
「っ、ムエン。起きたんだね、おはよう」
「アカネ、あいつ。ルカ一人じゃ、危ない、かも…………」
「えっ…………。でも」
暁音はムエンの言葉に胸騒ぎがし、ゆっくりと月海の方へ顔を向けた。
今はまだ、何も見えない。黒い霧に囲まれ、視界が悪く月海がどこにいるのかもわからない。
目を細め、先を見ようとした時。霧がどんどん晴れていき、視界がはっきりとしてきた。
「あ、月海さん!! だいじょっ――……」
暁音の言葉か止まる。目を大きく開き、口を震わせた。喉が締まり、声が出ない。心臓が大きく波打ち、ムエンを支えている手から力が抜けた。
ムエンは目を伏せ、翼をゆっくりと動かし飛び月海へと向かう。
「…………即死…………」
月海は地面に仰向けで倒れていた。左胸に、大きな穴を開けて。
「んなわけあるか」
「あっ…………」
死んだと思った月海は、なぜか起き上がり苦い顔を浮かべた。怪我していないのか、体は軽そう。普通に立ち埃を払う。
「なぜ。手ごたえはあったはず」
「なんでだろうな。まぁ、俺が天才だって事だ、諦めろよ堕天使」
驚きで目を開き、その場でわなわな震えるアザエルを面白おかしく見て、白い歯を見せ笑った。その笑顔が悪魔のように歪み、人を陥れる事でしか快楽をえられないような。狂うた笑顔を浮かべ、アザエルを見る。
そんな笑顔を向けられ、アザエルは勝ち誇った顔が絶望の顔に切り替わる。顔色が悪くなり、口元を震え始める。がくがくと膝が笑い、近づいて来る月海から逃げるように後ろの下がる。だが、膝が震えてしまいうまく下がれずもつれてしまった。
しりもちを付き、それでも逃げようと地面に這いつくばり腕だけの力で逃げようとした。
「情けねぇなぁ。それでも堕天使かお前。ただのか弱い人間にそんな体たらく、見せてもいいのか? まぁ、俺は楽しいからいいんだけどな」
ペタペタと。這いつくばっているアザエルの後ろを歩きながら、月海は楽しみながら見下ろす。
「お前、もう一人の俺の絶望する顔が好きなんだろ? させてみろよ。今の俺を引っ込め、もう一人の俺を引きずり出させてみろよ。なぁ、堕天使の底力、俺に見せてくれよ!!!!」
「ぐっ!!!」
背中を踏みつけ、呻き声をあげさせる。
「お前にはそんなに恨みはねぇが。お前は俺の気持ちわかるだろ? 人が絶望で叫んだり、顔を歪めたり。泣き叫んだりする所を見ると、興奮するよなぁ。体に甘いような痺れが走って、気持ちがよくなる。この感覚が、たまらなく良い。お前も、こんな感覚が好きで、人を陥れるんだろ? なぁ、答えてくれよ」
ゴス、ゴスと。何度も何度も踏みつけ、そのたびにアザエルはカエルが潰れたような声が口から飛び出す。
「ぐっ、なめるなよ。人間!!!!」
アザエルは怒りに任せ叫び、月海を睨み上げる。そんな瞳も今の月海にとってはご褒美。興奮で顔を高騰させ、横に引き延ばされている唇をぺろりと舐める。
その顔を見た瞬間、アザエルはこれ以上逆らってはいけないと即座に感じ、歯を食いしばる。そして、手のひらを地面に付けた。
「必ず、この屈辱を晴らしてやる。このままで終わると思うなよ」
「っ!? ちっ!!」
アザエルは地面を黒く染め、月海が止めようと手を伸ばすが間に合わず、溶け込むように消えてしまった。
「ムエン!!」
「わかってる!! 絶対に逃がさない!!
ムエンは両手を広げ、地面につける。すると、そこから徐々に地面が黒くなり、見えない何かを追いかけるように伸びていく。
数メートル先まで延び、止まった。
次の瞬間――……
ギャァァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!
地を這うような凄まじい叫び声が地面から響き、暁音は思わず顔を歪め耳を塞いでしまった。
地面が盛り上がり、そこから大量の紫色の血が噴射した。
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