悪魔憑きと盲目青年   作:桜桃 

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「私にだって」

 上から降り注ぐ血。月海は顔を上げ、暁音は耳を塞ぎながら月海と同じ場所を見る。そこには、黒い影に体中を貫かれている、アザエルの姿があった。

 

「あれは…………」

「これが、あいつの最後だ。俺の目を奪ったんだからよ、これが妥当だろ」

「妥当の意味を今すぐ調べたくなってくる光景なんですが」

 

 項垂れ、もう指一本すら動かす事が出来ない状態のアザエル。気を失ってしまい、何も抵抗ができない。

 そんなアザエルを、ムエンは冷めたような瞳で見あげ、次の指示を仰ぐため月海をチラッっと見る。

 

「…………もう大丈夫だろ。食っていいぞ、ムエン」

「わかった」

 

 ムエンは月海の指示に従い、姿を変え始めた。

 黒い霧が少年を包み、どんどん大きくなる。そこから姿を現したのは、毛並みが良い、月を覆い隠すほど大きな狼。

 

 この街全体に響き渡る程の咆哮を上げ、口を開いた。黒く染まり、ブラックホールのような空間が広がっている。その時、薄く目を覚ましたアザエルが動き出し目の前の光景に絶句。

 

「や、やめろぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザエルの叫び声は、そのうち聞こえなくなった。

 ムエンは先程のアザエルの気を警戒していたが、何もない事がわかり姿を少年に戻る。力を使い過ぎて、ふらふら。暁音が慌てて抱きかかえたため、地面に落ちる事はなかった。

 

「あの、何が起きたのか理解できなかったんですが」

「だろうな。まぁ、無事だったんだからいいだろ」

「そういう問題ではないと思います。あの、その胸は大丈夫なんですか?」

 

 まだ胸から落ちる血を見ながら、暁音は問いかける。

 

「問題ねぇよ。ひとまず旧校舎に帰るぞ。どうせ色々話さねぇとならんし、座りてぇ」

 

 月海はそれだけを言うと、暁音を無視して歩き始めてしまった。そのため、暁音もムエンを抱えたまま無言でついていく事にした。

 

 

 

 ☆

 

 旧校舎の教室。いつもの3―Bに辿り着いた。

 月海はいつもの、窓側にある椅子に座り。暁音は隣に立つ。ムエンは寝息を立て安心したような顔を浮かべ暁音の腕の上で眠っていた。

 

「月海さん。教えていただいてもいいですか? あの方との繋がりを」

「…………」

 

 暁音の質問に答えず、月海は黙って夜空を見上げていた。暁音は頬を染めながら、一緒に見上げる。

 瞳が少し潤んでおり、涙の膜か張っていた。かすかに体が震えており、立っているのもやっとな状態。

 暁音の違和感に気づいた月海は、、見あげていた顔を下ろし彼女に向ける。

 

「お前、もうそろそろ限界か」

「みたいです。体に力が入らなくなってきました。一回帰りますね。今回の事は必ず次、聞かせてください。お願いします」

 

 そのまま返答を待たずに教室を出ようとフラフラな足取りで廊下へと向かって行く。そんな暁音を月海は見ていたが、ふと。忘れていることに気づき声をかけた。

 

「おい。そういえばお前、俺の目――……」

 

 問いかけようとした時、暁音の身体がぐらりと傾いた。

 

「っ、っと。…………どんだけ無理してたんだよこいつ」

 

 咄嗟に椅子から飛び上がり、暁音が倒れる前に抱き支えた。ムエンの事もしっかりと掴み、地面に叩き落される前にキャッチ。首根っこを掴んでしまったが、相当疲れているムエンは、鼻提灯を浮かべながら爆睡中。

 ムエンが起きなかったことに安堵し、月海は倒れてしまった暁音を見る。

 

 片膝で腰を支え、右腕で頭を持つ。体から力が抜けているため、両手などはだらんと横に垂れていた。

 

「…………だからこいつは油断ならないんだ。自分の体調不良に気づかねぇとか。あほすぎだろ」

 

 そのような言葉を零し立ち上がった。暁音を横抱きにし、ムエンを彼女のお腹に乗せる。そのまま廊下を出て、真っすぐ保健室に。

 置く側にあるベットに優しく下ろし、ムエンを横にずらした。かけ布団をかけ、月海も横に座る。

 

 月明りが三人を優しく照らしており、暖かい光が包み込む。月海はそんな光が眩しく感じ、そっと手で隠す。

 何も見えない視界で、月海は何かを見続けている。それは自身の過去か。それとも、今日の戦闘の事か。

 

 今回の戦闘ではムエンの力が勝敗を決めたといってもよい。だが、それだけでは確実に押され負けていたかもしれない。

 勝利を手にできた要因は、月海が持つ普通の人では到底出す事が出来ない独特な殺気。

 

 元々不思議な空気を纏っている月海。放っている雰囲気も他の人とは異なり、異質。近づくことすら躊躇してしまいそうになる。そんな彼が、本気で人に殺気を出してしまえば、いくら堕天使だったとしても、簡単に呑み込まれてしまう。呑み込まれてしまえば最後。

 恐怖で体が動かなくなり、声すら出ない。その隙に相手を殺してしまえば、あとは簡単。

 証拠隠滅にムエンが食べてしまえば何の問題もない。

 

 暁音と出会う前。まだ、月海の裏人格が表に出続けていた時。彼は誰でもいいからと思いながら、片手に包丁を持ち人気のない道を夜な夜な歩いていた。

 

 人か近付いてくれば独特な雰囲気で呑み込み、心臓を一発で狙い殺していた。

 気持ちが高ぶっている時は一発で殺さず、何度も何度も体に刃を突き刺しゆっくりと殺していた。その際、人は驚きや苦痛の叫びをあげながらこと切れるため、それを楽しんでいた。

 その度、ムエンが死体を食べ証拠を隠滅。お互い自分にとって有益な事だったため、そんなことをやり続けていた。

 

「…………んん! あ、ルカ」

「起きたかムエン。体の方はもう大丈夫なのか?」

「大丈夫」

 

 ムエンは目元をクスちながら起き上がり、ベットに座り直す。月海を見上げ、あくびを零した。

 

「ムエン」

「どうしたの?」

「お前は、暁音が好きか?」

 

 月海の何の脈略もない質問に首を傾げつつも、ムエンは笑顔で元気いっぱいに頷いた」

 

「大好きだよ!! ルカと同じくらい大好き!!」

「そうか」

 

 少し嬉しそうに微笑みながら、月海はムエンの頭をなでる。心地よさそうにムエンは頬を染め、「えへへ」と笑った。

 

「いきなりどうしたの? ルカがそんな事聞くなんて。もしかしてるかも風邪?」

「そんな事ねぇよ。ただ、このままこいつを俺達の勝手に突き合せられねぇかと思っただけだ」

 

 抑揚のない言葉。感情が載せられておらず、まるで業務連絡をしているように聞こえた。

 

「もうそろそろ、暁音との契約を解除し、記憶を奪い自由にさせる必要があるな」

「え、アカネともうお別れなの?」

「あぁ。元々、こいつは巻き込まれただけだ。こいつの目は俺好みだったし、もう一人の俺が勝手に手をさし伸ばしただけ。こいつは助けられたと思っているがそれは誤解だ。俺たちの気分が、こいつを中途半端にしちまった。なら、こいつのこれからには俺たちはいない方がいいだろう。目も戻ってきたしな。ここにいる必要はなくなった」

 

 月海は暁音のポケットを探り、小瓶を取り出した。

 小瓶の中には、赤色と黒色の瞳が液に漬けられ泳いでいる。

 

「ここでこいつとはお別れだ。約束はもう、考えなくてもいい。お前の感情は、もうすぐで戻るだろう」

 

 月海は立ち上がり、眠っている暁音を見下ろした。右手で彼女の頭を優しく撫で腰を折り、額に軽いキスを落とす。

 

「人のために怒れるようになったお前は、もう安心だ。あとは、俺以外の普通の人間と関わり、プラスの感情を取り戻せ」

 

 足音を鳴らさぬよう、月海は廊下に姿を消した。最後に、ムエンに記憶を抜いておく言うに伝えて。




ここまで読んでいただきありがとうございます
次回も読んでいただけると嬉しいです

出来れば評価などよろしくお願いします❀.(*´▽`*)❀.
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