放課後になり、暁音は教師の忠告を聞かず一人で帰宅していた。
旧校舎に行かなくなり、他にも寄る所がないため真っすぐ家に帰りドアを開ける。中には暁音と一緒に住んでいる知里が、リビングでテレビを見ていた。
「あら、お帰りなさい。最近は早いわね」
「寄る所がなくなってしまったので。ところで、何を見ているんですか?」
「最近世間を騒がせているニュースよ」
テレビには”大量殺人失踪事件。犯人は今だ逃亡中”と大きく書かれていた。それだけで暁音は、朝のHRの話なんだとすぐに理解できた。
暁音は鞄から配られたプリントを取り出し、知里に渡す。そのプリントを受け取り、彼女は険しい顔を浮かべた。
「やっぱり学校でも騒がれるわね。これからはお迎えに行きましょうか?」
「大丈夫ですよ。それじゃ、部屋に戻ります」
そのまま部屋に戻る。そんな背中を知里は、何か言いたそうに口を開き手を伸ばす。だが、何も口にできず、見送ってしまった。
暁音は部屋のドアを開け、楽な格好に着替え鞄から教科書を取り出す。机に置き、回転する椅子に座った。
ペンを動かし始め、ノートを開く。部屋の温度が少し高く、暁音はノートを開いてすぐ窓を見た。
「少しだけ開けようかな」
窓まで歩き手を添えた。
”アカネ”
「っ!!!」
男子にしては高く、聞き覚えのある声が聞こえた。その瞬間、目を開き勢いよく窓を開けた。
ベランダの先には、半透明の少年が黒い翼を羽ばたかせ飛び暁音を見ている。
「ムエン!!」
声を張り上げベランダに飛び出し手を伸ばしたが、ギリギリのところで届かない。ムエンが少し手を伸ばせが届く距離なためむず痒い。
「ムエン!! 今までどこにいたの!! 私はどうすればいいの!? 月海さんは、何をしているの!?」
暁音が何を問いかけてもムエンは答えようとせず、顔を俯かせる。体を乗り出し、ムエンの名前を何度も叫ぶ。
「ムエン!!!!!」
甲高い声で力いっぱい叫んだ瞬間、部屋の外から駆けているような音が聞こえ始めた。その音すら今の暁音の耳には届いておらず叫び続ける。
…………――――バン!!!
「暁音ちゃん何しているの!?」
大きな音を出し、ドアが勢いよく開かれた。それと同時に知里が駆け込むように中に入りベランダに走る。体を乗り出し、
「暁音ちゃん!! お願い、変な事はやめて!!」
「ムエン!! 私は、貴方達にとって邪魔だったの!? お願い、教えて!! 私は、貴方達にとってただのお荷物だったの!?」
何もない空間に叫び続けている暁音を、知里は不気味に感じつつもこのまま手を離せば落下してしまうという思考が過り、険しい顔を浮かべながらも暁音をベランダから離れさせようとする。
「ムエン!!!」
最後の力を振り絞るように暁音が叫ぶと、ムエンはやっと口を開いた。
”よ る い つ も の ば しょ”
口だけを動かし、ムエンはそれだけを伝えるとその場から消えてしまった。それにより、暁音の身体から力が抜け、知里の力だけでも引っ張る事ができた。
後ろに二人で倒れしりもちを付く。
「っ、たた…………。あ、暁音ちゃん!! 大丈夫!?」
床に倒れ込んでいる暁音に呼びかけるが反応はない。肩を揺さぶり起こそうと手を伸ばすと、触れる手前で暁音がぴくっと動きだす。体を起こし、顔を上げる。その顔には驚きが滲みだされており、目を大きく広げていた。
「あ……暁音……ちゃん?」
暁音は知里に気づいておらず、窓の外を見上げる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「夜、いつもの場所…………」
言葉を零し、暁音は立ち上がった。その目はいつものくすみ、濁っているような瞳ではなく。ギラギラと輝かせ、何か希望を持っているような瞳を浮かべている。そんな瞳を見た知里は名前すら呼びかける事ができず、ただただ困惑するのみ。
どうする事も出来ない空気が流れ、二人はしばらくその場から動く事ができなかった。
☆
月が昇り、星が夜空にちりばめられている。綺麗に輝いており、天体観測にはちょうどいい。だが、今外に出るための服に着替えている暁音は天体観測するための準備をしている訳ではなかった。
白いTシャツにピンクの上着。ジーパンに、ポケットにスマホ。
いつも休日の時に旧校舎に行く時の服装に着換えた。
もう十二時は回っており、リビングの部屋の電気は消されている。知里はもう寝たらしく、人の気配はなく、暁音は足音などに気を付けながら玄関に向かった。
いつもの履き慣れている靴を履き、ドアをゆっくりと開け外に出る。音を鳴らさないように、開いたドアを閉めた。
満点の星空の下を歩き、街灯がチカチカと点滅する。電柱には”チカン注意”という破れているポスターが風に揺られ貼られていた。
一人分の足音が響く道路で、暁音は慣れた道を歩き続け目的地を目指す。
「いつもの場所。私達にとってのいつもの場所と呼ばれるのは、あそこしかない」
真っすぐ前だけを見ており、ただひたすらに一つの場所を目指す。
数十分歩いた後、暁音の視界には月明りに照らされ、不気味に輝いている旧校舎が映し出された。
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