「ひとまず、この話は終わりだ。お前は帰れ」
「嫌です」
「かーえーれー」
「いーやーでーす!!」
子供の喧嘩のような言い争いを繰り広げている二人。お互いふてくされたような顔を浮かべ言い争っているが、暁音はイキイキしており少し楽しそうに見える。
「私、もう貴方とは離れませんから!! 絶対に離れません!!」
「俺よ居たところで意味はねぇだろうが、お前の特になる事は一切ねぇ!!」
「解くとか利点とかそういう物ではないんです。これこそ私の感情で貴方と一緒に居たいと伝えているんです。お願いします、許してください。貴方と一緒にいる事を許してください。お願いします」
腰を折り、暁音は一生懸命にお願いをした。その様子に月海はもう何も言えなくなり、口を閉ざす。
数秒間考え、諦めたようにため息をつき頭を掻いた。
「はぁ。もう、好きにすればいい。もうめんどくさくなったわ」
もう今の暁音を説得する事は不可能だと判断し、折れた形で月海は頷いた。
彼の返答に暁音はバッっと勢いよく顔を上げ、喜びで顔を高揚させる。目をキラキラと輝かせ、ガッツポーズをする。
何でそんなに喜んでいるのかわからず、月海はバツが悪そうに顔を歪めた。
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「なんでそんなに嬉しそうにするんだよ。気持わりぃな」
「え、嬉しそうですか?」
「今まで見た事がないような顔していたぞ」
「どんな顔してたんだろう」
「今鏡見たらいいんじゃねぇの?」
「今も嬉しそうな顔してます?」
「してる」
「嘘」
「本当だ」
暁音は自身の頬を触り確認し始める。そんな彼女を月海はげんなりした顔で見ており、呆れている。そんな彼にムエンが翼を動かし近づきながら口を開いた。
「やっぱり、アカネはルカが好きなんだよ。だから、ルカといなかった数日ずっと上の空だった」
「そもそもお前が記憶を消さなかったからだろうが。何で消さなかったんだよ、話が違うだろうが」
「でも、消さなくてよかったじゃん!! こうして、アカネに笑顔が戻った。僕はそれだけでとても嬉しいよ!!」
満面な笑顔でムエンは言い放ち、天井を飛び回る。
なぜ自分と入れることにこんなに喜べるのか。月海は本気で理解ができず、険しい顔を浮かべる。
「そういえば、あいつ。やっぱり感情が戻ってねぇか?」
そう思い、月海は自身の目元に巻いている赤い布を掴み、いつものように引っ張った。瞼はなぜか閉じられており、いつもの闇は潜まれている。
暁音はまだ頬を自身の両手で挟みながらも、視界の端で動き出した月海を横目で見た。
「月海さん?」
顔を俯かせ、動かなくなってしまった月海の名前を呼ぶ。すると、その声に答えるように彼が動き出し、顔を上げた。
閉じられていた瞼はゆっくりと開かれ、暁音に向けられる。
瞼に隠されていたのは、まるで星が瞳の中にちりばめられているような二つの瞳。左右非対称に輝き、月の光も相まって幻想的に暁音の瞳に映る。
無意識になのか、月海の口元の端は微かに上がっており、優しく微笑んでいた。そんな顔で見られ、暁音は先程より頬が染まり値を大きく開き月海の表情に見惚れてしまった。
「月海さん…………。目が…………」
「あ、あぁ。お前があいつから取り戻してくれたんだろうが」
「私が? …………あ」
暁音は月海の言葉を理解できず首を傾げたが、すぐに思い出し手をたたく。
「あの時は私も必死で…………」
「それでもお前が俺の目を取り戻した事には変わりねぇ」
笑顔を消し左右非対称の瞳は夜空へと向けられ、月明りが月海の赤と黒の瞳を照らす。星空が月海の瞳に映り、暁音はそんな月海の瞳を今だに見続けていた。
「…………なんだよ…………」
「綺麗だなぁと、思って…………。月海の瞳」
「…………は?」
「左右で色が違うんですね。生まれつきですか?」
「まぁな。生まれた時かららしいぞ」
「そうなんですね。間違えたんじゃないかと心配になりましたよ」
「どうやって間違えるんだよ」
「私もあまり確認しなかったので」
「どう確認するつもりだったんだ?」
「…………どうしましょう」
「知らん」
月海は無理やり会話を終らせ、項垂れる。深いため息をつき、肩を落とした。そんな月海の様子を見て、暁音はなんで疲れて様子を見せているのかわからず名前を呼びながら顔を覗こうとする。
げんなりした顔を浮かべている月海は、顔を近づかせてきた暁音を見るため顔を上げた。その時、あともう少し近づけばキスしてしまいそうな距離になっており、彼はさすがに驚き目を大きく開き動かなくなる。
「あ、大丈夫ですか?」
暁音は距離の近さは気にしていないようで、表情一つ変えず問いかける。
「…………っ!! ちけぇ!!!」
「痛っ!! 酷いです…………」
暁音の顔を鷲掴みぐいっっと押した。その事で彼女の首がグキッっという嫌な音を出してしまい、暁音は月海から離れ首を抑え恨めしそうに彼を見上げた。そんな彼女など気にせず、月海は椅子から立ち上がり、廊下の方に歩みを進めた。
「どこに行くんですか?」
「どっか」
「…………また、殺人を犯しに行くんですか?」
「そうだったらどうするつもりだ?」
「私も行きます」
「いいのか? お前はまだ逃げられる。無理に俺の趣味に付き合う必要はねぇんだ。俺がへましたらお前も人生終わりだぞ」
「それでも行きたいです。行かせてください」
月海は暁音の言葉を耳にしつつも、廊下からは目を離さず立ち止まる。ムエンは二人を交互に見ており、少し不安げに月海へと声をかけた。
「ルカ、どうするの?」
すぐに返答はない。暁音は催促することはせず、月海からの返答を待つ。
数秒間、沈黙が続き風の音だけが三人を包み込む。昇っている月は変わらず煌々と旧校舎を照らし、教室内を明るくしていた。
暁音の背中を照らし、影を作る。縦に長く伸び、月海に触れようとしていた。
「――……」
月海は覚悟を決めたように、重い口を開いた――……
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