一応次話は既に執筆し終えておりますが、同じくらい進んでいないので明日も更新するか悩んでおります。
懸念点を上げるとするなら、次の次が全然手つかずなので、明日投稿が無かったら察していただければ嬉しいです。
また、原作での詳細がなかったので途中でオリジナル設定みたいな描写があります。
episode12:信じる者
「ヒースクリフ…デュエル、してくれ」
それは、彼が第一層のボスを倒した日のこと。
わざわざ私の拠点にまで訪れて、彼はそんなことを告げた。
目は口程に物を言うとはこのことで、彼の象徴と言える真っ直ぐさが、今では不安な気持ちで埋まり、その瞳から零れてしまっている。
「頼む…」
少し掠れた声に、どこか影を潜ませる表情。ギリッと歯を食いしばっては、固く眉に皺を寄せていた。普段とは違う荒々しさが、彼自身に何かあったのだと安易に想像できた。
「ふむ…」
しかし、私が彼の話を聞く義理などない。
この関係は底がない沼のように深くもなければ、太く繋がれたロープほど硬くはない。
あくまでも私たちは、追う者と追われる者。このアインクラットを攻略するうえで、私という存在はいつか敵対することが決まっている。最終的に皆を裏切る運命に身を置いているため、彼に何か起ころうが、彼の周辺の人間に危害が加わろうが、私はただの傍観者にすぎない。
ゲームの進行具合をみて、少し手助けしたり、有益な情報を流したりする程度の人間だ。
彼らの問題にむやみやたらに首を突っ込んで解決したりすることはない。
あくまでも、この世界をクリアするために動く。それが自分に設けた制限であり、プライドだ。
だが、一人の
「いいだろう」
人間は息を吐くように嘘をついては、相手に限らず自分をも騙してしまう。しかし、この世界を語るうえで、その手に持つ武器を振るう時は、誰であろうと己の内面をさらけ出してしまうのだ。
剣は嘘をつけない。迷いは、すなわち死である。一瞬の気の緩みが命取りであるのだ。
そんな世界で、必死に高みを目指す彼の剣筋が、誰よりも真っ直ぐで素直であることは、きっと私しか知らないだろう。GMとしてではなく、ヒースクリフとして、彼に少しずつ感化されてしまっているのかもしれない。
酷く傷ついた顔の
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時は進み、25層がアクティベートされてから早くも数日が経った。
主街区の表の通りを進むと現れる、赤いレンガが目印の小さなレストラン。この店でサーブされるカルボナーラは材料に拘っていることもあり濃厚で非常に美味しい。贅沢と言えるほどにチーズがたっぷり混ぜられたソースは、フィットチーネ状の麺とよく合う仕上がりとなっている。
フォークをうまく使って絡めると、それを口に運ぶ少女。口の中で広がるフィットチーネのもちもちとした食感に加えて、ミルクの甘さとチーズのほのかな塩味に恍惚し、蕩ける頬を緩ませて小さく呟いた。
「はぁ…幸せ…」
「それはなによりだ」
既に完食した私は、カップに注がれた紅茶を一口啜った。途端、スッと鼻を通るハーブの香りを堪能しながら、彼女が食べ終えるのを静かに待つ。
数分が経ち、カップの中身が無くなるのと同じ頃に彼女がその手を止めたことを確認してから、私は本題に移った。
「さて、単刀直入で申し訳ないが、アスナ君には我が血盟騎士団の団員になって欲しいと思っている」
満足気にしている栗色の髪を持つ少女に、自分が運営するギルドへと勧誘するが案の定、彼女の表情はみるみるうちに暗くなってく。
「…今はまだ、どこかに所属するつもりは…ありません」
重たそうな口を開いた彼女の意志は固く、そう簡単に揺らぐことはなさそうだ。
「ふむ、そうか」
最初から簡単にいくと思っていなかった私は、想定内の返答に小さく相槌を打った。
目の前で俯いている少女のことは、私の背を必死に追っている一人の少年から聞いている。
この世界でも数少ない女性プレイヤーであり、攻略組の一人である。彼女の攻撃スタイルや判断力の高さ、そしてその伸び代の高さは事前に調査済みだった。
彼自身気づいていないが、彼の“見る目”は非常に優秀である。
着眼点が広く、いろんな角度から物事を見ることができた。気づかないような小さい疑問点を掬い、対策やリスクヘッジまでも考えられるほどに、細かいことをしっかりと考えられる力も備わっている。その広い視野と、彼の熱く燃えるような瞳に宿る強い意志が、なによりも彼の将来性を感じる決め手となった。だから私はノーツ君を我がギルドへと招いたのだ。
そんなよく“見る”ことができる彼が嫉妬し、そして同時に絶賛した攻略組の一人が、目の前の少女、アスナ君である。
いわば、彼の『イチオシ』の一人ということだ。
素直ではない彼の口から「悔しい」と漏らすほどに彼女は実力者なのである。
ゆえに、私は早期の段階から彼女と接点を作った。
この血盟騎士団を支えられる人間を確保するため、ノーツ君には内密で彼女と連絡を取っていたのだ。有益なクエストや、効率の良い狩場を紹介しては、ギルドの話を度々ちらつかせていた。
互いに情報交換して話していくうちに、彼女がノーツ君と一時期パーティーを組んでいたことを知る。そして、彼女との間に何かがあったことを察したと同時に、彼を大きく成長させるためには、彼女のような存在が必要であると結論づけた。
いつか訪れる未来で、私を倒すであろう候補者の一人である彼に、密かに期待している。
あの時みた、彼のまっすぐな眼差しを。
強さを欲するが故の苦しさを。
そして、それを乗り越えた先にある、彼のまだ見ぬ大きな背中を。
贔屓しているつもりは全くないが、それでも彼の必死さが、無性に私を惹きつける。
だから、目の前の少女を逃すつもりは毛頭なかった。
不安定な彼を支え、共に高みを目指せる強さを、私が居なくなった時、この世界に希望という道筋を切り開ける可能性を秘めた彼女を、必ず血盟騎士団へと迎え入れる。
そんな決意を込めて、私は躊躇うことなく、彼女の意思を崩すための切り札となる情報を口にした。
「アスナ君は昔、コンビを組んでいたようだが…もし、その相手がどこにいるか知っている。と、私が言ったらどうする?」
「っ!?」
先ほどとは打って変わり、その顔に光が差す。
大きく目を見開いては、華奢な身体を少し震わせた。
「そ、それって…ノーツくんのこと、ですよね…?」
「ああ、そうだとも。私のギルドに入団してくれるのであれば、彼とは毎日会うことができる」
「本当に、彼に会えるんですか…?」
「もちろんだ」
思惑通りことが進みそうで、自然と口角が上がる。
彼の存在を出せば、少しくらいはこのギルドに興味を引く程度だと思っていたのだが、彼女の食いつきは、私の予想をはるか上回った。会話を交わす度に、頑張って抑えてはいるものの、身体は少しずつ前のめりになってしまっていた。
ノーツ君はたいそう、アスナ君に気に入られているようだ。
通常時、フレンドを登録するとお互いの位置情報が共有され、どこにいるのかわかるようなシステムになっているのだが、設定から位置情報を共有しないようにすることが可能である。フレンドとは言えど、これは個人のプライバシーを保護するための処置にすぎないのだが、どうしてもアスナ君に会いたくなかったのであろう彼は、その機能を停止し、ひっそりと顔を合わせないように活動してきた。
そこまで徹底して彼女と距離を取っていたノーツ君であるが、残念ながらその努力も水の泡となるだろう。理不尽な仕事を任された時のように、眉間に皺を寄せて私を睨みつける彼が簡単に想像できる。
そして同時に、ふと、疑問に思った。
「なぜアスナ君はそこまで彼に会いたいのか…差し支えなければ教えて頂けないだろうか」
二人の間のいざこざなんて知る必要などない。
私が知ったところでどうにかなる問題でもなければ、私が彼らの仲介するつもりもない。
しかしあの日、死に物狂いで振り回した彼の剣からは、覚悟を感じた。
感情に身を任せてはいるものの、手探りで必死に何かを探しているような、一つ一つの行動に明確な理由を感じたのだ。闇雲に動くだけではない、どうしたら“強く”なれるのか。私を超えるための道筋を見つけるべく、彼は必死にもがき、強さを求めるがゆえに独りで苦しんでいる。
彼がそこまでして強さに拘り始めた理由を、単純に知りたかった。
もともと私とデュエルをすることで剣技のスキルを磨いてはいたものの、彼が求める“強さ”が、あの日を境に私が想像している強さとは、また別のものだと密かに感じた。
だからこそ、そのきっかけとなった彼女が、彼の運命を意図せず変えてしまったアスナ君が、目の前から忽然と姿を消したノーツ君と会いたがっているのか、気になってしまったのだ。
数秒ほど悩んだ末、彼女はゆっくりと話し始める。
「正直、たいそうな理由ではありません。ただ、初めてだったんです。生きて返すって、本気で言ってくれた彼が、この世界から私を見つけてくれたようで…すごく嬉しかったんです」
何かを思い出したのか、遠くを眺めるように微笑む彼女の笑顔は誰がみても美しいと口にするだろう。しかし、すぐにその表情は曇ってしまった。
「だから余計に、何も言わずに行方をくらませた彼に、聞きたいことがいっぱいあるんです。今、彼が私のことをどう思っているかわからないけれど…それでも、私は彼のことをパートナーだと思っているから」
アスナ君のまっすぐな瞳に、既視感を覚えた。
私は目の前の少女以外に、同じような目をした少年を知っている。
「もし仮に拒絶されたら、アスナ君はどうする?」
彼女の気持ちを知ったうえで、酷な質問を投げつけた。
事実、今の彼の精神状況によっては、アスナ君と会うことで折れてしまう可能性もあった。
アスナ君が入団することで刺激を受けて、彼は爆発的な成長をしてみせるだろう。しかし、これはあくまでも“乗り越えられた”時の話である。最悪の場合、剣を握ることを諦めることだってありうる話だ。
大きな成長に繋がるのか、それとも自滅するのか、確率は半々。
もしそうなった時、彼はそこまでの人間だったと割り切るつもりである。
だが、それでも私は、二人が血盟騎士団を引っ張ていく未来を、見てみたいと思った。
いつになく非効率的で、自分に向かって嘲笑う。
「拒絶されたら…ですか」
わずか数秒の静寂が訪れるが、彼女の柔らかい声がすぐに響く。
それは、まるで何もかもを優しく包み込むような、そんな声色で。
「その時は…彼を、ノーツくんを信じて待つだけです」
微笑むその表情は、私の懸念をいとも簡単に振り払う。
いつか、その時は訪れる。だが、この二人なら、きっと。
そんなことを考えながら、私はつられて口元を緩ませるのだった。
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この調子で精進していきますので、これからもよろしくお願いします。