紅の十字架   作:そこら辺のめがね

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お久しぶりです。
物語自体は動き出しましたが、あまり進んでおりません。


episode16:一歩

第25層の小さな村の小さな公園。

そこを待ち合わせ場所に指定された昼下がりの晴れた日。

午前中の用事を済ませて目的の公園に到着したころ、そこには既に二人の影が見えていた。

 

「あ、こんにちはアルゴさん」

「ずいぶん来るのが早いな」

 

そこに居たのは、血盟騎士団の制服を身に纏ったノーつんとアーちゃんだった。

二人は一緒に来たのか、はたまた偶然同じ時間帯に来たのか、公園のベンチにゆるりと腰掛けており、人が来るまで雑談に花を咲かせて待っていたようだ。

 

「二人ともはやいネ、まだ十分前だヨ?」

「それを言ったらアルゴだってそうだろうが…」

 

呆れたように言い返すノーつんは、少しばかり切れ長な目元を更に細くして、じとーっと物言いたげにこちらを見つめている。

吸い込まれるような綺麗なブラウンの瞳に見つめられるも、適当にあしらうべく笑って誤魔化した。

 

「ノーツくんこそ、誰よりも早く来てたじゃない」

「…レベリングに区切りがついたんだよ」

 

アーちゃんとノーつんの様子を傍目に、小さく微笑んだ。

今でこそ、こうして二人が和解して一緒に行動しているが、二人の複雑な心境を知っている身としては、久しぶりに見たこの組み合わせに若干の感動すら覚えていた。

 

 

突如、一度前線を離れて血盟騎士団というギルドに入団したいとアーちゃんから報告を貰ったとき、キー坊と一緒に驚いたのも最近のできごとだった。

驚いたのは事実だが、そのギルドにノーつんが籍を置いていることを知っていたので、彼女が入団するのも時間の問題だったと小声でキー坊と話したのも記憶に新しい。

 

アーちゃんの入団により、彼女はギルド活動が主軸となったわけだが、それに伴ってアーちゃんを24層まで支えていたキー坊が「コンビを解散する」と公にした時は攻略組に衝撃が走った。

 

 

彼女は常に前線を走っていたフロントプレイヤーで、その美貌もさることながら攻略組の間ではかなりの有名人である。

普段であれば、キー坊やディアベル、キバオウと共にフロアボスの情報交換をして戦略を練ったりする頃合であるが、全くと言っていいほど彼女が表舞台に姿を見せないことに疑問を抱いたことだろう。

 

そこで二人のコンビ解散とくれば、もうその話題で持ちきりである。

 

アーちゃんが攻略組に必要不可欠な存在であることは、誰もが知っている事実。

そんな彼女が前線から消えてしまったことによる攻略組の焦りは相当なものであり、そして今までコンビを結成していた2人が離れてしまうというニュースは、攻略組にとって体の一部を失うのも同然の事態だった。

 

突然の解散宣言がどうしても気になった数名が、独り身になったキー坊に問い詰めた際に「やっとアイツが帰ってくる」と意味深な一言を残したのだ。

 

その後、彼も小さいギルドに身を置いたと風の噂で聞いている。

時折キー坊は前線には顔を出しているものの、基本的にギルドメンバーの底上げに力を注いでいるらしい。

 

攻略組常連のコンビ解消に加えて、キー坊の「アイツが帰ってくる」という発言。

 

予想だにしない事態に首を傾げる者もいれば、"アイツ"を知る者だっている。

現に、DKBのツートップであるディアベルとキバオウは、噂の“アイツ”とは交流が深かったこともあり、特にディアベルに関しては目に見えて張り切っているとのことだ。

 

そして、"アイツ"の前線復帰に関して嬉しく思ってるのは、何もDKBのツートップだけでは無い。

 

 

会話に花を咲かせていた二人だが、ノーつんが思い出したようにこちらに視線を向ける。

 

「そうだアルゴ、俺はアンタに言いたいことがあんだよ」

 

ベンチから立ち上がり、先程とうって変わって、幼さが残るその顔を曇らせた。

彼の表情を見て冷や汗が背中を伝るのがわかった。正直言うと心当たりがありまくりである。

 

怒りに近い感情を露わにしググっと顔を寄せてくるが、必死に逸らして視線を外す。

しかし、視線を逸らした先に例のモノを押し付けてられて逃げ道を塞がれた。

 

それは、つい先日発行したばかりの新聞である。

あははーっと乾いた笑いを浮かべながら、チラッと新聞を突き出しているノーつん(ビーター)をみると、たいそう不満気にとある見出しを指さした。

 

 

 

【《ビーター》の帰還】

黒の剣士キリトが、今では伝説として語られている謎の人物《ビーター》の帰りを仄めかす発言を。

ビギナーとベータテスターの懸け橋となり、一つにまとめた実績は大きく今の攻略組の基盤を作ったと言っても過言ではない。それだけに留まらず、第一層のボス討伐にも参加し大活躍したのだが、ボス討伐後、その姿を消した。行方をくらまし消息を絶った《ビーター》は、前線にその姿を再び現すのか───

 

 

 

「なんだよこの記事、詳しく説明していただこうか?」

 

にっこりと微笑むノーつんの顔は、まるで鬼のようである。

 

不満気な表情を包み隠すことなく、新聞を突き出して訴えて来る彼だが、何度この記事の取り下げを要求されても訂正するつもりは毛頭ない。なのでここは上手い具合に躱すことに専念した。

 

「まァ、アーちゃんが顔を出さなくなった今、攻略組のモチベーションはノーつんの存在なんだヨ」

 

仮に新聞にした記事がデマ情報だったとして、アインクラッドを攻略する上で不都合が生じた場合には早急に謝罪し、己の持つ人脈をこれでもかと使用して誤情報の訂正を行うだろう。

だが、今回のこの件に関してはただのゴシップであり、実際にアーちゃんとキー坊のコンビ解消というネガティブな話題を打ち消す希望の光がノーつん(ビーター)であることに変わりはない。

 

まあ、そんな説明をしたところで自己肯定感が地よりも低く、岩石よりも頭が固い彼が受け入れることはないだろうが。

 

「俺がいったい何をしたって? 攻略組と肩を並べられるほど実力がある訳じゃないだろうがよ」

「ノーつんならそう言うと思ったヨ」

「事実だろ、俺はアイツらに何もしてやれてない」

 

やっぱりネ。予想が見事に的中し、内心フンっと鼻を鳴らした。

 

 

噂が独り歩きしてもはや伝説の人物となっているノーつんは、攻略組との実力差を懸念しているようだ。しかし、彼の日々の努力を知っている身としては、さほど心配するに足らないと思ってしまうほどには彼の実力を高く評価している。

 

というのも、彼は前線を離脱してから、手付かずのクエストを淡々と攻略してた。

 

話題性が無いに等しい小さなクエストをやっている時もあれば、フロア限定の隠しクエストを攻略してみたりと、種類を選ぶことなく目の前で発生したクエストを物凄いスピードでクリアしていたのだ。

本人は意図していないようだが、お陰様で情報屋アルゴとしての仕事がかなり減って楽をさせてもらった程には、数え切れないほどの量のクエストを黙々と完遂していた。

 

本人は隠れてやっているつもりのようだが、その勢いが裏目に出てしまい、ノーつんの暗躍はアーちゃんを除くいた彼を知る人物のほとんどにバレていた。

 

迷宮区には潜っては居ないものの、最新層にある数え切れない量のクエストを単独クリアするだけに留まらず、高難易度のものまで終わらせてしまうのだ。

それくらいの実力がある人物は攻略組を除いてもごく少数しかいないため、自然と人が絞られてしまったのが彼の敗因だろう。

 

奇跡的にアーちゃんにバレていないのは、彼女の周りにいるノーつんの友人が気を遣って話を逸らしたり誤魔化してくれていたからだ。

 

しかし、勘の鋭いアーちゃんは「このクエストをクリアしてるのはノーツくんによるものじゃないかしら?」と、何度か口に出していた。その度にキー坊は冷や汗をかいて誤魔化す、という一連のやり取りは大変愉快で面白いものだったが、キー坊の苦労は計り知れない。

 

ノーつんはキー坊に大きな貸しをまた一つ作ったわけだ。

 

まあ、今となってはその心配をする必要もなくなったのだが。

 

 

ノーつんをの小言を右から左に聞き流し思い出に浸っていると、空気を察したアーちゃんが口を開く。

 

「今まで顔を出せなかったぶん、これから頑張ればいいのよ。ね、ノーツくん?」

「……まあ、そう…だな」

 

どこか嬉しそうな表情を浮かべるアーちゃんを見て、文句を垂れていたその口は結ばれる。

またノーつんと一緒に肩を並べられる嬉しさからだろう、その笑顔は綺麗に咲いており、さすがに卑屈な彼でさえも言い返す言葉を飲み込んでしまったようだ。

 

 

この二人のやり取りを見て、関係性がちゃんと修復していることに確信を持ち、アーちゃんの笑顔につられて微笑む。

 

「それにしても…やっと2人とも和解したんだネ。二人揃って会いたがってたのに意地張って会わないカラ、オネーサンどうなる事かとヒヤヒヤしてたヨ」

「「なっ!!」」

 

思いもよらなかった爆弾発言に、当人達は露骨に反応した。

それはもう、面白いくらいに顔を真っ赤にして。

 

「俺は……べつに…」

「アーちゃんから連絡来る度に、黒鉄宮に顔を出してたのはどこノ誰かナ〜?」

「アルゴ!!それは秘密にするって約束じゃっ!!?」

 

小声でモゴモゴ話している姿から、明らかに動揺しているのが伺えた。

普段の彼を知っている者からすれば、この焦りようはかなり貴重な瞬間である。

 

「ノーツくん…それ、本当なの……?」

「なッ…!?そ、そんな顔でこっち、を…見るんじゃねぇ!」

 

アーちゃんの恥ずかしそうで、それでいてどこか嬉しそうな視線に、ノーつんは大打撃を喰らう。

耳まで赤く染めて必死に視線を逸らして誤魔化す彼を、一人の少女は優しく見つめた。

 

「そっか…へへ、そうだったんだ」

 

なんともまあ、甘い雰囲気がこの場を包み込む。

 

 

この二人が"そんな関係"ではない事はよく分かっているし、二人の間にできた空白の時間が深いことも知っている。

最近になってやっと顔を合わせるようになった二人が、ギルド以外のプライベートな時間を共有しているのかと問えば、両者ともその首を横に振るだろう。

 

ただ、それを加味しても、この二人の間にある絆…もとい関係性を「相棒」と称するのも違和感がある。

 

しかし、誰がが仲介できるような話でもなければ、二人の抱いている感情はよくも悪くも複雑だ。本人たちが向き合わない限り、この問題に他者が介入する必要はない。

どう転がろうが、あくまでも当人同士が納得するまで、見守ることに専念するのが彼らにとっても一番いいのかもしれない。

 

 

「この話はもういい…もうそろそろヒースクリフもやって来る頃だ。本題に入ろう」

 

未だ熱をもつ耳を誤魔化すように、ノーつんは話を切り出した。

無理くり話を変えてくるあたり、なんともまあ可愛いヤツである。

 

「そうだナ、キミたちの団長サマが来る前に今までの情報をまとめておこうカ」

 

改めて二人に顔を向けると、先ほどの空気から一変してピリッと引き締まる。

今回、ヒースクリフ、ノーつん、アーちゃんの少数ギルド、血盟騎士団を呼んだのには理由があった。

 

「ノーつんが見つけた不思議なクエスト…一見行方不明の少女を探す探索クエストだケド、内容が少し奇妙なんダ」

「奇妙?」

「関連クエストを終えたこの村での最終クエストなんだが、内容があまりにも簡単なんだよ」

 

第25層のメイン区画から離れた森の奥の、とても小さな村で見つかったこのクエスト。

迷宮区に籠りっきりの人間ならば見向きもしないような小さなクエストをいくつかクリアして、初めて解放されたものである。

 

パッと表示されるだけでも数えきれないほどの量のクエストに、アーちゃんは軽く驚いた。

 

「えっ…と、ちょっと待って…この村のクエスト凄い量だよ?ノーツくん、いつこのクエストをクリアしたの…?」

「コンビを組んでない時間でチマチマやって、最近やっと終わらせた」

 

クエスト発生条件が村全体のクエストクリアであり、相当のモノ好きじゃなければこんなめんどくさそうなクエストを完遂しないだろう。

だが恐るべきことに、目の前にいる男は手すきを見てクリアしたようなのだ

 

「この村にあるクエスト全部、たったひとりでやったノーつんの行動力にオネーさんは脱帽だヨ」

 

とんだバケモノか、かなりの変態である。

 

最近になって、やっと攻略組と同じように迷宮区に潜っていると聞いたのだが、ここまでくると睡眠時間すらも削ってフィールドを駆けまわっているのではと疑うほど、彼のクエスト完遂スピードに軽くドン引きしている。

 

アーちゃんもなにか言いたげだったが、全てを飲み込んで呆れたようにノーつんを見つめるも、当人は片眉を上げて「なにか?」と言いたげな表情を浮かべるだけだった。

あまりの無謀さに、こっちまで小さくため息をついてしまう。

 

「脳筋は置いておいて、この内容なんだケド…」

「脳筋っていうな」

 

物言いたげなノーつんを無視して、そのまま話を進める。

 

「このクエスト、行方不明の少女を探すって表記してるけど、実際は目的の場所にただ行くだけみたいなんダ」

「…それだけ?」

「あぁ、それだけだ」

 

この村を脅かすモンスターの討伐でもなければ、少女の護衛でもない。

ただ、指定された場所へ脚を運ぶだけの簡単なクエストなのだ。

 

あまりにも拍子抜けするようなクエスト内容に、さすがのアーちゃんも少し困惑した表情を浮かべる。

 

「あまりにも簡単すぎて、ちょっと怪しく感じちゃうわね…このクエスト」

「アスナもそう思うか…俺もさすがに裏があると思ってアルゴに相談を持ち掛けたんだ」

 

顎に手を添えて眉を顰めるアーちゃんの反応に、ノーつんも共感を示す。

 

「でも残念ながら、オレっちでもこの件に関する情報を持っていなかっタ」

 

プレイヤーからクエスト情報をもらったり、自らクエストの様子を見たりと、情報屋として名を響かせている自負はある。しかし、さすがにこのタイプのクエストでここまで簡単なものは見たことがなかった。

 

ノーつんも警戒し、この情報を共有するのも十分に理解できる。

それほどまでに群を抜いて異質なのだ。

 

 

「だから、クエストを発見したノーツくんを通して、血盟騎士団の実力を見極めるため私に直接依頼をした…という流れだろうか」

 

突如として、低く落ち着いた声が背後から聞こえてきた。

振り返ってみると、だいぶ前から到着していたのだろうか、今までの会話を聞いていたヒースクリフが涼しい顔でこちらを見ている。

 

「さすがだネ、ヒースクリフ団長サマ」

 

わざわざ血盟騎士団というギルドの団長に直接依頼を申し込んだ意図を、彼はしっかりと理解しているらしい。

 

「おせぇーぞ、どこで道草食ってたんだよ」

「ちょっとノーツくん…団長に向かって…」

「アスナ君構わないよ。少々用事が長引いてしまって到着が遅れてしまったのは事実だ、すまないね」

 

輪の中にヒースクリフが加わり、全員の顔を見渡した。

 

彫の深い顔に、いぶし銀を感じる佇まい。どことなく余裕を持った風格に、無意識のうちに人は惹きつけられるのだろう。

それほどまでに、彼が放つオーラはどこか特別で、安心感がある。

 

「ある程度はアルゴくんとノーツくんから情報をいただいているが、クエストに記載されているものが全てではない。万が一の戦闘に備えて、ノーツくんとアスナくんはすぐに剣を抜けるよう準備したまえ」

「了解です」「へーい」

 

血盟騎士団、ヒースクリフを団長に置いた、ノーつんとアーちゃんが加入している小規模ギルド。ノーつんが目標にしているヒースクリフという人物の強さは、彼を一目見ただけで安易に計れるものではないようだ。

 

それもそのはず、彼は底なしの実力をひたすらに隠し続けており、しまいには一度もボス戦に参加することなく活動していたのだ。ノーつんからヒースクリフの腕前を聞いた時は、心底驚いたほどに。

 

そしてもう一つ誤算があった。

 

彼は自分と同じように、情報を網羅している情報通だと認識していたことである。

 

アーちゃんが前線に居たころ、時折情報を流してもらっていたことも知っていたし、ヒースクリフから情報をもらっていたのは何もアーちゃんだけではない。

 

そのこともあり、ギルドを設立しノーつんとアーちゃんを勧誘した彼の力量は未知数だった。

 

今後大きなギルドへと成長していくであろう血盟騎士団がどれほどのものなのか調べるべく、何度かノーつんとヒースクリフとのデュエルを遠くから見たことがある。

決して弱くないノーつんに一度も致命傷を与えないプレイヤースキルを見せられた時、さすがに目を疑わずにはいられなかった。

 

下手すればキー坊よりも、この団長が強い可能性すら感じてしまう。

だからこそ、余計血盟騎士団というギルドに興味がわいたのだ。

 

「血盟騎士団としての初任務だ、油断せず挑もう」

 

ヒースクリフ団長の発言でよりその場の空気が引き締まる。

二人とも、だだのクエストだと微塵も思っていないのが良くわかる表情で、同行する身としては非常に心強い。

 

「アルゴ、良くみとけよ…これからデカくなるギルドの記念すべき初クエストを」

 

悪戯っぽく微笑んだノーつんは、今まで見た彼の表情のなかで一番楽しそうだった。

 

これから攻略組を引っ張りまとめていくであろう血盟騎士団の将来性に、こちらもどこか浮足が立つのを感じながら、一歩、その足を踏み出すのだった。

 

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