紅の十字架   作:そこら辺のめがね

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今回は短いですすみません。


episode5:パーティー

 

ふと目が覚めると、先ほど倒れた場所ではなく、草木が揺れた涼しい場所に私はいた。木々が生い茂り、茅場晶彦の手によって創られた、眩しく、透き通った美しい空から木陰が私を守っている。背後には大きな石があり、意識を取り戻すまでそこにもたれかかっていたらしい。

 

「お、目が覚めたのカ?」

 

頭上から、かわいらしい声が聞こえたので声のする方に目を向けると、そこにはネズミを連想させるようなフェイスメイクをした小柄な女性がそこにいた。私と目が合うと、その女性は無邪気な笑みを浮かべる。

 

未だ少しぼーっとしている頭を横に振って無理やり覚醒させ、彼女に尋ねる。

 

「あなたが…助けてくれたの……?」

 

命の恩人にお礼を言おうと体を向けるが、目の前の女性は慌てた様子で手を交差させた。

 

「残念ながらオレっちが助けたんじゃないんダ、君を助けたのはノーつんだヨ」

「の、のーつん?」

「そウ、ノーつんダ」

 

ニコニコと笑みを浮かべる女性をみて、どうしたらいいかわからず困惑していると、女性プレイヤーは察したのか、優しい笑みを崩すことなく草原を指した。

 

そこに目をやると、ブラウンの髪色をした一人の青年がいた。彼は青い猪型のモンスターと戦闘しており、左手に持つ曲刀にオレンジ色の光が纏わると、一気に猪のモンスターと間合いを詰めた後、その曲刀を振りかざす。HPはみるみるうちに減少していき、モンスターはポリゴンへと姿を変え静かに消失してしまった。

 

溶けていくポリゴンの破片を見つめながら、私は洞窟での出来事を思い出す。

 

もしあの男の子が来なかったら、私は今頃一人で死んでいたのだ。

振りかざした時のモンスターの恐ろしい形相がまだ頭から離れない。

 

「もし私があの時やられていたら、私もあんな風に死んでたのかな…」

 

モンスターがいた空虚を見つめながら、ポツリとそんなことを言葉にしていた。

 

 

たしかにあの時、死にたくないと思った。それは私自身が、あの世界でやり残したことがあり、自分が望んだわけでもないゲームの世界で、ただただやられて死にたくないと思ったからだ。

 

それでも、死ぬ直前はダメージを受けたとはいえ、恐怖で体がすくみ上り、逃げなければいけないと頭では理解していても、体を動かそうという風にはならなかった。否、身体を動かせなかった。

 

「死」という恐怖にいざ直面したとき、私は何もできなかった。

 

でも、だからと言って私は負けたくない。もし死に方を選べるなら、私は…

 

 

 

「おーい、大丈夫か?」

 

すると俯いていた私の目の前に、ひょいっと誰かの顔が現れた。茶色い髪の毛と、それより少しだけ暗いブラウンの瞳に吸い込まれる。同い年くらいの男の子だろうか。それにしては少しだけ童顔だけど、それぞれのパーツは整っている。

 

「え、おい…大丈夫か、アルゴ実はコイツもう手遅れだった感じ…ぶっふ!!!」

「あチャ~」

 

我に返った私は近くにあった彼の顔面めがけて平手打ちをした。

右手には確かな感触があり、手のひらから微かな重みが伝わってくる。そのあとにバチンと痛そうな音が周辺一帯に気持ちよくこだました。

 

 

「あれはノーつんが悪いナ」

 

アルゴと呼ばれた女性プレイヤーは額に手を打ち付けて呆れた目で、飛んで行った彼の行く先を見守る。

そんな彼はゴロゴロと数回にわたって転がると背を木に打ち付けてようやく停止した。

 

咄嗟のことで無意識的に彼を吹き飛ばしてしまったことを、たった今理解する。

 

「あ、ご…ごめんなさい!!」

 

急いで謝るべく駆けつけると、男の子はゆったりと起き上がった。

 

「ったく、ここは安全圏じゃねえって…強すぎだろ、ゴリラかよ…」

 

そう言われて私の中の何かがブチっと切れる音がした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ひぃ…!!!」

 

俺に平手打ちをした女性プレイヤーは、自分の腰にあるレイピアをまるで閃光のように素早く抜くと、今度は俺に向って突き刺した。突き刺した剣先は俺の左頬をすれすれで通過し、背後にあった木にレイピアの先端が突き刺ささる。

 

「はや…」

 

小さく、そう呟いた。

 

ちらりと女性の方に視線を向けると、俺を今すぐにでも滅多刺しにし、穴だらけにしてやろうかと言わんばかりの睨みを効かせる。

 

あれはマジで怒ってる。

 

そう、初めて会った俺でもわかるくらいの殺気が彼女の背後から滲み出ていた。

 

「最後に何か言い残すことは?」

 

グイッとその整った顔面を近づけるが、無論、表情は怒りで染められている。

 

「えと、その…すみませんでした」

 

視線を逸らして両手を自分の胸の前へと持っていくと、彼女は仕方なくといった様子でレイピアを鞘にしまう。俺は命の危機から免れると、胸を撫で下ろしてふぅ~っと深い息を吐いた。

 

流石にデリカシーに欠けた言葉を言ってしまったことに反省しつつ、彼女に声をかける。

 

「それにしても速かったな、一瞬見惚れちまったよ。なんでそんなに速いんだ?」

「そっ…そんなの知らないわよ…」

 

彼女はバツが悪そうな顔で俺を睨むと、彼女は助けを求めるようにアルゴへと視線を向ける。するとアルゴは今でのやり取りを見ていたのか、石の上でニヤニヤしており、俺と彼女を交互に眺めては、からかうように口を開く。

 

「仲がいいネ~」

「何をどうしたら仲良く見えるのかしら…」

 

ボソッと否定する彼女を無視して、アルゴはスッと石から降りると大きく伸びた。

 

「元の運動神経もあるからナ~あとはステータスを俊敏に振ってるからじゃないカ?」

「なるほど。あの速さがあればヒースクリフに勝てると思ったんだが…」

 

ヒースクリフの速さに追いつくべく、頭を捻らせている俺を置いて、アルゴは女性プレイヤーに向かって再度口を開く。

 

「ノーつんも言っていたけどすごく速かった。名前を教えてくれないカ?」

「名前? 結城明日奈です。」

「ゴメン! 今の忘れるからこれからはプレイヤーネームでお願いしまス!」

 

考えている間に女性プレイヤーとアルゴがわちゃわちゃ何かをしていたが、気にすることなく俺は思考を続ける。

 

どうしたらヒースクリフを倒すことができるのか。そもそもヒースクリフのレベルやらステ振りやら俺は全くと言っていいほど知らなかったな。アルゴのように、自分から情報を手に入れるという行動が今後も必要だ。そして、その情報は自分の成長のためには欠かせない。

 

また、元の運動神経が関与してくるのであれば、今後の攻略やヒースクリフとのデュエルにも彼女の動きから何か学べることがあるのではないか。

 

そう結論を出した俺は、立ち上がるとすぐに行動へと移した。

 

「なあ、女性プレイヤーさん」

 

アルゴと会話の途中だったのか、俺が彼女を呼ぶと二人とも自然と俺の方に目を向ける。

 

 

「俺とパーティを組んでくれないか?」

「嫌よ」

「へっ?」

 

間髪入れずに俺はお断りの言葉を頂いた。

 

俺自身、断られると思っていなかったため、かなり精神的ダメージが大きい。

 

これは、普通に、軽く凹んだ。

 

「ちょ、ちょっと待って。さっきのはマジで謝るから!もう言わないから!」

「い・や・よ。人をゴリラっていう人と組むものですか」

「あれは言葉のあやで…夕食でもなんでもおごるから、この通り!!」

「ふんっ」

「くっ…本当は…教えたくなかったが…仕方ない…いい宿を紹介する!朝食と風呂がついててめちゃくちゃ安い宿だ!」

 

すると女性はピクリと微動すると勢いよく両手で俺の胸倉を掴んだ。

踵が浮く感覚と、端正な顔が再び近づく。

 

俺また無意識に殴られようなこと言いましたか?

 

「ごめんなさい、何でもしますからグーパンはやめて」

 

必死に懇願しながら片眼を閉じて彼女を見ていると、拍子抜けするような顔がそこに現れた。

 

「お風呂ですって!!?」

 

食い気味に瞳をキラキラさせて俺を見るその表情は、まさに美少女だ。

 

「…なんだ、可愛い顔できんじゃん」

 

俺が微笑むと女性プレイヤーは胸倉を掴んでいたことに気づいたのか、手を放し、顔を少し赤らめながらコホンと、誤魔化すように咳ばらいをする。

 

「わ、悪かったわね…それで、お風呂どこにあるの?」

「まあ、そう焦るな…まずはこっちだろ?」

 

俺はパーティ申請を送ると女性プレイヤーは「お風呂のためよ」と己に言い聞かせるように呟いた。そして約一名、驚いたように俺を見つめる人間もいる。

 

「ん、おいらにも申請が来てるゾ?」

 

そう、俺は女性プレイヤーだけでなく、アルゴにもパーティ申請を送ったのだ。俺の予想だが、女性プレイヤーに教える宿に関してどうせあれこれアルゴに聞かれると踏んでいたため、予め申請を送っておいた。それに、せっかくなのだ 宿に行くまではパーティに居ても問題はないだろう。それにあの宿は俺が発見したんじゃなくてヒースクリフから教えてもらった所だし。

 

「宿の場所は情報屋にとって気になるだろ? アルゴは見てていいからレベリングに付き合ってくれよ」

「まテ、それだとオイラにしかメリットがないじゃないカ」

「貸し1ってことで、それに彼女も俺よりアルゴと居た方が安心するだろ」

 

コクコクと首を縦に振る女性プレイヤーを傍目で見ると、アルゴはため息をついて「今回だけだからナ」と承認ボタンを押してくれた。アルゴがボタンを押すと同時に女性プレイヤーからの承認も下りる。

 

「えぇ~っと、アスナ…さん、とアルゴ。よし、改めてよろしくな」

「…なんで私の名前わかったの?」

 

また何か変なことしたのかと言わんばかりに、ジト目で俺を見つめては、自分の身を守るように腕で体を隠す。

 

あまりの信頼のなさに自嘲するが、その問いにはアルゴが答えてくれた。

 

「アーちゃん左上にパーティメンバーの名前書いてるから見てみナ」

「…あ、本当だ」

 

アスナはそういうと小さく笑う。

 

「ノーツだから、ノーつんなのね」

 

ふふっと笑うアスナをみて、俺とアルゴは顔を合わせ、つられて小さく笑ったのだった。

 

 

 

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