紅の十字架   作:そこら辺のめがね

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ごめんなさああああああい、短いですううううううう


episode6:下剋上

「ほお~ここが例の宿か!! 女性プレイヤーに需要がありそうな宿だナ!」

「俺も人から聞いたんだ、その人に感謝してくれ」

 

俺たちは例の宿に着くとパーティーを解散させ各々での自由行動とした。アルゴは楽しそうに部屋を堪能する反面、アスナはモジモジと何か言いたげな表情をしている。きっと早急に風呂にでも入りたいのだろう。遠慮しているのか自分の口からは何も言ってこないが、チラチラと期待を向ける目で俺を何度も見ては言い出せずにうつむく姿は何ともまあ可愛らしい。

 

可愛いからと言って焦らしていると拗ねる可能性もあるのでそろそろご褒美タイムにでもしよう。

 

「風呂なら入っていいよ。俺は外でレベリングしてくるから」

 

今日のドロップ品と自分のレベルを確認すると、椅子から立ち上がり静かに伸びてから、彼女にそう言う。

 

するとどうだろうか、アスナはその整った美しい顔をぱあ~っと輝かせては、今にもスキップしそうな勢いで風呂場へと直行した。あの様子を見るに、ゲームの世界とはいえ日常的に風呂に入れない環境が嫌なのか、相当な風呂好きなのかだろう。背後から喜びが滲み出ており、ずっと楽しみだったのか宿に向かっている時から「私お風呂が楽しみです!」といった感情が隠し切れていなかった。

 

そんなことを考えながら彼女のルンルンとした背中を見送った。

 

俺の様子を見たアルゴは一つ、ニヤニヤしながら俺の横腹を肘で小突く。

 

「覗くなヨ」

「いや、覗かねーよ。覗いたら今度こそ殺される」

 

アルゴは茶化してくるが、俺は本気で下心と冗談抜きで覗いたら殺されると思っているし、昼の二番煎じになりたくないため、むしろこの宿から一刻も早く出たかった。

 

俺が外に出る準備をすると、マントを羽織っていない軽装備のアルゴは、呆れた顔を浮かべては俺が座っていた椅子に腰を落とす。

 

「あんなにモンスター倒してたのにまだレベリングするのかヨ…ほどほどにナ」

「さんきゅーな、でも新しい装備のためだ。強くなるためなら何でもやる」

 

俺が欲しがっている新しい装備を買うには、手持ちのコルだと微妙に足りない。また、アスナと一緒にパーティーを組んでみて、彼女から得られたものを今日の内に自分のものにしたいため、俺は装備を整えると復習とコル稼ぎがてらに再度出かけることにしたのだ。

 

「ムリだけはするなヨ」

「もちろんだ」

 

アルゴの優しい忠告を受け入れつつ、俺は玄関へと足を運ばせた。

 

「二人が風呂上がったらいったん連絡をくれ」

「リョーカイ」

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃーイ」

 

ひらひらと手を振るアルゴをチラリとみてから俺はドアを開けた。

 

まさか、この世界に来てから行ってきますと言う日が来るとは思っていなかったな。

 

デスゲームが始まって以来、俺はほとんどソロで活動しており、ヒースクリフとしか人間とは関わっていなかった。NPC以外のプレイヤーと積極的に関わろうと思わなかったため、他のプレイヤーから声をかけることもなかったし、かけられないように立ちまわっていた。

 

だからこそ「行ってらっしゃい」と言われることが、とても嬉しかった。

 

「うし、やるか」

 

 

機嫌がいいのか、足取りが軽い。いつからこんなにチョロくなってしまったんだろうか。そんなことを思っていると、ピロンっとメッセージの通知音が聞こえた。

 

もう風呂に上がったのかと思い軽く驚いていたが、己が予想していた人物からではなく、自分の数少ないフレンド欄に登録されており、そして我らが【血盟騎士団】の団長様であるヒースクリフからのメッセージだった。

 

メッセを開くと小さく「あっ…」と声が漏れた。

 

 

隠しログアウトの件はどうだったのか。という内容だ。

 

午前中色々あったためヒースクリフへの報告を完全に忘れていた。

途中まで覚えていたのだが、殴られたと同時に俺の脳内からこの事件について報告することを、もろとももぶっ飛ばされたんだろう。

 

うん、きっとそうだ。そういうことにしよう。

 

深いため息をついて、メッセージをヒースクリフに送る。闇も広がり始めている中、ヒースクリフに会うべく俺は昼間に平手打ちを食らった草原へと、重くなった脚を引きずるように再び歩き始めた。

______________________________________________________

 

 

時間ピッタリに目的地に到着するとそこには夜空を見上げているヒースクリフの姿があった。こんな時間になっても呼び出したらしっかりとくるヒースクリフも律儀な性格である。

 

「よぉ、ヒースクリフ」

 

声をかけるとヒースクリフは顔をこちらに向ける。その右手には剣を握っており、先ほどまでレベリングをしていたのか、それとも俺の望みを叶えるために握っているのか。まあ、それは後にわかるだろう。

 

「隠しログアウトの件は解決したのか」

「どうだったか聞きたいなら、俺に勝ってから教えてやる」

「いいだろう、すぐに終わらせよう」

 

フッと余裕そうに笑う団長様はいつものようにウィンドウを操作し始めた。

 

「そうこなくっちゃな」

 

すると目の前にデュエル申請の画面が表示される。俺は承認ボタンを押すと、右腰にある鞘から曲刀を抜き取った。

 

デュエル開始まであと40秒。

 

俺は目を閉じて今日のアスナを思い浮かべる。あの素早い動きを自分の身に落とし込むために一度練習したかったが、習得する前に本番が来てしまうとはな。俺は一人で笑いながら、頭の中でアスナの動きを自分の体に覚えさせ、何十回もイメージさせる。

 

後10秒。

 

一つ息を吐いて、静かに目を開けた。

 

カウントが0になった瞬間、俺は彗星のごとく駆け出す。地面を蹴る脚に力を入れ一気に間合いを詰めた。一瞬驚いた顔をヒースクリフは浮かべるが、すぐまた笑顔へと変わる。

 

笑う余裕を持ち合わせているのが気に食わない。油断して負けても知らねぇからな。怒りを込めて、ヒースクリフの顔面目掛けて剣を振るった。

 

ソードスキルはまだ使わない。何度も対戦してわかったことは、畳みかけるその瞬間までソードスキルを使わないこと。使った直後の硬直時間で俺はいつもやられていた。スキルに頼っている間は、あのガチガチに堅いヒースクリフのHPを削ることすらできないだろう。

 

だから、頼ることをやめる。

 

早く、颯く、速く

 

ただ、いつもよりも何倍もはやく。

 

 

体を低くし地面に限りなく近づけ、風の抵抗を少なくする。全体重を前へとかけ、左上から右斜め前へと曲刀を振り切る。俺の剣を受け止めるべくヒースクリフは左腕に装備している盾で攻撃を受け止めた。金属の音がガチンと耳に響きわたる。

 

そしてここで初めて、ヒースクリフの顔から笑顔が消えた。

 

俺の全体重に速さが加わり、重い渾身の一振りが衝撃としてヒースクリフの体へ伝わったのが分かる。ヒースクリフの重心がほんのわずか、左へと寄った。その瞬間を、俺は逃さない。一度曲刀を握る力を弱め、体を沈ませると同時に右回転させる。そのままの流れで左下から右上へと連続攻撃を仕掛けるが、読んでいたのか、ヒースクリフの剣が俺の曲刀を顔の前で受け止めた。ガチガチと鉄が擦れる音が続く。

 

「くそ…」

 

体格的に分が悪いと考えた俺は、体制を整えるため一度距離を取る。バックステップを取ると、このまま畳みかけるためか今度はヒースクリフが間合いを詰めてきた。

 

「かかったな!!」

 

にやりと笑うと、俺は早速アスナから学んだことを実践する。地面に足が着いた瞬間に足首を使って横にステップを踏むともう一方の足で地面を蹴って前へと加速する。

 

「なにッ!?」

 

俺にはなくてアスナにあるもの。それは下半身の動き、特に地面を足で踏む回数にあった。彼女は普段の戦闘時もよく足を動かして敵と戦っている。ソードスキルという概念があるこの世界で、普段からスキルで敵を仕留めていると体が勝手に動くため、足を動かすことを忘れてしまう。常日頃、戦闘においても接近戦が多いこの世界では、上半身の動き、特に「剣を使う」という行為がメインになっているため、下半身、特に脚を動かすことを蔑ろにしてしまっている。

 

だからこそ、足数の多いアスナは速い。

 

誰よりも地に足をつけ、そのたび加速する。

 

そしてその速さで急な方向転換ができるのも、足首や関節、体が柔軟であると同時に、足数が多ければ多いほどバランスを取ることが可能になり、自分の体の軸がぶれない。

ただ、相手の攻撃を避ける点に関しては、動体視力にも関係してくるため、もともとの身体能力に頼るところも出てくるのも事実だ。

 

こんな難易度の高いことを無意識にやってのけているのがアスナだ。

投げやりになっていたとはいえ、数日で得られる技術ではない。

とんでもないくらい、彼女には才能が溢れていた。

 

だからこそ、ただ、嫉妬した。

 

俺には持っていないものを初めから持っている彼女が。

 

とてもうらやましく思えた。

 

 

負けないために、俺は落とし込む。あの速さが先天性なモノであれば、俺は自分流の速さを手に入れる。

 

踏む回数が彼女よしも少ないのなら、これを逆手にとる。

 

相手が距離を詰めた時に限定して自分のペースに持ち込めばいい。

 

 

足りないのなら補え。頭を使え。考えろ。

俺はそうやって、この世界から生き残る。

 

 

突っ込みながら曲刀を担いで《リーバー》の構えを取ると、キイイインとオレンジ色の光が曲刀を包み込む。俺に対抗するかのようにヒースクリフも咄嗟にスキルを出そうとするが間に合わない。

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

まさに一騎打ち、勝者と敗者が明確になる。誰もが息を飲むような、そんな勝負だった。

 

輝く星の元で俺たちは剣を交差させ、お互いに背を向けた。

自分のHPを見すことすら忘れてその状態のまま、余韻に浸る。

 

数分、いや、実際にはたった数秒の静寂。

口は閉ざされたままだったが、とても心地よいものだった。

 

そんな俺の想いを断ち切るように、デュエル終了の合図が鼓膜を震わせるのだった。




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