この調子で頑張ります。
「あああー!!くっそおぉぉおおおおぉぉおお!!!」
「残念だったねノーツ君、しかし、今までで一番いい戦いだったよ」
デュエルの結果は、俺の負けだった。
ヒースクリフにそう言われ、俺は悔しさのあまり夜空に向かって大の字に転がると、幼稚園児のように足をジタバタさせる。この拭えない悔しい気持ちを発散させるためにはこれしかなかった。暴れ狂ったように当たり散らすのもいいがそれで周りに迷惑かけるなら自分自身の中で昇華させたい。少々ガキ過ぎるとわかっていても、こうでもしないとやはり気持ちが静まらないのだ。
最期の一騎打ちで、俺はヒースクリフの左わき腹を、ヒースクリフは俺の左頬を削ったのだが、俺が受けたダメージの方が多く、先にイエローゾーンにHPが到達した。
実際、惜しいところまでは行った。左わき腹をを削ることはできたのだが装備の関係もあり致命的なダメージまでは届くことができなかったらしい。また、ヒースクリフの斬撃の方が深く入っており、デュエルが終了した直後、俺の左頬はほとんど無かった。もしこれが現実世界であれば、俺は動くどころか生きているかどうかわからないほどの重症である。
今は少しずつ治ってきているが、首を右に傾けなければ危うく顔ごと吹っ飛んでいただろう。自分の首が飛んで行った姿を想像し、軽く自嘲した。
「あー、ちくしょーがー、マジで悔しいぃ…」
思いっきり両手両足を伸ばしてから一気に脱力する。体から力が抜けていく感覚に浸り、ついでに俺のやる気も削いでいかれる。
アスナの速さを自分のものに落とし込めばいけると思ったんだが、やはりヒースクリフと俺の間にある経験の差は大きいらしい。ちょっとやそっと速くなったところで、小さい積み重ねがない俺にとって素早さ以外でヒースクリフを超えるための壁は大きいままで、技術の一つ一つが勝利への道に近づくためのものだ。俺に持っていないものをヒースクリフから見つけ出し、その技術と能力を会得しなければいけない。
「まあ、そう簡単に倒せるわけねぇ~か」
体を起こしてそう呟くと、俺はもう一度天に向かって背伸びをする。
相手はこの世界最強だ。こんな始めて一ヵ月も経っていないビギナーが勝てる相手ではない。
天才じゃないやつは、努力して才能を勝ち取る。それだけだ。
「明日こそは、ぜってー倒す」
「ああ、いつでも相手になろう」
ビシッと人差し指をヒースクリフに向けてそう言うと、ヒースクリフは小さく微笑んだ。
このゲームがクリアされるのがいつになるのかはわからない。だが、俺のゲームクリアはこの最強の男を倒してからだ。それまではクリアしたと言わない。俺の確固たる意志を感じ取ったのか、少しばかり嬉しそうに見えるヒースクリフを横目に、俺は思い出したように言葉を続ける。
「本題の隠しログアウトの件だが、目的地には何もなかった。やはりあれはデマだったようだ」
「そうか。調査ご苦労だった。今度いいクエストでも紹介しよう」
「助かる」
「また何かあったらその時はよろしく頼む」
一通り会話が終わると俺に背を向けてヒースクリフは歩き出す。
その背中はどこか頼もしく、超えるべき目標としてとても大きな壁にも感じた。
ぼーっと、ヒースクリフの姿が見えなくなるまで眺めた後、俺は反対方向に走り出した。今日の反省を自分で解消するべく、草原にいるモンスターを探す。この悔しい感情を忘れないうちに、自分の中でイメージを組み立てる。
あの時どうしたら勝てたのか。どう動いたら勝てたのか。
頭の中でモンスターをヒースクリフに置き換え、何度も何度も剣を振るった。あの時の最後の一撃を想像し、足を動かす。より深く攻撃が入るように、速く、相手の動きを見切って動けと、脳が信号を出し体を動かしていく。
脳からの指示を待つから遅くなるんだ。もっと早く、体で覚えろ。反射しろ。
そんなこんなで時間が経つのを忘れるくらい、俺は夢中でモンスターを狩り続けた。
「かなり遅くなっちまったな」
土壇場とはいえアスナの動きを自分に取り込むことに成功し、ヒースクリフを倒す一歩手前まで進むことができた。あの経験と思考を忘れないうちに体に叩き込み次に生かすべくモンスター狩りをしていたら、ついでに装備を買うためのコルも貯まったし、武器の熟練度も向上し、一石三鳥だ。
俺は左手の剣を鞘にしまい時計を確認する。時刻は午前4時42分、もう朝だった。
「夢中になりすぎた…」
しかし不思議と眠くはない。途中途中回復ポーションを使用したからか、かなり集中していたからなのか、眠気を感じることはなかった。架空の小鳥がちゅんちゅんと鳴く音と、闇を払うように東から登り始め照らされていく視界に、爽やかな気分になる。それと同時に、俺の中の違和感が少しずつなくなっていった。
本当にこの世界が茅場に作られた世界なのか、少しずつ疑問に感じる時がある。
人間は適応能力に長けた生物だ。今までは買い物をするときに現金を使用するのが普通だった現実世界で、電子マネーというものが始まったときとかいい例だろう。最初は一部の人しか使用していなかったが、今となっては日常の一部として当たり前に電子マネーを使用する。
つまりは俺たちもいつかは、この世界が「現実」として当たり前になる日が来るのだ。
これがいいことなのか、悪いことなのか、今の俺にはわからない。
それでも俺はここで生きている。この世界で生きていると実感するたびにきっとそう思うのだろう。
「とりあえず帰るか」
柄にもなくそんなことを考えた自分に笑いながら、俺は帰路につくのだった。
「ただいまーっと…」
静かに扉を開けると、そこにはベットに寝転がるアスナとアルゴの姿がそこにはあった。
2人仲良くベットで寝ているところを見ると、二人の間に信頼関係が構築され証だと思われる。でなければ、警戒心の強いアスナがあそこまで無防備な寝顔をさらすことはないだろう。
まあ、逆に言えば俺がここに戻ってきたと知ったら生きて帰れないだろうな。
死んだ目で一人さみしくハハっと乾いた笑いを浮かべた。なんで俺が気を遣わないといけないんだよまったく。
深いため息を吐いてから、俺は椅子に腰かけ荷物の整理を始める。
これが終わったら風呂に入ろうと思った矢先、ドロップ品の中に細剣があったことに気づきスクロールする手を無意識に止めた。
「《ウインドフルーレ》…か、よッと…おぉ、すげぇ!」
実体化させた《ウインドフルーレ》を握ってみてそんなことを呟く。そても綺麗な細剣で、淡い水色が主体となっており見惚れるくらい美しい。
曲刀を辞めてこっちに乗り換えようかと一瞬ばかり思ったがやめることにした。せっかく曲刀の熟練度を上げてきたのに今更細剣にするのはもったいない。
「…それに」
チラリとアスナの姿を視界に入れて、すぐ細剣に視線を戻した。
「この武器に似合う人物が、あいにくベットで眠ってるしな」
俺は《ウインドフルーレ》を戻すと椅子から立ち上がり、大きく背伸びをする。ずっと戦闘をしていたからか、肩が凝ったような気がするので風呂にでも浸かって癒されるとしよう。
小さく鼻歌を奏て、俺は静かに部屋から出るのだった。
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ふと、目を覚ますと朝の6時30分ちょうどだった。
寝ぼけ眼で隣を見ると、情報屋さんはもうすでに起きたのかその場にいなかった。
部屋には私だけで、彼…ノーツくんもまだ帰ってきていない。私が寝るまで彼は一度ども戻ってきておらず、アルゴさんの元へもメッセージが送られてきていなかった。
もしかすると…
そんな嫌な思考が脳裏を掠める。
確かに彼は、口が悪くて私のことをゴリラだなんていう人だけれど、一緒に一日過ごしてみて根はやさしい人なのだと理解した。何かと私とアルゴさんを気にかけてくれて、小さな気遣いもできる人だ。それに、モンスターにやられた私を助けてくれてた。
だからこそ、ここで最悪な場合になっていたら、私は…
「あーあ、スッキリした~」
すると背後から馴染みのある能天気な声が聞こえた。
「へっ?」
「起きたのか、おはようアスナ。アルゴはどこ行ったんだ?」
するとそこにはなぜか上半身裸のノーツくんがいた。
片手を上げて私に挨拶をするが、彼の体に視線が行く。運動でもしていたのか、全体的に細いけれども、その体は肉つきがよく薄っすらと縦に線が入っていた。
…上半身裸……??
「……」
「え、あ、う…うん…そんなにガン見されると恥ずかしいんだが…」
気まずそうにゆっくりと私に背を向く彼を見てハッと意識を取り戻すと、私は慌てて布団をかぶる。どうしよう、男の人の裸を見てしまった。お嫁にいけない。
「い、今すぐ服着て!!」
「わ、わかったわかった……終わったぞ」
そーっと布団越しから彼の姿を覗くと、ちゃんと服を着ていた。そっと胸を撫で下ろし彼と向き合う。しかし、先ほどの肉体が脳裏に焼き付いてしまっており、服を着ているにも関わらずチラリと浮かび上がってくるので、彼とまともに視線を合わせられない。
お互い何も話さないため、数秒の間私たちに気まずい空気が流れるが、何か思い出したように彼は話を切り出した。
「そうだ、アスナに渡したいものあるんだよ」
するとウィンドウを操作し始めると、私の元に《ウインドフルーレ》という武器が渡される。
急な贈り物で驚き彼に目を向けると、彼はニーっと笑って話す。
「モンスター倒してたらドロップしたんだ。ソレやるよ」
私は先ほどもらったものを実体化させ、撫でるように細剣に触れた。
「…綺麗」
とても軽く、デザインも引き込まれるようなものになっており、ただただ綺麗という言葉しか出てこない。それくらい魅力的な剣だった。
「前に怒らせたお詫びだ。それでチャラにしてくれると助かる」
「それはもういいわよ。でも…その、ありがとう…」
私の反応を見て、彼は優しい笑顔を顔に浮かべる。
「満足してくれたようでよかった」
「っ…!」
なぜかその笑顔で耳が熱くなるのを感じた。この熱の意味を振り払うようにつられて私も小さく微笑むのだった。