紅の十字架   作:そこら辺のめがね

9 / 18
評価投票、誠にありがとうございます。
まさか久しぶりに1話投稿しただけでここまでお気に入り登録が増えるとは思ってもみなかったので嬉しいかぎりです。また感想もいただいて感極まっております。
加えて誤字脱字報告もありがとうございました。大変助かります。

そして、皆様のおかげでランキングにも載っていました。
ここまでくると読者の皆様に感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。

これからも精進していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。


episode9:決戦前夜

 

 

第一層のボス会議後、お互いを知るために俺たちはレベリングを兼ねて迷宮区に潜っていた。

 

ボスを攻略するのは明後日であり、本来であれば明日、連携の練習しようとキリトが提案してくれたのだが、時間もあることだし、交流会も含めて前倒しようと俺の方からも提案させてもらった。

 

キリトはどこか嬉しそうに微笑んでくれたのだが、あまり乗り気でなかったアスナはそそくさと帰路につこうとしたのを俺は必死に止めた。

「なんで?」と言わんばかりに顔を顰める彼女をなんとか説得するが、その代償に、いつも行くカフェにて食事をおごらなければいけなくなった。

 

俺の財布が想定外の出費で少々寂しくなりそうであるが、致し方ない。

 

奢りと聞いてルンルンで歩くアスナと、男であることにも関わらず可愛らしい笑顔を振りまくキリト。キリトに至っては、話を聞く限りソロでずっと活動していたため誰かとパーティーを組むことが久しぶりで嬉しいとのこと。

 

なんともクセの強い愉快なメンツである。

 

 

雑談を交じらいながら歩いて数分、俺達は迷宮区に到着した。

 

とりあえず、普段から共闘している俺とアスナの動きをキリトに見てもらうことになった。専門用語をいくつか知っているところを見るに、キリトは俺達よりもこのゲームにおいて経験を積んでると見て取れる。

また、客観的な意見が欲しかったため、個人的にはむしろ好都合であった。この三人の中で一番上手いであろうキリトからのアドバイスで、何かしらヒースクリフに打ち勝つためのヒントを得られることを期待して。

 

 

目の前にポップした何匹かのモンスターを、いつものように狩っていく。

 

三匹いるうち、コボルドの一匹が俺にターゲットを向け襲い掛かる。

他二匹が遅れてこちらに向かってきたことを確認し、俺はソードスキルを放った。

先頭の一匹に斬撃を喰らわせ消滅させるが、同時に訪れる硬直時間。俺が固まって動けない間にも、残りの二匹はターゲットを移すことなく、俺に向かって手に持つ武器を振り上げるも、アスナの一突きがそれを許さない。

 

振り下ろす動作をするまでに、それぞれのコボルドへ二回ずつ、計四回の素早くも正確な攻撃を、モンスターが持っている武器にピンポイントで狙っては鋭く繰り出した。

その洗練された動きは、まるで機械のように的確で、マッチに火が付くよりも迅い。

 

「あいかわらず惚れ惚れするぜ…」

 

何度みても、アスナのその動きに俺はいつだって嫉妬する。

 

負けてられねぇ、そんな気持ちにアイツはさせてくれるんだ。

 

 

アスナのサポートにより、二匹の内、一匹は攻撃モーションを強制解除された。

俺はその一瞬を見逃すことなく、ノックバックするコボルドの懐に入り込む。その最中にも、もう一匹のコボルドは俺めがけて武器を振るうが、それを読んでいたため、攻撃を避けるべく、俺は身体を少し逸らし最低限のダメージで済ませた。

 

左手に力を籠め、ノックバックしたコボルドに向かって、左下から右上にその剣先を振り上げる。もろに攻撃を受けたコボルドのHPは無くなり、ポリゴンへと姿を変えた。

 

突っ込んだ勢いを殺さず、俺は身体を反転させ、コボルドに回し蹴りを当てる。

残った一匹は俺の蹴りにより、バランスを崩したのも束の間、アスナの一撃で最後の一匹も見事に倒してみせた。

 

 

一通り戦闘が終わると、俺とアスナは互いに一息ついた。

 

先ほどの戦闘を思い出しながら、反省点をいくつか頭の中で整理していると、アスナは具現化したポーションを俺の頬に押し付ける。

 

「…さっきはありがと」

「ああ…こっちこそ、あんときのカバーさんきゅ」

 

あの状況化で攻撃の強制解除を狙うメンタルを見習いたいと内心思うが、珍しく、自分の髪をくるくると指に絡めて、先ほどの戦闘で少し削れた俺の頬をちらちら見ては、申し訳なさそうな顔を浮かべるアスナ。慰めの言葉を言うことでその姿を拝めなくなるのがあまりにも惜しいので、言葉を紡ぐ代わりに、もらったポーションをグイッと一気飲みして誤魔化す。

 

「ごちそうさん」

 

アスナに向かって拳を突き付けると、彼女も自分の握りしめた手をコツンと当てた。

 

 

 

 

そんな俺たちの一連の流れを静かに見ていたキリトは、小さく考える素振りを見せてから、今まで閉ざしていた口をようやく開く。

 

 

「二人ともいい動きだった…ただ、本当にスイッチを知らなかったのか?」

 

俺とアスナの連携を見て、キリトは驚いたようにそんなことを尋ねてきた。

 

「スイッチ…って、キリトが言ってた、交互に敵に突っ込むことだよな?」

「まあ、簡単に言えばそんな感じだな」

 

“スイッチ”という単語は、迷宮区に行く道中でキリトから教わった用語である。

 

前線で戦っている人間と入れ替わる動きのことを指しており、具体的にはソードスキルを撃った後の硬直時間で標的にされないように前に出たり、敵モンスターの攻撃を相殺させ、体制が崩れたモンスターに攻撃するためだったりと、様々なシーンで多用される。

 

「さっきの戦闘中、一度もスイッチって言わなかったのに、よく連携できたな」

「まあ、慣れだよな…最近ようやくできるようになったっつーか…」

 

感心しているキリトとは裏腹に、俺はむしろその手があったのか。という感情の方が前のめりになってた。今まで合図無しに連携できていたことが奇跡のように感じる。

 

「うまくいかねぇ日も全然あるし、むしろ“スイッチ”って合図出したほうが絶対にやりやすいよな」

「そうね…あなた、たまに前に出すぎて私の方がひやひやする時だってあるし」

「うぐッ…それは…わ、悪かったな……」

 

アスナに共感を求めようとした矢先、逆にカウンターを喰らってしまった。

モンスターから受けた傷よりも、地味にこっちの方が精神的にダメージが大きい。

 

そんな俺たちの様子を見ているキリト。顎に手を添えて、どこか興味深そうに俺とアスナの顔に視線を向ける。チラッと俺の顔を数秒見たと思ったら、今度はアスナの方へと移した。

 

「な、なによ…」

 

ジロジロと観察するような、そんなキリトに対して不快感を抱いたのか、自分の身体をローブで隠しながら怪訝そうにアスナは呟く。

 

「いや……」

 

すると、途端にキリトは口の端を吊り上げ、どこか期待したように言葉を発した。

 

「二人とも、実は付き合ってッ…たりしませんよねすみませんッ!!!」

 

 

キリトの頬を掠めるのは一筋の閃光。正確に繰り出されるその一突きは、誰にも見えやしない。

風さえも切り裂くアスナの一撃は、キリトの脳に「恐怖」という感情を深く刻み込んだ。

 

そして彼は、自分に誓う、己の命を守るために今後は余計なことを二度と言わない、と。

 

「…」

 

あまりの圧に地面に腰を落としたキリト。幾つものモンスターを葬ったそのレイピアは、キリトを傷つけることなく、静かに彼女の鞘に戻っていった。

 

生き延びたキリトは安堵の表情を浮かべる反面、フードを被っていたため、アスナが今、どんな表情をしているのかわからなかった。

 

 

俺達の間に、なんとも言えない微妙な空気と静寂が広がる。

何も発しないアスナと、微動だにしないキリトに、それを眺める俺。

 

傍から見ても意味が分からない状況である。

 

 

「仕方ねぇ…」

 

これは俺が動かないといけないという雰囲気を察すると、俺は小さく息を吐いて、未だに動けずにいるキリトへと手を差し伸べた。

 

「馬鹿だなぁ…キリト」

 

さすがのアスナも、俺みたいな人間と“そんな関係”にみられていたのが嫌だったのかもしれない。

否、嫌だったからこそのあの行動である。だから、あの発言はアスナにとっての地雷であり、禁句なのだ。

 

恐怖に目を左右に震わせるキリトを安心させるべく、優しい笑みを浮かべてみせた。

 

「死にたくなかったらゴリラの機嫌を損ねちゃッ……」

 

 

その瞬間、今まで見えていたキリトの姿が消えて、目の前が闇に染まる。

何かのバグかと思ったが、そんな思考を遮るように意識がプツリと奪われるのだった。

 

 

 

後にキリトに話を聞いてみるものの「死にたくない」との一点張りで、その口を開かせることは不可能であった。

 

 

ちなみに、倒れた理由はアスナが全身全霊で後頭部を思いっきり殴ったからであるが、このことを知っているのはその場にいたキリトとアスナ、そして、その話を買ったアルゴのみである。

 

 

___________________________________

 

 

 

翌日、攻略会議にて意気投合したディアベルと俺は、こっそりと夜の酒場で落ち合っていた。

 

「ノーツくん、君はとても面白い視点を持つね」

「そんなことねぇよ…俺はまだまだ、色々と足りてねぇ…」

 

本番に向けて様々な戦略を確認したり、必要な情報を確かめたり、そんなことをしながらはやくも1時間が経過しようとしていた。

ボス戦前日ということもあり、外では親睦を深めるべくプレイヤー達がどんちゃん騒ぎしていたものの、夜も深まり、多くの人間は明日に向けて各々準備をするべく既に帰宅してしまった。結果、この場所に残っているのは俺とディアベルの二人だけである。

 

むしろ俺たちは、二人だけで話す時間をお互いに欲していた。

 

俺自身、ディアベルのあの統率力から学べるものがあると見込んで時間を設けてもらったが、偶然にもディアベルも俺と話す時間が欲しかったらしく、もう少し残って話したいと言ったとき、そのイケメン面をくしゃっと綻ばせては快く承諾してくれた。

 

事実、この時間はとても有意義なものであった。

 

彼から学ぶものは多く、吸収できるものや、収穫もたくさんあった。

どうやったら士気をあげられるのか、また全体をまとめるための必要とされる人間像や技術。そんな話をずっと二人で語り合った。

 

そして俺は、同時に強い思いを抱く。

ディアベルと、共に高みを目指したい、と。

 

一人のライバルとして、俺はディアベルを超えていきたい。そう強く思った。

 

 

「一応ガイドブックにはこう記載してあるが、これはあくまでもベータ版でしかねぇ。こんなデスゲームを始める茅場晶彦だ、絶対に性格の悪いことをしてくるだろうから最後まで気を抜くんじゃねぇぞ、ディアベル」

 

悟られないように。念には念を押す。

コツコツと、ガイドブックに指を当ててディアベルの顔を見ながらそういうと、彼はまた爽やかな笑顔を浮かべて俺の肩を掴んだ。

 

「ほんと、君がうちに来てくれれば百人力なのに」

 

本番では雑魚処理を任せられた俺たちは、今回先陣を切ってまでボスを積極的に倒す必要はない。

あくまでも主役は目の前にいるディアベルと、そのパーティーメンバーたちである。ここで無駄にしゃしゃり出るのは悪手であり、それこそ士気を下げる一方でしかない。

 

だからこそ、ディアベルはあんなことをポロっと言ってしまったのだろう。

 

本音を言えば、ここまで馬が合う人間とパーティーを組めないのは惜しい。

彼となら、連携だって苦ではないし、意思疎通だって楽だと思う。前線で活躍できるくらいの実力もあるし、全体を引っ張っていける能力だって卓越している。ディアベルと組むことは、俺にとって絶対にプラスになるだろう。

 

 

それでも断った理由は、あの時、少しだけ寂しそうな独りの少女が目に入ったからだ。

 

「わりぃな、すでに俺には頼れる相手がいるんだわ」

 

あの時のアスナの表情はフードを深くかぶっていて見えなかった。

ただ、寂しそうな雰囲気を感じた。ただ、それだけだった。

もしこれが俺の自惚れだったら、心底笑えるな。

 

そんなことを思っていると、つい、笑顔がこぼれてしまった。

 

何かを察したのか、今度はニヤニヤと笑顔の裏に何かを含んだ悪戯っぽい表情で、ディアベルは肘で俺を小突く。

 

「相手って、あの可愛らしいフェンサー(プリンセス)かい?」

「まあ、そんなところだ…」

 

 

未だ、俺とアスナは同じ拠点にて各々過ごしていた。

部屋はもちろん別であるが、基本的に拠点を共にしているため、顔を合わせる頻度は必然と高くなる。

そのため、ひっそりと夜に出かけようとしたら偶然にもアスナに見られてしまい「どこに行くの」と声をかけられてしまった。

じとーっと見てくるアスナの目線を躱すように「人に会いに行ってくる」と伝えると、どことなく冷たい目線で見送られた。

 

気まずくて急ぐように背を向けると、不意に「あまり遅くならないでね」とやんわりと釘を刺された。あまりにもアスナから溢れ出ている彼女感が拭えなくて、少しばかり困惑したのはここだけの秘密だ。

 

「それに、俺のパーティーにはもう一人、最強の味方がいるんでね」

 

ヒースクリフと同じくらいのレベル(技量)を持つ奴が。

 

キリトの動きには無駄が無く、素直に尊敬できるくらいに強い。そのため、彼から学べるものは多くあり、身近に手本となる人間がいるこの環境に感謝したいくらいである。

それも含めて、明日のボス戦には恐怖よりも「楽しみ」という感情の方が勝っていた。

 

 

チラリと時間を確認すると、もうそろそろ日付を超えそうである。

話に一区切りついてちょうど良かったので、そろそろお暇するとしよう。

 

「じゃ、俺はそろそろ帰る」

 

俺は椅子から立ち上がり、ディアベルにそう告げた。

 

「ん、わかったよ。それじゃ、君のプリンセスと黒い彼によろしく伝えておいてくれ」

「プリンセス…ねぇ」

 

冗談めかしてそんなことを言う彼に、俺は乾いた笑いで誤魔化す。

キリトはわかるが、アスナに関してはゴリラとの間違いでは。と、内心思うが、さすがにこれを本人がいないところで言うのはお門違いなので飲み込むことにした。

 

 

帰る支度を済ませ、別れ際にディアベルに顔を向けて、俺は口を開く。

 

「ディアベル…くれぐれも、焦るなよ」

 

そう言い残し、俺は彼の顔を確認することなく、静かに酒場から出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

キラキラと輝く夜空の下で、一つの通知音が鳴り響いた。

慣れた手つきでメッセージを開くと、ある男から送られた文字の羅列に、思わずくすりと笑う。

 

「なんだ、人間らしいとこもあんじゃん」

 

数少ないフレンドであり、目標の人であり、己の倒すべき相手からのメッセージ。

らしいと言えばそうなのかもしれないが、もう少し時間帯を考えて欲しい。

 

そう思いつつも、あまりにも意外過ぎて、嬉しくて、自然と足取りが軽くなるのがわかった。

 

 

「うし、ひとっ走りするかッ!!」

 

夜風が背中を押すので、溢れる高揚感もろとも抱えて駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[頑張りたまえ]

 

そのたった一言で、俺は走り続けることができるのだ。

 

 

 

 

 




次はとうとうボス戦本番です。
ほとんど完成していますが、現時点で7000字を有に超えており、まだまだ長くなりそうなので大変申し訳ありませんが、前編と後編に分けて投稿させていただきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。