ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
1-1 イサミ登場
『虎だ! お前は虎になるのだ!』
―― 『タイガーマスク』 ――
ブラック企業でサービス残業中、意識が途絶えた俺は、気がつくと上も下も右も左もない場所にいた。
目の前には赤いローブとマントに剣を下げ、パイプをくゆらせるじいさんがいる。
あれ、この人どっかで見たような・・・
「さて、余り時間が無い。早速で悪いが、このまま死ぬのと、新しい世界に転生するのとどっちがいいかね。
その代わり、新しい世界ではちょっと仕事をして貰う事になる。
新しい世界は、君達の言葉で言えばダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの世界。仕事の内容は・・・『冒険』だ」
「やります!」
俺は即答していた。
元々D&Dのファンだったこともあるが、終わりのない残業に比べれば、命の危険がなんぼのもんじゃい!
実際死んだしな!
「そうかそうか。積極的だとこちらもありがたい。
で、いいニュースと悪いニュースがあるが、どちらから聞きたいかね」
「えーと・・・いいニュースの方で」
「君には女神ミストラの加護が与えられる。望むなら魔法も使えるようになるだろう。
素質に関しては、ほぼあらゆる冒険者を凌ぐはずだ」
ミストラ・・・どこかで聞いたような・・・だめだ、頭がぼんやりして思い出せない。
「で、悪いニュースだが、鍛えないと"敵"に殺されるだろう」
「鍛えるってどれくらい?」
俺の質問に老人はふむ、と眉を寄せて考え込み。
「最低"
「ちょっと待てやじじい」
「すまんな、我々にはこれ以外に手段が・・・」
思い出した! このジイさんは・・・!
そこで周囲が歪み、俺は気を失った。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第一話「ルールアリアリ、ワールド不問、パスファインダーもOK、ただし高貴本禁止」
迷宮都市オラリオの地下に存在する迷宮。
その深層域、37階層。
一つの冒険者パーティが最期を迎えようとしていた。
今まで何度も繰り返されてきたように。
「カルハイン、マジック・ポーションは?」
「今飲んだ奴でカンバンだ。あと一回、それも中くらいの魔法をぶちかますのが精一杯だな」
「くそっ、ラディッシュの血が止まらねえ。何でもいい、布をよこせ!」
褐色の肌を持つ、精悍な男達が会話している。
そしてもう一人、地面に横たわって気を失っている戦士とおぼしき冒険者。
その腹部は、流れ出た血で真っ赤に染まっていた。
彼等の肩には象のエンブレム。
迷宮都市でも最大手の派閥、ガネーシャ・ファミリアだ。
「深層域初挑戦でこれか・・・まったく、ついてないぜ」
「ナッシュおめえ、出発前のスリードラゴン・アンティで馬鹿勝ちしたろ。あそこで運を使い切ったんじゃねえのか?」
「こきゃあがれ」
軽口を叩く彼等を遠巻きに囲むのは50を越えるモンスターの群れ。
37階層に出現する戦士系モンスター、バーバリアンだ。
そして地面には、ほぼ同数のバーバリアンの死骸。
彼等はガネーシャ・ファミリアでも上位に位置する高レベルパーティである。
リーダーのナッシュと魔導士カルハインがレベル4。
横たわっている中衛兼サポーターのラディッシュ、応急手当てしているマルタンがレベル3。
37階層、深層域に初挑戦した彼等は、帰還直前になって大量のバーバリアンと遭遇した。
サポーターのラディッシュが不意打ちを受けて装備の大半を失い、カルハインの魔法で一度は退けたものの、撤退する暇もなく新たなバーバリアンの群が現れ、こうして周囲を囲まれている。
ポーションなし、予備武器無し、魔力の残りは一発きり。
だがそれでも、男達の目に諦めの色は見えない。
「で、どうするよ、リーダー?」
「・・・右手の入り口だ。そっちの方のバーバリアンどもにカルハインが一発ぶちかまして強行突破。
ラディッシュはマルタンが担げ」
「おう」
「っ! 来るぞ!」
ナッシュ達の動く気配を察したか、バーバリアンどもが一斉に動いた。
カルハインが詠唱を始めるのと同時、石の斧を振りかぶって怒濤のように迫ってくる。
「行くぞ! 強行突破だ!」
「おおっ!」
一拍遅れてナッシュ達も動いた。
ナッシュが大斧を肩に担いで先頭。
カルハインが詠唱を維持しながらなんとかそれに追随し、最後尾をラディッシュを担いだマルタンが走る。
「おおおおおおおおおおおっ!」
「オオオオオオオオオオオッ!」
ナッシュと先頭のバーバリアンがともに雄叫びを上げながら大斧を振りかぶる。
二つの斧が激突しようとしたまさにその瞬間――
額に強い衝撃を感じ、ナッシュの視界に火花が散った。
「ぐあっ、つぅ・・・なんだ、こいつぁ?!」
見ると、バーバリアンも動きを止めている。
どうやらナッシュたちとバーバリアンどもの間に不可視の壁があるようだった。
「こいつは・・・カルハイン?」
「わからん。魔法だと思うが俺じゃない」
次の瞬間、周囲が紅蓮の炎に包まれた。
「ギアアアアアアア!」
「グオオオオオオッ!」
炎の柱。
直径3m、高さは5mにならんとする巨大な炎の柱が、隙間無く乱立する。
冒険者たちを囲むかのように屹立するそれはバーバリアン達を焼き、苦悶の声を上げさせた。
「お、おい、カルハイン・・・これお前・・・」
「んな訳ねーだろ!?」
呆然とした顔のマルタンが問いかけるのを、やはり呆然とした顔のカルハインが遮る。
バーバリアンたちは火柱の範囲外に逃れようとするが、不可視の壁がそれを許さない。
火柱は十秒ほどして消えていくが、その前に新たな火柱が屹立し、バーバリアンたちをさらに焼く。
火炎林は二十秒ほど立ち続け、50を越えるバーバリアンの死骸を残して消えた。
「!」
壁が消え、むわっ、と、今更ながらに熱気が押し寄せて来た。
ナッシュ達が目を見張る。
鎮火した火柱、バーバリアンどものくすぶる死骸の向こうに、いつの間にか一人の冒険者が立っていた。
虎を思わせるような巨漢である。熊と言うには細く、狼と言うには大きい。
身長は2mほど、たくましい体つきだがそれなりに均整が取れている。
腰には打刀、ベルトには無数のポーチ。両腕の手甲以外、鎧のようなものは身につけていない。
ややぼさぼさとした黒髪のサイドには白いメッシュが幾筋も入り、虎の縞のようにも見える。
それを適当に伸ばし、後ろでまとめていた。
野性的な太い眉にがっしりとした顔つき、そこそこ程度のハンサムだがどこか涼しげで愛嬌がある。
(・・・・)
そして何より、歴戦の冒険者であるナッシュが瞠目するほどに、男の放つ存在感は際だっていた。
その唇がにっ、と不敵な笑みを作る。
「悪いね。まさか他の冒険者がいるとは思わなかった。
獲物の横取りをしちまったんじゃなければいいんだが」
「気にしやしないさ、兄ちゃん。俺達はおおらかなんだ」
肩をすくめ、おどけたようにナッシュが返す。笑みを含んだ視線が交錯した。
意外と若い声だな、とナッシュは感じた。
目元にも幼さが残っているあたり、実際に若いのかも知れない。
だがここは迷宮第37階層。生半の実力でぶらつけるところではない。
パーティを組まないソロなら尚更だ。
頭を切り換えて、表情を少しまともな物に改める。
「ところで兄ちゃん、ポーションの余分を持ってないか? うっかり落としちまってな。
代価はそこに転がってる連中の魔石全部。足りなきゃ証文を書いてもいい」
男が現れる前にも、数十体のバーバリアンが彼等によって倒されている。
魔石を集めればリヴィラの街で捨て値で売ったとしても、ハイポーション十数本分にはなるだろう。
「いいよ。ただ、あまり多くは持ってなくてね。ポーションの代わりに治癒魔法でいいかい」
「よし、交渉成立だ。急いで頼む。見ての通り、俺らの仲間はせっかちでね。地上に戻るまで待ちきれないとよ」
「わかった」
男が横たえられたラディッシュのそばに膝をつく。
にじみ出る血は、既に戦闘衣の腹の部分を全て赤に染めんばかりだ。
腹部の傷に当てられた左手の甲から二の腕にかけ、精緻なデザインの、ホログラムのようにぼんやりと輝く紋様が一瞬浮き上がった。
「癒しのドラゴンマークよ、その力を示せ・・・」
紋様から柔らかい光が湧き上がり、ラディッシュの全身を包む。
ぱちり、とその目が開いた。
「おお!」
「大丈夫か、ラディッシュ!」
自分の腹に手を当てて身を起こす仲間の姿に、マルタンとナッシュが歓声を上げる。
しかし魔導士カルハインだけは、男が詠唱らしい詠唱をせずに魔法効果を発生させたのに軽く眉をひそめていた。
「ふぅん・・・"
「? いやいや、十分だ。ありがとうよ」
「いや、流石にこれだけで魔石ウン十個は気が咎める。しょぼいのもあるが持ってってくれ」
男が肩掛けのポーションベルトからいくつかを抜いて渡す。
ナッシュは礼を言って受け取るが、手にしたポーションを見て怪訝な顔になった。
「なんだ? マジの安物が混じってるじゃないか。この階層まで来てるのに、変なもの持ってるな」
「ああ、間違って買ったのが残ってたんだ。ついでだから適当に使っちまってくれ」
肩をすくめる男。
「まあ、そういうことなら使わせてもらうがな。
そう言えば名前を聞いてなかったな。俺はガネーシャ・ファミリア所属のナッシュ。
魔導士がカルハイン、転がってたのがラディッシュ、そっちがマルタンだ。おまえさんは?」
にっ、と男が笑った。
男が惹きつけられるような、気持ちのいい笑みだ。
「イサミ・クラネル。ヘスティア・ファミリア所属の
「「「「うそこけっ!」」」」
ナッシュ達四人の声が綺麗にハモった。
まあ、確かにどう見ても戦士ではある。
はじめまして、ケ・セラ・セラと申します。
よろしければご笑覧下さい。
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