ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「!」
「っ!」
「くそがっ・・・!」
そして融合精霊の頭上に、再び黒い魔法円が展開した。
先ほどイサミの奇策で中断された長文詠唱魔法。
回避に必死だった他の面々はまだしも、リヴェリアだけは詠唱と魔力に気づいていた。
『【来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲ持ッテ反転セヨ空ハ焼ケ地ハ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リ注グ天空ノ斧破壊ノ厄災――】』
「我等を囲え大いなる
競うように響く堕ちた精霊とリヴェリアの詠唱。
三度目の突進が開始されるのとほぼ同時、詠唱が完了したのはリヴェリア。
「――我が名はアールヴ! 【ヴィア・シルヘイム】!」
展開された緑色の障壁の表面で、四発の"遅延火球"が炸裂する。
おお、と歓声が上がった。
都市最強の魔導士が生み出した障壁である。
いかにビホルダー・メイジとは言え、力押しで破れはしない。
『ファファファ・・・無駄だ!
だが、このビホルダーにはこれがある。
全ての魔力を分解する一条の光線が触れた瞬間、緑色の障壁は幻のように消え去った。
勝ち誇るビホルダー。
だが、エルフの王女のかんばせにも、優雅な笑みが浮かんでいる。
『ぬ?』
「その芸は聞いていたし見せてももらった。それで私が何も考えず、障壁魔法を使うと思うか?」
『!』
「【
飛び出したのは風をまとったアイズ。
そう、滅びの目の魔力を一点に集中させるからこその
一度に複数のターゲットは狙えない。
だが。
「甘ぁい」
この場に不似合いな色気のある声と共に、融合精霊の鎖骨からイバラの触手が飛び出す。
空中では避けるすべはなく、かろうじて剣で受けたものの、アイズは床に叩き伏せられた。
ガラス化した床の岩が粉みじんに飛び散る。
触手が体を剣ごと叩きつぶす。
がはっ、と肺の中の空気が全て押し出される。
「アイズッ!」
同じく飛びかかろうとして果たせなかったベートが叫んだときには、既に融合精霊は椿とリヴェリアを挽き潰し、50mの彼方に去っている。
流石に二人は素早く立ち上がるが、それでも後二発は耐えられるかどうか。
アイズも同時に立ち上がるが、こちらもダメージは目に見えて大きい。
三人とも立ち上がると同時にホルスターから抜いたエリクサーを口にするが、それでもダメージを完全に癒すことはできない。
「《二重化》"
「!」
その場の全員の負傷が、エリクサー一本分ほど回復する。
振り向いた者達が見ると、鉄の壁の瓦礫をかき分けてイサミ達が立ち上がっていた。
シャーナやレーテー、ラウルも無事だ。
「《高速化》"
「《二重化》"
イサミの右手の"
神に願い奇跡を乞う、"
そして何より、アイテムから発動しているので呪文相殺の対象にならない。
特技で無理矢理取得した呪文であるため本来一日一回しか使えないが、アイテムに込められた力を使う分には関係ない。
59階層攻略のために作っておいた秘密兵器であった。
なおスタッフに収納された呪文に呪文修正がかかっているのは、イサミがそうした特技を持っているからである(使用回数を余分に消費する)。
ともあれ、再び全員の負傷が回復する。
合計でエリクサー二本分ほど。
笑みを浮かべつつ、フィンが声をかける。
「無事だったか。だろうとは思ったけどね」
「信頼頂けて嬉しい限りですね。それよりも・・・っと!」
四度目のターンをかける融合精霊。イサミ達を目がけ突進する怪魚の縦に三つ並んだ目が、嗜虐的な喜びをたたえて歪められた。
それより一瞬早くイサミから再び魔力が放たれ、高さ12mの鋼鉄の城壁が出現する。
『グッグググ・・・! 無駄な事を・・・!』
『?! ま、待て、ネヴェクディサシグ!』
何かに気づいたか右手のザナランタールが制止をかけるが、1秒足らずという時間は大怪魚が制動を掛けるには遅すぎた。
次の瞬間、大空洞が揺れた。
時速330kmで突進した融合精霊が鉄の壁に激突し、跳ね返されたのだ。
『グガッ・・・』
『代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ地精霊――ッ!?』
上半身の堕ちた精霊も鋼鉄の壁に突っ込み、跳ね返されて一瞬詠唱が途切れる。
鋼鉄の壁は上も下もへこんでいるが、それでも融合精霊の巨体の突進に耐えて立ち続けている。
「ちっ、一体何が・・・!」
『だから言ったのだ、痴れ者めが・・・!』
種は単純。
イサミは鉄の壁を建て、直後そのすぐ後ろに"
魔力解体光線に耐える鉄の壁と、物理では破壊できない力場の壁。
融合精霊を構成する五者の中でもっとも魔術に造詣の深いザナランタールのみがそれに気づけたわけだ。
だが、種が割れてしまえば対処は容易い。
『
『"
『
ザナランタールが物質分解光線を二発放ち、鋼鉄の壁に3m四方の穴を開ける。
すかさずそこに魔力解体光線を打ち込んで力場の壁を消滅させた。
この間僅か0.5秒。
蹂躙突撃をしながらでも悠々とこなせる作業だ。
そして次の瞬間。
『【我ガ名ハ地精霊大地ノ化身大地ノ女王――】』
『【メテオ・スウォーム】』
詠唱が完成し、黒い、膨大な魔力が直上に打ち上がる。
天にを染める闇と光。
唐突に現れた漆黒の宇宙から降り注ぐのは、燃える星々。
「いかん! ラウルたちをかばえっ!」
「・・・? っと、レーテー、俺はいい! シャーナとラウルさんを!」
「うんっ!」
フィンが仲間に指示を出し、一瞬いぶかしげな顔をしつつも、イサミもそれに続く。
ティオナがレフィーヤに、ベートとアイズがそれぞれクルスとアリシアに覆い被さる。
直後、巨大な隕石が彼らを直撃した。
「うあああああああああああああああああああああっ!」
爆砕する岩盤、飛び散る破片。
イサミが張った鉄壁など、一瞬にしてひしゃげて潰れる。
ただただ圧倒的な、純粋な質量が彼らを押しつぶす。
漆黒の流星雨は迷宮を揺るがし、大地を震わせる。
「ぐ・・・う・・・」
「くそ・・・がぁ!」
誰かのうめき声が響き、ベートの爪が砂礫に食い込む。
その前の回復の効果もあってか、奇跡的に命を落としたものはいない。
だが椿は右腕を潰され、レーテーも左足を鎧ごと潰されている。
ラウルたちは辛うじて意識があるが体が動かない状態。
一級冒険者以外で動けるのは、最早イサミとシャーナだけであった。
その一級冒険者達も満身創痍。
ティオネたちは体に力が入らないのか立ち上がれず、アイズも剣を杖にして辛うじて膝立ち。
二本の脚で立っているのは、フィンとガレス、そしてイサミだけだ。
あと一回の蹂躙で全滅しかねない状態。
だが融合精霊は容赦しない。
魔姫グラシアは、決して手を休めない。
『"
「ぐおおおおおおっ?!」
ビホルダーの眼柄の二つから、4つずつ、合計8つの火の玉が放たれ、爆発する。
D&Dにおける最強の火力呪文、"
今堕ちた精霊が使った物はもちろん、レフィーヤの魔法にも及びの付かないレベルだが、ダメージが蓄積している今は決して無視できる威力ではない。
爆炎が冒険者達を焼く。
残りの二つの眼柄は油断無くイサミの方に向けられ、いつでも"
『【火ヨ、来タレ。猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ――】』
堕ちた精霊は再び詠唱を始めていた。
先ほどは力場の壁で防がれたが、迷宮の壁と床を融解させるほどの高温を呼び出す破壊の呪文。
グラシアの力が加わったせいか、詠唱は単体であったときよりも更に数段早さを増している。
おそらくは、威力も。
そして新たに現れる芋虫型の大群。
60階層への開口部から現れた極彩色の怪物達は見る間に数を増し、地平線を埋め尽くさんばかりだ。
「―――」
誰かの心が折れる音がした。