ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
戦いは続く。
『【アイシクル――】』
「"我願う! 彼の者の呪文を打ち消したまえ!"」
氷嵐の砲撃を、三たびイサミのウィッシュが打ち消す。
「くっ、あなた本気で・・・」
「だから言ったろうが! おまけだ! 《高速化》"
『ぬぁっ!?』
魔法の風が、浮遊していたネヴェクディサシグを地面に押しつける。
これ自体は一時的なものだが、冒険者達が全力を叩き付けるには十分な時間だ。
「おおおおおおおおっ!」
「おらおらおらおらおらぁっ!」
「やぁぁぁっ!」
冒険者達の武器が融合精霊の体を切り刻み、時折イサミの放つ電撃がその体を焼く。
(グラシアの種族バーテズゥは炎に完全耐性があり、また冷気と酸にも強い)
後方より現れる芋虫型もリヴェリアとレフィーヤ、そしてラウル達の魔剣に焼かれ、一匹たりとも融合精霊の所には届いていない。
だがそれでもなお、戦況は互角であった。膠着状態と言ってもいい。
武器であれ呪文であれ打撃はすぐに修復され、眼柄や触手を切り飛ばし、目をえぐってもすぐに再生する。
砂浜に引いた線を波が洗うように、次の瞬間には傷口が消えてしまうのである。
堕ちた精霊の魔法こそ相殺し続けているものの、グラシアは鋼鉄のトゲが生えた数十本の触手を縦横無尽に振るい、ザナランタールは眼柄から石化と物質分解の光線、そして呪文を乱射し続ける。
キャリオンクロウラーは時に芋虫の麻痺触手で、時に分離したコウモリの群れとなって冒険者達を牽制し、ネヴェクディサシグは触手と呪文で妨害に徹している。
イバラが数発連続で直撃したティオナが血の海に沈み、石化した椿を"
堕ちた精霊の魔法を防ぎながら"
特に執拗なのはアイズに対してだ。
触手の半分近く、数十本を常に割いて迎撃している。
アイズは全てをかわし、あるいは防いでいるが、攻撃に移ることは到底できない。
どころか、十回に一回は攻撃を喰らい、甲冑も半壊状態だ。
むしろそれで済んでいるアイズの技量と【エアリエル】の機動力を褒めるべきだろう。
「みんな頑張ってる・・・だが、このままじゃじり貧だ」
「っすね・・・! 倒すにはやっぱり魔石を狙わないとだめっすか・・・?」
イサミとラウルが言葉を交わす。
「けど、どうすれば・・・」
「やむを得ない、こうなったら・・・」
「ラウル!」
「!」
イサミがさらなるウィッシュの多重使用――《二重化》と数秒後に呪文を繰り返す《二連続化》、行動を追加する"
前線で自らも戦っていたロキ・ファミリア団長の声が戦場に響く。
「みんな聞いてくれ! 何とかして奴の魔石を砕かなければ勝機は無い!
リヴェリア、レフィーヤ、イサミはタイミングを合わせて奴に魔法を集中!
前衛の皆もそのタイミングで堕ちた精霊に攻撃を集中!
アイズが魔石を破壊してとどめを刺すんだ!」
「芋虫型はどうするんですか!?」
「連中が来る前に融合精霊を倒せばいい!」
ぷっ、とティオナが吹き出した。
「いーじゃん! それでいこーよ!」
「おう、いい策だ」
ティオナが明るく、ベートが不敵にそれぞれ笑う。
残りの全員も頷き、フィンもそれに頷き返した。
「それじゃ、ラウル。後の指揮は任せるよ!」
「えっ? は、はいっす!」
一瞬ぽかんと口を開けたラウルだが、フィンが何をやろうとしているかに気づき、真剣な顔で頷く。
それを確認し、フィンが自らの黄金の槍を額に当てた。
「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て――ヘル・フィネガス!】」
碧眼が真紅に染まる。
フィンの切り札、狂戦士化の魔法。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
雄叫びが上がった。
両手の双槍を風車のごとく振り回し、挑みかかるはイバラの触手。
ドワーフの胴回りよりも太い精霊の触手が、一振りでほとんど両断される。
普段の温厚にして冷静沈着な彼からは想像もつかぬ狂乱の戦いぶり。
黄金と白銀の長槍二振りが、鋼のトゲをはじき、樹肉を断つ。
次々と切り飛ばされるイバラの触手。
無論、即座に新しい触手が生えてくるが、それでもタイムラグは生まれる。
それはつまり、アイズにかかる負担が減ると言う事であり――
「!」
今まで回避に回していたリソースを、攻撃に回せると言うこと。
ここぞとばかりに攻勢に転じたアイズの剣が一本、また一本と触手の先端を切り払い、それがまたアイズにさらなる余裕を与える。
「くっ・・・!」
「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風(うず)を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地――】」
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり――】」
リヴェリアとレフィーヤの詠唱も進んでいる。
それを止める手立ては今のグラシアにはない。
グラシアも魔王の分体。それなりの魔力は持っているが、彼女の得意とするのは幻影と精神支配の技である。
それは街の影で密かに勢力を伸ばすには最適な力ではあったが、今はイサミが全員に精神攻撃を防御する《連鎖》"
切り札の"
この時点で、既に勝負は決していた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
狂戦士と化しながらも正確な戦術的判断を下してのけたか、フィンが右手の長槍を融合精霊の胸・・・グラシア目がけて投擲する。
その瞬間、四方八方に乱舞していた数十本の触手が胸の前に集中し、黄金の弾丸からグラシアを守る。
流石に止められはしたものの、数十本分の触手の盾を半ばまで貫通した長槍に、グラシアが一筋の冷や汗を流した。
だが次の瞬間、フィンがもう一本の長槍を投擲する。
白銀の流星は完全に正確に一本目と同じ軌跡を描き――白銀の切っ先が触手の中に潜り込んだ黄金の石突きを強打する。
「があああっ?!」
新たなる運動エネルギーを得た黄金の長槍がイバラの盾を貫通する。
その切っ先は狙いを僅かにそれ、グラシアの左目を深くえぐった。
それが合図だったかのように、周囲の冒険者達が一斉に飛び退る。
オラリオ最強の魔導士たちの呪文が完成しようとしている。
「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】」
「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】」
「"我願う――"」
『おのれ・・・ガァァァァッ?!』
ザナランタールが前方に反魔法の目を向けてアンティマジックフィールドで防御しようとするものの、飛来した数本の矢に巨眼を射貫かれ、悲鳴と共にまぶたを閉じる。
包囲と並ぶ対ビホルダー戦のもう一つのセオリー、光線の射程外からの遠隔物理攻撃。
「おっしゃ、当たったっす!」
それを成したラウルが小躍りしてガッツポーズを取る。
50m先の目標にろくに狙いもつけず、一息に4本の矢を放って、しかもそれら全てを瞳中央に命中させる離れ業。
周囲から賞賛のまなざしが集まるが、本人は気づいていない。
そして、それぞれ異なる笑顔を浮かべたリヴェリアとレフィーヤが、全精神力を込めた呪文を完成させる。
イサミもまた。
「【ウィン・フィンブルヴェトル!】」
「【アルクス・レイ!】」
「"我が敵を雷にて焼き尽くせ! "
全てを凍てつかせる凍気、けして狙いを外さない極太の黄金の光線、急所を的確にうち貫く八条の稲妻。
それらが同時に融合精霊を貫いた。
「まっ、まだ・・・!」
辛うじて残った数本の触手で守られたグラシアが左目を押さえて歯を食いしばる。
右腕のザナランタール、左腕のキャリオンクロウラーはほとんど吹き飛ばされ、下半身のネヴェクディサシグも体半分は原形をとどめていない。
それでも即座に再生を開始するが、もはや遅い。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「ふんんんんんんんっ!」
「いい加減くたばれやこのブサイクがぁぁぁっ!」
「いやぁぁぁぁっっっ!」
「死ねやぁぁぁぁっ!」
落ちてくる得物をキャッチしたフィンの槍がイバラを切り裂く。
大怪魚の頭が消失し、自由になったガレスの双大戦斧が、精霊の胴体を半ば大怪魚から切り離す。
ブチ切れたティオネの斧槍が乳房をえぐる。
全力以上の全力のティオナの大双刃が残りのイバラを根元から刈り取る。
取って置きの魔剣の力を銀長靴に込めたベートの雷を纏った蹴りがグラシア本体を襲い、そのガードを誘う。
そして。
「リル・ラファーガッ!」
全ての防御手段を失った融合精霊の胸、赤銅色の乳房の間を、風と化したアイズが貫いた。