ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十三話「モンクのレベル依存ACボーナスと書いて焼け石に水と読む」
13-1 勝利の報酬


 

 

 

『レベルアップおめでとー♪』

 

―― 『フォーチュンクエスト』 ――

 

 

 

「よし、ここまで! 撤収準備!」

「あれ、もう終わりですか?」

 

 58階層。

 先だって倒した「竜の壺」のモンスターのドロップアイテムや魔石を収集中。

 フィンが掛けた号令にイサミが首をかしげた。

 周囲を見れば、ヴァルガング・ドラゴンやブラッドサウルス・タイラントと言った大物はあらかた解体されたが、それでもまだワイヴァーンをはじめとして無数の怪物の死骸が転がっている。

 

「これ以上採取しても脚が鈍るしね。

 モンスターの産出幕間(インターバル)の間に安全地帯に帰還したい。

 ここの産出幕間(インターバル)がどれだけの長さかはまだ確かめた人間がいないから、安全策をとるにこしたことはないだろう」

「もったいないなあ・・・」

「何なら後で取りに来るかい? 今持って行けない分は全部上げるよ」

 

 きらり、とイサミの目が光った。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十三話「モンクのレベル依存ACボーナスと書いて焼け石に水と読む」

 

 

 

「それは今採取したうちの取り分を頂いた上で、ってことでいいんですね?」

「もちろん」

 

 イサミの内心を読んでいるのか、肩をすくめて言質を与えるフィン。

 どのみち物理的に持ち帰れないのでここで全てイサミ達に与えたところで懐は痛まないし、フィンとしても"経験値(エクセリア)"を大量に消費してまで勝利に貢献したイサミに何か報いたいとは思っているのだ。

 

「よし、聞きましたよ。それじゃ撤収しましょうか。今度は"ポータブル・ホール"を二枚出しますから、その中に入ってください」

「二枚あるんすか? できれば行きに使って欲しかったっすよ・・・」

「いやあ、ぎりぎりかなあと思ってたけどほんとうにぎりぎり入っちゃったんで・・・」

 

 ラウルの愚痴に、はっはっはと笑って誤魔化すイサミ。

 甲冑を着た人間こみで乗車率250%の山手線に押し込められれば、それは文句を言いたくもなろう。

 現在のパーティはあの時より荷物がふくらんでいるため、さすがに一枚では入りきらない。

 

 ちらりと上を見ると、砲竜の空けた穴が多少小さくなってはいるが52階層までまだ続いているのがわかる。

 頷くと、イサミは懐からポータブル・ホールを二枚出して地面に広げた。

 

 

 

「全員入りましたねー。それじゃ畳みますよー」

 

 中に全員入ったのを確かめ、地面に開いた二つの穴を「畳む」。

 直径1.8mに広がった布を畳むと、それは縮んでハンカチくらいのサイズになった。

 

「さて、と」

 

 ポータブル・ホール二枚を懐に収め、周囲を見渡す。

 

「"我願う――全ての魔石とドロップアイテムをここに"」

 

 ミストラの加護で得られた分のウィッシュ、今日の最後のそれを発動すると、周囲のモンスターの死骸全てが灰となって崩れ落ちた。

 同時にイサミの目の前の穴に高さ1m、直径3mあまりの魔石とドロップアイテムの山が現れる。

 魔石も石であるから、合計重量は恐らく5tほどに達するだろう。

 

 重量で言えば先ほどパーティ全員で採取したものの二十倍はある。

 価格的にも十数倍は行くはずだ。

 

「うーむ」

 

 さすがに圧倒されるが、ポータブル・ホールの中の空気的に、余り時間は掛けられない。

 感慨を振り切って次の呪文を唱える。

 

「"石変形(ストーンシェイプ)"」

 

 床の石に対して呪文を発動すると、石が風呂敷のように魔石の山を包み込んで変形し、直径2m弱の丸い岩となった。

 頷き、更に呪文を発動。

 

「"物体縮小(シュリンク・アイテム)"」

 

 発動と同時に、岩がソフトボールの玉ほどに縮む。

 それを拾い上げて背負い袋に放り込んだイサミは、52階層を目指して地面を蹴った。

 

 

 

「はいどうぞ、出てきて大丈夫ですよ」

 

 52階層。

 数時間前に飛び込んだ穴のそばで、イサミはポータブル・ホールを広げた。

 モンスターの姿は見えないが、念のため周囲に"力場の壁"を張って安全を確保している。

 

「ふう」

「行きよりはましっすけど、やっぱ狭いところはきついっすね・・・」

「まあ武器が当たるよりはましじゃない?」

 

 口々に勝手なことをいいながら、冒険者達が這い出してくる。

 全員が出てきたところでフィンが号令を掛け、再び隊列を整える。

 途中モンスターと何度か遭遇したものの、一行は無事50階層のベースキャンプに帰還した。

 

 

 

「・・・では、あの女体型ですら尖兵に過ぎないというのか?」

 

 祈祷の間でフェルズがおののくようにつぶやく。

 祭壇の老神が重々しく頷いた。

 

「魔姫グラシアが呼びかけ、瀕死だった女体型に力を与えたあの触手・・・

 堕ちた精霊の本体はさらなる下層にいると見て間違いあるまい」

「怪人達もそれか・・・しかしここ数年で奴らの動きが活発になったのは――やはり【剣姫】か?」

「おそらくはな。だが――」

 

 

 

「だが当座はもっと重要な問題がある。あの宝玉が地上に、しかも複数運び込まれていたら?」

「つまり敵の狙いは――」

 

 ベースキャンプの一角、首脳陣用のテントの中で、フィンはリヴェリアとガレスに語りかける。

 己の言いたい事を察したらしい二人に、フィンが頷く。

 

「ああ。敵の狙いはあの女体型を地上で羽化――あるいは発芽かな――させることだ」

 

 魔姫グラシアの力が加わったとはいえ、都市最強派閥に助っ人がついてようやく倒した大怪物。

 階層主ですら及びもつかぬその力を思い返し、二人の表情が硬くなる。

 

「急いでロキに知らせる。すぐに地上への帰還準備を始めよう」

「おう」

「わかった」

 

 そろって頷いたあと、今度はガレスが口を開いた。

 

「それでな、フィン、リヴェリア。あの小僧をどう見る?」

「・・・」

 

 二人はしばし沈黙し、ややあって最初に口を開いたのはリヴェリアだった。

 

「人間としては大変好もしいな。実力も折り紙付きだが・・・余りに未知でありすぎる。

 魔力と耐久力のみが突出したちぐはぐなステイタス、聞いた事も無い魔道具、特に魔法だ。

 私が言うのもなんだが、彼は一体いくつ魔法を所持しているのだ? そもそも――」

「そもそも彼は、僕たちと同じ存在なのか?」

 

 リヴェリアの言葉をフィンが引き取る。

 

「人物については僕もリヴェリアと同じ評価だ。まるっきりの善人ではないと思うが、信用できる。

 だが――異質だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「!」」

 

 リヴェリアとガレスに衝撃が走る。

 

「だ、だが・・・」

「君も薄々は察してたんじゃないかい? 彼の魔法は僕たちから見るとまったく異質だ。

 だが、あの目玉の怪物の魔法と同系列のものと考えると妙にしっくり来る。

 超短文詠唱相当の発動時間、込められた魔力の少なさ、術の多彩さ、そして彼の魔法に対してしか有効でないらしい呪文相殺とやらだ。

 あのロビラーという男と同じ技を使ったのもそうだ。確たる証拠はないが、あの怪物達と同質の存在であると僕は思う」

 

 がたっ、と椅子を蹴倒してリヴェリアが立ち上がる。

 

「彼も怪人の仲間だと?!」

「落ち着いて、リヴェリア。声が大きい」

「・・・すまない」

 

 わびの言葉と共に、リヴェリアが再び着座する。

 

「少なくとも彼らが同じ技術体系を用いているのは間違いないと思う。

 どうやら怪人や堕ちた精霊達とは敵対しているようだが・・・だからといって、必ずしもこちらの味方とは限らない」

「場合によっては、手を組んで我々に敵対すると?」

 

 ヒゲをしごきながら、ガレスがフィンに問う。

 

「ンー・・・そこまでは行かないと思う。勘だけどね。

 ただ、ロキも警戒していたのは確かだ。あまり気を許すべきでもないだろうね」

 

 「ガチで殺しあいするかもしれんで」と言っていた主神を思い出し、三者三様に渋い顔になった。

 あの時は九割たわごとと思っていたが、ここに来てそれがやにわに現実味を帯びてきている。

 

 ふっ、とリヴェリアが笑みを浮かべた。

 

「しかしフィン、それならあそこで焚きつけず、撤退させておいた方が良かったのではないか?

 間違いなく彼は今回の事で一皮むけたぞ」

「そうなんだけどね・・・さすがに彼の力無しでは勝てた気がしない。

 勝てたとしてもかなりの犠牲が出ただろうね。やむを得ない選択という奴だよ、リヴェリア」

 

 こちらも笑みを浮かべながらフィンが肩をすくめる。

 ヒゲをふるわせてガレスが笑った。

 

「よく言うわい。そんな事、最初から考えてもおらんかったじゃろうに」

「冒険者の先輩だからね、僕たちは。多少それらしいことをしてやってもバチは当たらないだろう?」

「言ってろ!」

 

 しばし、笑い声でテントの中が満たされた。

 

「まあ地上に戻ったらロキを問い詰めてみた方がいいな。何をもってそう判断したのか。

 とにかく、彼とヘスティア・ファミリアは今後要注意だ」

 

 締めくくるフィンの言葉に二人は再度頷いたが、リヴェリアはさらに言葉を続けた。

 

「それはわかっている・・・だが我々が彼に大きな借りを作ってしまったのも確かだ」

「まあね。それはそれ、これはこれ、と行きたいところだが・・・頭が痛いね」

 

 個人的には好感が持てるだけに余計にと、フィンは額に手を当てて顔をしかめた。

 

 

 

 話し合いを終えた三人が天幕から出ると、周囲にいい匂いが漂っていた。

 ダンジョンの中には似合わぬ瀟洒な大テーブルがいくつも並び、その上では山盛りのごちそうが湯気を立てている。

 

 フィン達も何度も見た、イサミの"英雄の饗宴(ヒーローズ・フィースト)"だ。

 テーブルの席は冒険者たちで埋まりつつあり、どうやら彼らが最後であるようだった。

 

「あっ、やっと出てきた! そろそろ呼びに行こうかと思ってたんですよ、団長!」

 

 手を振るのはティオネ。

 私の横の席に座ってください、と無言での熱烈なアピール。

 

「・・・まあ後のことは食べてから考えようか」

「そうじゃな、せっかくの晩餐だ。味わわなければ勿体ない」

 

 苦笑いを浮かべつつ、顔を合わせる三首領。

 

「ほーら、早く! フィン達が来ないと始められないんだからさ!」

「わかってるよ、そうせかさないでくれ」

 

 重ねて苦笑しつつ、三人はいい匂いを漂わせる卓の方へ歩き出した。

 




ちなみに魔石の量は、コミック版外伝一巻の芋虫型の魔石の描写をもとに、一個が森永ミルクキャラメル二つ分(約10g)として、
石の比重が2.8なので一個28g、土砂が1立方m=約1.7~1.8t、隙間が多いのでもう少し軽いだろうと言う事で1.6t。大体六万個弱で1立方m。

倒した怪物の数は――原作では全く不明ですが、ベート、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ、ガレスが八時間戦い続けて五人がそれぞれ6秒(D&Dにおける1ターン)に2匹倒したと仮定して、一時間6000匹、八時間で四万八千匹。
(レフィーヤは一度に数十匹倒せますが、芋虫型のせいでフルで呪文詠唱できたわけでもなさそうなのでこの数字)
三つどもえだったので芋虫型、食人花に食われたモンスターが半分いるとすると、倍の九万六千匹。

5~10mサイズの怪物の爪やら鱗の山やらはそれなりにかさばるでしょうし、動きが鈍るほどは持ってかないだろうと言う事で、ロキ・ファミリアが持って行った分を差し引いても1.5立方m。
ドロップアイテムも含めれば2~3立方mくらいはいくかな、ということで作中の描写になりました。
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