ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
ベル達が降りて来たところでヘスティアを起こし、上機嫌で朝食を用意する。
「そう言えばリリ、渡したあれ、どうだ? 使えてるか?」
「使えてると言いますか・・・あれ、リリには分不相応な武器じゃないんですか?
リリでも2,3発撃ち込めばオークを倒せるとか、普通じゃありませんよ」
「そりゃまあ、リリの腕がいいんじゃないの?」
すっとぼけるイサミ。
リリの武器は手首に装着する折りたたみ式の小型石弓、いわゆるハンドクロスボウだ。
ゴブニュ・ファミリアの鍛冶師が作った精巧なものだが、魔力は込められていない。
イサミはベルのランクアップと中層進出の前祝いと言う事で、リリの武器に魔力を付与したのである。D&D風に言えば、+5・
通常の倍の速度で射撃を行い、撃った矢を異次元弾倉から自動装填し、更に矢に炎を纏わせて威力を上昇させる。
その上で第一等級武装並みの基本性能を持つのだから、それは上層レベルでは分不相応にも程があろう。
おまけに弓と同レベルで魔力をこれでもかと込めまくった矢も50本、切り札として与えている。
リリが試しにオークに撃ってみたら炎と雷と冷気と音波と酸とその他よくわからないエネルギーが炸裂して、原形をとどめないゼリーになった。
「まぁまじめな話、リリはサポーターとしては優秀だが戦闘力に欠けるからな。多分中層だとあれくらいの武器があって戦力になるレベルだろう。ベルのためと言う事で持っててくんないかな」
「それは・・・わかるのですが」
リリとしてはベルの役に立てるのは嬉しいのだが、ただでさえ恩義が積み重なっているのに余り高価なものを貰っても心苦しいという複雑な心境である。
弓と矢、合わせて四億ヴァリスばかりすると知ったら卒倒していたかもしれない。
ちなみにベルに与えたのは毒避け、病避け、どこでも呼吸できる適応の首飾りの機能を一つに合わせた護符で、本人には今ひとつ不評であった。
「僕も強い弓とか欲しかったなあ・・・あいたっ!」
ぺしっ、とベルの額にしっぺを喰らわす。
「中層進出するのがやっとって、初心者に毛の生えたようなのがぜーたく言ってんな。
大体毒も効かない、病気も効かない、ガスも胞子も弾くし水や泥の中に落ちても生き埋めになっても息ができるってすげえ便利だろうが」
「そうだけど・・・」
ヘファイストスではないが「
「大体、お前には新しい武器があるじゃないか。【
「【牛若丸】だよ!?」
顔色を変えたベルが必死で反論する。
今ベルの腰に下がっているそれはベルの新たな仲間、鍛冶師ヴェルフ・クロッゾがベルの倒したハーフドラゴン・ミノタウロスの肥大化した角を原材料として打った
オリジナルよりも肥大化したその角は、刃渡り30cmの短剣を作るのに十分な量があった。上層ではあり得ないほど上質のアダマンタイトを含んだそれは、確かにLv.2になったばかりの冒険者の武器としては十分以上の業物だ。
なお製作者に【
「まぁ名前はともかく、結構いい剣だろ。お前のレベルで文句を言ったらバチが当たる」
「そりゃわかってるけどさあ・・・」
何やらモヤモヤした表情のベル。
と、そこでヘスティアがにやにやしながら口を挟んだ。
「まあしょうがないさ、イサミ君! ベルくんも年頃の男の子だからね!
地味な防御用の魔道具よりは強力で派手な武器が欲しくなるものさ。かわいいじゃないか、なあ?」
「うぐっ?!」
図星を言い当てられ、絶句する。
「ふーん、そうなんだぁ? かわいいね、ベルちゃん」
「うわぁぁぁぁぁん!」
周囲の生暖かい視線とにこにこ笑うレーテーの言葉に耐えきれず、ベルは自分の部屋に遁走した。
何事も無かったかのように食事を続けるイサミが、再びリリに話を振る。
「話は変わるが、ヴェルフはどんなもんだ?」
「あ、はい・・・そうですね、少なくとも足手まといにはなってません。
もちろんベル様に比べれば大幅に見劣りしますが、ベル様の負担を減らして効率的に探索を進められるという点では有益ですね」
「ふむ」
相づちを打つイサミは、ヴェルフに会った三日前の事を思い出していた。
その男に会ったのはベル達と連れだってダンジョンへ向かったとき、バベル前の中央広場でだった。
くたびれた黒の着流しに青いスカーフ。
そこそこの長身に赤いぼさぼさ頭、若いが男臭い顔立ち。年を取ったら渋みのあるいい男になるだろう。
(色を反転させたら「Y心棒」のN代達也だな)
白い着流しにリボルバーを下げた色男を思い出しつつ、イサミは手を差し出した。
「あんたがヴェルフ・クロッゾか。俺はイサミ・クラネル。今日は弟をよろしくな」
「イサミ・クラネル・・・あんたがか。いい刀鍛冶だって、椿がべた褒めしてたぜ。怪物祭でも活躍したんだって?」
手を握り返したヴェルフの言葉に「おや」という顔になるイサミ。
褒めていたと言う事は打刀の件だろうが、余計な事まで漏らしてないだろうなと顔をしかめる。
「椿さんか・・・しかしフィルヴィスといいゲドと言い、意外に売れてんだな俺の名前」
「スットコドッコイの神々だろうさ。あいつら面白いものには食いつきが半端ねえからな。空飛ぶ馬で駆け回って怪物退治とか、いいネタだろうよ。あんた、結構有名人なんだぜ?」
笑いながら胸板をこづいてくるヴェルフに、イサミが肩をすくめる。
「今はベルに抜かれたろ。さすがに一月半でランクアップするとは思わなかった」
「い、いや、兄さんにはまだ全然かなわないし・・・!」
あたふたとベルが否定するが、その肩を笑いながらヴェルフがどやしつける。
「謙遜するこたぁねえさ。直接契約のこともそうだが、今回11階層に連れてって貰うのもそうだ。
レベル1の木っ端鍛冶師に過ぎない俺の方がよろしくされる立場ってことさ」
「あはは・・・」
照れるベルとその新品の鎧を見て、リリがわざとらしくため息をついた。
「新しいお仲間が増えたと聞けば、何ですか、ベル様は物につられて買収されただけじゃないですか」
「へ? い、いやその・・・」
「はぁー、リリは悲しいです。とてもとても悲しいです。
お買い物に行かれただけなのにリリの
「あの、そのね」
たじたじと後退するベルに、まあまあとイサミが間に入る。
「そうは言うがリリ、これはいいものだぞ。
その【牛角】といい、上級鍛冶師でこそないがヴェルフにはセンスがある」
「そ、そうだよリリ。ヴェルフさんの鎧は軽くて頑丈でさ・・・だから【牛若丸】だよ!」
「確かにな。ベルのレベルにしちゃ出来もなかなかだが、何よりこいつの戦い方にぴったりの防具だ」
「・・・」
むう、と三人がかりの援護にリリが頬をふくらませる一方、先輩鍛冶師(と、思っている)や上級冒険者からの意外な高評価にヴェルフが嬉しそうな顔になった。
「そうなんだよ、自分で言うのも何だが、俺はそれなりにいいものを作ってると思ってる。
けどこの
本当にわからない、心底わからないと言った風情でヴェルフが頭をひねる。
「名前が悪いんじゃないかねえ」とイサミ。
「ネーミングだと思います」すまし顔でリリ。
「センスがねえよ」ばっさりとシャーナ。
「否定はできないかな・・・」擁護したいけどできないベル。
「フルボッコかよお前ら!」
一転、ヴェルフが涙目になって叫ぶ。
その頭をいい子いい子、とレーテーがなぜた。
「えっとねえ、レーテーは可愛いと思うよ?」
「かっこいいじゃなくてかわいいかよ・・・」
「かっこいいと思ってつけてたんかいお前」
レーテーとイサミの二人がかりでとどめを刺され、ヴェルフはぐったりとうなだれた。
牛角さんステッキーアルヨ、たとえ活躍の場が無くても! 活躍の場が無くても!
なお主人公兄弟が虎と兎になったのは割と偶然です――偶然なんだってば。
作中ではダンまちの第一等級武装=D&Dの+5武器というイメージでバランスをとっています。
リリの武器が+5・
ダメージ追加系・貫通系の効果をこれでもかとばかり乗せた矢玉ですね。
なおルール上弓と矢の+はどちらか大きい方のみ適用なので、弓のほうの強化を最大限にして、消耗品である矢に特殊能力を山盛り乗せるのが一般的です。
いやほんと、弓使いやってると対デーモン用とか対アンデッド用とか対ドラゴン用とか、魔法の矢の価格がシャレにならないんだ・・・その分相手によって手軽に撃ち分け出来たりして強いけどさあw
一方ベルくんの護符はDMG287ページの「新しい能力の追加」を使用して作成しています。
毒避けの護符が基本で27000、適応の護符が9000*1.5で13500、病避けの護符が7400*1.5で11100の、合計51600gp、換算すると5160万ヴァリス。
価格にしてリリに渡した弓矢の1/8。やー、ベルくんがすねるわけだ(ぉ