ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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13-4 力が金ではない! 金が力だ!

「しかしそうか、おまえさんがヴェルフ・クロッゾか。ヘファイストス・ファミリアにいるとは聞いてたが・・・」

 

 イサミがその名前を口に出すと、ヴェルフの眉が盛大にしかめられた。

 

「悪いが家の話は無しにしてくれ。俺は魔剣は打たないんだ」

 

 かなり本気で嫌がってるのが見て取れて、イサミは口をつぐむ。

 

「そうか、そりゃ残念だな。出来れば魔剣を打ってるところをいっぺん見せて欲しかったんだが」

「打ってるところが見たい・・・か。そんな事を言ったのはあんたが初めてだよ」

 

 寂しそうに笑うヴェルフ。

 

「俺の所に来る奴はみんな"クロッゾの魔剣"目当てでな・・・まあ、辟易もするぜ」

「クロッゾの魔剣?」

 

 首をかしげるベルに、ちらりとヴェルフの顔を見てからイサミは説明し始める。

 

「昔、ある男が精霊を助けた。そのせいで瀕死になった男に、精霊は自らの一部を与えて命を救ったんだ。

 男の子孫が神の『恩恵』を受けたとき、精霊の血が発現してな。

 その一族は残らず魔剣を打てるようになったんだ。それも『海を焼き尽くす』と言われるほどの、空前絶後に強力な奴をな」

「へぇ・・・」

 

 ぴくりと片方の眉を上げるヴェルフ。

 イサミは淡々と説明を続ける。

 

「クロッゾの一族は"王国(ラキア)"――戦神アレスが君臨する、侵略国家だな――に仕え、強力な魔剣を大量生産した。

 王国(ラキア)はそりゃもう連戦連勝だったが、あるときエルフと精霊の住む森を丸ごと焼き払っちまってな。

 精霊に呪われたと言われてるが、とにかくクロッゾの打った魔剣は残らず壊れ、彼らは魔剣を打てなくなった――はずなんだが」

「ああ、打てるんだな。何故か」

 

 再び自分に向けられた視線に、無造作にヴェルフが頷く。

 シャーナが目を見張った。

 

「マジか!? そりゃまあ、殺到するわなあ・・・」

「エルフにしちゃ珍しい反応だな。エルフは俺がクロッゾだと知ると、大体目の色を変えて非難してくるんだが」

「あー・・・俺は人間に育てられてね。そのへんはあまり実感がわかねえんだ」

「そうなのか。珍しいな」

 

 ふーん、と感心するヴェルフ。

 

「しかしあんた詳しいな。王国出身って訳でもなさそうだが」

「ああ、ギルドの図書館の本に載ってた。あそこの本は大体読んだからな」

「あれを全部か!? すげえな、おい!」

 

 目を剥くヴェルフ。

 曖昧に笑って誤魔化したが、イサミがそこまで読書に時間を割いているわけではない。

 "学者の接触(スカラーズ・タッチ)"と言う呪文の力だ。

 

 もっとも初歩の呪文であるにもかかわらず、分厚い本でも一冊数秒で内容全てを読むことができる。連続使用できるなら、数万冊の本があっても数日から一週間で全て読破出来る超チート呪文であった。

 実際イサミはエイナの授業のついでにこの呪文を使い、10日ほどでギルドの図書館の本をほぼ全て読破している。

 

「でもぉ、ヴェルフちゃんはどうして魔剣が嫌いなのぉ?

 打てるなら打っちゃえばいいじゃない? あれって凄く便利なんだけどなぁ」

 

 子供のように首をかしげ、レーテーが問うた。

 他の誰かが言ったなら反発したかもしれないが、レーテーは純粋に疑問に思っているだけで初対面のヴェルフでも誤解する余地がない。

 

 ため息をつき、頭をボリボリとかいてヴェルフはレーテーの疑問に答えてやった。

 なおレーテーとヴェルフは丁度倍の年齢差がある――もちろんヴェルフが年上ではない。

 

「いいか? 魔剣ってのは自分の力じゃない。確かに便利だがそいつの力じゃない。

 そう言う分不相応な力は使い手を腐らせる。特にクロッゾの魔剣はそうだ。

 そいつは鍛冶師のほうも同じだ。クロッゾ一族の魔剣を打つ力は、俺たちの力じゃない。精霊の血だ。

 俺たち鍛冶師が磨いてきた技で生み出したもんじゃねえ・・・だからクロッゾの一族は腐ったし、俺は魔剣が嫌いだし打たないんだ。わかるか?」

「・・・よくわかんない」

 

 かわいらしいしかめつらのレーテーに、うぬぬ、と唸るヴェルフ。

 本来なら怒るところだろうが、何となく面倒を見てやりたくなる何かが彼女にはある。

 笑いながらイサミがフォローを入れてやった。

 

「まあこだわりだよ。職人の矜持って奴だ。・・・ただ、一つだけ言わせてくれ」

「・・・なんだ?」

 

 警戒するようなヴェルフの両肩を掴み、その顔を覗き込む。

 先ほどまでとはまるで違う真剣な表情。

 ヴェルフは思わず唾を飲み込み――

 

「よく聞けヴェルフ・・・金は力だ」

「・・・は?」

 

 ぽかんと口を開けた。

 ずずい、と更にイサミが迫る。

 

「いいか、冒険者が稼いだ金で第一等級武装を買ったとする。それは分不相応な力か? 使い手を腐らせるか?」

「い、いや・・・自分で稼いだ金で買ったなら・・・いいんじゃねえか?」

 

 我が意を得たりと頷くイサミ。

 

「そう、稼いだ金はそいつの力なんだ。だから魔剣も相応の価格で購入したなら、それは分不相応じゃない。

 クロッゾの魔剣はそりゃ強力だろうが、なら相応に高い価格を付ければいい。

 仮に10億ヴァリスの値を付けたとして、10億ヴァリスを稼いだ苦労が魔剣の強力さと釣り合わないと言う事があるか! どうだ!」

「いやまぁ・・・そう言う話なら・・・」

 

 いつの間にかイサミの目は見開かれ、ぎらぎらと光っている。

 

「需要と供給の関係もあるが本質的な問題はアイテムに適切な価格をつけることでそれは売り手次第で解決できるしかし普及すればその適切な価格も当然下がる安くて便利な物は誰もが使うポーションを見ろ昔はレアな治癒魔法だけが頼りだっただがポーションが出来て魔法に頼らなくてもみんな回復できるようになり深く潜れるようになっただがポーションを使っているから分不相応とは誰も言わない初期は最低ランクのポーションが今のエリクサー並みの価格で取引されていたというのにだ貧乏人は麦を食えと言った奴がいる米はみんなが欲しがるから高くて麦は人気が無くて安いからだだがこれも一面の真理だ高い物は高い安い物は安い市場原理に任せておくばかりでは買い占めや恐慌によって崩壊することもあるが神の見えざる手こそ経済の基本なのであり――」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「えいっ」

 

 めりっ、と鈍い音がした。

 

「ぐおおおおおおおおっ!?」

「めーでしょ、イサミちゃん。ヴェルちゃんが困ってるのよ」

 

 大戦斧で殴られたイサミが頭を抑えて転げ回り、ヴェルフが呆然とする。

 レーテーが胸を反らしてイサミを叱るという非常に珍しい光景に、残りの面子もようやく再起動した。

 

「あーうん、悪い。ちょっと興が乗りすぎた・・・いててて」

「わかればいいの!」

 

 よろしい、とばかりにレーテーが頷く。

 

(見えなかった・・・!)

(あれをやられたら、リリやベル様は頭が胴体にめり込みますね・・・)

 

 おののくベルやリリをよそに、イサミが頭を振って立ち上がる。

 後頭部をなでさすりつつ、再びヴェルフに視線を向けた。

 

「まあとにかくだ、金もリソースであり、武具やポーションや魔道具もリソースである以上、金をつぎ込んで武装を整えるのは冒険者として正しい道なわけだ。

 装備だって冒険者の強さの一部なんだしな」

「まあそりゃ・・・けどなあ」

「お前の信条にはそりゃ口は出さないよ。鍛冶師としての腕を見て貰えなくて悔しいのはわかるし、でかすぎる才能が時としてそいつを腐らせちまうのもわからんでもない」

 

 ランクアップできない今の俺みたいにな、とこれは口には出さずに思う。

 

「才能ねえ」

「才能だろ。血統で遺伝する才なんていくらでもあるし、そこまで否定してたら切りがない――後は個人個人のこだわりと割り切りだな」

 

 腕を組んでしかめっ面になるヴェルフに、肩をすくめて見せる。

 実際ヴェルフの言う事にも一理あるとは思っている。

 安易に便利な道具に頼るのはやはり堕落を招くし、精霊の血は「才能」の一言で片付けるには余りにも強力すぎるからだ。

 

 とは言え金が力なD&D出身なだけに、一言言わずには済まなかった。

 何か変なスイッチが入って暴走したのは、まあご愛敬である。




この話のタイトルはタイガーマスク二世のパロですが、
そうか、虎頭繋がりでこうなることは必然であったか・・・(ぉ
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