ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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13-5 超英雄特技(エピックフィート)

 時は戻ってヘスティア・ファミリアの朝食。

 

「とはいえヴェルフと契約できたのは、ベルにとっちゃ案外めっけもんかもな。

 あいつ、きっと鍛冶師として大成するぞ」

「随分とヴェルフ様のことを買ってらっしゃるのですね。

 鍛冶師としてはイサミ様の方が上でいらっしゃるのでしょう?

 ベル様の武具も、イサミ様が作って差し上げればいいではないですか」

 

 余りヴェルフのことが好きではないのか、はたまた焼き餅でも焼いているのか、不機嫌そうにリリが指摘する。

 が、イサミは自分の事をそれほど信用してはいない。

 

「まあそうだけどな。俺がやるとあいつを甘やかすか、逆に必要以上に厳しくしすぎるかしそうでなあ。

 その点ヴェルフなら品質的にも代価的にも適切なものを渡してくれるだろ」

「確かにな。お前はその辺加減がうまい方じゃねえわ」

「ほっとけ」

「いいんだよぉ。イサミちゃんはベルちゃんが大好きなんだから」

 

 わははと笑うシャーナと肩をすくめるイサミ。

 レーテーがにこにこしながら二人を見つめている。

 

「そういやぁ、今日はどうする? ランクアップしたばかりだし、潜るにしても中層辺りにしておきたいんだが」

「今日は俺もやることがあるので、休みにしましょうか。潜るなら"グワーロンのベルト"の予備を貸しますけど」

「そういう事なら、レーテーと組み手させてもらおうかね。

 ランクアップした後は調整しておかないと怖くて潜れねえ・・・いいか?」

「いーよぉ」

 

 そういう事になった。

 

 

 

 自室で布団にくるまっていたベルを蹴り出し、ヘスティアたちと共に送り出すと、イサミは自室に籠もった。

 一階部分で組み手をしているシャーナとレーテーが起こす震動が時折響く他は静かな室内。

 イサミは机に向かい、昨夜からの作業を再開した。

 

 作っているものは"願い(ウィッシュ)"の呪文を込めた魔法の杖(スタッフ)。

 ただしコストダウンのため使えるのは一発こっきりである(通常は50回使用可能)。

 

 何のためにそんなものを作るのかと言えば、新たに選択したエピック特技《マスター・スタッフ》のためである。

 伝説の域に達した冒険者にのみ許されるこの特技は、スタッフに込められた魔力(チャージ)を消費する代わりに、それに見合ったレベルの自分の呪文を消費することでその魔力を呼び起こすことを可能とする。

 スタッフを起動するためのエネルギーに自分の呪文を使うと言い換えてもいい。

 

(まあ平たく言えば、経験点を消費せずに"願い(ウィッシュ)"が使えるという事なんだが)

 

 「準備した呪文を消費する」としか書かれてない以上、ウィッシュを込めたスタッフにこの特技を使えば通常の呪文消費だけでウィッシュを使えるのである。

 ルールの穴というか反則だとは思いつつ、それを見過ごすイサミではなかった。

 

(まあウィッシュを乱発したぶんの元は取れたかな)

 

 イサミ自身の呪文に制限がある以上無制限に乱発できるわけでもないが、それでもウィッシュの使用回数が増えると言うことは計り知れない利益をもたらすはずであった。

 

 

 

 ためしにウィッシュを発動してみたイサミは自分自身の「再構築」を試してみた。

 再構築とはたとえば魔術師を戦士に変えるような、人間の存在そのものを改変する事だ。

 本来は神の試練などを乗り越えて行う業だが、この世界ではウィッシュならば可能なようである。

 

 とはいえ、結局存在変換は行われなかった。

 クレリックをかじろうかと思ったのだが、次元の壁が強固なこの世界で世界の外に存在する神の力を得るのは難しいようであったからだ。

 戦闘力を追及するならもっと別の組み方もあったが、バランスを考えると現状の構成が最上と判断したのである。

 もっとも属性の問題で彼は自らの守護神格たるミストラのクレリックにはなれなかったりするのだが。

 

 なお現在のイサミはウィザード5/ファクトタム1/バード1/アーティフィサー(魔法技師)1/インカンタトリックス11/アークメイジ2。

 ウィザードは魔術師、ファクトタムは瞬間的にさまざまな能力をブーストできる万能職、アーティフィサーは魔道具の専門家、インカンタトリックスとアークメイジは魔法を高度にアレンジできる魔術師の上級職である。

 

 アーティフィサーを入れたのはレベルアップの「端数切り捨て」で失われる膨大な経験点(まだ結構残っていた)を保持するため。

 アーティフィサーは魔法のアイテムの製作・使用を得意とするクラスで「作成用予備点」という疑似経験点のプールを持っており、マジックアイテムを作るときのみ通常の経験点の代わりに消費できる。

 

 イサミは切り捨てで失われてしまう経験値をこの作成用予備点としてプールすることを思いつき、そして成功したのだ――経験点の移動に成功したとき、思わずガッツポーズを取ったのはここだけの話である。

 エピックレベルのマジックアイテムを作るには膨大な経験点が必要になるので、可能な限り確保しておきたいと思うのはしょうがあるまい。

 

(ウォーブレードとか危険物だし、ソウルナイフ? 何それ正気? だしなあ)

 

 脳裏によぎったトンデモ職業(イロモノ)の誘惑を振り切りつつ、イサミは部屋を出た。

 そのまま台所に入り、卵ハム野菜でサンドイッチを、牛乳タマネギでスープを作る。

 サンドイッチの皿に覆いをかぶせると、マントを羽織って上に上がった。

 

「おら、ら、ら、ら、らっ!」

「ふんっ!」

 

 丸太を丸太で叩くような音が連続して廃教会の中に響く。

 アマゾネスの巨女(幻影を解除している)と、華奢なエルフの少女が組み手をしていた。

 

 殴り合いあり、蹴りあり、投げ関節ありのバーリ・トゥードだ。

 ロキ・ファミリアのベート・ローガやアマゾネス姉妹に比べるとスピードはやや落ちるが、それでも見応えは十分だった。

 感心して見ていると、レーテーの方が先に気づいた。

 

「うーん? イサミちゃん、どうしたの?」

「ちょっと出かけてくる。昼飯は作っておいたから、スープを温めて食べてくれ。晩飯までには戻るよ」

「ん、わかった」

「二人ともがんばってなー」

「いってらっしゃーい」

 

 ぶんぶんと手を振るレーテーに手を振り返すと、イサミは廃教会を出て表通りに向かって歩き出した。

 

 

 

 オラリオに八本あるメインストリートのうち、ギルド本部が存在する北西のメインストリート、通称冒険者通り。

 ここはギルド以外にもヘファイストス・ファミリアの支店や薬剤医療の最大手ディアンケヒト・ファミリアなど、冒険者向けの様々な店・施設が集まっている。

 

 そのメインストリートから南に路地を入った第七区画。

 冒険者向けの店や酒場が点在するその地区に、ヘルメス・ファミリアのホームがあった。

 

 堅苦しいのが嫌いな主神の性格を反映してか門番などはいないが、イサミが近づいていくと軒先でカードゲームをやっていたエルフと獣人の二人組がこちらに視線を向けてくる。

 その視線がいぶかしげなものに変わり、はっと何かに気づく。

 

「あの、ひょっとしてヘスティア・ファミリアのイサミ・クラネルさんで?」

「ええ。アスフィさんかルルネはいますか?」

「二人ともいますよ。どうぞこちらへ」

 

 目立つ外見も時には得だなと思いつつ、イサミは中に案内された。

 中に入るとぽつぽつ見知った顔もいて、片手を上げて挨拶する。

 アスフィの部屋に向かって歩いていくと、丁度ルルネが部屋から出てくるところだった。

 

「あれー、イサミじゃん。どうしたのさ?」

「ちょっと野暮用でな・・・今回は『げっ』って顔しないんだな」

「わ、悪かったって! 何回も助けて貰って感謝してますよイサミ様!」

 

 ばつが悪そうな顔になるルルネをけらけらと笑いつつ、ルルネ達と一緒に執務室に入る。

 

「おや、どうしましたルルネ、まだ何か・・・い、イサミ君?!」

 

 不意を突かれたのか、事務仕事をしていたアスフィがわたわたと意味不明に両手を動かす。

 

「"上級瞬速(グレーター・セレリティ)"」

 

 振り回した手が当たって落ちた花瓶を、とっさの魔法で加速したイサミがぎりぎりのところでキャッチした。

 

「どうしたんですか、アスフィさんらしくもない」

「え・・・は、はい、そうですね。すいません」

 

 イサミが花瓶を(アスフィの手の届かないところに)置くと、水色の髪の麗人は恥じ入るようにうつむく。

 案内してきた男とルルネの目がちょっと生暖かい。

 

 

 

「・・・あー、アスフィ。お客さんを連れてきたぜ・・・それじゃ俺はこれで」

「ありがとう。助かったよ」

 

 男が一礼して出て行く。

 空気を変えようと、アスフィがこほんと咳払いをした。

 

「それでイサミ君、今日はどんなご用件で?」

「アスフィさんをデートに誘いに」

「ブフォッ!?」

 

 落ち着き掛けたところに強烈なカウンターパンチを喰らい、アスフィは盛大に吹き出した。

 軽口のつもりで言ったイサミの方が逆にうろたえる。

 脇で見ていたルルネの視線が極めつけに白けたものになっていた。

 

「え? え? 何です、その反応?! ・・・まさかとは思いますが、ひょっとして・・」

 

 みなまで言わせず、アスフィの繊手が神速でイサミの胸元に伸びる。

 

「さっさと用件を言いなさい、イサミ君! さもなくば爆炸薬(バースト・オイル)をその口に叩き込みますよ!」

「アッハイ」

 

 ブチ切れ寸前のアスフィの顔が赤い。

 レベル4の筋力で胸ぐらを掴み上げられ、かくかくとイサミは頷いた。




22/09/05追記
感想のご指摘で《マスタースタッフ》の前提条件をミスしていた(エラッタが出ていたのに気付いていなかった)のが発覚しましたが、
かなり後(14-6話)でのご指摘でしたのでTRPGっぽく「プレイのテンポが悪くなるので巻き戻しはなし、以降は《マスタースタッフ》使用不可」という措置にしたいと思いますw
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