ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

11 / 270
2-4 食人花(ヴィオラス)

 

 シン、と周囲が静まりかえり――次の瞬間、爆発した。

 

「すげぇぇぇぇぇぇっ!」

「魔法一発で倒しちまったっ!」

「思い出した! あいつ、ロキ・ファミリアの《凶狼》といい勝負してた奴だ!」

「マジかよ!?」

 

 一方、関係者用通路の出口では、エイナ他二人が呆然としていた。

 

「お、おい、エイナ。あいつ本当にレベル1か? トロルつったら、22階層・・・レベル2のモンスターだぞ?

 そいつを魔法一発で・・・」

「そ、そのはずです・・・」

 

 ぶるっ、と震える。

 正直信じられない出来事ではあるが、目の前で現実を突きつけられては何も言えない。

「余裕を見て十階層」というのは、決してでたらめでも何でもなかったと言う事だ。

 

「いや、問題はそこじゃねえ! あいつ魔法円(マジックサークル)展開したぞ?! 魔導アビリティ持ってるってことじゃねえか!」

 

 言われてはっと気づく。

 魔法円(マジックサークル)は魔法を強化する。

 それを発動する魔導アビリティを持てるのはレベル2以上の上級冒険者のみ。

 厳密にはアビリティを持っていなくても発生させることは出来るが、ごくごく例外的な存在である。

 

(あー・・・しくじったな)

 

 ギルド職員達の会話を聞きながら舌打ちするイサミ。

 実のところ、イサミの魔法円は偽装用の幻影である。

 

 深層を歩いている魔導士が魔導アビリティを持っていないわけがないのでそうしたマジックアイテムを作ったのだが、自動発動する仕様にしてしまったのが裏目に出たようであった。

 そしてエイナが何事かを言いかけたとき、小人族のギルド職員が駆け寄ってきた。

 

「あ、アルヴィースさん! モンスターが逃げ出して・・・」

「おう、それなら大丈夫だ。今あいつが退治してくれたぞ」

「1匹じゃないんですよ! 地下の牢屋から全部で9匹が逃げ出したんです!」

「何ぃ?!」

 

 気色めく三人。

 いつの間にかイサミがそばに来ていた。

 

「逃げたモンスターの内訳は?」

「は、はい、トロル6匹とソードスタッグ2匹、それにシルバーバックです!」

「トロルは5匹だな。今そこで1匹兄ちゃんが片付けた。悪いが兄ちゃん・・・」

「わかってます。どっちへ向かいました?」

「は、はい、メインストリートの方に・・・」

 

 小人族が言い終わる前に、イサミは腰のポーチからよく磨いた小さなメノウを取り出し、天に掲げた。

 

「移動の石よ、その力を示せ」

 

 イサミが集中すると、次の瞬間、今まで何もなかった空間に半透明の、幽霊のような黒馬が出現した。

 ざわり、と周囲から驚きの声が上がる中、イサミはひらりと鞍にまたがる。

 

「イサミ君・・・それ、魔道具?」

「ええ。迷宮の中だとあまり使いどころがないんですけど」

 

 嘘である。

 掲げた石は「幸運の石(ストーン・オブ・グッドラック)」という名前通りのアイテムだし、半透明の馬――ファントム・スティードを呼び出したのは彼の持つ移動のドラゴンマークだ。

 もっとも――

 

(こいつの足は、嘘じゃない!)

 

 どよめきの中、ゲートから飛び出したファントム・スティードが空中を駆け上がる。

 空気を蹴って瞬く間に高度を上げ、メインストリート沿いの建物の屋根に着地。

 

「まずは・・・トロル!」

 

 上昇時に、既に"生物定位"は使っている。

 ゆっくりと周囲を見渡すイサミの脳裏に、トロルの存在が点滅する。

 手綱を操って馬首を巡らせ、馬腹を一蹴りすると、イサミの意志が乗り移ったかのように、ファントム・スティードは猛然と飛び出した。

 

 幻馬(ファントム・スティード)の能力は、術者の力量によって左右される。

 低レベルの術者が使うなら、通常よりやや早いだけの、ただの馬だ。

 だが術者の力量が上昇するにつれ、幻の馬は速度を増し、砂地の上を、水面を、そして空中を駆けることができるようになる。

 そして、高い術力によって限界まで強化されたファントム・スティードのスピードは、直線であれば《エアリアル》を纏ったアイズ・ヴァレンシュタインすらわずかに凌駕する――!

 

「ひとつ!」

 

 メインストリートを西へ走っていたトロルが、上空からの"灼熱光線(スコーチング・レイ)"で焼却される。

 

「ふたつ!」

 

 脇道に入ろうとして、人混みをかき分けていたトロルを、誤射を避けて必中の攻撃呪文、"連鎖する魔法の矢(チェイン・ミサイル)"の連射で屠る。

 魔法のエネルギーでできた半透明の弾丸に全身を穴だらけにされ、魔石を砕かれてトロルはチリになった。

 

「みっつ!」

 

 "灼熱光線(スコーチング・レイ)"で三度トロルを焼却すると、イサミは残りの2匹を追って北へ馬首を巡らせた。

 この時、南へ向かったシルバーバックがベル達を追っていたのに気づけば、この後の展開はまた変わったかもしれない。

 そしてもう一組、本来あり得た展開から外れた者達がいた。

 

「何や今、あっちのほう、何か建物の上を横切らんかった?」

「馬・・・だと思います。あの大きな人が・・・乗ってました」

「え、なに? ベートをボコボコにしたあいつ?」

 

 ロキ達一行である。

 正門南ゲートからエイナが移動してしまったため、ロキ達に内部事情をあえて伝えようとするものがおらず、ガネーシャ・ファミリアから事情を知らされて依頼を受けるまで、十分近い時間をロスしてしまったのだ。

 その間にティオナ達も合流し、現在はロキを入れて総勢五名。

 

「んー・・・あのガキんことも気になるけど、とりあえずはモンスターやな。

 アイズ、上登って、周りの様子見てみ。ティオナ達はアイズについてきや。

 うちもできる限りで追いかけるわ」

「わかりまし・・・」

 

 かすかに地面が揺れた。

 微動は続き、冒険者達が真剣な顔を見交わす。

 不測の事態に常に備える彼らにとって、それは警戒レベルを引き上げるに十分な予兆だったし――実際に間違っていなかった。

 

 突如、轟音と共に、視界の端、市街地の向こうに土ぼこりが吹き上がる。

 彼らの行動は早かった。

 

「作戦変更! まずはあっこや!」

「わかった!」

 

 アマゾネス姉妹はメインストリート脇の建物の上に飛び上がり、レフィーヤが街灯を蹴ってそれに続く。

 そしてアイズは剣を抜き放ち。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 大気が唸った。

 肉眼ですら確認できるほどの颶風がアイズを取り巻き、球体となる。

 次の瞬間、アイズは弾丸のごとく跳躍していた。

 

 レフィーヤはおろか、同じレベル5のアマゾネス姉妹すら瞬時に飛び越し、攻城弓から放たれる矢のごとく、弧を描いて一直線に飛んで行く。

 土煙の中に動くものを認めた瞬間、その軌道が鋭角的に曲がる。

 一瞬遅れて、土煙の中から緑色の何かが射出された。

 

 寸前までアイズの体があったであろう空間を貫き、素早く引き戻されるそれを、一瞬だけだがアイズは視認した。

 

(緑色の・・・蛇?)

 

 考えている暇はなかった。

 アイズを目がけて飛び来る緑色の蛇が三、いや四。

 今度はかわせないと判断し、右手の剣を一閃。ほとんど同時にもう一閃。そのことごとくを切り払う。

 

 着地するとほぼ同時に、土煙が晴れた。

 その中から現れたのは体長10mを越える、顔のない緑色の蛇。

 否、その先端が螺旋状に開く。

 その中から現れたのは、鋭い牙を備えた花。

 

(っ・・・!)

 

 身構える暇もあらばこそ、アイズの足に震動が伝わってくる。

 とっさに右に大きく飛ぶ。

 一拍遅れて緑色の蛇が三本、地面から飛び出した。

 標的を見失ったそれらは、既に咲き誇る同族と同様そのあぎとを開き、牙の花を咲かせる。

 アイズが剣を構え直した。

 

 

 

 

 

 ティオナ達が駆けつけるのと、アイズが最後の一体を倒すのがほぼ同時だった。

 今日はこれまで使用されていなかったゴブニュ・ファミリアのレイピアが、辛うじて最後までもったのだ。

 剣を持ったアイズの前には、謎の食人花といえど相手ではなかった。

 

「うはー、何これ? 気持ち悪い」

「見た事無いわね。ガネーシャ・ファミリアはこんな怪物どこから引っ張ってきたのよ?」

「レフィーヤは知ってる?」

「い、いえ・・・聞いた事も無いです。新種でしょうか・・・?」

 

 ぶつ切りにされ、力尽きてチリと化す茎を見下ろし、短く会話を交わすアイズ達。

 

「まあ、それは後でもいいでしょ。今は逃げ出した他のモンスターを・・・」

 

 轟音が響いた。

 冒険者達が一斉に振り向く。

 視線の先、南の方で、巨大な炎の花が空に咲いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。