ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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13-6 情報収集

「情報の共有ですか」

 

 紅茶を一口、口にしてアスフィが言った。

 既に冷静沈着な常の彼女が戻っている。

 

「ええ。59階層ではひどい目に会いましたしね。シャレにならないことも色々あった。そちらもそちらで、闇派閥(イヴィルス)怪人(クリーチャー)達の情報を掴んでるんでしょう?」

「・・・」

 

 アスフィが無言のまま、眼鏡のつるを直した。

 先ほどまでの動揺は跡形もなく、冷徹に思考を走らせる。

 

「わざわざ来て頂いて申し訳ないのですが、共有と言えるほどの情報はこちらも掴んでいません。あれ以来、あの異形(デヴィル)たちも、あのグラシアという女も、一緒にいた戦士もぱったりと足取りが途絶えていまして・・・」

「ふむ・・・」

 

 強化された対人能力で、嘘は言っていないが隠していることがあるなと見当をつける。

 しかし個人的感情を抜きにしても、情報と都市の裏に通じたこのファミリアとのよしみは結んでおきたい。

 そのことについては目をつぶることにした。

 

「では今回は貸し一つと言う事で。まあルルネがアイズに怪しげな代物を渡してましたし、ひょっとしたら見てたのかもしれませんが・・・けどルルネ、ありゃアスフィさんの魔道具じゃないな?」

「うっ・・・良く気づいたなっつーか、見ただけでわかるのかよ」

「プロなめんな」

 

 にやりと笑うイサミ。

 常時魔力視覚を発動しているイサミである。いつもと違う魔力の波動を感知したら疑ってかかるのが当然だ。

 

 そしてD&D世界のアイテムとアスフィが神秘アビリティで作る魔道具は、基本理論が一緒とは言っても明らかに別物になる。

 余人ならいざ知らず、魔道具作りの専門家であるイサミがアスフィの作品とフェルズの作品を見間違えることはない。

 

「私もルルネからの報告を受けて現物を少しだけ調べましたが、恐らくは監視のための魔道具でしょうね。

 残念ながら構造を解析することまでは出来ませんでしたが」

 

 何分ロキ・ファミリアの出立前夜に渡されたので、報告を受けてからじっくり調べる時間はなかったのだと言う。

 

「なるほど・・・しかし、ちゃんとアスフィさんに報告したんだな。報酬だけ貰って勝手に動くかと思ったが」

「そりゃ学習もするさ。この前はそれで危うくみんな死ぬところだったし・・・」

「というか、イサミ君がいなかったら確実に死んでましたね、私たちは」

「うぐ・・・」

 

 冷徹なアスフィの指摘にルルネがへこむ。

 肩をすくめてイサミは昨日の戦いのことを話し始めた。

 

 

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 話し終えたとき、アスフィの顔からは血の気が引いていた。

 ルルネに至っては引きつり笑いのまま顔が固まってしまっている。

 

「な、なあ。それ、誇張してるんだよな? イサミも男の子だしさ、好きな女の前でええかっこした・・・」

 

 無言のまま、アスフィがルルネの頭をグーで殴った。

 

「っ~~~~!」

「実際どうなのです? 今の話に誇張は?」

 

 よほど力を込めて殴ったのか頭を抱えて悶絶するルルネをよそに、アスフィがイサミに先を促す。

 表情は変わらないが非常に怖い。

 

「実際は大した事はなかったと言いたい所ですが、これでもまだ控えめな方ですよ。何でしたらもっと臨場感を盛り上げて迫力を出しますが」

「いえ結構」

 

 頭痛をこらえるように、アスフィがこめかみをもんだ。

 でしょうね、と苦笑してイサミが表情を改める。

 

「それじゃここからはビジネスの話と行きましょうか。

 単刀直入に言いますが、情報を集めて欲しいんです」

「情報ですか。どのような?」

 

 アスフィが眼鏡を押し上げる。

 そうですね・・・と言いつつ、イサミは指折り数え始めた。

 

「直接には怪人達とあのような異形の怪物達の情報。多少胡乱でも目撃情報があれば。

 それ以外では迷宮外での死者行方不明者、特に冒険者のですね。

 連中が暗躍するとすれば犯罪組織なり商会なりに食い込むと思いますし、そう言う手立ても持ってますのでそうした所に妙な動きがあれば・・・連中が潜り込むとしたらダイダロス通りあたりでしょうか?」

 

 そこでルルネが頭をさすりながらようやく復活した。

 

「いや、それはねーな。確かに得体の知れない奴がゴロゴロしてるとこだが、それだけによそ者は結構目立つんだよ。横の繋がりも結構強いしな。

 今イサミが言った通り、商会なりと手を組んで倉庫や、いっそどこかのお屋敷に隠れ潜んでる可能性の方がむしろ高いと思うぜ」

「なるほど・・・」

 

 盗賊を名乗ってるのは伊達じゃないな、とイサミが感心したところでルルネの表情がにへらと崩れる。

 

「それで報酬は? こう言うのって必要経費も結構かかるからさー。それなりに見て貰わないといけないぜ?

 いやー、イサミからぼったくる気は毛頭無いんだけどさー」

「ルルネ!」

 

 呆れ顔のアスフィにたしなめられつつも、ルルネが期待に目を輝かせる。

 イサミは苦笑して懐からずっしりと重い袋を取りだした。

 小ぶりのスイカがすっぽり入りそうな袋がテーブルの上に置かれると、じゃらりと硬貨のふれあう音がする。

 

「ひょお! 白金貨かよ! 1000万ヴァリスってところか?!」

「音だけでわかるのか・・・額もあってるし」

 

 今度は呆れつつ感心するイサミ。

 白金貨は500円玉ほどの大きさで額面一万ヴァリス。

 一枚がD&D世界だと金貨10枚、現代日本では十万円程か。

 

 それが千枚で大体9kg。

 この額の取引となると手形で決済するのが普通なので、ルルネもアスフィもこれだけの白金貨を見たことはほとんどない。

 

「とりあえずそれだけ。必要なら追加するぞ」

「うへへへへ、そうかそうか、物わかりがいい奴は好きだぜ?

 うーん、いい輝きだなあ・・・ぐぶぉはぁっ?!」

 

 よだれを垂らさんばかりに袋の中を覗いていたルルネを、今度はもうちょっと強めにアスフィがはたいた。

 

「まだ反省してないんですかこの駄犬! あなたのそう言う執着がファミリア全体を危機に陥れたんでしょうが!」

「うぐっ・・・ご、ごめんよぉ・・・」

 

(まあ、そうそう変われれば苦労はないよな・・・)

 

 そのどつき漫才をイサミが生暖かい目で見ていた。

 

 

 

 ヘルメス・ファミリアを出たイサミが路地裏に入った。

 出てきた時には身長2mの巨漢ではなく、中肉中背の吟遊詩人風の中年男になっている。

 

 変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)で姿を変えたイサミは、昼間から冒険者がたむろっている酒場を目指して歩いていく。

 《冒険者通り》にもその周辺にも、まっとうなものから怪しいものまでそうした酒場は数多くあった。

 

(どうせ今日一日はオフだ。少しでも情報を集めておかないとな)

 

 ひとりごちながら、イサミはそうした店の一つに入っていった。

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