ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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13-7 かわいい女性(ひと)

 日中はずっと酒場をはしごして情報を集め、一度戻って夕食の後、再びイサミは夜の街に出た。

 今度は一般向けの酒場を廻り、酒をおごり、芸を披露して情報を集める。

 そして時刻も真夜中にさしかかった頃、また一つの酒場に入る。

 

(今日はここで終わりにしておくかな・・・)

 

 入って周囲を見渡した瞬間、その足がぴたりと止まった。

 

「足りないわおー! お代わり持って来ならい!」

「は、はい、ただいま!」

 

 テーブルに突っ伏すようにしてお代わりを要求する、冒険者らしきヒューマンの女性。

 栗色の髪を長く伸ばし、戦闘衣に身を固めている。

 が、まやかしを見通すイサミの目にはその本当の姿――水色の短髪に眼鏡を掛けた麗人――が見える。

 

「・・・何やってるんですか、アスフィさん」

 

 幻を纏う魔道具の効果を見透かし、イサミは呆然とつぶやいた。

 

 

 

 イサミが思わずつぶやいた言葉を聞いて、くだを巻いていた女性がびくっと震える。

 

「な、何よあなた・・・人違いじゃないの?」

 

 動揺しながらも取り繕おうとするアスフィの耳元に顔をよせ、作り声を素の物に戻してささやく。

 

「俺ですよ、アスフィさん」

「!?」

 

 アスフィの目が信じられない物を見たように見開かれ――次の瞬間、さーっと音を立てて顔から血の気が引いた。さらに一拍置いて今度は真っ赤になる。

 

「あの、その、これはですね・・・」

「・・・とりあえず部屋を取りましょうか。ここだと何を口走るかわかったものじゃない」

「はい・・・」

 

 うなだれるアスフィに手を貸して立たせ、店員に部屋を開けさせて二階に上がる。

 誰もいなくなったテーブルの上に、キツい蒸留酒の空き瓶がゴロゴロと転がっていた。

 

 

 

 酒場の二階の個室。

 シングルのベッドが一つ、サイドテーブルにテーブルと椅子がワンセット。

 それに、先ほどアスフィが注文した蒸留酒の瓶が三本とグラスがふたつ。

 身の置き所のないといった顔でアスフィが椅子に座っていた。

 

「あの・・・その・・・お見苦しいところを・・・」

「まあその、なんです。中堅ファミリアの団長というのは色々忙しいお仕事でしょうし、ヘルメス様の噂は聞き及んでますから・・・」

 

 全面的同情と共にアスフィを慰める。

 そもそもこっちの世界に来たきっかけが度を超えたサービス残業による過労死だったのだ、まったくもって人ごとではない。

 あの時相談に乗ってくれる人がいたらなあ、と遠い目をするイサミである。

 

「ありがとうございます・・・うう、イサミ君にだけは見られたくなかったのに・・・」

「ん? 何か?」

「何でもありません!」

 

 真っ赤になってアスフィが叫んだ。

 いかにアスフィが有能で沈着冷静といえども、まだ22。

 現代日本で言えば女子大生の年齢である。

 

 日本に比べ全般的に精神年齢が高い世界ではあるが、それでも団員の命を預かる重さや裏仕事の緊張感、日々の雑務に経理に決済。

 ろくでもない主神の気まぐれや、ろくでもない主神の気まぐれや、ろくでもない主神の気まぐれを飲み込める程には老成していなかった。

 というか多分イサミなら放り出して逃げてる。それで一度死んでるし。

 

「まあ、なんです。とりあえず飲みましょうよ。お酌くらいはしますから」

 

 瓶の栓を抜いてグラスにつぐ。

 

「あ、え、でも・・・」

「いつも苦労してるんでしょう? なら、たまには羽目を外しませんとね。

 アスフィさんはまじめすぎるから、適当に気を抜くことが出来ないんでしょう?

 いいんですよ、お酒飲んでくだ巻いても。いつもお世話になってるんだし、愚痴くらい付き合いますよ」

「イサミ君・・・!」

 

 恥じ入って穴に入りたいところを、まさかの優しい言葉に涙ぐむアスフィ。

 本当に相談できる人とかいなかったんだなあと、かつての自らに重ねて再び遠い目になるイサミ。

 

「さ、どうぞ。まずは乾杯しましょうか。そうですね・・・24階層と七番街で生き残ったことに」

「ありがとうございます・・・生き残ったことに、乾杯」

 

 チン、とグラスが鳴った。

 

 

 

「もう本当にひどいんですよ、あのクソボケブラブラ糸切れ凧神は! すぐにどこかに行っちゃって、仕事は全部私に丸投げ!

 いても仕事はしないしファミリアのお金はちょろまかすし、それを真似してファミリアのみんなまで私に厄介事を押しつけるし!」

「大変ですねえ・・・とっと」

 

 二人での酒盛りが始まってから一時間ほどが過ぎていた。

 神様に出会えたのはマジで幸運だったなあ、と思いながらアスフィのグラスに酒をつぐ。

 

 行方不明の――いや、一応いる場所は知っている――祖父から聞いてはいたが、神というのが本気でろくでもない存在だと実感したのはオラリオに来てからだ。

 と言うより、来たその日に思い知らされた。

 

(悪い意味で物見高いというか、暇をもてあましたタチの悪い金持ちというか・・・)

 

 幸い神は神気を出しているので、イサミの知覚能力であれば相当遠くからでもわかる。

 そのことに気づいて以来、ヘスティア以外の神には極力近づかないようにしているイサミであった。

 

「・・・・・」

「ありゃ」

 

 いつの間にかアスフィがテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。

 イサミに気を許したのか、普段ならセーブして飲むところを、手加減無しのハイペースで飲み続けていたのだろう。

 気づけば、ラストオーダーで注文した蒸留酒の樽の中身も随分減っている。

 

 もちろんアスフィもそれなりの耐久力ステイタスは持っているが、【耐異常】アビリティはない。

 限度を考えないハイペースで飲んでいれば、こうもなるだろう。

 なおイサミに元から毒は効かないので、いくら酒を飲んでも酔うことは全くなかったりする。

 

「~~」

 

 短く呪文を唱えると、アスフィの体が浮いた。

 テレキネシス呪文でベッドに寝かせて上掛けをかぶせると、眼鏡を取ってサイドテーブルに置き、少し躊躇してから額にキスをする。

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

 微笑んで身を翻すと・・・マントが引っ張られた。

 

「・・・」

「イサミ・・・くぅん・・・」

 

 アスフィのくちびるから吐息が漏れる。

 その手は、イサミのマントの端をしっかりと掴んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 しばらく固まった後、イサミはベッドの横の床に座り込んだ。

 そのまま、呪文を準備するときのように適当な結跏趺坐を組む。

 

 深呼吸を一つ。

 そのままイサミは休息を取るべく、瞑想に入った。




アスフィさんかわいさ強化週間!
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