ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「第ン千回
「「「「イエーッ!」」」」
バベル30階、1フロアぶち抜きの大広間にノリのいい神々の歓声が響く。
三ヶ月に一度の神会は、神々同士の情報交換の場であり、ほぼ有名無実ではあるが、ギルドの諮問機関でもある。
「ハイハイハーイ! ソーマくんがギルドに警告喰らって、唯一の趣味を没収されたそうでーす!」
「な、なんだってーっ!」
「
「またアレスかよ。あのバカ、そろそろどうにかしたほうがよくないか?」
「怪物祭で空飛ぶ馬に乗ってたやつ、ヘスティアの所の子供だったってホント?」
「マジかーっ!?」
とはいうものの、その実体は暇をもてあました神々による井戸端会議に他ならない。
重要度の高い情報をギルドに伝えたりもするが、さして重きを置かれているわけでもなかった。
美の女神フレイヤに同じく美の女神であるイシュタルがつっかかったり、
ロキが食人花や闇派閥の件を持ち出して探りを入れてみたりもするが、さしたる事もなく情報交換は終わった。
(反応は無しか・・・まぁそう簡単に尻尾を出すとは思っとらんかったが)
頭を切り換え、ロキはくちびるを吊り上げた。
「ほな、次に進もうか・・・命名式や!」
ニマァ、と神会常連の神々が同様のゲスい笑みを浮かべた。
対照的にヘスティアを初めとする数人の神は顔をこわばらせる。
命名式。
Lv.2かそれ以上に達した冒険者に贈られる二つ名を決める、神会のもう一つの権能である。
そもそも神会の出席資格は「Lv.2以上の眷族を有していること」なので、ヘスティアのようにLv.2の眷族を得たばかりの神々は今回が初めての神会と言う事になる。
そしてそうした神々に対して、神会常連の神々からの扱いはほぼ例外なくひどい物になるのが常であった。
「決定。セティ・セルティ。称号名【
「イテェエエエエエエエエエエエッ?!」
「ほい、エリカ・ローザリア。称号名【
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」
「ゲド・ライッシュ! 称号名【
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「タケミカヅチ・ファミリア、ヤマト・命ちゃんの称号は・・・・【絶†影】に決まりで」
「異議無し!」
「うわぁああああああああああああああああああああ!」
「狂ってる・・・」
「あんたの気持ちはよくわかる・・・」
量産される「痛い」二つ名。絶叫する犠牲者とそれを指さしてゲラゲラ笑う神々。
呆然とする紐神とため息をつく男装の麗人ヘファイストス。
だが一番救いがたいのは、この「痛い」二つ名が下界の子供達にとっては名誉ある、かつハイセンスなネーミングだと言う事だろう。
痛い二つ名を誇らしげに名乗る子供達の姿が、神々を更なる絶望のどん底にたたき落とすのだ。
もっともそうした痛い二つ名は主に弱小ファミリアに対しての物で、強力なファミリアに対してはそうもいかない。
「アイズたんの二つ名はどうする?」
「無理に変えなくてもいんじゃね。【剣聖】とかちょっと違うし」
「ま、最終候補は間違いなく【
「「「「だな!」」」」
「殺すぞ」
据わった目でぼそりとつぶやくロキ。
「「「「すんませんっしたー!」」」」
一斉に頭を円卓にこすりつけるお調子者ども。
都市最強の双璧たるロキ・ファミリアに正面きって喧嘩を売れる神がいるとしたら、同じく双璧の一角であるフレイヤくらいだろう。
「喧嘩は相手を見て売らんかいボケが。で、次で最後やな・・・」
そう言ってロキがめくった資料の最後のページには、白髪頭のヒューマンの少年の似顔絵。
(ほんまにランクアップしとるなあ、ドチビの子・・・しかも一ヶ月半? 嘘やろこれ。ありえん)
神会開始のほんの数時間前に駆け込みで入ったらしく、情報はほとんど記されていない。
Lv.1でミノタウロスと一対一で戦い倒したというのも驚愕の事実ではあるが、もっと信じられないのがランクアップの所要期間だ。
Lv.1から2へ上がったこれまでの最短記録は他ならぬアイズ・ヴァレンシュタインの一年。
それですらオラリオを震撼させた文字通りの偉業だったのだ。
ロキとしては疑わしいやらねたましいやら腹が立つやらである。
(この成長速度・・・普通に考えれば未発見のレアスキルかなんかやろうけど、あの小僧の弟となるとな・・・)
神々が資料を見てざわつく中ロキは立ち上がり、ばん、と卓に手を叩き付けた。
「ちょいと聞かせぇドチビ。ランクアップにうちのアイズでも一年、一年かかったんやぞ。
うちらの【恩恵】いうんはこういうもんやないやろが。
たかだか一ヶ月半で器を昇華させられたら苦労はないっちゅう話や。それができんから誰も彼も苦労しとるんやろうが。あん?」
「・・・・・・・」
本気の凄みを利かせるロキに、冷や汗をだらだらと流して固まるヘスティア。
周囲の神々も興味深げに沈黙し、盟友たるヘファイストスも困ったように口を閉ざしている。
「それにや、お前の子供。ギルドに虚偽登録しとるやろ。魔導アビリティと神秘アビリティ持ってるくせにLv.1とかどういうこっちゃねん」
「!?」
ざわ、と満座の神々がどよめいた。
卓に突っ伏していたタケミカヅチや隣に座っていたヘファイストスも、驚愕のまなざしで神友を見る。
一ヶ月半でランクアップしたベルほどではないが、【神秘】アビリティもまた相当に神々いう所の「レア度」が高い。
【魔導】アビリティを併せ持っているなら尚更だ。
「ヒューヒュー! なに、ロリ巨乳すげーレア持ちじゃん!」
「一人分けてよー!」
無責任にはやし立てる神々に、があっとヘスティアが吼えた。
「うるさい! お前達なんかにやるわけがないだろう!
ボクはベル君に何もしてないし、イサミ君に関してはギルドのアドバイザー君に確認してもらって嫌疑は晴れてる!
エイナ・チュール君というハーフエルフの受付嬢だ! どうしても疑うなら確認してみればいいさ!」
むう、とロキが唸った。
まさかリヴェリアの知己である彼女の名前が出てくるとは思っていなかったのだ。
(エイナちゃんが確認した、ゆーんなら間違いないか?
いや、何らかの手管でだまくらかしとる可能性もあるか・・・どっちにしろこの件ではやっぱりドチビは何も知らんか)
「なら、もう一つ答えんかい。その兄貴の方の・・・」
「あら、いいじゃない、ロキ。ヘスティアは不正をしていないと言ってるんでしょう?
なら団員の能力を暴こうとするのは御法度よ」
「!?」
突然割って入ったフレイヤに、険しい視線を向けるロキ。
フレイヤは凄みを利かせたその視線を、そよ風のように受け流して笑う。
「おのれ、わかっとんのか? あの兄貴の方はな、うちらの・・・」
「わかっているわ。【恩恵】の能力を超えていると言うんでしょう?」
自分の言葉に即座にかぶせてきたフレイヤを見て、ロキは確信する。
こいつは明らかに神がイサミ・クラネルの心を読めないことを知っているし、またそれを隠そうとしている、と。
(そうか、こいつが狙ってる男っちゅーんがドチビの所の・・・話から察するに弟の方か)
ロキは察してしまう。
同時に、怪物祭の日に交わした約束――昔パチった"鷹の羽衣"と引き替えにロキは今フレイヤが狙っている男には手を出さない――に従い、今この場でフレイヤに丸め込まれなくてはいけないと言う事も。
「・・・」
不機嫌そうに黙り込むロキを見てフレイヤがクスリと笑う。
「弟君については、彼ミノタウロスに殺されかけたことがあったらしいじゃない。
つまり彼にとっては特別な存在――しかも、Lv.1でそのミノタウロスを倒したのよ?
なら、通常ではあり得ない【偉業】の達成となったと言う事も有り得るんじゃない?」
事の成り行きを見守っていたその他の神々が確かになあ、とか言われてみれば、と口々につぶやく。
実際Lv.2のモンスターの中でも屈指の強さを誇るミノタウロスをLv.1の冒険者が単独撃破したこと自体、オラリオの長い歴史でもそうそうない偉業である。
「そしてお兄さんのほうだけど――ひとつ思い当たる節がないでもないわ」
「なんやそら」
ぶーたれた表情をもはや隠しもせず、ロキが合いの手を入れる・・・次の瞬間、その視線が今日最大の敵意に彩られた。
「
(こいつ・・!? まさかアイズのことを知って!?)
倍増したロキからの敵意を、フレイヤは柳に風と受け流す。
怪訝そうな顔をした神の一人が挙手した。
「えー、でもフレイヤさまー。精霊って子供作れないでしょー?」
微笑んで頷きつつ、フレイヤはヘファイストスの方に顔を向けた。
「精霊の子孫ではないけど、精霊の血を分け与えられた者の子孫が恩恵を受け、鍛冶アビリティなしで魔剣を生み出した例がある――そう、【クロッゾの魔剣】よ。そうよね、ヘファイストス?」
「・・・ええ」
硬い表情で、男装の麗人は言葉少なに頷く。
ヴェルフの件は彼女にとっても余りつつかれたいことではない。
が、そのような理屈は根性のねじ曲がった神々には通じない。
「あー、前に話題になった偽クロッゾか!」
「あれ本当だったんだな!」
「ねーねー、一本おいくら万ヴァリスー?」
「言っておくけど、彼は魔剣は打たないわよ。無理強いする気なら私を敵に回すつもりでいなさい」
「「「「へへーっ」」」」
凄みを利かせた隻眼の視線に、再び一斉に平伏する神々。
ヘファイストス・ファミリアもロキやフレイヤに及ばないとは言え、第一級冒険者を擁する上位派閥。
しかも、オラリオの武具販売の最大手だ。
ロキ・ファミリアとはまた別の意味で敵に回してはいけないところである。
ともかく下界は未知に満ちている、神でさえその全てを計り知ることは出来ないというフレイヤの主張は本人のカリスマもあり、出席した神々に浸透していった。
ざわざわととりとめない会話が続き、「まあそういうこともあるかな」で何となく落ち着いてしまう。
ヘスティアがほっと胸をなで下ろしたとき、ロキの固い声がかかった。
「おいドチビ」
びくり、と震える紐女神を険しいまなざしで見下ろす。
「注意しとけや――フレイヤと、後はオノレの眷族にな」
「・・・それは。どういう意味だい?」
むっとして問い返すヘスティアに、だがロキは答えなかった。
「・・・フレイヤが彼らと通じてると言う事は本当にないと思うかい?」
ディオニュソスが再度問うた。
「そらまあ、絶対無いとは言い切れへん。神は退屈しのぎのためなら何でもやるからな。
せやけどフレイヤが男以外のことに興味を示すか? ゆーたらそれは違うんやないかなと思うんや」
「ふむ・・・」
しばし沈思黙考していたディオニュソスだが、やがて優雅な笑みを浮かべた。
「それにしても今回の事には随分本気になってるね。公共奉仕の精神にでも目覚めたかい?」
「アホ抜かしてると耳から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせんぞ。ウチは
ウチのかわいいかわいい子供達に手ェ出しおったボケに落とし前つけさせずにはおれんだけや」
「はいはい、そういう事にしておくよ」
はっ、と鼻で笑うロキを、微笑みつついなすディオニュソス。
「それに・・・スケベジジイとの約束があんでな」
「ん? 今なんて?」
「何でもないわい」
それっきり、部屋から会話は途絶えた。