ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十四話「いのししはにやりとわらってたちあがった」
14-1 サンジョウノ・春姫


 

 

 

『お前さん方を逃がせば、オイラここには居らンねぇ身体だ。なぁに丁度潮時』

 

 ―― 『幕末太陽傳』 ――

 

 

 

「なー、レーテー」

「つーん」

「機嫌直してくれよー」

「つーん」

「そこまで怒らないでもいいだろ?」

「ふーん、だ。イサミちゃんのばかっ!」

 

 べえっ、と舌を出すレーテー。

 何で俺がこんな苦労をせにゃならんのだ、とイサミが頭を抱えた。

 

 

 

「おーい、イサミー。今日も休みだろ? 飲もうぜー」

「これ以上話をややこしくするな! だいたい朝からなに酒瓶持ちだして来てるんだあんたはっ!」

 

 両手に蒸留酒の酒瓶を持って近寄ってくるシャーナを、歯をむき出して威嚇する。

 なおつるし上げと罰の宣告(掃除当番一ヶ月)の後、朝食を済ませてベルやヘスティア達は既にホームを出ている。

 

「なんだよー、あんな女とは飲むのに俺は置いてけぼりかよー?」

「はたくぞコラ」

 

 睨み付けられても、シャーナのにやにや笑いは消えない。

 腹立たしく思いつつも、絡んでくるシャーナは無視して、レーテーのご機嫌を取ることに集中する。

 

「なあ、話だけでも聞いてくれよ。何でもするからさあ」

「ん? 今なんでもするって」

「黙ってろっつうんだこのダボが」

 

 背中にじゃれついてくる――もちろんわざと――このロリエルフの外見をした物体をそろそろ始末すべきかと真剣に考えるイサミ。

 それを見てますます不機嫌になるレーテー。

 

「ふーんだ。イサミちゃんにやって欲しい事なんて・・・あ」

 

 レーテーの言葉が途切れた。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十四話「いのししはにやりとわらってたちあがった」

 

 

 

狐人(ルナール)の娼婦?」

「うん、春姫ちゃんって言うんだけどぉ・・・」

「事情はわからねえけど、娼婦なら身請けするなりなんなりすればいいんじゃないのか?」

 

 こっちの世界にも身請けはあるんだなと思いつつイサミも頷く。

 

「そうなんだけど・・・身請けは絶対無理なの」

「どういう事だ?」

「うん・・・これから話すこと、秘密だよ?」

 

 二人が初めて見る深刻な顔で、念押しをしてくるレーテー。

 思わず顔を見合わせた後、イサミとシャーナは揃って頷いた。

 

 

 

 ――レーテーが話した内容は、二人を揃って胸糞悪くさせるようなしろものだった。

 

 奴隷商人から買い取られた狐人の娼婦、サンジョウノ・春姫。

 それにイシュタルが【恩恵】を授けたところ発現した、桁違いの強化魔法。

 

 主神のフレイヤに対する憎悪。

 そのために春姫の魂を殺生石と呼ばれる特殊な石に移し、分割して、その魔法をファミリアの構成員全員が行使できるようにする。

 

 魂を復元することは理論上は可能だが、殺生石の欠片が一つでも失われてしまえば完全な形での復活は不可能となる。

 既に一度儀式が行われ、その時は春姫をかわいがっていたアマゾネスの反逆で失敗したものの、次の殺生石を手に入れる算段は既についている。

 

 つまり狐人の少女の命は、どう長く見積もっても後数ヶ月なのだ――

 

 

 

「クソみてぇな話だな」

 

 シャーナが吐き捨てた。

 イサミの表情も険しいものになっている。

 レーテーがしゅんとしていた。

 

「ごめんなさい・・・」

「レーテーが謝ることはないさ。悪いのはイシュタルだ」

「でも、アイシャちゃんを痛めつけたのは私だから・・・それにイシュタル様の計画に賛成してたし・・・」

 

 うなだれるレーテーの頭を、イサミがちょっと背を伸ばして撫でてやった。

 アイシャとは、儀式を失敗させたアマゾネスの名前であるらしい。

 

「でも、それをどうにかしたいと思ったから今俺に言ったんだろう?

 それはそれ、これはこれさ」

「うん・・・ありがとう」

 

 それを見て少し表情をゆるめたシャーナが、腑に落ちない表情になった。

 

「しかし、その春姫とかの魔法ってのはそんなすげえのか?

 俺の魔法も割と反則の部類だが、イシュタル・ファミリアが全員"暗黒竜の剛鱗(ヴリトラスケル)"を手に入れたからって、フレイヤ・ファミリアに勝てるたぁ思えねえぞ」

「確かに・・・いや待て。そうか。前にフリュネ達が"猛者(おうじゃ)"オッタルを闇討ちしてたときの、あの光の粒!」

 

 フリュネがヘスティア・ファミリアのホームに急襲をかけ、ヘルメス・ファミリアの面々と共にデヴィルどもと戦う事になったあの日に目撃した光景。

 光の粒を纏ったフリュネ達が、2lv以上の能力差にもかかわらず、かなりの善戦を演じていたあの戦い。

 

「うん・・・あれを受けると1lvくらい能力が上昇するの。Lv.2の子が下層で戦えるくらいに」

「ひょっとして、イシュタル・ファミリアが団員のステイタス絡みでギルドの監査を受けたってのも?」

「たぶん、それ絡みだと思う」

「そりゃ確かに何としてでも確保したくなるか・・・」

 

 ため息をつき、シャーナがソファに沈み込んだ。

 

「で、その彼女を助けたいと」

「うん・・・だめ?」

「どうにかするさ。レーテーの頼みって事をおいといても、俺も少々腹を立ててるからな」

 

 ぱぁっ、とレーテーの表情が明るくなる。

 

「わぁい! イサミちゃん大好き!」

 

 喜色満面でイサミに抱きつくレーテー。

 が、抱きついたその顔が一転、不機嫌な物に変わる。

 

「イサミちゃん、まだアスフィちゃんの匂いがする」

「・・・シャワー浴びてきます」

 

 

 

 一時間後。

 

「ほい、連れてきたぞ」

「は、はじめまして・・・」

「はえーよ!?」

 

 金毛の豊かな長髪と尻尾を持つ狐人の少女が、ヘスティア・ファミリアホームの居間にいた。

 

「春姫ちゃん!」

「は、はいっ!?」

 

 2mを遥かに超えるアマゾネスに抱きつかれ、目を白黒させる春姫。

 感極まって泣き出し始めるレーテーを前に、狐人の少女はしばしうろたえるのみだった。




タイトルはAD&Dのコンピューターゲーム「プール・オブ・レイディアンス」から。
このゲームでも雑魚はHPが0になると倒れる(そして死ぬ)のですが、猪はタフなので、一度HPが0になっても「にやりとわらってたちあが」り、HPが-10になるまで死なないのです。
何でこういう訳にしたんだろう。
原文からそうなのかなw


後今回書いてて思ったけど、これだけ重要なVIPなのにファミリアの奥に監禁するどころか花街で客とらせてたイシュタルは頭おかしいw
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