ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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14-2 オラリオ心中

「落ち着いたか?」

「うん・・・ごめんね。春姫ちゃんも」

「い、いえ。こうして助け出して頂いたわけですし・・・」

 

 反射的に答えを返す狐人の少女。

 そのさまは、自分の身に起こったことをまだ飲み込めていないようにも見えた。

 

「けどよ、実際どうやったんだ? 出る時はちょっと下調べしてくるって言ってたじゃねえか」

「んー、まあ、そうなんですけどね・・・」

 

 実際そう複雑な話ではない。

 春姫の大雑把な現在の状況と居場所を聞き出したイサミは、閑散とした昼の花街に潜入した。

 そして春姫を口先三寸で信用させた後、自殺を偽装してそのまま逃げ出してきたのである。

 

 以前述べたが「ウィッシュ」の呪文には死者を生き返らせる力もある。

 普通は死体が一部でも残っていることが必要なのだが、それもない場合あらかじめ別の「ウィッシュ」を発動する事で、本人の物と寸分違わぬ肉体を生み出す事ができる。

 もう一度のウィッシュを発動して魂を呼び戻せば蘇生完了というわけだが・・・イサミはこれを利用して春姫の体をもう一つ作り出したのだ。

 

 春姫の背中にある【神の恩恵(ファルナ)】には流石にイサミと言えども手が出せないが、【恩恵】そのものに手は出せなくても、庭木を植え替えるように春姫の魂を移すことはできる。

 現実改変の魔法である「ウィッシュ」があり、移す先が本物と全く同じ肉体であるからこそ為せる荒技だ。

 

 元の体には着物をそのまま着せておき、鴨居に帯を引っかけて首を吊らせる。

 位置情報を知らせる魔法の首輪もついたままだから疑いようはない。

 

 一応簡単に調べた上で肉体や魂に悪い影響が出ないであろう事は確信していたが、成功してほっとしたのは言うまでもない。

 そして後は春姫をポータブル・ホールに入れ、来たとき同様"上級不可視化"をかけて脱出した、というわけだ。

 

「今頃イシュタルは、春姫が死んだと思って怒り狂っているだろうよ。

 イシュタルの方からすれば春姫が突然死んだようにしか思えないさ」

「はー・・・本当に便利な奴だな、お前」

魔術師(ウィザード)ですから」

 

 それから少し話し合って、シャーナとレーテーがとりあえずの身の回りの物を買いに外出、イサミは護衛も兼ねてホームでマジックアイテム作成ということになった。

 

「そう言えば春姫、どんな顔がいい?」

「顔、でございますか?」

「死んだはずのおまえさんがうろついてたら色々まずいだろう。魔道具で変装させるから、何か希望があったら応えるぞ」

「ああ、そういう・・・そうでございますね、極東風で黒髪に青紫の瞳、端正でりりしい顔立ち、太くて短い眉・・・」

「ふむふむ」

 

 大体の要望を聞いてイサミが幻影を作る。

 ああでもないこうでもないと修正を繰り返した後で、春姫が嬉しそうに頷いた。

 

「ああ、こうです! これでございますわ!」

 

 宙に浮かぶ幻影の美少女の顔。

 イサミは知らず、また春姫本人も知らないがその顔は春姫の幼友達、今はタケミカヅチ・ファミリアの上級冒険者である【絶†影】ヤマト・命にうり二つであった。

 

 

 

 その後バイトから戻ってきたヘスティアに許可を貰って入信したり、手持ちぶさたな春姫にイサミが貸した祖父謹製の絵本(旅立つときに実家から持ちだして来ていた)を読んでいるのをベルが見つけて二人で意気投合したり、その姿を見た紐神とリリがぐぬぬったりしたが、概ね春姫は円滑にファミリアの一員として迎え入れられた。

 

「そう言えば例のとんでもない強化魔法、"ウチデノコヅチ"だったか? あれはどうなるんだ?」

「さっき恩恵を刻んだときはそれらしいのは発現しなかったね。

 能力値も全部まっさらだから、刻んだ経験値は全部イシュタルの【恩恵】に置いてきたんだろう。

 魔法の発現も刻む経験値(エクセリア)あってのことだから、その魔法を刻んだのと同じ経験をしなければ発現はしないんじゃないかい?」

「あ、なるほど・・・」

 

 腑に落ちたらしいシャーナから、視線を転じるヘスティア。

 

「それで、春姫くんはダンジョンに出るつもりかい?」

「ど、どうでしょう・・・?」

「いや、ボクに聞かれても」

「無理に潜る事はないと思いますよ、春姫様」

「ああ、好きにすればいいんじゃないか。まともにダンジョン潜ったことないだろ?」

 

 イサミの言葉にこくり、と春姫が頷く。

 

「潜るときは常に頑丈なカーゴの中でしたから・・・自力では一階層にも下りたことはございません」

「魔導書が何冊かあるから、それを使えば多分戦力にはなるだろうけど・・・当座はやめておいた方がいいかもな。

 下手に"ウチデノコヅチ"が発現しても困る」

「それはだめ!」

 

 レーテーが顔色を変えた。

 春姫も困ったような顔になる。

 

「魔法無しでは皆様のお役に立てませんでしょうし・・・サポーターであればまだしもですが」

「とは言っても僕たちのパーティにはもうリリがいるし・・・」

「俺たちの方だと流石にLv.1を連れてけないしなあ」

 

 ふむ、とヘスティアがあごに手をやる。

 

「まあいいさ。難しいならホームの家事でもこなして貰おうか。春姫君もそれでいいかい?」

「は、はいっ! 誠心誠意務めさせて頂きます!」

 

 春姫がしゃちほこばって頭を下げたところで、この話はお開きとなった。

 

 

 

「あ、掃除は一ヶ月間はしなくていいよ。

 朝帰りの罰でイサミ君が担当することになってるから」

「そこは勘弁してくれないんですね・・・」

 

 

 

 翌朝。

 割烹着姿の黒髪の少女が教会の玄関で深々と頭を下げた。

 

「行ってらっしゃいませ、皆々様」

「おーう、留守番よろしくな、春ひ・・・じゃなかった、お春君!」

「お春って・・・ださくねぇか?」

「いいじゃないの、本人が喜んでるんだから。それに、いかにも町娘っぽいだろ」

 

 まあ単なる町娘にしては美形過ぎるがこれはこれでよかろう、ということで、昨夜春姫の新しい名前が決まったのであった。

 ちなみに割烹着はイサミが用意した。

 

「それじゃ昨日言った通り、僕の部屋の本は全部読んで貰ってていいから」

「はい! 久しぶりなので春姫は楽しみです!」

「帰ったら昨日の話の続きをしようね」

「はい!」

 

 昨日、英雄譚の話で盛り上がったベルと春姫が楽しそうに会話を交わす。同好の士の連帯感という奴である。

 紐神と小人族のサポーターもまた昨日に続いてぐぬぬと唸り、レーテーは嬉しそうな顔でにこにこしていた。

 

「今日は俺たちも早めに上がるから、一緒に近所の店を回ろう。買い物とか覚えて貰わなくちゃいけないこともあるしな」

「はい、わかりました!」

「ええと、他に何か・・・」

「大丈夫じゃないですか。出る時は戸締まりと火の始末を気をつけてね」

「はい! それでは、皆様お気をつけて行ってらっしゃいませ!」

「「「「行ってきまーす」」」」

 

 挨拶をすると、イサミは"生物定位(ロケート・クリーチャー)"の呪文を発動した。

 探知するクリーチャーの種別は・・・「神」である。

 

 一ヶ月半でのランクアップが公になり、神会当日から早速ベルがスットコドッコイの神々に絡まれたため、ここ一週間ほどは念のために周囲を走査してから出ることにしていた。

 

「ん・・・周囲に神様以外の神の存在は無し、と。流石に飽きましたかね」

「どうだろうなあ・・・だったらいいんだけど」

 

 ことほど左様に神ってのは物見高いし、暇を持てあましたろくでなしが多いからね、とヘスティア。

 いやはやまったく、とイサミが頷いた。




心中(相手はこれからみつくろう)
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