ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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14-3 味覚の破壊者

 北のストリートに向かうヘスティアと別れ、「豊穣の女主人」亭の前。

 シルとリュー、ウェイトレス三馬鹿トリオが店の前でベル達を待っていた。

 

「あら、お兄さん。お久しぶりです。一週間くらいぶりですか?」

「そう言えばそうなるな」

 

 イサミとシルが最後に会ったのは正確には6日前。

 深層への遠征やその準備などでバタバタしていたため、ベル達と一緒に迷宮に行くことがなかったのだ。

 

「はい、ベルさん。今日のお弁当です」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 満面の笑顔のリューが、硬い笑顔のベルにバスケットを渡す。

 イサミが無表情のまま、くん、と匂いをかいだ。

 

「それじゃシルさん、リューさん・・・」

「はい、行ってらっしゃい」

「ご武運を」

 

 それでは、と別れようとしたところでイサミが待ったを掛ける。

 

「ちょっといいかな、シルちゃん?」

 

 笑顔に凄みを乗せて――漫画なら血管が浮いているところだ――迫る大男に、冷や汗を垂らしたシルが一歩下がる。

 

「・・・あの、お兄さん? 何か怒ってらっしゃいます?」

「はっはっはー、わっかりますかあー」

 

 リューと後ろの三人娘に緊張が走る。

 素人とは思えない気配ととっさの身のこなしに、ベルやシャーナ達にも緊張が走った。

 

「クラネルさん。シルに・・・」

 

 イサミが手を上げてリューの言葉を遮る。

 

「冒険者でもない女に手を上げるほど腐っちゃいないよ。ただ、言っておかなきゃならないことがあってな」

「・・・」

 

 その言葉にだが四人の緊張は解けず、いつでも飛びかかれるように身構える。

 それを意に介さず、イサミはシルを睨み付ける。

 加減はしているようだが、それでも素人の娘には腰が抜けるほど怖い。

 

「なあシルちゃん。実は俺はずっと君に怒ってた。何故だかわかるか?」

「い、いえ、さっぱり・・・」

 

 本気で訳がわからないと言った表情のシル。

 それを見たイサミは今度こそ怒りの表情でシルに指を突きつける。

 

「なら言ってやる! 俺が腹が立ってならないのはなあ・・・お前が食材を無駄にしているからだっ!」

 

 その瞬間、後ろに控えていたリュー達の緊張が雲散霧消した。

 

「・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「え? え? なんです、みなさん?」

 

 周囲の雰囲気の変化を敏感に感じ取り、シルがうろたえる。

 

「それをニャーたちに言わせる気かにゃ?」

「そーよ! いつも人を実験台にして!」

「今我らは反逆ののろしを上げるにゃー!」

 

 気勢を上げる三人娘に冷や汗を流し、シルがリューに助けを求めるように視線を投げる。

 

「申し訳ありません、シル。今回ばかりはあなたに味方できない。

 私が言うのも何ですが、あなたは一度まともに料理を学ばれるべきだ」

「リュー~~~!」

 

 申し訳なさそうに目を伏せるリューにシルがすがりつくが、それでもリューが態度を翻すことはない。

 ばしん、とその頭を木の盆がはたいた。

 

「あいたぁ~っ?!」

「店の準備をサボって何をしてるかと思えば・・・大体シル、アンタが文句言える立場かい?

 アンタの料理で厨房に異臭が充満するのも、いい加減見過ごしにはできないんだよ!」

「うう・・・っ」

 

 張り倒された頭を抱え、涙目になるシル。

 木の盆を肩に担いだ巨漢の女将はにやり、とイサミに笑いかけた。

 

「それで? この料理オンチをどうするって?」

「出張料を払いますので、しばらくの間夕方にこっちによこして頂けませんか。一から叩き直してやりますよ」

 

 拳を握り、凄みのある笑みを浮かべるイサミ。

 女将が同じ笑みを浮かべたまま頷く。

 

「いいだろう。お客さんのリクエストに応えるのもウチの仕事だからねえ」

「だ、だめです! ベルさんのところのホームは・・・!」

 

 ようやく復活したシルが必死で懇願するのを女将が一瞥する。

 

「なんだいシル? 仕事がイヤだなんて、随分えらくなったもんだねえ?」

「そ、そうじゃなくて・・・ここの厨房でならやりますから!」

「ふぅん?」

 

 首をかしげるイサミ。

 女将はそんなシルを少し見ていたが、やがて頷いた。

 

「そういうわけだ、しごきはウチの厨房でやっちゃくれないかい。

 その代わり指名料は半額でいいし、食材もウチのを使っていい」

「ええまあ、そういう事でしたら」

 

 何か引っかかりを覚えつつ、イサミが頷いた。

 が、素早く切り替えて、再び凄みのある笑みをシルに送る。

 

「さて、何はともあれ決まりだな。しばらく付き合って貰おうじゃないか? ん?」

「お、お手柔らかにお願いします・・・」

 

 こわばった愛想笑いを浮かべるシルの後ろでリューが瞑目し、三人娘が万歳三唱していた。

 

 

 

 その日の午後、早速料理教室は開催された。

 探索を早めに切り上げて豊穣の女主人亭を訪れたイサミに、従業員達の好奇と応援めいたまなざしが集まる。

 

「包丁を使うときは爪を立てぇーるっ!」

「は、はいっ!」

「食材は可能な限り同じ大きさに切る! 火の入り方にムラが出るからな! 遅くていい、包丁の位置を確かめながら正確に切れ!

 だが切るときは素早く包丁を動かせ!」

「はいーっ!」

「味見はこまめにしろ! 調味料はカップとスプーンでいちいち正確に計れ! 足すときは少しずつ! 出来れば他の誰かに味見して貰え!」

「ふぁいい!」

「口を開く前と後にサーをつけろ!」

「サー、イエッサぁぁぁぁ!」

 

 まぁ最後のはともかく、鬼軍曹レベルで、しかも基本からいちいち細かく指導するイサミである。

 だが我流に凝り固まったメシマズを更正させる手段としては、まだこれでも優しいほうだ。

 ことほどさようにメシマズというのは人の話を聞かない物なのである(断言)。

 

 イサミ自身の腕が伴わなければ周囲の反応はかなり寒い物になっていただろうが、元よりイサミはあらん限りの余裕と熱意を料理に投資しているような男。

 豊穣の女主人亭の調理スタッフの受けが悪かろうはずもない。

 

 上限までの技能割り振り、恩恵による高い能力値補正、異世界のレシピ、あらゆる調味料のわき出る壺。おまけにわざわざ料理技術を上昇させるマジックアイテムまで作成しているのだから実にこう、経験点と時間の無駄遣いである。

 

 

 

「今日は以上! お疲れ様!」

「ありがとうございました・・・」

 

 ぱちぱちぱちと調理スタッフが拍手する中、店を出るイサミ。

 とりあえず作らせたサンドイッチと野菜スープ、砂糖をまぶしたパンの耳のフライは彼女たちにも好評であった。

 

「おおっ! これぞヒトさまの食い物にゃ!」

「クラネルさんのものほどじゃないけど、涙をこらえずに食べられると言うだけで長足の進歩ね!」

「今までのシルの料理なんて、猫もまたいで通るような代物ばかりにゃー。これなら猫に食わせても泡吹いて転がったりしないにゃ」

「皆さん言いたい放題ですね・・・へぶっ?!」

 

 テーブルに突っ伏してもごもごと恨み言を唱えていたシルの頭を、またしても女将のお盆が直撃する。

 

「全部ホントのことだろ。ちったぁ自分の行いを省みな! ・・・うん、結構いけるじゃないか。あの小僧に任せたのは正解だったかね。

 さて、あんたら、遊びはここまで! さっさと夜の準備にかかりな!」

 

 女将の号令に、はーい、と娘達の返事が響いた。

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