ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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14-4 赤い外套団

 春姫と買い物に出て、一緒に夕食を作ったあと――ちなみにド素人なりにシルより筋は良かった――夕食。

 

「で、ベル。"おまじない"の効果はどうだった?」

「全然違うよ! 一気にステイタスが上昇したみたい!」

「みたい、じゃなくて実際に上昇してるんだ。そう言う魔法なんだからな」

 

 二人が話しているのは、昨日イサミがかけた「ウィッシュ」のことだ。

 ウィッシュの呪文は、一回につき能力値一つを1点、【恩恵】で言えば一段階ほど上昇させる。

 【恩恵】とは関係ない素の能力値が上昇するので、【恩恵】が伸びにくくなったりはしない。

 

 イサミはエピック特技その他によりウィッシュを経験点不要で一日十数回使用可能、一つの能力値は最大+5点まで上昇させられる。

 ので、まずはベルの筋力と敏捷(+器用)、耐久をプラス5段階。その結果が、今のベルの感想と言うわけだ。

 ちなみにイサミ本人のステイタスは既に全て限界まで上昇済みである。

 

「オーケー、今日はベルの魔力と、リリの敏捷と耐久だ。リリの次はシャーナとレーテーな」

「よろしいのですか? 貴重なものなのでは・・・」

「金がかかる訳じゃ無し、使わない方が勿体ないさ」

 

 耳をそばだてていたヘスティアが、はいはいはい! と手を上げる。

 

「ボクには! ボクにはかけてくれないのかい!?」

「いるんですか?」

「いるんだよ! ヘファイストスの方は力仕事なんだから! 結構きついんだぞ!」

「はいはい、それじゃ全員終わった後にかけてあげますよ。お春にもな」

「よろしいのでございますか?」

「掃除だって洗濯だって力仕事だろ。ステイタスが高いに越したことはないさ」

 

 【恩恵】を受けた時点でその辺のムキムキマッチョ並の筋力はあるのだがそれはそれ、である。

 

「お前本当に何でも出来るなあ」

魔術師(ウィザード)ですから」

 

 

 

 

 次の日の午後。

 ダンジョン帰りで豊穣の女主人亭に向かっていたイサミと、買い物に出ていたシル、リューが鉢合わせ、三人は何とはなしに連れ立って路地を歩いていた。

 

「今朝のサンドイッチは悪くなかったな。少なくとも異臭はしなかった」

「・・・開けてみたんですか?」

「まさか、匂いだけでわかるさ」

 

 にやっと笑うイサミに、シルは頬をふくらませる。

 

「犬か何かですか、お兄さんは。獣人だってそんなに鼻は鋭くないですよ」

「失礼ですよ、シル。本意ではないかも知れませんが、あなたはもっと感謝すべきだ」

「わかってるわよそんな・・・」

 

 赤い何かが飛来する。

 固い物が目の前のレンガの壁に叩き付けられる音で、シルの言葉は遮られた。

 

「!」

「!?」

 

 シルをかばうように、リューとイサミが咄嗟に前に出る。

 

「ぐっ・・・」

 

 レンガの壁に叩き付けられた赤い塊がうめいた。

 よく見れば、上から下まで赤いフード付き外套にすっぽりと身を包んだ亜人である。

 種族は判然としないが、少なくともドワーフや小人族ではない。

 激突したレンガ壁が崩れている。にもかかわらず当人はまだ動ける辺り、相当なレベルの冒険者であると知れる。

 

「その恰好・・・もしかして、"赤い外套団(レッド・クローク)"?」

「シル、何ですかそれは?」

「ここのところ世間を騒がしている謎の集団ですよ。最近ではグラン・カジノの偽オーナーの犯罪を暴いたとか・・・使います?」

 

 イサミが腰の打刀を逆手に抜いて差し出す。それでは、とリューが礼を言って受け取った。

 ほぼ同時に、再びいくつかの影が降ってくる。

 

「オードっち!」

 

 数体は落ちてきたのと同じ、しかし巨漢から小人族サイズのものまで、さまざまな体格の赤い影。

 落ちてきた影の周囲に集まるそれらを、イサミは油断無く見据える。

 そして僅かに遅れて落ちてくる、もう一つの影。

 

「・・・・・!」

 

 そのもう一人を見たとき、リューの眼が大きく見開かれた。

 同時に、イサミの警戒レベルが最大限に引き上げられる。

 

「レヴィスッ!」

「何故あなたが・・・アリーゼ!」

 

 ハシャーナを殺した女、赤髪の怪人が凍り付くような視線を二人に向けた。

 

 

 

(アリーゼ?)

 

 リューの言葉が気にはなったが、よそに気を置いて立ち向かえる相手ではない。

 イサミは精神の中に「準備」した呪文をいつでも発動できるように、赤髪の女レヴィスに向かって身構える。

 

「・・・ちっ」

 

 一方のレヴィスは態勢を整える赤外套軍団とイサミにちらりと目をやり、舌打ちした。

 そのまま無言で退こうとして。

 

「アリーゼ! 生きていたのですか?!」

 

 リューの言葉に動きを止めた。

 表情を変えず、冷たい視線のままリューを見る。

 

「そのような名前、知らんな。他人のそら似だろう」

「私は! どのように変わっていようと親友の顔を忘れはしません!」

 

 ぴくり、とレヴィスの目元が動く。

 次の瞬間、無言のままレヴィスは地面を蹴り、家々の屋根の向こうに姿を消した。

 

 

 

 イサミは追わない。

 一対一では勝てるかどうかわからない相手というのもあるが、赤外套達を警戒したせいでもある。

 

「・・・ん?」

 

 赤い外套を見やり、イサミが首をかしげた。

 

 一方、その赤外套達は目に見えて安堵のため息をついている。

 イサミが見た限りでは、彼らの実力はLv.5が一人、残りは3から4。

 

 対して今のレヴィスは恐らくLv.6クラス。

 あのままイサミ達が居合わせなければ、殲滅されていたであろうことは想像にかたくない。

 

 リーダー格とおぼしき一人が、こちらに向き直った。

 

「すまねえ、助かったぜ・・・あんた、イサミ・クラネルだな?」

「別にあんたらを助けようとしたわけでもないがな」

 

 肩をすくめる。

 破顔一笑――フードと覆面で見えないが多分――する、リーダー格の赤い外套。

 

「いや、それでも助かったぜ。ありがとうよ! んじゃな、イサミっち!」

「あ、待ってください・・・」

 

 リューが何かを言いさす間もなく、赤い外套達もまた地面を蹴って姿を消す。

 手を伸ばしたまま、追う事も出来ずリューはその場に立ち尽くしていた。




"赤い外套団(レッド・クローク)"はD&Dの背景世界の一つエベロンの、最大の都市シャーンにおけるエリート治安部隊です。
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