ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
夜十一時。
繁華街はまだ明るく人の往来が絶えないが、住宅街である八番街では魔石灯の明かりがまばらに灯るのみで、人影もない。
オラリオを囲む城壁内部、以前フェルズと宝珠の受け渡しをした場所に一同は再び集まっていた。
今度はリド達やリューに加えてフェルズもいる。
「それで先輩。これからどーすんだ?」
「せ、先輩!?」
リドの言葉に、リューが目を白黒させた。
「先輩・・・」
「センパイ、センパイ!」
「あ、あう・・・」
口々に先輩先輩と連呼する赤外套達、ないことにうろたえるリュー。
イサミとフェルズが顔を見合わせて苦笑し、シャーナがにやにやと笑う。
「あーん、もう、リューちゃんかわいい!」
「ふわーっ!?」
リューを抱きしめてほおずりするレーテーに、リューの口から思わず変な声が漏れた。
しばし後。混乱した場を落ち着かせて、改めてリューが口を開いた。
なおレーテーは中身が子供ということもあって、リューのエルフ潔癖症チェックをすり抜けられるらしい。
「・・・おほん。正直私もこの規模で強襲というのは余り経験がありませんが、それほど問題にはならないでしょう。
内部事情を探っていたら逃げられる可能性もありますし、二手に分かれて手当たり次第というのが良いのではないでしょうか」
「まあそんなところでしょう。組み分けは俺たち三人とそれ以外の皆さんでよろしいでしょうか?」
じっ、とリューがイサミ達三人を見て、頷いた。
「妥当なところでしょう。クラネルさんには出来れば情報の吸い出しをお願いしたいところです」
「もちろんです。出来る限りやってみましょう」
頷き、一同は動き出した。
かすかに戦いの音と断末魔の悲鳴が聞こえる。
シャーナがつまらなそうな顔で舌打ちした。
「ちぇっ、当たりはあっちの方だったか」
くだんの商会主の別邸。
離れと倉庫の二手に分かれたイサミ達であったが、本命はリュー達の向かった離れの方であるようだった。
倉庫の中にも少数デヴィルがいたが、レーテーとシャーナによって苦もなく切り伏せられている。
一匹無力化して捕縛したが、ざっと頭の中を覗いてろくな情報を持っていないと判明したのでとどめを刺された。
「早くあっちに応援に行こうぜ。
あいつらも弱かねえが、レヴィスだのあのおっさんだのが出てきたりしたらやばいだろ」
「まあ待てよ。俺たちの目的は敵をどうこうするより情報だ。むしろこっちの方が本命だ。
とりあえず手当たり次第にその辺の物を持ち帰ってくれ」
「はーい」
怪しげな物品を次々と"ヒューワードの便利な背負い袋"に放り込む二人。
一方イサミは目を閉じつつ、倉庫の中をゆっくり進んでいく。
そのまぶたの裏に、戸棚の中の皿、机の下の食べかす、梱包された木箱の中身、テーブルの上の羊皮紙に走り書きされたメモの内容、木箱と壁の間に挟まった銅貨・・・そうした物が自動的に浮かんでくる。
"
「こりゃ凄いな。深層の魔石にデフォルミス・スパイダーの目玉にフォモールの乱杭歯、ヴェノムスコーピオンの尾針・・・」
「おい、そりゃ確か・・・」
「ええ、ご禁制の魔道具や薬の材料になる奴ですよ。随分有能な取引相手がいるらしい・・・ん?」
「どうした」
「いや、ちょっと離れててくれ。お宝かもしれん」
罠かと頷いて、シャーナとレーテーが倉庫の入り口にまで下がった。
それを確認してイサミが向き直ったのは、何の変哲もないレンガの壁。
倉庫だけあって、漆喰で塗り固められたりしていない、打ちっぱなしの頑丈だが簡素な物だ。
「・・・・・・」
その前でイサミが立ち止まり、膝をつく。
腰の袋から奇妙な道具――我々の世界でたとえるなら、先端が刃物になった極端に細長いマイナスドライバーや鳥のくちばしのようなペンチ、はけ、針金、しおりのような薄い鉄板、釣り針のような小さなフック、手鏡などを取りだして脇に置く。
怪しい箇所の周囲をはけで丹念にはき、ホコリを落としていくと、よくよく注意してみなければわからないレンガ壁の継ぎ目が浮き出る。
レンガのいくつかを注意深く取り外すと、そこに鍵穴と超硬金属製の扉が現れた。
(さて、と。どうやら罠は二種類。この線とトリガーの配置は、"宝箱の中の瓶"か?
もう一つは上に伸びてるから、釣り天井か、それとも"銀の雨"のたぐいか・・・用心深いことで)
正しい鍵を、正しい方法で用いなければ、泥棒の命はないと言う事だ。あるいは中にあるものも。
これだけの罠が仕掛けてあると言う事は、よほどの物が中にある可能性が高い。
む、と気合いを入れ直す。
「少し時間がかかるかもしれない。見張り頼む」
「オーケイ」
「任せておいて!」
頷きを返すと、イサミは壁に向き直った。
「
呪文の力でふわり、と手鏡が宙に浮く。
鏡の反射で鍵穴を覗き込んで、真正面に立たないようにして作業する。
飛び出してきた毒矢で目や命を失った間抜けな盗賊の話など、冒険者の間にはゴロゴロしているのだ。
(このトリガーは・・・こっち、かな。この腸線をこっちで抑えて・・・よし)
大きな手で器用に道具を使いこなし、仕掛けの腸線を抑え、針金を切断したり曲げたりして、トラップが正常に働かないように細工する。
1分ほどかかったが、罠職人としてもイサミは一流である。
さほど苦労することもなく、罠を解除して金庫の扉を安全に開くことに成功した。
「おーい、入っていいか?」
「ええ、どうぞ。さて、ご開帳・・・と、何だこりゃ?」
「あん?」
「うん?」
金庫の中身を取りだして、眉を寄せるイサミ。
肩の上から覗き込んだ二人も、似たような顔になる。
真っ黒い金属製のそれはイサミのラージサイズの両手の平に余るほどの大きさで、何らかの像なのかインゴットなのか、はたまた前衛芸術なのか、いかんとも判別しがたい。
渦巻くうねりのようにも、放射状にうねくる触手のようにも、また風にふくらむローブを纏ったのっぺらぼうの何かのようにも見える。
ただ、見ているだけで不安になるような何かがその造形にはあった――これが何者かによる造形だったとしてだが。
「うへっ、気持ち悪りい」
「やな感じ・・・」
「マルタの鷹にしちゃあ、嫌なデザインだな・・・ん? んん?!」
何かに気づいたイサミの、その瞳が次の瞬間大きく見開かれた。
「おい、どした?」
「・・・これ、
「ぬわにぃーっ?!」
「えーっ!?」
シャーナとレーテーが目を丸くした。
不壊属性武器の素材でもある、文字通り世界最硬、金剛不壊の超合金である。
最高純度の強度と魔力を込められたそれは、殆どあらゆる物理的衝撃、熱化学変化、魔力による干渉を受け付けず、"
ヘファイストス・ファミリアの椿をはじめとして、それが出来る鍛冶師はオラリオでもほんの一握りだ。
「しかも純度も高いですよ・・・下手すると椿さんの打った武器より高いかも・・・」
「マジか」
「ふわぁ・・・」
下手をすると、この塊だけでも億は行くかも知れない。
オリハルコンとはそれほどの貴重な素材なのだ。
「あれぇ? けど、オリハルコンって銀色なんじゃ? 不壊属性武器って銀色でしょ?」
「その辺は精製と鍛え方によるんだよ。方法はわからないけど、これは間違いなく高純度のオリハルコンだ」
そうなんだぁ、とレーテーが頷こうとして次の瞬間、大爆発で倉庫が吹っ飛んだ。
ガサ入れって何のことだと思ってましたが、どうやら「捜す」をひっくり返して「ガサ」、「手入れ」で「入れ」ってことらしいですね。
まあ内容には何の関係もない事ですがw