ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
離れの方の戦闘は、終始"
"
Lv.5相当のデヴィルは人間サイズの白い昆虫のようなものが一体、残りは推定Lv.4が一体とそれ以下が10体ほど。
リドが主力の白いデヴィルを抑え、残りをリューとフェルズ、他の赤外套達が素早く駆逐していく。
そして白いデヴィルをリドが切り伏せ、最後の一体、ひげ面の悪魔をリュー達が捕縛しようとしたその時、庭で大爆発が起こった。
「何っ!?」
「倉庫が!」
「!」
一瞬フェルズ達の注意が逸れた隙に最後の一体が逃げようとして首が飛んだ。
「なっ!」
大剣の一振りでそれを為した闖入者は、いつの間にか悠然とそこに立っていた。
呆然と、リューがその名をつぶやく。
「アリーゼ・・・」
「いいや、違う。私はレヴィスだ。お前達の言う"
赤髪の怪人、レヴィスがそこにいた。
大爆発が起こった瞬間、イサミ達三人は倉庫の外に飛び出していた。
シャーナとレーテーはLv.5冒険者のステイタスで、イサミはそれには及ばないまでも強化された機動力と反射速度で爆発の直撃を避けている。
その三人の目に映ったのは、庭の中央に立つ白い影。
全身を白い衣と骨で出来た防具で覆い、頭部に装着した仮面の裏で何かがもぞもぞと動く気配をさせている。
その姿はレヴィス同様の怪人、"白髪鬼"オリヴァス・アクト。
「ちぃ、貴様らか! よりによって・・・それは!」
イサミが手にする像を見て、仮面の奥の目が見開かれる。
やはりこの像は、と思う間もなくイサミは呪文を詠唱する。
「っ!」
直前、オリヴァスのまとうオーラに気づき、詠唱しようとしていた呪文を対単体の"灼熱の光線"から範囲攻撃の"冷気の円錐"に切り替える。
「《
「《
「ぐおおおおっ!」
炎と電気と冷気と酸の複合した円錐状のエネルギーがイサミの手から放たれ、18m半径、90度の1/4円の形に庭の芝生を焼き凍らせる。
「ぐっ・・・さすがだな。光線の呪文で攻めてくれば無効化出来ていたものを・・・!」
「あいにく、その手の駆け引きは慣れてるんだ。見え見えの防御に引っかかるか馬鹿」
"
名前の通り、あらゆる光線系の攻撃を逸らして弾く強力な呪文だ。
D&Dにおける対単体攻撃呪文のかなりが光線呪文であることを考えると、高レベルの魔術戦では極めて強力な防御呪文と言っていい。
イサミは魔力視覚でオリヴァスの帯びた防御術のオーラを感知し、呪文、あるいはアイテムの正体を看破したのである。
しかし範囲呪文は光線に比べて一体ごとのダメージが低くまた
(というより、光線呪文にはセーブという概念が基本的にない)
現に今、オリヴァスの受けたダメージも致命傷には程遠かった。
「ぬん!」
ぎぃんっ、っと幻聴がした。
だが。
「なにっ!?」
イサミはもちろん、シャーナもレーテーも、全く意に介さずに攻撃を繰り出してくる。
「しゃっ!」
「やあっ!」
「ぐうっ!」
皮下装甲のおかげで辛うじて皮一枚、直撃は避けたものの、オリヴァスはたまらず後退した。
「馬鹿な・・・! いつの間に!」
「タコ野郎とやり合うのに、
だが
シャーナが大剣を構え直す。
「こいつ、強いね・・・」
「ああ。だが、やれない相手じゃない」
シャーナとレーテー、どちらかと一対一なら互角かオリヴァスがわずかに有利。
しかしLv.5が二人がかり、しかも奥の手を封じられてはさすがの怪人も分が悪い。
後ろにイサミが控えているなら尚更だ。
「ぬう・・・」
仮面の下に脂汗がにじんだ。
時間は少しさかのぼる。
「うわっ?!」
八番街を当てもなく歩いていたベルが、爆発音と爆炎にびくり、と震える。
夜も更けて、フル装備で出て行く兄たちを不審に思ってつけてきたのだ。
八番街に入ったところで見失ってしまったが、諦めきれずにウロウロしていたのである。
(最近の兄さんは・・・きっと何か隠してる)
兄ほどの観察力はなくとも、ベルとてイサミとは十年を超す付き合いだ。
弟は、兄が思うよりも兄のことをよく見ている。
まなじりを決すると、ベルは爆発音と爆炎の上がった方向に向かって走り出した。
そのベルを見下ろす影があった。
豪華な屋敷の屋根にうずくまるそれは、高さも幅も3mはある。
赤いマニキュアを塗った長い爪が、アイシャドウを配した眉をなぞった。
(まずいわね。あれを奪われると・・・いえ、見られただけでもシャレにならないわ。
この小僧も、何かやらかす前に始末しておいた方がいいかも。
グラシア様直々の命令だったけど、その姫様もあんな事になってしまったしね・・・)
鮮やかな赤いくちびるが、耳まで裂けてニヤリと笑った。
「うわっ!」
炎が上がる屋敷の近くにまでたどり着いたベルは、思わず足を止めた。
悲鳴と炎が上がり、屋敷のガラス窓が割れるのが見える。
「蛇・・・?」
割れたガラス窓から細長い物が這い出してくるのが見え、ベルは夜闇に目をこらす。
「っ!」
次の瞬間、街路がひび割れた。
割れた地面の裂け目から次々と飛び出すのは、魔石灯の弱々しい明かりに照らされた緑色の太い蛇・・・いや、牙の生い茂る花を咲かせる人食いの花。
反射的に【神のナイフ】を抜こうとして、強烈な視線と寒気を感じる。
ベルが前方に転がるのと、「何か」が地響きを立てて落ちてくるのと、一瞬前までベルのいた空間を赤い爪がなぎ払うのがほぼ同時。
振り向いたベルの前に立ちはだかったのは、高さ3m、横幅3m。ほとんど自身の倍の巨大な壁。
ベルは知らないが、十日ほど前にイサミ達と戦った巨大な肥満体のデヴィル。
推定Lv.6、パエリリオン。
「あらやだ、勘のいいボウヤだこと! ほんと、グラシア様がお気に入られるのもわかるわぁ。
でもねえ、アンタのクソ兄貴がやってくれた分、せめてアンタに返さなきゃアタシの気が済まないのよぉっ!」
「っ! 兄さんが?!」
やはり。
その時ベルの顔に浮かんだのはそう言う表情だった。
にまあ、とパエリリオンのくちびるが再び笑みの形にゆがむ。
「あら、その様子じゃ知らなかったみたいね? 知りたい? そう、知りたいでしょうねえ。でもダメ。アンタはここで死ぬのヨっ!」
「っ!」
振り下ろされる、左右の赤く長い爪。
ベルは奇跡的にそれを両方避けた。
「まっ! ナマイキッ!」
パエリリオンが笑みを大きくする。
が、ベルは笑うどころではない。
圧倒的なステイタスの差がわかる。相手は全く本気を出していないのに。
振り向き、全力で駆け出そうとして、柔らかい何かにぶつかる。
見上げたベルの目に映るのは真っ赤に紅を塗った、耳まで裂けたくちびる。
「アラ、せっかちじゃない? 夜はまだこれからよ。一緒に楽しみまショ?」
「・・・・・・ッ!」
一瞬前まで目の前にいたパエリリオンが、また目の前にいる。
ベルの視界が、絶望で黒く染まった。