ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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14-11 幕切れ

 実際にはそう長い時間ではなかっただろう。

 大規模な攻撃呪文が使えないとしても、所詮食人花はイサミ達にとって苦戦する相手ではない。

 だがベルにとってその時間は無限にも等しく、オッタルにとっても決して短くはなかった。

 

「ベル! ・・・オッタル、ロビラー?!」

 

 食人花達を全滅させ、こちらに気づいたイサミ達が駆けつけてくる。

 イサミがベルの横に並んだ瞬間、ひときわ高い金属音が響いた。

 

「!」

 

 魔石灯の弱い光の中、ボロボロになった金属片が回転して、割れた音とともに石畳に落ちる。

 オッタルの大剣が、根元1/3程を残して折れていた。

 一方、ロビラーの剣には刃こぼれ一つない。

 

 オッタルが素早く間合いを取り、大剣の柄を捨てて腰の後ろの小剣を抜く。

 ロビラーも追わず、黒剣を肩に担いだ。

 

「・・・どういう状況だ? できれば誰か説明して欲しいんだがな」

 

 駆けつけたイサミが、ベル、オッタル、ロビラーの三人を見回した。

 

「あ、あの、兄さんの後をついてきたら、爆発があって! こっちに来たら太った怪物が! 緑色の大きな花が、それで、オッタルさんに助けて貰って・・・」

「! 太った怪物ってあれか、3mくらいあってマニキュアと口紅とアイシャドウつけてる?」

「そうそうそう! それで、食人花倒したらこの、ロビラーさんが出てきて!」

 

 我が意を得たりと頷くベルに、大体の事情を察する。

 ロビラーに戦意がないのをちらりと確認すると、オッタルに向かって深々と頭を下げた。

 

「弟がお世話になりましたようで。このご恩はいずれ必ず」

「俺はただ通りすがっただけだ。それにこの男は我らにとって敵。戦う時と場所を選ぶ道理は無い」

 

 ちらりとイサミに目をやったのみで、淡々と答えるオッタル。

 イサミはいぶかしみながらも苦笑しようとして、はっと目を見開いた。

 十日ほど前、ベルと戦ったミノタウロスの太刀筋をどこで見たか思いだしたのだ。

 

(そうだ、レーテー・・・フリュネと戦った時の!)

 

 ベルがミノタウロスと戦う前日、迷宮の中で見たイシュタルファミリアの襲撃。

 その時のオッタルの剣と、あのミノタウロスの剣がイサミの脳裏で重なる。

 

 ステイタスは比較にもならないが、技量であればイサミはオッタルとほぼ同じ水準にある。

 つまりそれは、オッタルの剣技を正確に見て取れる目があると言う事。

 その目が、両者の剣技に共通する物があると断じていた。

 

 驚愕を押し殺してオッタルを見上げる。

 続いてロビラーに目をやる。

 剣を担いだままニヤニヤするそのさまは、今頃気づいたのかと言われているようでむかついた。

 

「で? 俺には事情を聞いてくれないのかい?」

「おっさんに聞く事が何かあるとも思えないけどな」

 

 すまし顔のイサミに、今度はロビラーの方が渋面になる。

 

「だからおっさんはやめてくれって言ってるだろうに。敏感なお年頃なんだぞ」

「うるせえ。あんたなんかおっさんだ」

 

 漫才めいた会話を繰り広げるロビラーとイサミにシャーナがため息をつき、リューやリド達が唖然とする。

 オッタルの目元にすら僅かに呆れた表情が浮かんだ。

 

 

 

「で、あんた何でここにいる――あの像か?」

 

 ぴくりとロビラーの眉が動いた。

 

「やっぱ見たのか・・・今持ってんのか?」

「そうだと言ったら?」

 

 イサミがロビラーの視線を正面から見返した。

 事情を知らないオッタルとベル以外の全員に緊張が走る。

 黒ひげの巨漢は苦笑して、よせよせと手を振った。

 

「持ってようがいまいが、まあ俺の管轄じゃないから関係ないね。

 もっとも、持ってるなら色々厄介ごとに巻き込まれるのは覚悟しておけよ」

「もう巻き込まれてるさ。とっくの昔にな」

 

 違いない、と肩をすくめてロビラーがきびすを返す。

 

「帰るのか、おっさん」

「もうここにいる用もないしな・・・そうそう、オッタル殿、いずれまた。今度はもうちっとマシな剣があればいいな」

 

 しからばごめん、と後ろ手に手を振ってロビラーは闇の中に消えていく。

 後を追う勇気――あるいは無謀――はこの場の誰にもなかった。

 

 

 

「ぶはぁ~~~っ!」

 

 ロビラーの気配が完全に消えてしばらく経った後、リドが盛大に息をつく。

 それが合図であったかのように、誰もが肩の力を抜いた。ただし、オッタルだけはわからない。

 リューが口元の覆面を下げて額の汗をぬぐった。

 

「何だったんですか、あの化け物は・・・」

「見ての通りの怪物だよ。一応敵だが、何を考えてるんだかよくわからん」

 

 がやがやとリドやフェルズ達が会話を交わす中、オッタルも無言のまま一同に背を向けた。

 気づいたイサミが、改めて頭を下げる。ベルが慌ててそれにならった。

 

「ありがとうございました・・・あなたにその気はなくても、それで弟が助かったのは事実ですから」

「あ、あの、オッタルさん! ありがとうございました!」

 

 一瞬、オッタルの足が止まる。

 だが結局振り向くことも言葉を発することもないまま、偉丈夫の猪人も闇の中に姿を消した。

 

 

 

 続いてフェルズとリドたちもその場を離れた。

 リューもしばらくは彼らと行動を共にするらしい。

 

 後にはイサミとシャーナ、レーテー、そしてベルだけが残った。

 

「にいさん・・・」

 

 ベルが兄を見上げる。

 イサミが頭をボリボリかいてため息をついた。

 

「まあ、なんだ。とりあえずホームに帰ってからにしよう。ここじゃ人目につかないとも限らない」

「・・・うん・・・」

 

 

 

 廃教会に帰ると、まだ起きているらしいヘスティアに気づかれないよう、イサミの部屋に集まる。

 イサミが外套のポケットから紅茶の瓶とクッキーを取りだし、思い思いその辺に腰を下ろした。

 

「さて、何から話したもんかなあ・・・怪物祭のあたりからか?」

 

 紅茶とクッキーをつまみながら、シルに対する疑念やシャーナのこと、フェルズの正体やオッタルとミノタウロスに関する疑念などは除いて大体のことをベルに伝える。

 

「じゃあ、あのシルバーパックや大芋虫、ええと・・・」

「キャリオンクロウラー」

「キャリオンクロウラーやミノタウロスも、僕を目標にしたものだっていうの?」

「あくまで可能性だがな」

 

 イサミの言葉にベルが黙り込む。

 無理もない。上級冒険者とは言え、14歳の少年が立ち向かうには途方もない問題でありすぎる。

 

「まあ、そんなに深刻に考えることもないさ。連中に対処するのは赤外套や上位派閥の役目。

 けどそれとは別にお前を狙ってる奴もいるから、心構えはしておけ。そう言う話だ」

「うん・・・」

 

 うつむいたベルがぎゅっ、と拳を握る。

 震える拳にイサミもシャーナもレーテーも気づいたが、何も言わなかった。

 

 

 

 薄闇の部屋に月光が差し込む。

 ワインを口にするフレイヤの傍らに彫像のごとく控えるのはオッタル。

 

「それで、あなたの目から見てあの子はどうだった?」

「着実に強くなっております――身も、心も」

 

 美の女神が艶然と微笑む。

 

「正直さすがに手を出し過ぎかとは思ったのだけれど、念のためにあなたに行って貰って良かったわ」

「御懸念は正しかったかと」

 

 フレイヤが外の景色に目をやった。

 未明の迷宮都市はさすがに灯火も絶え、闇に沈んでいる。

 

「この闇の中に何かが潜んでいる・・・でも心しなさい。

 あの子に手を出すようなら、やけどする程度では済まなくてよ・・・」

 

 そう独りごちると、美の女神は再び艶然と微笑んだ。

 

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