ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十五話「心はサムライ(戦士大全じゃないほう)」
15-1 サラマンダー・ウール


 

 

 

 

 

『じゃあ、エルフ風呂』

 

 ―― 『新ソードワールドリプレイ へっぽこーず』 ――

 

 

 

 

 

 闇の中。

 うすぼんやりとした人影だけが浮かんでいる。

 数はわからないが、少なくとも十人以上。

 

「・・・なあ、本当にやるのか?」

「なんだ、今更ビビったか」

「~~~はなんて言ってるんだよ?」

「決まってるだろ。『面白ければいい』さ。全くどいつもこいつもクソッタレだぜ、くくっ」

 

 含み笑いをする男。

 長椅子でくつろいでいるにもかかわらず、男の発する雰囲気がその場を支配している。

 それきり言葉を発するものはいなかったが、場の意志が一つにまとまったのが誰にも感じられた。

 

「よーし、それでいい。"人生"は短いんだ、やりたいようにやらないとな」

 

 皮肉げな言葉に周囲から笑いが上がった。

 ぱしん、と手を叩いて男が立ち上がる。

 

「さあ、行こうぜ・・・人間狩り(マンハント)だ」

 

 

 

「はあっ!」

「やあっ!」

 

 赤外套達とデヴィル達の調査に赴いた翌朝。

 払暁の廃教会に金属音が響く。

 ここ一月ほど、毎朝の日課となっているベルの特訓だ。

 

「やあっ!」

「グッ!?」

 

 レーテーの強烈な蹴りがベルの腹をまともに捉える。

 吹き飛ばされたベルが壁に激突し、漆喰がぱらぱらと降り注いだ。

 

「だ、大丈夫?」

「まだまだあっ!」

 

 慌てるレーテーに構わず、ベルが跳ね起きる。

 

「お願いしますっ!」

「う、うん・・・」

「気合い入ってんなー」

 

 シャーナがのんびりとつぶやいた。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十五話「心はサムライ(戦士大全じゃないほう)」

 

 

 

 しばらくして、そろそろシャーナに交代しようかと言うところでイサミが上がってきた。

 左手に刀を提げている。

 

「なんだ、珍しいな・・・気になるか?」

「まあね」

 

 一種鬼気迫るベルの様子を見て、軽くため息をつく。

 昨夜、改めて自分の未熟さを思い知らされた事への悔しさ。

 それがベルを駆り立てているのだろう。

 

「ふう・・・はぁ・・・」

「大丈夫? 少し休む?」

「いえ、大丈夫です! 続けて下さい!」

 

 心配そうに覗き込むレーテーに、ベルが顔を上げて答える。

 

「うーん・・・」

 

 困り顔のレーテーがイサミの方を向いた。

 イサミが頷く。

 

「俺が代わろう」

「え、兄さん?」

「久しぶりに相手してやるよ――俺もちょっと、体を動かしたいところだったしな」

 

 歩み出たイサミが左手の刀を抜く。

 刀身を顔の横に縦に立てる――右八双の構え。

 

「・・・!」

 

 ベルがナイフと短剣を構え直した。

 

 

 

 太刀風が唸る。

 

 イサミが先手を取って振り下ろした剣を、ベルが敏捷度任せに避けた。

 能力値では既にベルがイサミを凌駕している。

 

 だが二撃目。

 反撃しようとしたところで、下から燕返しに切り上がってきた二の太刀はかわせなかった。

 左手の【牛若丸】で弾き、重さに手を痺れさせつつも右手のナイフで脇腹を狙う。

 イサミは軽くステップを踏み、後ろに動いてこれを外した。

 

「しゃっ!」

「!?」

 

 剣が疾る。

 先ほどの燕返しも折り込んだ、息もつかせぬ五連撃。

 

 ベルは全力回避。後ろに大きく飛び下がって、どうにか外す。

 前髪が数本、頭頂部の毛が数本、それぞれ切られて宙に舞った。

 

「ふわぁ。イサミちゃんすごいねえ」

「ああ・・・言われてみれば、【凶狼】相手に技量では負けてなかったんだよな、あいつ」

 

 かつて"猛者(おうじゃ)"オッタルが"風"を乗せたアイズ・ヴァレンシュタイン必殺の【リル・ラファーガ】を技術だけで凌いだ。

 単純な威力だけならオッタルの渾身の一撃をも凌ぐそれをだ。

 極めた技は、1lvくらいのステイタス差なら埋めてしまえる。

 

 そしてD&Dの戦闘系《特技》とは、すなわち戦闘技術そのものに他ならない。

 自らの体を効率よく操縦する技術。同じステイタスでも、その多寡によっては圧倒的な差となりうる。

 

 ましてやイサミはステイタスが追いつかないだけでLv.7に匹敵する技量を有しているのだ(魔法強化込みでではあるが)。

 いかに鍛えられようと、ステイタスで平均5段階ほど勝る程度のLv.2冒険者(ベル)では相手にならない。

 ほどなく、ベルは壁に追い詰められて降参した。

 

「まー、2lv違うと、どんな技術を磨いてもカバーできないって事でもあるがな」

「でも兄さんやっぱり凄いよ・・・ステイタスは僕の方が上のはずなのに、全然敵わなかった」

「今のうちだけさ。お前がLv.3になったら太刀打ち出来なくなってるんじゃないかな」

 

 微笑して、イサミは弟の頭をくしゃりと撫でた。

 

(ステイタスも上がってくれると嬉しいんだがなあ・・・)

 

 堕精霊グラシアとの戦いでレベルキャップを越えたイサミではあったが、そのレベルもD&D換算にして23レベルで再び止まっている。

 これ以上に上がるには、再び《偉業》を積まねばならないということなのだろう。

 イサミとしてはステイタスも伸びる、通常のレベルアップも是非して欲しいところなのだが。

 

「そう言えば今日から中層か。気合いが入ってたのもそれでか?」

「うん・・・そんなとこ。エイナさんの許可が貰えればだけど」

「リューさんもエイナさんも言ってたが、中層からは戦いのレベルがまるで違う・・・らしいからな。

 準備はいくらしてもし過ぎることはないぞ」

 

 歯に物の挟まったような言い方に、ベルが妙な顔になる。

 

「らしいってのは何さ。兄さんだって中層突破したんでしょ?」

「俺はまあ・・・最初から魔法使えたからなあ。中層の壁は全然感じなかった。壁を感じたのは下層と深層の境目くらいからだな」

「そりゃまあ、あんな魔法最初からぱかすか使えればな」

 

 苦笑したのはシャーナである。

 イサミの非常識な魔法を一番よく知っているのは彼女だ。

 

「シャーナさんとレーテーさんは、中層に入ったときどうだったんですか?」

「そうだなあ。いつもって訳じゃ無いが、上層から考えるとしゃれにならん頻度で敵が増えることがある。

 最初のうちはファミリアの先輩がついてきてくれてたんだが、それがなきゃ一回二回は死んでたかもしれねぇ」

「いーなあ。レーテーはそういうのなかったから、結構苦労したよぉ。

 特にヘルハウンドがね。囲まれて、二回くらいパーティの仲間が死にかけたの」

「あー、ヘルハウンドは厄介だよな。"火精霊の護布(サラマンダー・ウール)"着てなかったらやべぇわありゃ」

 

 そのまま中層での苦労話に移行する二人から、兄に再び視線を戻す。

 

「にいさん、"サラマンダー・ウール"って?」

「"火精霊(サラマンダー)"の加護を織り込んだ布。火から守ってくれるんだ。

 中層行くなら必須装備だそうだな。まあ、エイナさんがその辺は教えてくれるだろ。

 それよりそろそろ飯の時間だからシャワー浴びてこい。俺は神様起こしてくるから」

 

 

 

 食後、イサミの提案でベルのステイタス更新を行う。

 昨晩更新したばかりであるにもかかわらず爆発的な伸びを示したベルのステイタスに、ヘスティアが吹き出したのは言うまでもない。

 

 その後、イサミ達はダンジョンの深層へ。

 ベルはギルドに向かい、エイナから中層進出の許可とサラマンダー・ウールの割引購入券を貰った。

 

 そして夕刻。

 豊穣の女主人亭から戻ってきたイサミが、春姫の出迎えを受けて怪訝な顔になる。

 

「あれ、ベル達はまだ戻ってきてないのか?」

「はい。今日は少し遅いようで・・・」

 

 心配そうな春姫に、イサミはちょっと考えてから面を上げる。

 

「うーん・・・まあ初めての中層だろうし、そういう事もあるだろう。

 何かあれば"送信の石"で連絡が来るだろうしな」

「そう・・・でございますね。ベル様達は大丈夫でございますよね」

「ああ。それじゃ買い物行こうか。今日は魚市場の方に行くぞ」

 

 二人が買い物を終え、ヘスティアが帰宅し、夕食の時間になっても、ベル達は帰ってこなかった。




D&D3版のサムライは最初「オリエンタル・アドベンチャー」という東洋系冒険サプリメントで登場してて、これは結構強かった&応用が利いたりしたんですが、後に「戦士大全」というサプリで再録されたときは強さでも能力の幅という点でも、キャラ付けの点ですら大幅劣化してたという・・・。
サムライなんだから刀と脇差しくらいデフォでよこせや、おう?!
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