ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-2 "念視の水晶片(スクライング・シャード)"

「・・・・・・・・・」

 

 テーブルの上に並べられた料理がむなしく冷めていく。

 時計の針は八時を指していた。

 ヘスティアがこわばった顔をイサミに向ける。

 

「な、なあイサミ君。やっぱりこれはベル君たちに何かあったんじゃないか?」

「そうですね。ちょっとこっちから呼びかけてみましょう・・・《発動短縮》"送信(センディング)"」

 

 精神的なメッセージをやりとりする呪文を発動するが、本来すぐあるはずのベルからの応答はない。

 

「・・・!」

 

 表情を険しくしたイサミは、ピンク色の細長い六角形の水晶を取りだした。

 "念視の水晶片(スクライング・シャード)"。

 遠隔視に使うモニター、つまりは千里眼に使う水晶玉と同じようなものである。

 

「"上級念視(グレーター・スクライング)"」

 

 イサミがベルの顔を念じて呪文を発動すると、テーブルに置かれたピンクの水晶から光が発し、その上に像を結び始めた。

 はじめは色彩の波だった映像が唐突に明晰なヴィジョンを映し出す。

 

 映像はどこかの情景を半径3mに渡って半球状に切り取ったようで、範囲外の情景は全く映し出されない。

 どことも知れぬ夜の草原、そばに口を開ける洞窟。倒れ伏す10人ほどの男女。中央には傷つき倒れたベルが映っている。その背中が、かすかに上下していた。

 

「ベルくんっ!」

「ベル様!」

「ここは・・・十八階層の入り口か?」

「・・・うん、だと思うよぉ」

 

 周囲の面々が口々に叫ぶ中、イサミは安堵のため息をついた。

 ベルがどうして18階層にいるのか、どうして見知らぬ冒険者達といるのかはわからない。

 だが、生きて息をしている。それだけでイサミには十分だった。

 

「でもぉ、一緒にいる子達は何なのかな?」

「たぶん中層突破するのに途中で手を組んだ・・・あん? こいつ、お春に似てないか?」

「え・・・あっ! 命ちゃん!? 千草ちゃんも、他の皆様も・・・!」

「えっ?」

 

 春姫に周囲の視線が集まる。

 

「知ってるのかい、お春くん!?」

「わ、わたくしがまだ極東におりましたころのお友達でございます! タケミカヅチ様の眷属であるはずなのですが・・・」

「タケの!?」

「え? ご存じなのですか!?」

 

 極東の武神タケミカヅチは医神ミアハと共にヘスティアの近所づきあいの貧乏神仲間である。

 灯台もと暗しと言うべきか、ヘスティア、春姫共に互いに関係があることを全く知らなかったのだ。

 

 しばし驚愕に固まっていた春姫が、決然と顔を上げる。

 向けられた強い視線に、イサミが目を見張った。

 

「イサミ様。お願いでございます――春姫を十八階層にお連れ下さいませ。

 必要とあらば冒険者になります。魔導書も読みます。

 たとえ"ウチデノコヅチ"をもう一度発現するとしても春姫は・・・春姫は、ベル様達と命ちゃん達を助けとうございます!」

 

 数瞬黙考した後イサミが頷いた。

 

「わかった。どうせ迎えに行くんだ、春姫一人ならどうってことはないだろう。

 中層なら俺一人でも十分すぎるくらいだしな」

「ああ・・・!」

 

 感極まったか、両手を握って座り込む春姫。

 代わりにずい、とヘスティアが身を乗り出した。

 

「よし、ならばボクも連れて行ってくれ、イサミ君!」

「あ、神様はご遠慮願います」

「何でだよ?!」

 

 にべもない拒絶に、歯をむき出して威嚇するロリ巨乳。

 ため息をつきつつ、それを手で押しとどめる。

 

「神様がダンジョンに入っちゃまずいんでしょう?

 それにお春なら【恩恵】がありますからかすり傷程度なら耐えられますが、神様の場合普通の人間以下の耐久力しかないじゃないですか」

「ばれなきゃ問題ない!」

 

 胸を張る主神にまたため息。

 

「いいじゃねえか。一人増えたところで中層だ、大したことはねえだろ」

「そうだよぉ、私とシャーナちゃんで一人ずつ守ればいいじゃない?」

「うーん・・・」

 

 イサミに四人の視線が集中する。

 三度目のため息をついてイサミは降参した。

 

 

 

 時間は半日ほど巻き戻る。

 エイナの条件通り、サラマンダー・ウールを人数分買い込んで中層に乗り込んだベル達は、早速その洗礼を受けていた。

 13階層に下りて数度目の戦闘で、小型の兎型モンスター・アルミラージに包囲されたのだ。

 

 まるでベル様ですねなどと冗談を飛ばしていられたのも最初のうちで、筋力は低いものの敏捷と集団戦に長じ、しかも石斧で武装する白兎の群れにパーティは翻弄される。

 Lv.1のヴェルフでは攻撃が中々当てられず、リリは飛び道具故に距離を詰められると弱い。

 自然、ベルに負荷が集中した。

 

「温存なんて・・・言ってられない! "スコーチング・レイ"!」

 

 右手から飛び出した火線が次から次へと6匹のアルミラージに飛び移り、その内半数を倒した。

 ファイヤーボール等の範囲型攻撃魔法と違い、一体一体を狙って飛び火する連鎖型魔法は、威力に劣る代わりに乱戦でも問題なく使用できる。

 

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

「スコーチング・レイ!」

 

 連射によって大半のアルミラージが焼き殺され、残りをどうにか始末する。

 精神力の消耗と多数を相手に渡り合った肉体的疲労に、ベルが大きく息をついた。

 

「ベル様、ポーションとマジックポーションです」

「ありがとう、リリ」

「ヴェルフ様も」

「ああ、すまん・・・」

 

 ベルが二本の試験管を一気に飲み干した時、足音が聞こえてきた。

 強化されたステイタスによる鋭敏な聴覚が、その中から二種類の足音を聞き分ける。

 一つは自分たちと同じ冒険者のもの、恐らくは5~6人。

 そしてもう一つは・・・

 

「リリ! ヴェルフ! モンスターだ! 多い!」

「!」

 

 丁度ポーションを飲んでいる最中だったヴェルフが激しくむせる。

 魔石を採集しようとしていたリリが、ナイフをしまって右腕のハンドクロスボウを構えた。

 

 ベルが叫んですぐ、ルームの入り口に一団の冒険者が現れた。

 極東風の装束を身にまとった六人パーティ。

 大半が負傷しており、重傷を負った少女が先頭の大男に背負われている。

 

 冒険者達が真っ直ぐベル達の方へ走ってくる。

 ベルは神のナイフを鞘に収め、彼らに向かって右手を突き出した。

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