ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
タケミカヅチ・ファミリア首領、カシマ・桜花は視線の先の若い冒険者が右手を真っ直ぐこちらに突き出すのを見てぎょっとした。
自分たちのやろうとしていたこと――
だが。
「"
桜花達がルームに入るのと同時に白髪の少年が呪文を発動する。
と、彼らがたった今くぐり抜けてきた通路が、無数の白い糸のようなものでびっしり塞がれた。
僅かな時間をおいて、アルミラージや巨大アルマジロ・・・ハード・アーマードの怒りの吠え声が蜘蛛の巣の向こうから響く。
"
さしわたし12mに渡ってびっしりと蜘蛛の巣のような粘着質の糸を張り巡らせる魔法である。
踏み込んだものは糸に絡め取られ、動けなくなってしまう。
糸を張り渡すための壁や天井などがなければ使えない欠点があるが、力づくでこれを抜けるのは中層のモンスターであっても容易くはない。
「今のうちです! 態勢を立て直して!」
「お、おう! 景清、千草の治療だ! 飛鳥は詠唱を! 卜伝は盾をくれ!」
ベルの声に桜花は戸惑いながらもてきぱきと指示を出し、背中の少女――千草を床に下ろす。
自身は黒髪の少女――命と共に仲間の前に立って、怪物達が抜けてきた場合の盾になった。
その横に白髪の少年と赤髪の青年が並び、桜花はちらりと少年の方を見下ろす。
恐らく彼は自分が彼らを生け贄にしようとしたことに気づいていない。
ただ純粋に、こちらがピンチだから助けてくれようとした。
胸に、ちくりと痛みが走った。
「!」
糸の間から吹き出した炎が桜花を物思いから引き戻した。
炎が蜘蛛の糸を舐め、あっという間に焼き切っていく。
ヘルハウンドの炎の吐息はさしわたし12mの蜘蛛の巣を一息に焼き払うほどではないが、それでも熱したナイフがバターを切るより容易く、蜘蛛の糸を切り払っていく。
「ちっ・・・景清! 千草は!」
「もう少しかかる!」
舌打ちする。
少女の肩に食い込んだ石斧は相当の深手で、桜花達が買いそろえられるレベルのポーションでは治療に限界があった。
もう少し高価なものに手を出しておけばとも思うが、故郷に仕送りをしなければならない彼らにはレベルほどの金銭的余裕がない。
ついに炎が蜘蛛の糸を焼き切った。
その奥に光るのは怪物どもの赤い目、目、目。
(来るか・・・!)
大斧を握り直す。隣の命も刀を構え直した。
暗闇の中、赤い目の怪物どもが走り来る。
身構えたその瞬間。
「ライトニングボルトォ!」
黄金の雷光が白髪の少年の右手からほとばしった。
一直線に伸びたそれは通路を突き進み、36mの直線上に存在する全てを灼き尽くす。
同レベルのファイアーボールに比べると敵を巻き込みにくく使用頻度の低い呪文だが、一直線の通路を迫り来る敵を迎撃するのに、これ以上適した呪文はない。
「ライトニングボルト!」
「ライトニングボルト!」
「ライトニングボルトォ!」
火炎攻撃に強い耐性のあるヘルハウンドも、電撃には何ら耐性を持たない。
アルミラージの大群と共に、数発連射するうちに全てが倒れ伏す。
「ふんっ!」
「だりゃあっ!」
この階層では突出した耐久力を持つハードアーマードのみがそれに耐え、球状になって突進して来るも、桜花の大斧とヴェルフの大剣に切り伏せられ、絶命する。
息をついた桜花は、自分でもよくわからない感情と共に白髪の少年を見下ろす。
少年は、荒い息をつきながらもにっこりと笑った。
「あの、その・・・」
「すまん、助かった。俺はタケミカヅチ・ファミリアのカシマ・桜花」
どこか申し訳なさそうに話しかける黒髪の少女と、それを遮って頭を下げた巨漢に首をかしげつつも、ベルは再度笑みで応える。
「気にしないで下さい。困ったときはお互い様ですから。それにタケミカヅチ様と言えば、うちの神様のお友達ですし」
「え?」
「あ、僕、ヘスティアファミリアのベル・クラネルです。こっちはサポーターのリリ、そっちはヘファイストス・ファミリアのヴェルフ」
何気なく告げられた名前に、タケミカヅチ・ファミリアの面々が一斉に青ざめた。
ヘスティアがタケミカヅチの神友なのは彼らも知っている。
あるものは胸をなで下ろし、またあるものは恥じ入り、またあるものはこの借りを深く心に刻む。
リリは彼らが何をやろうとしていたのか何とはなしに察したようだが、結局何も言わなかった。
うぉぉぉぉん。
命の顔を見たベルが何かを言おうとしたとき、その音が響いた。
それも、ルームに繋がる二つの通路の双方から。
「この声は・・・」
「ヘルハウンドだ!」
それまでの雰囲気は雲散霧消し、戦いの緊張がその場を包む。
「景清! 千草の治療は!」
「大丈夫です! やれます!」
「よし!」
「桜花さんたちはそっちの通路を! 僕たちはあちらの通路の入り口を塞ぎます!」
「っ、頼む!」
桜花は駆け出していくベルの背中を見つめ、胸の中のわだかまりを今は忘れる。
生き延びるためにだ。
モンスターはひっきりなしに現れたが、戦いは意外なほどに冒険者側優勢で進んだ。
ルームではなく通路の入り口で迎撃しているから前線を形成でき、包囲されないと言うだけで負担は劇的に減る。
時に押し込まれることもあるが、ベル達はベルの魔法で、桜花達は前衛の桜花と命の二人のLv.2と数の多さでそれをカバーできる。
だからだろうか。誰かがこのままいける、と思ったのも。
ダンジョンがその慢心に牙を剥いたのも。
「!?」
ぐらり、とダンジョンが揺れた。
ひび割れがルームの床と言わず壁と言わず走る。
「いかん! ルームから脱出しろ!」
「そんなこと言ったって、前には・・・!」
モンスターのひしめく通路に無理にでも逃げ込もうとするも、次の瞬間、ルームと周囲の通路はまとめて崩落した。
「うっ・・・」
「ぐうう・・・」
「みんな、無事か! 命! 千草! 景清! 飛鳥! 卜伝!」
「リリ! ヴェルフ!」
ベル達と桜花達はまとめて崩落に巻き込まれ、同じ場所に落ちていた。
足を痛めたもの、生き埋めになったものを協力して助け出す。
ヴェルフと景清が足を痛め、ろくに歩けない状態だ。
「アイテムがほとんどやられちまった・・・そっちはどうだ?」
「こちらもです。特に、マジックポーションはもうありません」
「それは・・・ちょっときついかな」
「中層に下りてから、予想以上に消費が多かったですから・・・」
魔法に頼りすぎていたか、と自責するベルだが、今はそういう事を考えている場合でもない。
頭上に大きく空いた穴を見上げるベル。
("飛行"の呪文・・・いやだめだ。残りの精神力では使えて2回。全員運ぶには足りない。
"
見上げた顔を元に戻し、傍らの大男を見る。
「とりあえず上層への階段を目指そう。桜花さん、それまで一緒に行動しませんか?」
「ああ、こっちには異存はない」
頷く桜花とベルにそれなのですが、とリリが切り出す。
「ここは14階層ではなく15階層かもしれません」
「!?」
「根拠ですが・・・」
落下距離や周囲の光源のパターンを元にしたリリの仮説には説得力があった。
そう言えば、と命も口を開く。
「この階層、確かに14階層ではないかもしれません――感知できるモンスターの種類が少なすぎます」
命は二つの【スキル】を持っている。
一つは効果範囲内の仲間、正確には同じ神の【恩恵】を受けた眷属を感知できる【八咫白烏】。
もう一つは効果範囲内の、遭遇したことのあるモンスターを感知できる【八咫黒烏】。
後者によって感知できる範囲内のモンスターの数が妙に少ない。
13階層とさしてモンスター分布の変わらないはずの14階層であるにしてはおかしなことである、と言うのが彼女の主張だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
暗澹たる雰囲気がその場を支配した。
13階層であれだけ苦労していたパーティが15階層から、しかも精神力もアイテムも乏しい状態で帰還できるか?
かなり分の悪い賭けになるだろうことは、誰の目にも明らかであった。
しかも先ほどの崩落の際、"送信の石"も失われている。
ベルがなけなしの精神力を使って"
範囲内に存在しないと言う事は考えづらいので、壊れてしまったのだろう。
しばらくの沈黙の後、リリが口を開いた。
「お聞きの通り、状況はかなり困難です・・・そこで、リリは十八階層へ下りることを提案いたします」
「「「「「「「はあ?!」」」」」」
その場の全員の声がハモった。
タケミカヅチ・ファミリアのその他のメンバーの名前は、鹿島市の観光名所から取りました。
鹿島神宮は建御雷神を祭る鹿島神社の本社であり、千草と飛鳥はわかりませんが、桜花は多分桜花公園からであろうと思われますので。
(飛鳥建設という会社はヒットしましたw なお茨城限定なら千草という飲み屋も)
というかこの桜花公園って、命名元は特攻兵器の人間爆弾桜花なんですよね・・・(汗)
まさかそう言う意図で付けたわけでもないでしょうが。
アニメやコミック版で弓を持っていたのが景清、千草の容態を見ていた帽子の女の子が飛鳥(これは原作でも名前だけ出ました)、
鉢金を付けてでかいバックパックをしょったサポーターっぽいのが卜伝と、この話では設定しております。
タケミカヅチパーティには攻撃呪文を使えるマジックユーザーが一人はいるのですが、多分景清か飛鳥でしょうね。
この話では後にLv.2に上がった飛鳥が魔法使いとしておりますが、タケさんが救出行に連れて行けと言わなかったあたり、威力が弱いかまだ未熟だったのでしょう。