ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「つまり上に上る場合と違い、15-16階層間と16-17階層間なら縦穴によるショートカットを使えると」
「はい。中層には先ほどのような縦穴が多数存在します。先ほどの崩落も直下にたまたま縦穴があったせいで二階層分を落下したのでしょう。
ここ15階層から12階層に向かうのも18階層に向かうのも三階層分の道程であることは変わりありませんが、18階層に向かうならば、大幅なショートカットを期待できます」
再び沈黙が落ちた。
だが、先ほどとは違う。沈思黙考の沈黙だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!
「前回出現したゴライアスは遠征に向かったロキ・ファミリアが倒したはずです。
ゴライアスの再出現の期間は二週間。今ならギリギリ間に合うはずかと」
「・・・18階層から戻るのはどうするんだ?」
「自力で18階層にたどり着いたパーティの後ろについていかせてもらいます。
そうでなくても、恐らくイサミ様達が迎えに来て下さるでしょう」
「確かに、過保護そうな顔をしていたな」
にやにや笑うヴェルフ。
この場にイサミがいたら、盛大に渋い顔をしていた(そしてシャーナにからかわれていた)ことだろう。
「それならさ、リリ。この場にとどまるのはどうかな。多分6時間くらいなら安全を確保できると思う」
「6時間ですか・・・」
"
おとぎ話のごとく天からロープが降りて来て、それを上ると異次元空間の避難所に入れるという呪文だ。
解呪や次元移動の術でも使えない限り、この中にいる存在に干渉する手段はない。
ただ、この避難所に入れるのは術力に関係なく八人まで。
この人数では二つ作らねばならず、またベルの残り精神力で双方を維持できるのは6時間が限度であった。
「現在時刻は午前10時。もつのは午後4時まで。
イサミ様達が異変に気づいて迎えに来て下さるとしても、気づくのは早くて午後8時、遅くて9時以降。最悪明日の朝。
すぐいらして下さるとは思いますが、万が一の場合見過ごせるリスクではありません」
「むう・・・イサミ・クラネル、お前の兄は強いのか?」
「うん、シャーナさんとレーテーさんはLv.5だし、兄さんはその、レベルはそこまでじゃないけど一緒に深層に潜ってますから」
おお、とタカミカヅチファミリアの面々から声が上がる。
「それなら帰りの足は心配しなくてよさそうだな。みんな、俺はこの賭けに乗ってもいいと思うが、どうだ?」
桜花の問いに、命達がそれぞれ頷く。
頷き返し、桜花はベルに顔を向けた。
「そういう事だ。だがお前達が持久を選ぶならそれに付き合おう。お前の決断次第だ」
「え・・・」
ベルが視線を向けると、ヴェルフとリリも頷く。
しばしうつむいた後、ベルが顔を上げた。
「行きましょう・・・18階層へ」
夕食を五分でかき込んだ後、ヘスティアはレーテーを伴ってタケミカヅチ・ファミリアのホームに、シャーナはヘファイストス・ファミリアの北西支店に向かった。
桜花たちとヴェルフの主神である両神への報告のためである。
一方イサミ達は夕食の残りをタッパーに詰めて魔石冷蔵庫にしまい、"
防御力は気休め程度だが、動きやすいし擦過傷などからは守ってくれる。
「どうだ? 重くないか?」
「流石にこの程度なら・・・大丈夫のようでございますね」
【恩恵】を受けた人間は、ただそれだけで常人とは一線を画した身体能力を得る。
とは言え春姫の場合、ただでさえ肉体的には強くない狐人であるから、筋力と耐久に関してはそのへんの農民や肉体労働者と同程度であろう。
イサミが装備を再度身につけると、二人はバベルに向かって出発した。
なお何気にタッパーはヘスティアの神器であるらしいが、真偽の程は定かではない。
バベルでは他の面々と、神が待っていた。
タケミカヅチ、ヘファイストスの両神が、イサミを見ていぶかしげな顔になる。
「なんだ、お前は?」
「ああ、待って待って。あれはボクの所の子だ」
「あんたの子? ヒューマンなの!?」
心を読めないイサミに驚く二人に、ヘスティアが事情を説明する。
レーテーに"
「それじゃお願いするわね、ヘスティア。うちで中層に潜れるような子供達は出払っちゃってるから」
「こっちはそもそも全員潜ってしまってるからな・・・俺もついていきたいところだが、足手まといがこれ以上増えてもまずいだろう。
頼むぞ、ヘスティア。俺の子供達を無事に連れ帰ってくれ。ヘスティアの子供達もよろしく頼む」
「必ずや」
イサミが礼をし、他の三人がそれに倣う。
「春姫――こんなところで再会できるとは思わなかったが、これが終わったらみんなで祝いの会をやろう。ぱーっとな」
「はい!」
タケミカヅチの言葉に、嬉しそうに頷く春姫。
そこに一見のんきで、どこか油断ならない声がかぶさった。
「いやあ、すごいすごい。心が読めない魔法なんてねえ」
「げっ! ヘルメス!」
タケミカヅチが一転して心底嫌そうな顔になる。
ヘファイストスもやや険しい顔になり、人差し指を突きつけた。
「どこからかぎつけたの? 言っておくけど、今回は私たちの子供の命がかかってるんだからね。
面白半分でちょっかいを出すようなら容赦しないわよ」
「イヤだなあ、ヘファイストス。俺はヘスティアの神友だぜ? 友が困っているときに助けずして何の友か?」
「ヘスティアが地上に降りて来ても会おうともしない神友、ね」
どこからどう見ても「面白半分で首を突っ込みに来ました」といったていである。
イサミが後ろに控えるアスフィにちらりと目をやると、彼女は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「ともかくだ! ヘスティアが子供達を助けに行くと言うなら、俺たちも手を貸そうじゃないか! 頼むぞ、アスフィ!」
「はぁ?! 何ですかそれ! 私聞いてませんよ?!」
動揺するアスフィだが、ヘルメスは意にもかけない。
「はっはっは、今言ったからね!」
「もうやだあ・・・」
「はっはっは」
泣きそうな顔になるアスフィの頭を、ヘルメスがポンポンと叩いた。
「まあアスフィさんならそりゃ実力に不安はありませんけど・・・ヘルメス様もいらっしゃるつもりで?」
「当然じゃないか。俺はヘスティアの神友だからね!」
イサミの醒めた目にも、ヘルメスの鉄面皮がほころぶことはない。
その場にいる人間の視線が、救出団の責任者であるヘスティアに集まった。
「・・・まあ、いいだろう。何かの役に立つかも知れないしね」
「ありがとうヘスティア! 愛してるよ!」
「君はいっぺん死んだ方がいいんじゃないかい、ヘルメス」
全く同感、とアスフィを含む何人かが頷いた。
「そうそう、神様。これ渡しておきますね。ちょっと動かないで下さい」
かがんだイサミが、ヘスティアの襟元にコガネムシの形をしたブローチを取り付ける。
「なんだい、これ?」
「"
負傷すれば自動的に血を止め、更に一回だけですが致命傷を負っても命を取り留めさせてくれます。
神様を中層に連れてくならこれくらいは必要になるかと思いまして」
おー、と感心するヘスティア。
ひょい、とヘルメスがそれを覗き込む。
「いやあ、イサミ君は便利なアイテムを作れるねえ。俺にも一個くれないかい?」
更に図々しい要求をしてくるお調子神を醒めた目でイサミが見下ろす。
「アスフィさんになら喜んでお譲りしますが、何故に神様とはいえ男にただでくれてやらなきゃいかんのです?」
「あはは、そりゃそうだね! こりゃあ一本取られた!」
すいませんすいませんとアスフィが振り子のように頭を下げていた。
神器=タッパーはガチ。