ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-6 【勇者】の笑顔

 意識が覚醒する。

 目を覚ましたベルの視界に最初に入ってきたのは見慣れた兄の顔。そして、それを押しのけて抱きついてきたヘスティア。

 

「ベル!」

「ベルくん!」

「・・・にいさん? 神様? ! そうだ、ヴェルフとリリとタケミカヅチ・ファミリアの人たちが!」

「大丈夫・・・今、みんな目を覚ましたから」

「ファッ?!」

 

 身を起こしたベルの、兄やヘスティアとは反対のがわから声を掛けてきたのは金髪金眼の少女。

 ベルのあこがれの人、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「なななななんでアイズさんがここに!? っていうか、ここどこ!?」

「十八階層だよ。お前はロキ・ファミリアに助けられたんだ」

 

 五十九階層での融合精霊との死闘の直後、ロキ・ファミリアは上層に向けて出発した。

 イサミ達のような便利な魔道具を持っていない彼らでも、今頃は地上に帰還していたはずだったのだが、猛毒のモンスター"毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)"の大量発生に出くわしてしまい、1/3近いメンバーが動けなくなってしまったのだ。

 

「それで・・・今はベートさんが薬を取りに行ってる・・・」

 

 ポイズン・ウェルミスの毒は特殊なポーションか治療呪文がないと解毒できない。

 都市最高の魔導士たるリヴェリアも効果の抑制までは出来ても、完全な解毒は叶わなかった。

 

 そうした理由で十八階層にとどまっていたロキファミリアだったが、十八階層に到着して二日目の夜、寝る前の散歩に出ていたアイズがまさに命からがらといった態で現れたベル達を見つけ保護したのである。

 イサミが念視したのは、アイズがロキ・ファミリアのキャンプ地に応援を呼びに行っている間のベル達だったというわけだ。

 ちなみに今は十八階層の時間では真夜中。地上では夜の九時と言うところである。

 

 テントの中ではベル達とタケミカヅチ・ファミリアの面々が治療を施されて横たわっていた。

 先ほどイサミが発動した回復呪文によって、今はその傷も完全に治り、春姫と再会の喜びを分かち合っている。

 

「アイズ達には本当に世話になってるよなあ。ミノタウロスの時もそうだが」

「いえ・・・クラネルさんには私たちもお世話になりましたし」

 

 イサミとアイズがそんな話をしていると、外から話し声がした。

 

「やほー、お姉さんひさしぶり。【美丈夫(アキレウス)】くんたちいる?」

「いるよぉ。ちょっとぎゅうぎゅう詰めだけどぉ」

 

 ロキ・ファミリアが用意してくれた大型テントも十人以上入ると流石に手狭なので、レーテーやヘルメス達には外で待っていて貰ったのである。

 中に入ってきたのはティオナ・ヒリュテとティオネ・ヒリュテ。

 ロキ・ファミリアのアマゾネス姉妹だ。

 

「おー、アルゴノゥトくん目を覚ましたんだ! ごめんね、こっちもポーションとかなくてさー」

「遠征帰りで物資を分けて貰えた事だけで十分だよ。で、フィンさんが?」

「ええ。目を覚ましたならこっちに来て貰えないかって」

 

 ティオネの言葉に頷き、イサミが立ち上がる。

 

「行けそうか、ベル?」

「うん、僕なら・・・」

 

 起き上がろうとしたベルにヘスティアが待ったを掛ける。

 

「いいよいいよ、君は休んでおいで。死にかけたんだからね。ボクとイサミ君が行ってこよう・・・ただし!」

「は、はい?!」

 

 表情を一転させてぎろり、とベルを睨む。

 

「ボクのいない間に不埒な真似をしないように! 君もだ、ヴァレン(なにがし)君!」

「?」

 

 指さしされたアイズが首をかしげる。

 

「ご安心下さい、ヘスティア様。リリがしっかりと見張っておきます!」

「君もだよサポーター君?」

「ねーねーアルゴノゥト君! 大丈夫? 痛いところ無い?」

「あ、ひょっとしてエルナさん?」

「エルナ?」

「あー、いやそのね・・・」

 

 にわかに賑やかになったテントの中。

 また増えてる?! とショックを受ける紐神をイサミが引きずり、ティオネがフィン達のテントに案内していった。

 

 

 

「はじめまして、【勇者(ブレイバー)】、【九魔姫(ナイン・ヘル)】、【重傑(エルガルム)】。

 ボクがヘスティアだ。ボクの眷属を助けてくれたことに礼を言うよ。

 それと神友のヘファイストスとタケミカヅチに代わって彼らの眷属を助けてくれたことにも礼を言おう」

 

 ロキ・ファミリア首領たちのテント。

 ヘスティアの言葉と共に、後ろに控えていたイサミが無言で頭を下げた。

 

「気にしないで下さい、神ヘスティア。そちらのイサミ君にはこちらも世話になりましたから。

 それにヘファイストス・ファミリアとは盟約を結んでいますから、どのみち助けていましたよ」

「それでもさ、パルゥム君」

 

 ヘスティアの返答に、フィン達の表情がゆるんだ。

 

「何、こちらとしても下心があったわけですからね・・・イサミ君の食事とか」

「ははっ! 確かにそれは助けたくもなるか! イサミ君!」

「はい。みなさんがこちらに滞在する間の食事は、全てこちらで用意させていただきます。

 弟たちを助けていただいて、ありがとうございました。他にもできる事があれば何でも言って下さい」

 

 あらためて頭を下げるイサミ。

 フィンの笑顔は変わらない。

 

「そう言えばテントは大丈夫かい。流石にこちらにももう余裕はないけど・・・」

「持って来てますので大丈夫です。戻ったら立てますよ」

 

 イサミの言葉にヘスティアも頷く。

 

「そうだね、今日は早く寝よう。何か、どっと疲れたよ」

「初めてのダンジョンでしたからね・・・俺やベルも最初は緊張感が半端無かったものです」

「それじゃ、そろそろお暇しようか。こっちはもう真夜中だし、居続けても悪いだろう」

「はい、神様」

 

 一礼して立ち去ろうとするイサミをフィンが呼び止める。

 

「あ、イサミ君は残ってくれないかな。ちょっと話したいことがあるんだ。時間は取らせないよ」

 

 イサミが視線だけで問うと、ヘスティアが頷く。

 

「それじゃボクは先に行ってるよ。それじゃお休み、【勇者(ブレイバー)】くん、【九魔姫(ナイン・ヘル)】くん、【重傑(エルガルム)】くん」

「おやすみなさい、神ヘスティア」

「おやすみなさいませ」

「良い夢を」

 

 ヘスティアがテントの垂れ幕をくぐって姿を消すと、イサミは三人に向き直って絨毯の上に腰を下ろした。

 

「それで、話というのは?」

「君のことさ。前々から思っていたけど君、ダンジョンの中をあり得ない速度で移動する手段を何か持っているんじゃないかい?」

「ここでそれを聞きますか」

 

 と、イサミは苦笑する。

 質問の態を取りつつ、それは確認だった。

 

 確かにイサミ達は大所帯のロキ・ファミリアに比べ身軽であるし、高レベルのメンバーで固めているから、一日ほど早く地上にたどり着いていてもおかしくはない。

 日数を考えると、そこからとんぼ返りしてきたと考えるのが自然だ。

 

 だがそれにしてはイサミ達に疲労が残っていなさ過ぎたし、ベル達の到着からの時間が余りにも早すぎた。それ自体は別の要因によるものではあるが、流石にフィン達がそこまでわかるわけはない。

 

 先ほどイサミ達がロキ・ファミリアの野営地に入る際にもフィン達とは顔を合わせたが、その時の短い会話からフィンは何かを掴んでいたのだろう。

 もちろん12階層で出会った時や37階層の時、その他の行動で色々と不審を抱かれていたのもあるのだろうが。

 

 しゅるり、とイサミがベルトを抜いて、眼前に置いた。

 

「"グワーロンのベルト"という魔道具です。一日一回、十二時間、12人までの人間を――そうですね、煙というか空気のような姿に変え、風のように移動することが出来ます。

 【エアリエル】抜きのアイズが全力疾走するより速いくらいの」

「・・・!」

 

 ロキ・ファミリアの首領三人が揃って目を見張る。

 真っ先に口を開いたのはドワーフの大戦士ガレスだった。

 

「風になると言うが、その間攻撃は・・・」

「もちろん受けません。空気を切り裂く剣があれば別ですが。ただ、ブレスなどの効果は通常通り受けますので無敵というわけでもありません。

 そもそも発見したり捕捉したりすること自体難しいですけどね」

「大雑把でいい。深層までの移動時間はどれくらいだ?」

「37階層に到達するのに10分。50階層でも20分という所ですか。各所の縦穴でショートカットをしたうえでの数字ですが」

 

 再び落ちる沈黙。

 深層への「遠征」の主なネックはそこまでの移動時間とそれに伴って発生する戦闘でのロス、必要になる食料・武器・薬などの物資だ。

 大荷物は運べないものの、この方法があればそもそも荷車などは必要なくなる。

 

「君たちが急速に力を付けた理由がわかったよ。

 こんな便利な魔道具があれば、それは効率よく探索を進められるだろうさ」

 

 お手上げとでも言いたげに、フィンがため息をついて天を仰ぐ。

 イサミが笑みを浮かべて肩をすくめた。

 

「ま、弟たちを救っていただいたお礼です。これは差し上げますよ」

「良いのかい?」

「弟の命より重いものではありませんよ・・・ですがご内密に。出所はもちろん存在も秘密にしていただけると助かります」

「それは約束しよう。悪用したらどうなるか、ちょっと考えただけでも寒気がするよ」

 

 空気になれば空も飛べるし、どんな細い隙間からでも出入りできる。

 どんな鍵も、どんな頑丈な鉄格子も、どんな固い警護も無意味になる。

 盗賊や暗殺者にとっては、いかなる手段を用いても手に入れたい代物に違いあるまい。

 

「それと、使う時はまず練習した方がいいですよ。凄いスピードが出ますから、はぐれないように隊列を組むには慣れが必要です」

「ふむ、実体験から来るセリフか?」

「黙秘権を行使させて頂きます」

 

 にやっと笑うリヴェリアに、肩をすくめて答える。

 

「しかし12人というのがネックじゃな。もし注文したら、追加で作ってくれるかの?」

「まぁそれは構いませんが、高いですよ、そこそこ」

「いくらじゃ?」

「2100万ヴァリス。ざっと十日ほどもかかることを考えれば、ダンジョンでの日当分、それなりに色を付けて貰いたいですね」

「思ったよりは安いが、さすがにいい値段じゃのう・・・いや、最深層の十日分となると下手な装備品どころではないな」

 

 ヒゲをしごきつつガレスが唸る。

 普段の彼らなら不可能ではないが、経済的に多大な消耗を負った今はぽんと出せる金額ではない。

 遠征隊全員に使うためには更に何本か必要になるのでなおさらだ。

 

「むしろなんて安いんだ、と思って頂きたいですね。材料と手間賃だけで、需要による割り増しは付けてませんから」

「確かに十倍・・・なんなら百倍の値段でも欲しがる奴はいるだろうな」

 

 リヴェリアもため息をつく。

 

「まあ注文を受けるときの問題はむしろ、そちらの主神とウチの神様がやたらに仲が悪いことですけどね・・・神ロキがウチの神様にやたら突っかかってくるようですが、どうにかならないんですか、あれ」

「・・・ならないだろうねえ」

「ならんだろうなあ」

「ならんじゃろうなあ・・・」

 

 三人が揃ってため息をついた。

 己が主神の平たい胸と、先ほどまでそこにいたヘスティアの豊かな胸を脳裏で比べていたのは疑う余地もない。

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