ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
ともあれそこで話は終わり、イサミはベルたちに割り当てられたテントに戻った。
フィンはまだ何か気づいているようでもあったが、それ以上は追及しなかった。
今回の貸しで聞き出すのはここまで、ということなのだろう。
「あ、来たよ! おーい! 早くテントを用意しておくれよ! ボクはベルくんと同じ布団でも全然オッケーなんだけどさ!」
「何を言っているんですか! ベル様はお疲れなんです! そんな邪魔者と一緒では疲労が取れません!」
「誰が邪魔者だ?!」
「はいはい、テント張るからちょっとどいてて下さいね。言い争いはテントの中で好きなだけして下さい」
投げやりに言うと、イサミは懐から手のひらの上に乗る程の布の塊を取りだした。
カンバス地(帆布、平たく言うとジーンズの生地)で作られたそれは正四面体をしており、秘術的な印が縫い取られている。
「グウォウ」
合い言葉を唱えてイサミがそれを放り投げると、帆布の塊は見る間に巨大化し、縦横6mの大型テントになった。
"デイルンズ・インスタント・テント"。
五十階層でも使った携帯用の魔法のテントである。
「こっちは俺らとアスフィさんたちで、借りたテントはタケミカヅチ・ファミリアの人たちで使って貰おう。お春もそっちで寝ていいぞ」
「あ、ありがとうございますイサミ様!」
頭を下げる春姫――ハット・オブ・ディスガイズを取って元の姿に戻っている――に早めにテントの中に戻るように促すと、イサミも自分たちのテントの中に入っていく。
金髪の狐人の姿を見て、ヘルメスがかすかに眉をひそめた。
「ヘルメス様?」
「なんでもないよ。俺たちも寝ようか。ヘスティアじゃないが俺も疲れた」
「・・・」
いぶかしむアスフィをよそに、ヘルメスはイサミの出したテントに入っていった。
「ああそうだ、ヴェルフ君」
「なんでしょう?」
それに続いてテントに入ろうとしたヴェルフに、ヘスティアが声を掛けた。
イサミに背負わせていた細長い包みを受け取り、長身の鍛冶師に渡す。
「ヘファイストスからの預かりものさ。伝言もある。
『意地と仲間を秤に掛けるのはおやめなさい』だってさ。
何のことだかボクにはわからないけどね」
「・・・」
手渡された包みが、不意に重みを増したようにヴェルフには思われた。
「ほら、ティオナ、アイズ。私たちも戻るわよ」
「うん・・・おやすみなさい」
「はーい。アルゴノゥト君、明日、またお話ししようねー!」
「は、はい。おやすみなさい」
ロキ・ファミリアの面々も去り、一同は寝具を広げて横たわった。
隣のテントからは賑やかな話し声も聞こえてきたが、それもやがて途切れた。
「・・・ベル、起きてるか?」
「うん・・・なんか、眠れないんだ。疲れてるはずなのに」
「"
「うん・・・」
しばし、沈黙が落ちる。
「なあ、ベル」
「なに?」
「お前が生きててくれてよかったよ。よく生き残った」
「・・・うん」
今度の返事は、少し湿っていた。
「おやすみ、ベル」
「おやすみ、にいさん」
「うめー!」
「うははは、甘露甘露!」
「何だこりゃ、うめえ・・・」
「春姫どのは毎日このような食事をしてらっしゃるのですか?!」
「い、いえその、最近はわたくしもイサミ様に料理の手ほどきをしていただいて・・・」
翌朝、ロキ・ファミリアの食卓はいつになく賑やかなものになった。
イサミ達が加わった上に毒に倒れた者達をイサミが解毒したので人数が増えていること、50階層以来のまともな食事であることが主な理由だ。
「しかしベートに地上に向かって貰ったのが半分位無駄になってしまったね」
「まあ、解毒剤はいつかの時に使えるだろうさ」
ポイズン・ウェルミスの毒は特殊なポーションか呪文がなければ解毒できないとは先に述べたが、桁外れに高い術力と最上級治癒呪文である"
ポイズン・ウェルミス用の解毒剤は高価かつ現在のロキ・ファミリアの懐事情は極めて寒いので、どうせ来るならあと一日早く来て欲しかったとは口には出せない本音である。
食後。
全員が食べ終わったところを見計らい、イサミが呪文を唱える。
長テーブルと椅子が、テーブルの上の食器や食べ残しなどと共にすうっと消えた。
「後片付けしなくていいのは楽でいいよね」
「だよなあ」
しみじみと頷き合う兄弟。
確かに七十人を超す宴会の後片付けなど、どれだけ手間がかかるか考えたくもない。
偉大なり魔法。
頷きあっているところに、つつつと近寄ってきたのは満面の笑みを浮かべるティオナ。
後ろにはアイズとティオネもいる。
「アルゴノゥトくーん。お話ししよっ!」
「むう、来たなアマゾネスくん! そしてヴァレン某!」
素早くベルの腕を取ったヘスティアが、ティオナたちを威嚇する。
もっとも威嚇されたティオナの方は、ヘスティアの剣幕を見てほにゃっとした顔になっていた。
子犬にじゃれつかれているような感覚なのだろう。
「え? で、でも、僕は帰らなきゃ・・・兄さん?」
「あー、ロキ・ファミリアは毒を受けてた連中の休養に今日一日はここにいるそうだからな。
それまでは俺もここにいるし、ついでにお前達も骨休めしてこい。
せっかく"迷宮の楽園"に来たんだし、神様連れてリヴィラでも見物してきたらどうだ」
そう言いつつ、イサミが剣やポーチの下がったベルトを身につけ始める。
「あれ、【美丈夫】くん、どこか行くの?」
「日銭稼ぎにな。昼飯には戻るよ」
「あなたくらいのレベルで中層をうろうろしても大した稼ぎにはならないでしょうに。勤勉ねえ」
「貧乏性なのさ」
そのまま後ろ手に手を振って、本当にイサミたちはダンジョンに潜ってしまった。
もちろんイサミ達は"ウィンドウォーク"呪文(一日一回だが自前で使える)で最深層に向かうつもりだが、フィン達は"グワーロンのベルト"のことをまだティオネ達にも話していない。
ゆえに、彼女たちとしては当然こういう反応になる。
「ぜぇ・・・ぜえ・・」
「ほら、神様しっかり!」
リヴィラの街は湖から数十mも垂直に飛び出した岩山の上にある。
岩山に刻まれた階段や手すりもない丸太橋を上り下りするのは【恩恵】を受けた冒険者にはいざ知らず、ヘスティアには厳しかったらしい。
「ああ、これはいい眺めだなあ。冒険者の子供達がうらやましいよ」
もっとも、同じく神でありながら年の半分をオラリオ外を旅して過ごすヘルメスは涼しい顔なので、単にヘスティアが体力不足と言う事だろう。
それはともかく、ヘスティアが最後はベルにおぶわれながらも、一行はリヴィラに到着した。
断崖絶壁のてっぺんに築かれた町並みは壁に囲まれ、水晶をちりばめた箱庭のようでもある。
「この街は冒険者達が作ったんです。
ギルドが失敗した拠点の計画にちゃっかり乗っかって、自分たちの商売に活用してるわけですね。
結果的には中層から下層を目指す冒険者達のベースキャンプになっていますので、ある意味ギルドの狙いは達成されたと言う事でしょうか」
アスフィの解説を聞きつつ、冒険者達は三々五々別れていった。
桜花達は湖の景色を見に行き、アスフィとヘルメスはいずこかへと姿を消す。
「むー・・・・!」
そして、ヘスティアはベルの腕にかじりつきつつ、憤懣やるかたない表情であった。
「ベルくんと二人きりのはずだったのに、どうして君たちまで一緒に来るんだい!」
「つっても、別行動する理由がありませんしねえ・・・」
「ヘスティア様とベル様を二人きりにしておいたら、何が起きるかわかったものではありません!」
「いーじゃない、みんな一緒の方が楽しいよ?」
「・・・?」
ヴェルフが肩をすくめ、リリが噛みつき、ティオナがほにゃっとした表情で巨乳幼女を愛でる。
アイズがぽややんとした顔で首をかしげた。