ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-9 さあ、お前の罪を数えろ

 18階層の夕方。

 イサミ達が野営地に戻ると、顔を青黒く腫れ上がらせたヘルメスが木から逆さに吊されていた。

 憤懣やるかたない表情のアスフィが仁王立ちでそれを睨み付けており、周囲にロキファミリアの女性陣とベル達がいる。

 

「・・・何があったんだ?」

 

 嫌な予感を感じつつ尋ねると、視線をそらす弟に代わって妙なテンションのヘスティアが答えた。

 

「それがヘルメスの口車に乗って僕たちの水浴びをのぞいてさー。

 ぼ・く・の! 裸が見たいなら言ってくれればいいのにね!」

「ベル! お前っ!」

「ごっ、ごめんなさいっ!」

 

 怒りに拳を振り上げるイサミを、慌てて周囲が止めに入った。

 間違ってもそういう事はしそうにないベルであるし、主犯は間違いなく逆さづりの蓑虫神だと衆目も一致している。

 ベル本人が先ほどまで土下座行脚していたのだから尚更だ。

 

「だからといって、何かしらケジメは・・・」

「しょうがないですよ。それにあれですよ、ほら。私たち年下には甘いですから」

「む」

 

 なおも言いつのるイサミに、ティオネがいたずらっぽく微笑んだ。

 58階層で自分の言った言葉がそのまま戻ってきた恰好である。

 

 さしものイサミも、これには苦笑して引き下がるほかなかった。

 とりあえず、弟の頭に拳骨を一つ。

 

「痛っ!」

「痛いだけですんでありがたいと思え。周りのお姉さん方にちゃんとお礼を言っておけよ」

「はぁい・・・」

 

 ため息をつくイサミと、頭を抑えるベルの姿が周囲の笑みを誘った。

 なお冒険者の暗黒面に落ちていたレフィーヤは、シャーナが身を張る事で正気に戻ったようである。

 ベルが本当に礼を言うべきは、周囲の女性よりむしろ彼女であろう。

 

 

 

「・・・で、どちらが目的なのですか?」

「何がだい、アスフィ?」

 

 三々五々人も散り、周囲から人がいなくなった頃。

 アスフィが蓑虫状態のままのヘルメスに問うた。

 

「クラネル兄弟のことです。どちらがお目当てなのですか?」

「両方さ。けど、強いてどちらかというなら――弟君のほうかな?」

「そうなのですか? てっきり兄の方に注目してるかとばかり」

「まあ普通ならそうだろうね。ただ、弟君の方もちょっとばかり気になってね。それに――」

「それに?」

 

 沈黙が落ちる。

 ヘルメスは薄笑いを浮かべたまま、アスフィの問いに答える気は無いようであった。

 

 

 

「そう言えばお兄さんの方とは進展してるの? 時々会ってるんでしょ?」

「な、何故それを!?」

 

 ヘルメスの言葉に、アスフィがびくっと身を震わせる。

 ちっちっち、と(蓑虫にされているので口だけで)言った後ヘルメスがにやにや笑いを強くする。

 

「君の主神がどんな神か忘れちゃったかな? 情報は何よりも高い値が付く商品なんだぜ。で、どうなの。どうなのさ?」

「そ、そんな事は話してません! 愚痴を聞いて貰ったり、後は技術的な話を・・・」

 

 頬を染めながらも全力で否定するアスフィに、ヘルメスが思わず真顔になる。

 

「・・・ひょっとして魔道具の話しかしてないわけ? 男女が二人で会ってるのに?」

「い、いいじゃないですか別に!」

「色気のないことだねえ」

 

 くせ者のこの神には珍しく、ヘルメスは心底からのため息をついた。

 

 

 

「ところでアスフィ、そろそろ縄を解いてくれる気は無い? 後治療もして欲しいんだけど・・・」

「自業自得です。気が向けば夕食の時には解いて上げましょう」

 

 冷徹な瞳で自分を見下ろしてくるアスフィに、ヘルメスは逆さになったまま再び薄笑いを浮かべる。

 

「厳しいなあ。気になる男の子に迷惑を掛けたのがそんなに不満かい?」

「イサミ君は関係ありません!」

「あれー、俺はベルくんのことを言ったつもりだったんだけどなー」

「・・・っ!」

「なんだ、やっぱり結構気にかけてるんじゃーん?」

 

 再び頬を染めるアスフィにしてやったりの表情になるヘルメスだったが、それも彼女が懐から何やら禍々しい形の短杖(ワンド)を取り出すまでであった。

 

「さあ、自分の罪を数えなさいこのスットコ神。数えられればの話ですが!」

「あ、ちょっと、アスフィちゃんタンマ。その魔道具と表情は反則・・・ぎゃああああああああああああ!?」

 

 自らの主神に対する、魔道具までを駆使した生かさず殺さずの折檻は、それから一時間以上続いた。

 なお夕食にヘルメスは出席しなかったことのみ言い添えておく。

 

 

 

 夕食後。

 ロキファミリアの女性陣に愛でられるシャーナを見捨て、一人先にテントに戻る途中のイサミが足を止めた。

 闇に沈む木立に視線を向けると、まもなくその中から覆面とフードを身につけたエルフが現れる。

 下ろした覆面の下からリューの顔が現れた。

 

「さすがですね。気配は消したつもりでしたが」

「耳はいいほうなんですよ。リドさんたちは?」

「北の方に待機しています。彼らがあなた方を見かけたというので、私が代表して接触に来ました」

 

 ふむ、とイサミがあごに手をやった。

 

「つまり何か俺に手助けして欲しいことがあると」

「はい。闇派閥の残党とおぼしき・・・」

 

 そこで会話が途切れ、二人が同時に後ろを向いた。

 薄闇の中に浮き上がるのは、白面玲瓏という表現がぴったりの黒髪のエルフ。

 24階層で僅かながら戦いを共にしたディオニュソス・ファミリアの魔法剣士、フィルヴィス・シャリアであった。

 

 ロキファミリアの見張りを捜して案内を請おうとしていたのだろう。

 イサミ達のテントは野営地の隅であるため、たまたま彼らと行き当たってしまったものと思われた。

 

「やあ、フィルヴィスさん。おひさし・・・」

 

 挨拶をしようとしてイサミはぎょっとする。

 立ちすくむフィルヴィスのまなこに、大粒の涙が盛上がっていた。

 リューはそんなフィルヴィスを静かに見つめている。

 

「生きて・・・生きていらしたのですね、【疾風】・・・!」

 

 リューに駆け寄り、その手を握りしめる。そこから後は言葉にならない嗚咽だった。

 

「おいこらイサミ! てめえ、良くも見捨てて・・・あん? どうしたんだ?」

「シャーナちゃん待って下さいよ・・・フィルヴィスさん?」

 

 ほうほうのていで逃げ出してきたシャーナと、それを追ってきたレフィーヤが目をしばたたかせる。

 薄闇の中にフィルヴィスの嗚咽だけが響いていた。




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