ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-11 トラッキング

 その後は和やかな雑談が続いた。

 それぞれのファミリアの男どもをサカナにして盛上がったり、ファミリアに入った頃のアイズの話をしたり。

 レフィーヤと服を選んだ時の話が出て、当のシャーナの顔が引きつったのはご愛敬か。

 

 やがて話題も尽き、会はお開きとなった。

 シャーナとリューが一礼して席を立ち、フィルヴィスも続けて席を立つ。

 そのまま懐から出した書状を、うやうやしくリヴェリアに差し出した。

 

「これは?」

「我が神からの言伝です」

 

 開封して一読する。

 

「これはロキの方にも?」

「同じものが届いているはずです」

「わかった。フィンたちとも話して、可能な限りすぐに戻ろう」

「はい。それではわたくしもこれで」

 

 一礼してコテージを出ると、そばの木の根元にイサミが座り込んでいた。

 どうやら彼女たちの会合が終わるまで待っていたらしい。

 その横にはシャーナとリューの姿もある。

 

「・・・あの、【疾風】。これから?」

「少し気になることがありまして。クラネルさんたちにも少し手伝って貰うつもりです」

 

 リューの言葉にフィルヴィスが少しうつむいた。

 

「そうですか・・・お手伝いできればよかったのですが」

 

 その肩に、そっとリューが手を触れた。

 

「気にやむことはありません、フィルヴィス。恐らくあなたがたが追っているものと、私が追っているものは同根だ。

 同じものを違う方向から追っていけば、いずれ共に歩むこともあるでしょう」

「・・・はい」

 

 硬い表情のままフィルヴィスが頷く。

 イサミとシャーナは僅かな違和感を覚えたが、口にはしなかった。

 

 

 

「それではおやすみ」

「おやすみなさい、リヴェリアさん」

 

 リヴェリアやレフィーヤたちも去った後、"安全宿"を解除する。

 それから三十分後、食事の後片付けを済ませたイサミは、ヘスティアたちに断りを入れ、リューと共に北へ向かった。

 

 

 

「おーう、イサミっち! シャナっちにレーテー! 悪いな、わざわざ!」

「お久しぶりー。元気してたー?」

「わぷっ?!」

「こら、抱きつくな!」

 

 ロキ・ファミリアの野営地から北北東に一キロばかり行った森の中に10人ほどの赤外套達が集まっていた。

 レーテーに次々とハグされて目を白黒させるリドらをよそに、早速本題に入る。

 

「それで、怪人たちが何だって?」

「あ、ああ。あいつらじゃねえんだが、仲間が怪しい冒険者らしいのを見かけてな。

 そいつらを、この階層の東のほうで見失ったってんだよ」

 

 18階層の東から南にかけては鬱蒼とした森林地帯になっている。

 17階層からの入り口が南端、18階層への出口が中央。リヴィラの街は西部の湖畔にあり、ロキ・ファミリアの野営地は南端近くにあった。

 

「それが怪人とどう関係が?」

「それが先日クラネルさんに似顔絵を頂いた、例の商会に出入りしていた男らしく」

「なるほど。そいつは確かに無関係とは言い難いですね」

 

 イサミが真剣な表情になる。

 リューが頷いた。

 

「探したのですが、それらしき洞窟などは見つからず・・・クラネルさんの力をお借りできればと」

 

 少し考えていたイサミが頷いた。

 

「わかりました。とりあえずそいつを見つけた地点まで案内して下さい」

「見失った辺りじゃなくてか?」

「ええ」

 

 

 

 リドの仲間の小人族に案内されたのは、何ら変わったところのない森の中だった。

 ただし素人の目で見れば、である。

 

「おい、イサミっち。何してんだ?」

「しっ。お静かに」

 

 トラッキングという技術がある。

 足跡などの痕跡(トラック)や糞などの残留物を調べ、標的――多くは狩りの獲物である動物――を追跡する技だ。

 そこから転じて現代では商品流通やインターネットのアクセス元を調べることも指す。

 ファンタジー世界では「指輪物語」のアラゴルンがこの技術の持ち主として余りにも高名だろう。

 

 今イサミがほとんど地面に這いつくばるようにして行っているのは、まさにそれだ。

 違うのは、相手が人間であるという一点のみである。

 

「けどぬかるみでもない固い地面で、足跡なんか残ってないだろ? そんなのわかるのか?」

「狩人の技を侮ってはいけません。私はさほど得手ではありませんが、熟練の狩人は一月前の足跡ですらたどることが出来ます。

 ましてやここは雨も降らぬ迷宮の中。クラネルさんならあるいは・・・」

 

 リドたちは迷宮の中とオラリオしか知らない。シャーナとレーテーも似たようなものだ。

 リューを除く彼ら"都市(アーバン)"の冒険者には、そもそも「あるかないかわからない足跡をたどる」という発想がない。

 足跡は「あるか」「ないか」の二択だ。

 

 しかし"野山(ウィルダネス)"を駆ける狩人――いや、野伏(レンジャー)は違う。

 彼らにとって足跡は常にそこに存在する。薄れこそすれ、消えることは決して無い。

 追える足跡と追えない足跡を分けるのは、ただ本人の技量のみ。

 

「・・・・見つけた」

「!」

 

 赤外套達の間に静かな興奮が広がる。

 もちろんただ手がかりを見つけただけに過ぎないが、それでも未知の技術を見せられ、少年のように心を躍らせているようであった。

 

(ふうん? 腕は立つみたいだが、意外に若いのかね、こいつら)

(かわいいよねえ)

 

 意外そうに赤外套達を見やるシャーナとにこにこするレーテーである。

 

「しかしお前、本当に何でも出来るのな」

「"魔術師(ウィザード)"ですから」

「いや魔術師関係ねえよ」

 

 軽口を叩く二人であるが、イサミが歩き出したのを見てシャーナも口を閉じた。

 腰をかがめてそろそろと歩くイサミから10m程離れて、赤外套達がややおっかなびっくりでついていく。

 その後ろにシャーナ、レーテー、リューの三人。

 

 イサミが立ち止まる。後ろの赤外套達も一斉に立ち止まった。

 イサミが立ち上がって周囲を見渡すと、リドたちも意味もなく周囲を見渡す。

 イサミが足跡を逆にたどると、慌てたように後退する。

 

 地面に顔を近づけて微動だにしなくなったときは、全員が拳を握ってそれを注視した。

 そして、イサミが再び歩き始めるとまたその後について歩き出す。

 

(カルガモか何かか、こいつらは)

(かわいーなあ、もう!)

 

 シャーナが呆れてため息をつくのと、レーテーが相好を崩すのがほぼ同時だった。

 

 

 

 追跡は続く。

 イサミの見つけた足跡は、やはり東へ向かっていた。

 30分、距離にして1kmほどを移動してたどり着いたのは、水晶の柱と木々の入り交じる幻想的な森。

 その突き当たりのそそり立つ岩壁――18階層の外壁の前でイサミは足を止めた。

 

「ここで足跡は途切れてますね」

「え・・・でもイサミっち、壁じゃねえか?」

 

 コンコン、と岩壁を叩いたリドが怪訝な顔になる。

 赤外套達の何人かも同様だ。

 

「なあ、イサミっち。これってまさか・・・」

「お見事。ビンゴみたいですね」

 

 ぐっ、と親指を立てるイサミ。

 逆にリューやシャーナ、レーテーは何が何やら、という顔だ。

 

「見た感じ、砕けた岩の痕跡がありますから、割と最近にも――まあそれはいいでしょ。

 ちょっとどいて下さい。ぶち破ります」

「おう」

「"物質分解(ディスインテグレイト)"」

 

 短く呪文を唱えたイサミの手から、破壊の魔力を込めた無色の光線が迸る。

 光線は正面の岩壁に命中し、それを3m立方の形にえぐる・・・事にはならなかった。

 

「これは・・・」

「すごい! 未到達領域?!」

「いや、違うぞ! こいつぁ迷宮じゃねえ!」

 

 "物質分解"が命中した後には縦横5mほどの開口部が開いていた。

 特筆すべきはその壁が石組み――人工物であると言う事。

 

 大前提として、この迷宮は人間の手による物ではない。《白宮殿(ホワイトパレス)》と称される37階層にしても、壁が白いからそう呼ばれているだけであって、構造自体はその他の階層と変わらない天然のダンジョンである。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「奥のは・・・扉か?」

「少なくとも人工物ではありますね。"開けゴマ"とでも唱えてみますか?」

「そいつぁおまえの弟に任せるよ。おとぎ話なんかとうの昔に忘れちまったからな」

 

 軽口をたたくシャーナたちをよそに、リューがリドに視線を向けた。

 

「言われてみれば壁を叩いた音がおかしい感じではありましたが・・・よくあれだけでわかりましたね?」

「俺たちも同じ事をしてるんでね。ダンジョンの壁や水晶は壊してもすぐに直る。隠れ家にはうってつけだ」

「なるほど。ですが・・・」

「ああ、俺たちはダンジョンの構造を利用してるだけだが、この先のは違う。どうやって作ったんだ、こんなもん・・・?」

 

 早くも再生を始める岩壁、その奥に見える石組みの通路を二人は厳しい目で見やった。

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