ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-12 人造迷宮

「待った」

「!」

 

 イサミの声で、一同が足を止めた。

 

「罠か?」

「わかりませんけど、ちょっとそのまま」

 

 ふわり、とイサミの体が宙に浮いた。

 取り付いたのはガーゴイルを刻んだ壁の彫刻。その影に巧妙に隠された水晶の花。

 そこから発せられる魔力の波動を、イサミの魔力視覚が感知したのだ。

 腰のポーチからサファイアのレンズがはまった手持ちの眼鏡を取り出す。

 

「"魔力分析(アナライズ・ドウェオマー)"」

 

 レンズを通して花の中に見える、魔力線と呪文式。

 魔術師レノアの作った杖の整然としたそれとは異なり、複雑かつ有機的にからみあったそれらは人工ではなく天然の魔力回路――つまり、魔法的生物が生まれながらに持つそれだ。

 

「魔力の系統は占術・・・映像と音の認識、それに伝達と・・・やっぱこれ隠しカメラか」

「何だって?」

 

 聞き返してくるリドに、イサミは唇に指を一本当てて返した。

 ふわり、と音を立てずに床に降り立ち、同じく音を立てずに呪文を発動する。

 

「《音声省略(サイレント)》"集団不可視化(マス・インビジビリティ)"」

 

 その場にいた全員の姿が不可視になる。続けて更に呪文を発動。

 

「《音声省略(サイレント)》"レアリーの心的結合(レアリーズ・テレパシックボンド)"」

 

(よし、これでみんな俺の声が聞こえるな?)

 

「ふぇッ?!」

「なんだこりゃ? 頭の中に声が・・・!」

「シッ」

 

 一瞬ざわめいた一同だったが、再度の制止ですぐに静まりかえる。

 

(声を立てないで、頭の中で話して下さい。これはそう言う呪文なので)

(音を立てないで話せるのか。こいつぁ便利だな。でもどうしていきなり?)

(今調べた奴、あそこにあるのは魔法の「目」です。

 この通路をずっと見張ってて、その光景をどこか、千里眼の水晶玉みたいなものに伝えてる)

 

 一同の顔が引き締まる。

 

(フェルズが使ってる奴と同じか)

(近いですね。まさかこんな仕掛けまであるとは・・・)

(俺たちの侵入はもう察知されてるってわけか)

(わかりません。全ての地点を常時監視できてるとは限りませんし)

 

 一同の視線が互いの上を行き来する。("集団不可視化(マス・インビジビリティ)"で全員一度に透明化しているので、彼ら同士の間であれば姿は見える)

 代表してリドが口を――むろん精神の方――開いた。

 

(どうするよイサミっち? 察知されてるなら一端引くのも手だが)

(取りあえず、調べられるところまでは調べましょう。少なくともこの扉の先くらいは)

 

 その場の全員が頷いた。

 

 

 

 通路の行き当たりを調べていたイサミの喉が、ひぐっ、と奇妙な音を立てた。

 

(おい、どうした?)

(これ、オリハルコンだ! オリハルコンの扉ですよ!)

(ファーッ!?)

 

 シャーナたち三人に驚愕が広がった。

 赤外套達は今ひとつぴんと来ないようだったが、イサミの説明で大体のことは理解したようである。

 

(つまり、壊すこともぶっ飛ばすことも出来ないって事か。イサミっちの呪文でもか?)

(無理だなあ。アダマンタイトなら出来なくもないが、オリハルコンは無理)

 

 超硬金属(アダマンタイト)最硬精製金属(オリハルコン)の最大の違いは硬度よりもむしろ魔法抵抗力にある。

 極めて魔法的な金属であるオリハルコンは、魔法に対しても絶対的な防御力を誇る。

 

 固いから魔法の攻撃に耐えられると言うことではない。根本的に魔法を受け付けないのだ。

 変形や物質分解といった物質に直接作用するイサミの魔法に対しても、オリハルコンはほぼ完全な抵抗力を持つ。

 

 "隠し扉感知(ディテクト・シークレット・ドアーズ)"の呪文で調べてもみたが、開閉に特定のマジックアイテムが必要と言うことがわかったのみだった。

 一方、壁に穴を開けられないか試していた赤外套達が石壁の下にもう一枚、金属の壁があるのを発見する。

 

(うわっ! 見ろよ! 壁の石組みの裏、これアダマンタイトだぜ!)

(こっちも純度高そうだなあ・・・扉がオリハルコンで壁がアダマンタイトとか、どれだけ金掛けてるんだ・・・)

 

 ふう、とリドがため息をついた。

 

(こりゃどうしようもねえなあ。ここを見張って、出入りするところを捕まえるしかねえか?)

(いや、壁に穴開ければ大丈夫ですよ)

(ああ、やっぱイサミっちでも無理だよな・・・開くのかよ!?)

(アダマンタイトなら出来る、と言ったでしょう? "千里眼(クレアボヤンス)")

 

 透視の呪文を唱えると、イサミはじっと周囲を観察する。

 その後、おもむろに扉横の石壁を素手でたたき割り、下のアダマンタイトを露出させた。

 

("物質分解(ディスインテグレイト)"――"物質分解(ディスインテグレイト)"!)

 

 "物質分解"二回で6mのバイパスを掘り、向こう側の扉横の石組みを裏から崩して、一行はあっさりと扉を通り過ぎた。

 

(見事ですね。しかし、石組みの壁ごと分解しなかったのは何故?)

("物質分解"したものは元に戻せませんけど、砕いただけなら呪文で修理できますから。

 侵入した後で石組みの壁を元に戻せば、どこから侵入したか相手にはわからないでしょう?)

 

 言いつつ、"致命的損傷修復(リペア・クリティカル・ダメージ)"呪文を発動する。

 地面に散乱していた石のブロックや破片がふわりと浮いて結合し、高さ50センチほどの石壁が再生した。

 完全に修復すれば、見た目にはその裏に穴があるなどもうわからないだろう。

 

(ほんと、便利な奴だなあ、おまえ・・・)

魔術師(ウィザード)ですから)

 

 言いつつイサミはしゃがんで石壁の破片を調べる。

 

(どうした?)

(いえ、今修復魔法の効きが悪かったので・・・ああ、なるほど)

 

 崩れた石の中には黒曜石のように見える黒いものが混じっていた。

 

(なんだそりゃ?)

(オブシディアン・ソルジャーの体石じゃないかなと)

(ええっと・・・魔除け石とか魔法に強い鎧の材料になるあれ?)

(ええ。そのものではないから修復魔法(リペアダメージ)が効きましたけど、魔法でこの石壁を砕くのは至難の業でしょうね)

 

 素手で石壁を砕いてから"物質分解"を使ったイサミの判断は、結果的にだが正しかったと言うことだ。

 

(では、進みましょう。私たちは、この先を確かめねばなりません)

 

 リューの言葉に、全員が頷いた。

 





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