ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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15-13 ダイダロス

 ――扉を抜けると、ダンジョンだった。

 

 この世界における固有名詞としてのダンジョンではない。

 現代日本に生きていたイサミが知る、地下迷宮。

 

 石組みの壁と床と天井。

 一定間隔を置いてもうけられた魔石灯。

 そこかしこに施された怪物などの彫刻。

 

 想像の中で、コンピューターゲームの中で、テーブルトークRPGのなかで、イサミが憧れ、夢見、幾度となく歩いた「ダンジョン」がそこにあった。

 

(・・・・・)

(お、おい? 何だ、泣いてるのか!?)

(ちょっ、ちょっとイサミちゃん、大丈夫?)

(大丈夫だ、問題ない)

 

 ボロボロとこぼれる涙を戦闘衣の袖口でぐいっとぬぐう。

 自分でも意外だったが、イサミはこうした石組みのダンジョンに随分と思い入れがあったようであった。

 

(ウィザードリィの影響かねえ・・・)

(つうか、ダンジョンだろ? 何の違いがあるってんだ)

(違うのだ!)

(うおっ!?)

 

 迂闊な一言を口にしたシャーナに、胸ぐらを掴まんばかりの勢いで迫るイサミ。

 端から見ると女子小学生に迫る大男という実にアレな構図である。

 

(いいか、ダンジョンってのは・・・へぶっ?!)

 

 スイッチが入ってしまったか、長広舌を発動しかけたイサミの脳天にレーテーの大戦斧がめり込んだ。

 

(めーでしょ、イサミちゃん。今そんなことをしてる暇はないのよ)

(お、おっしゃるとおりで・・・)

 

 頭を抑えてうずくまるイサミ。

 もっとも、あのままこだわりトークが発動していればイサミが異世界から転生してきたこともばれてしまいかねなかったので、痛し痒しではある。

 いや、頭は凄く痛いが。

 

(漫才はそこまでにしてあれ見ろよ。何か壁に書いてあんぞ。え、えーと・・・"ダイダロス"?)

(・・・・!)

 

 瞬間、頭の痛みも忘れてイサミは顔をしかめた。

 それはギリシャ神話随一の工匠の名。

 船の帆という概念を生み出し、本物と変わらぬ人造の牝牛を作り、造りものの翼で空すら駆けて見せた男。

 そして、神話に名高き"始原の大迷宮(ラビュリントス)"を生み出した男。

 

 更にイサミには、神話とは別の心当たりが一つあった。

 

(ダイダロス・・・バベルを作った伝説の大工匠)

(・・・ダイダロスって、ダイダロス通りと関係があるのか? そいつがバベルも作ったのか?)

(最初に《神の恩恵》を受けた一人です。バベル、オラリオの城壁や円形闘技場、英雄墓地、ダイダロス通り・・

 そもそも今のオラリオの都市設計自体が彼の手になるものですし、魔石製品の基礎を作ったのも、現在広く使われている魔道具や魔剣製作の基礎技術を確立させたのも彼です。

 まさしく絶世の天才ですよ)

(マジかよ・・・)

 

 イサミの読んだ歴史書によれば、ダイダロスはあらゆる工芸品や建築を生み出す一方迷宮にも潜っていたが、次第に言動が常軌を逸するようになり、あるとき不意に姿を消したという。

 

(まさかこの通路をコツコツ掘ってたんじゃあるまいな?

 確かに、18階層直通の通路とかあったらすげえ便利だけどよ)

 

 その言葉ではっと我に返る。

 確かに、余りにもそれらしかったので早合点してしまっていたが、今のところ闇の先に見えるのは真っ直ぐ延びた通路だけ。

 この構造物が単なる通路ではなく「地下迷宮」である保証はどこにもない。

 

 これがただの通路ではなく、広大無辺なもう一つのダンジョンであってくれと、イサミは不条理にも願った。

 

 

 

 ――結論から言うと、イサミの願いは叶えられた。

 

 カーブ、十字路、傾斜路、アーチ。

 扉や玄室こそ無いが、通路の先はまさしくダンジョンだった。

 闇は暗く、通路は長く、闇を見通すイサミの目を持ってしてもどれほどの広がりがあるのかわからない。

 

 唯一盗賊(ローグ)の技術を持つイサミを先頭に一行はこの未知の地下迷宮を進む。

 

(――察知されてるかどうかを別としても、片手間に探索できるダンジョンじゃなさそうです。

 本格的な探索は後日にして、他の出口を突き止めるまでにしておきましょう)

(どうやって?)

 

 興味津々に聞いてくるリド。

 そりゃ魔法で――と言おうとしたとき、イサミはリドの他にも視線が自分を見ているのに気づいた。

 赤外套達のほぼ全員が、期待に満ちた目でイサミを見つめている。

 

 シャーナはにやにやと、レーテーはにこにこと、リューもそれなりに興味深げなまなざしを投げてくる中、イサミはため息をついて呪文を発動した。

 

(《音声省略》"経路発見(ファインド・ザ・パス)"――この迷宮の出口を示せ)

 

 呪文を発動した瞬間、イサミの脳裏に一本の経路が浮かび上がる。

 通路、階段、扉、錠前、罠、分岐点でどの道を選ぶべきか――経路の途中にあるありとあらゆるものの情報と共に、

 それらの情景と立体的な地図が頭の中に表示される。

 そして、その出口は――

 

(・・・驚いたな。"ダイダロス通り"だ。あそこの地下水路に、この迷宮の出口がある)

(マジか)

(――!)

(どうした、アルル?)

 

 普段余り喋らない、小人族の女性と思われる赤外套の反応に、リドが首をかしげた。

 喋ること自体に慣れていないのか、もどかしそうに言葉を探してどうにかそれをつなげる。

 

(フェルズ――言ってた。迷宮、出口、ええと・・・外! 上の、外!)

(ええっと・・?)

(――オラリオの、オラリオの外にも迷宮の出入り口があると?)

 

 ぶんぶんぶん、とアルルが首を縦に振って肯定の意を示す。

 

(そうだ! 確かにフェルズの奴がそんなこと言ってたぜ、イサミっち!

 迷宮からオラリオの外に通じる経路があるかも知れないって!)

 

 言われて思い出したのかやや興奮気味のリドに頷き、イサミは画板と紙を取り出した。

 

(とりあえず呪文が持続しているうちに経路だけ書き写してしまいましょう)

 

 手早く――とは言っても10分近くかけて、経路を事細かに書き記していく。

 

(オリハルコンの扉は他にもあるのか? やっぱ開閉に何かの魔道具が必要なのか?)

(多分そうだと思いますが、今描いてるルートはオリハルコンの扉を通らずに地上に行けます。

 ですが、やはりそのマスターキーは手に入れる必要があるんじゃないでしょうか)

(あの出口で待ち伏せですか。持久戦になりそうですね)

 

 迷宮の地図を一発で表示できるような魔法があれば良いのだが、さすがにD&Dと言えどもそのようなご都合呪文は存在しない。

 

(探索は・・・俺がついてくしかないだろうなあ。リューさん含めてこいつら全員戦闘の専門家ではあっても探索の専門家じゃないし)

 

 そんな事を考えているうちに、経路の地図製作(マッピング)が完了する。

 

(それじゃもう一発、《音声省略》"経路発見(ファインド・ザ・パス)"――この迷宮のオラリオ外に続く出口を示せ)

 

 先にかけていた呪文を解除して、新たな経路発見の呪文を発動する。

 新たに脳裏に浮かんだ経路のヴィジョンは、地下水路までは全く同じだった。

 ただしその先は地下水路から海蝕洞を通り、港町メレンの近くに通じている。

 

(今まで謎だったことがあっさりわかっちまったなあ)

(クラネルさん、他の出口があるかどうかはわかりませんか?)

(この呪文は最短の経路一つを調べることしかできないので・・・どこそこに出口があるとわかってればできるんですが)

 

 筆を走らせながら答えるイサミに、ですかと頷くリュー。

 程なく完成した二枚目の地図を脇に置き、呪文でコピーを一枚ずつ作ると、イサミはコピーの方をリドに手渡した。

 

("書写(アマニュエンシス)"とか使いそうにない呪文でも準備しておくもんだな・・・フェルズに渡してくれ。とりあえず今日はこれでお開きにしておこう)

(ん、わかったぜイサミっち。これだけでもすげぇ収穫だ)

 

 喜色満面でそれを隠しにしまうリド。

 つられて笑みをこぼしつつ、立ち上がろうとして、イサミはふと動きを止めた。

 

(どうした?)

(いや、この際もう一つ情報収集しておこうかと。何十分かかかりますけどいいですか?)

 

 異論が出ないのを確認して、イサミは壁を背にしてあぐらをかいた。

 

(透明になってますから大丈夫と思いますが、一応敵への警戒よろしく)

(おう、まかせとけ!)

 

 イサミの魔法が今度は何をやってくれるのか、期待に目を輝かせて意気込むリドや赤外套達に頷きつつ、イサミは呪文の詠唱を開始した。





人造迷宮以外に原作ダイダロスの功績として明言されてるのはバベルとダイダロス通りだけだったと思いますが、この作品では他にも色々作った事になってます。
本当にそこまでの絶世の天才なら、これくらいやれても良かろうと言う事で。
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