ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
キャリオンクロウラーは頭部を完全に消滅させられ、動きを停止していた。
根元を焼き切られた八本の触手が、石の屋根の上でぴくぴくと痙攣している。
「にいさん・・・」
「遅いよ! イサミ君!」
泣き笑いになるベル。涙をにじませて笑いながら怒るという、器用な表情を浮かべるヘスティア。
「すいませんね、道が混んでましたので」
軽口で答え、馬を着地させてひらりと鞍から降りる。
「ずいぶんとボロボロになったじゃないか。毎回こんなのばかりだな、おまえは」
「ごめん・・・」
「だが、よくやったぞ」
全身ににじむ血を気にもせず、イサミがベルを抱きしめる。
「本当によくやった。おまえは、俺の自慢の弟だ」
「うん・・・」
一瞬戸惑ったベルが、抱きしめられたまま微笑む。
ヘスティアが惚れ直すほどの、うれしそうな笑みだった。
羽音がした。
鋭く振り向くイサミ。よろけたベルを慌ててヘスティアが支える。
頭部を砕かれて活動を停止していたはずのキャリオンクロウラーが、再び分裂を始めていた。
残った胴体とうごめく触手がみるみるうちにその姿を失い、無数のコウモリの群れに変化する。
「にいさん、あれ・・・」
「わかってる。嵐のドラゴンマークよ、その力を示せ――"
イサミの右肩に文様が浮かび上がり、熱を持つ。
イサミ達を台風の目にして風が渦を巻いた。
「キキキキーッ!?」
渦巻く風は中心に吸い寄せられ、吹き上げられる。
その風速は時速で75マイル(120km)。秒速で実に33m。
台風並の風に、今は小さなコウモリの集まりでしかないスウォームシフター・キャリオンクロウラーに抗う術はない。
土埃が竜巻に吸い上げられるように、吸い寄せられ、巻き上げられ、屋上にわだかまっていた黒い群れは、上空にブチ撒けられた。
態勢を立て直し、再び合体しようとするコウモリの群れ。
だが、彼らの命運は既に尽きていた。
「とっておきだ・・・持って行け! 《
"
あれからの数日で獲得したイサミの切り札の一つ。
イサミの手のひらから放たれた四つの燃える火弾が四方に散り、コウモリの群れに接触して爆発する。
直径24m、《範囲拡大》されて48mの巨大な火球が四つ、大空に紅蓮の花を咲かせた。
「《
それでもわずかに焼け残ったコウモリ達が逃げようとするのに、《高速化》してノータイムで発動された呪文が更に飛ぶ。
今度こそ全て焼き尽くされ、コウモリの群れ――スウォームシフター・キャリオンクロウラーは一陣のチリとなり、空気に溶け込んで消えた。
「惜しかったわね・・・まあ、なかなか楽しめたけど」
一キロ以上離れた所から一部始終を観察していたフードの女が言った。
連れの男の方は呆れているのか、無言。
「あのお兄さんの方は任せるわ・・・弟君は私がもらうから」
「なんだ、惚れでもしたか」
またしても投げやりな口調でため息をつく男。
くすっと女が笑った。
「さあ、そうかもね・・・」
艶めかしい赤い唇を、先がとがって二股になった舌がぺろりとなめた。
フレイヤは目の前の『神の鏡』を消した。
あの兄は治癒の呪文も使えるようだし、もう心配することはあるまい。
それよりもフレイヤの心を占めていたのは、ベルがシルバーパックを倒した後に現れた謎の怪物であった。
怪物の話はそれなりに聞いて知っているつもりだったが、あのようなモンスターは聞いた事も無い。
(私以外にあの子にちょっかいをかけようとしている何者かがいる・・・気に入らないわね)
目をすがめた彼女は、だが大輪の笑みを浮かべる。
彼女はフレイヤ。美と愛の女神であると同時に、戦士を己の館に迎える戦の女神。
恋であろうと、戦であろうと、敵は倒すだけだ。
(待ってなさい・・・あの子は私のもの・・・)
笑みと共に、彼女の姿は路地裏の薄暗がりに消えていった。
ベルとヘスティアそれぞれに治療呪文をかけ、血だらけの服も"
疲労困憊したヘスティアがついにダウンしたためだ。
ほぼあらゆる状態異常を回復する"
寝息を立てる女神を弟に任せると、イサミは闘技場にとんぼ返りしてエイナ達に報告を行う。
その後、ふと思い出して"
がま口を渡して少し話をした後別れたが、はっきりしない物がイサミの胸の中に残った。
その違和感の理由を彼が知るのは、かなり後の話になる。
「あ」
「あ・・・」
ばったり、と。南のダイダロス通りから出てきたベルたちと、謎の怪物の検分を終えて北の通りから出てきたロキ・ファミリアの一行がメインストリートの中央で出会った。
かぁっ、と上気するベルの顔。
対照的にアイズはうつむき、言葉を探す。
「あ、あのっ・・・!」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃっ!」
意を決したアイズが言葉を発しようとしたのと、ベルの感情メーターが限界値に達して全力で逃走を開始したのがほぼ同時。
まさしく脱兎の勢いで遠ざかっていくその背中を見て、アイズの頭がかくん、と落ちる。
ずん、と落ち込んだその背中に、どんよりした雰囲気が暗雲のごとく群がり出た。
(・・・・)
そして、他の面々が落ち込んだり慰めたり発破をかけたりベルをけなしたりする中、ひとりロキはベルの去った方を見つめていた。
いつも通りのへらへら笑いを口元に貼り付けたその表情からは、何かをうかがい知ることはできない。
その日の夕方。
いつも通り夕食の材料を買い込んで戻ったイサミは、ホームである廃教会の前に人影がたたずんでいるのを見つけた。
隙のない立ち姿からかなり高レベルの冒険者と察し、精神の中の呪文をいつでも起動できるようにしながら話しかける。
「・・・どちらさまで? うちのホームにご用でしょうか?」
振り向いた人物が、銀縁の眼鏡を中指でくい、と押し上げた。
イサミが目を見張る。水色の髪、碧い瞳、怜悧な美貌。二重に巻いた腰ベルトにいくつも取り付けられたポーチ。
一目見たとき以来、イサミが見忘れるはずもない人物だった。
「ちょうどよかった。あなたに話があって来たのです。イサミ・クラネル。
初めまして、になりますね。私はアスフィ・アル・アンドロメダ。ヘルメス・ファミリアの団長を務めさせていただいております」
先に言っておきますがこの話では単純にシル=フレイヤ様です。
へルンさんは金輪際出て来ません。
いやそのこの話書き始めたの、最初のアニメが始まったころなので・・・(穴があったら入りたい