ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
10分後。
ただ座り続けるだけのイサミに対し、赤外套達の目は既にだれきっていた。
(なあ、何にも起きないんだが。今使ってるのどんな魔法なんだ?)
("
(何の役に立つんだよそれ)
(手がかりは重要だよ? 何者が作ったのかとか、そこから突破口が開けるかも知れない)
(そらそうだけどよぉ・・・何かこう、な? もっと凄い感じの魔法かと思ったのに)
頬をふくらませるリドに、イサミも苦笑するしかなかった。
(本当にガキみてぇなやつらだなあ)
(いいじゃない。シャーナちゃんも、昔はそうだったんじゃないの?)
(えー、シャーナまだ子供だしー)
わざとらしく子供ぶるシャーナをよそに、リドたちはブツブツとぼやき続ける。
イサミ達は知らないが、リドたちが「世界」を知ってから、まだ5年ほどでしかない。
ある意味で、まさしく彼らは子供なのだった。
それからさらに30分後。
赤外套達が完全にダレたころ、イサミの呪文が完成した。
石造りの迷宮の、その物質的な存在ではなく形而上的な本質へのアクセス。
そこから「伝承」というあやふやなものを引き出すのがこの呪文。
名前に反して、この呪文は人々の口に上る伝承から情報を引き出す物ではない。
「伝説となるべき存在」そのものから伝承という形で情報を引き出すものなのだ。
ゆえに、それは誰かに知られている必要すらない。
功績を打ち立てた英雄、英雄の使った武器、偉業の行われた場所・・・
伝説となる価値のある存在であれば、逆説的にそこには伝説が存在しうる。
人の口に乗らずとも、誰も知るものが無くても、その価値がある限り伝説は存在するのだ。
(知られざる伝説、というやつだな)
おのれの精神の中央に膨大な情報が渦巻くのを感じながらイサミは独りごちた。
目の前に存在するこの迷宮から超自然的な手段をもって引き出された情報は呪文の力によって処理再構築され、口承や口伝のような短い文章となってイサミの脳裏に結実する。
"かつて大工匠ダイダロス、「迷宮」に魅惑されり。
迷宮の神秘に魅せられしダイダロス狂えり。
狂えるダイダロス、「迷宮」に寄り添う作品を作らんとす。
ダイダロスとその妄執、千年の後も血に連なるものを駆り立て作品を作り続けん。
迷宮の全てを我がものとするその時まで"
(・・・・・・・・・・・・・・・・!)
(お、おい、どうした?)
(イサミちゃん?!)
両目から、今日二回目の涙が溢れる。
周囲の声も耳に届くことはなく、イサミの心はある種の感動で満たされていた。
顔も知らぬ神代の工匠。
その志を受け継いで、今もこの巨大な作品を作り続けている人々がいる。
そのことに純粋な感動を覚えたのだ。
イサミの元の世界でもっとも長い間作り続けられているサグラダ・ファミリアでもせいぜい百年余り。
それを千年だ。
現代日本で言えば、平安時代から延々と作り続けられている大建築物。
料理しかり、マジックアイテムしかり、イサミは「作る」ことにこだわりを持つ人間だ。
同じ「作る」人間として、その受け継がれてきた意志に純粋に感動したのである。
もっとも、それを素直に言ったら全員に――レーテーにさえ――呆れた顔をされたのだが。
(あのなあ、ここは闇派閥やら怪人やらのアジトなんだぞ?
ダイダロスの子孫どもが何をやってるかは知らねえが、連中が鍵を持ってる以上そいつらとグルになってるってことじゃねえか)
(それはまあそうだが、同じ匠としては感じ入る物があるわけでな・・・)
(イサミちゃんわかってる? この先、多分その子達が敵に回るんだよ? ちゃんと戦う覚悟しておかないとダメなのよ)
(わかってる・・・とは思うんだがな)
(ならいいんだけどぉ・・・)
話を強引に打ち切り、イサミが立ち上がった。
(さ、戻ろうぜ。もう用は済んだし、長居しないに越したことはない。
次にここに来るのは、フェルズとも話し合ってからってことになるだろうな)
(あ、ああ・・・)
"敵"はイサミ達に気がついているのかどうか、来た道を戻り外壁が復元し終わるまで一切のリアクションはなかった。
下層の方に用があるというリュー達とその場で別れ、鬱蒼と茂る夜の森を南西に戻る。
「しかし、とんでもねえもん見つけちまったな・・・少なくとも地上から十八階層までの範囲で巨大な迷宮作ってるんだろ? どれだけ掘り進めたんだよ」
「すごいですよねえ。しかも、単に穴を掘っただけじゃない! 建築物としても非常に洗練されていますよあれは! ダイダロス・・・やはり天才か・・・」
「本当にイサミちゃんはあのダンジョンが気に入っちゃったのねぇ」
相変わらず感心することしきりのイサミに、苦笑しつつも微笑ましそうな視線を向けるレーテー。
もちろんだとも、と再び熱弁を振るおうとして、瞬間イサミの表情が険しい物になる。
「「!」」
空気の変化を素早く察し、シャーナとレーテーの二人も身構えた。
意思疎通をまだ持続している"レアリーズ・テレパシックボンド"による念話に切り替える。
(どうした!?)
(人の集団、数百m程先からこっちに高速で移動中――ロキ・ファミリアの野営地の方からです)
(!)
(それと――)
(それと?)
イサミがシャーナの質問に答えようとしたとき、「それら」は現れた。
一見したところでは20人ほどの冒険者の集団に見える。
レベルはざっと見3から4。一人5か6。
半分ほどは人がすっぽり入るサイズの袋を抱えていた。
向こうも突然現れたイサミ達を見て足を止める。
(なんだ、こいつら!?)
(なんか・・・何か変! こいつら、
レーテーの心の声に、シャーナがはっとして敵の姿を見る。
冒険者達の揃って青白い肌は、夜の明かりのせいか?
兜の下の目が赤く光っているのは気のせいだろうか?
これだけの人間がいて息づかいが全く聞こえないのは?
そして、口元に見える鋭い牙は?
(――気をつけろ! こいつら、"
サグラダファミリア着工は1882年なので、2022年時点で140年です。
今回ググって吹きましたが、あれ違法建築だったんですなw
下にトンネル掘ろうとして発覚したという。
結局特別法を制定してどうにかしたようですが。