ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十六話「リッチとは金持ちの死者のことである(嘘)」
16-1 追跡


 

 

 

   アイ・ネバー・ドリンク・ワイン

『私はワインは飲まないのだよ』

 

 ―― 『吸血鬼ドラキュラ』 ――

 

 

 

 野営地は惨憺たる有様だった。

 あちこちに血が飛び散り、テントは一つが焼失している。

 異様なのは鎖で縛られ、気絶した冒険者達が数十人、まとまって転がされていることだ。

 ロキ・ファミリア、ヘファイストス・ファミリアにタケミカヅチ・ファミリア。

 中にはベルとリリ、ヴェルフ、ティオネやティオナ、椿などの姿もある。

 リヴェリア達と共に周囲を囲んでいたフィンがこちらに気づいて笑顔を向けてきた。

 

「アイズ! ルカ達も! 無事だったか!」

「・・・これは一体?」

「襲撃を受けてね。どうやら集団にかけられる"呪詛(カース)"らしい。

 僕たちは咄嗟に飛び退いたんだが、大半の者がやられてごらんの有様さ」

 

 "呪詛(カース)"とは特殊な魔法だ。

 使用者にペナルティを負わせる代わりにほぼ無条件、抵抗(レジスト)なしにステイタス低下などの効果を与える事ができる。

 

 敵の使った"呪詛(カース)"は集団に対して理性を失わせ、敵味方の区別なく襲いかかる狂戦士にするものだったらしい。

 咄嗟にかわしたフィン、リヴェリア、ガレスとたまたま散歩に出ていたアイズ、魔道具で防いだアスフィとで全員殴り倒して拘束したそうだ。

 

「・・・まだ呪いは残ってるようですね。確かにこれは強力だ」

「わかるか、イサミ・クラネル」

「今解除しますよ・・・"魔力破り(ブレイク・エンチャントメント)"」

 

 20秒ほどの詠唱の後、イサミの手から放たれた不可視の魔力が転がされている冒険者達に渦のように絡みついた。

 犠牲者達にまとわりついた呪詛の魔力が清水に洗われた泥のように流れ落ちるのが、イサミの魔力視覚にははっきりと捉えられる。

 タイミングを合わせたかのように、ティオナの目がぱちりと開いた。

 

「あれ? どうしたの? ねえガレス、あたしどうして縛られてんの?」

「・・・やれやれ」

 

 ガレスが深くため息をつき、フィンとリヴェリアが苦笑した。

 

 

 

「おい、ベル。起きろ」

 

 のんきな顔で寝息を立てている弟を苦笑混じりにこづく。

 隣ではレーテーがリリを揺すって起こしていた。

 

「ん・・・」

「どうだ、おかしいところはないか?」

 

 ぼんやりとイサミを見ていたベルの目が、はっと焦点を取り戻した。

 

「大変だよ兄さん! 神様が・・・神様と春姫さんがさらわれたんだ!」

「なっ・・・!」

 

 イサミの顔から、ほとんど音を立てて血の気が引いた。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十六話「リッチとは金持ちの死者のことである(嘘)」

 

 

 

 敵はまず、不意を打ってロキ・ファミリアの見張りを無力化した。

 そして更に眠っている冒険者達を無力化・殺害し、連れ去るつもりだったと思われる。

 思われる、というのはその途中でフィンたちが目を覚まし、ガレスの雷声で全員を叩き起こしたからだ。

 その後乱戦にもつれ込みかけたところで呪詛を受け、その隙に逃げられたらしい。

 フィン達三人が鎮圧しているあいだに、アイズとアスフィがそれぞれ散り散りになって逃げた敵を追ったと言う。

 

「ともかく、ルカたちを助けてくれたことには礼を言うよ」

「貸し一つと言う事にしておきましょう――他にいなくなったのは?」

「ルカ達以外だと、うちの団員が8人、ヘファイストス・ファミリアの上級鍛冶師が7人。タケミカヅチ・ファミリアが3人。

 ヘスティアファミリアが神ヘスティアと団員一人だ」

「わかりました。いなくなった人間の名前を教えて貰えますか? こうなったら出し惜しみは無しで行きましょう」

「ああ。こんな時だが――頼もしいね。実力拝見と行こう」

 

 視線を交わし、フィンとイサミが頷き合う。

 双方笑みを浮かべつつも、その表情には59階層以来の凄みがあった。

 

 

 

 【恩恵】を受けた冒険者が人並み外れた身体能力を誇るように、イサミは人並み外れた知力や記憶力を手に入れている。

 そこに更にウィッシュによる能力値底上げやマジックアイテムによる強化が加わるため、記憶力は写真記憶一歩手前と言ってもいい。

 名前と簡単な特徴を聞けば、ちらりと見た程度の顔を思い出すこともできた。

 

 その記憶を元に"完全位置同定(ディサーン・ロケーション)"呪文を人数分連発し、さらわれたものたちの場所を特定する。

 うすうす想像していた通り、その位置は明らかに18階層の外壁の更に外側だった。

 方角は北と北西。おそらく階層の北側と西側に、先ほどイサミ達が見つけたような入り口があるのだろう。

 

「と、言うわけでさらわれた人たちはダンジョンの外――

 昔日の名匠ダイダロスが作り出した人造迷宮に連れ去られたものと思われます」

 

 念のため、先ほど作った地図のコピーを渡しながらイサミが言う。

 

「にわかに信じられない話だけど、疑ってる時間もないね。

 【万能者(ペルセウス)】が帰って来しだい、進発しよう。班分けは・・・」

「待って下さい。助っ人がもうすぐ到着するので、彼らを含めてと言うことで」

「ふむ?」

 

 興味深そうに首をかしげるフィン。

 その後ろに控えていたリヴェリアが「ああ」という顔をした。

 

「彼女か?」

「彼女たち、ですね」

 

 "レアリーズ・テレパシックボンド"で急報を受けたリューと赤外套達が到着したのは、それから5分ほど経ってからだった。

 

 

 

 それから更に数分経ってアスフィが帰還した。

 北の方に向かった敵を追っていた彼女は、岩壁を破壊して現れた通路に入っていく敵を確認したという。

 

「なら決まりですね。俺たちは西に行かせて貰いますよ。ウチの神様と新人がそっちにいますんでね」

「わかった。じゃあ僕らは北に向かおう」

「だがそれだと戦力がやや偏ろう。そちらもつわもの揃いではあるようだが、レベル5はイサミ殿を入れてもひのふの、四人か。

 ならそれがしもイサミどののほうだな」

 

 現在の戦力はイサミ側のレベル5がシャーナ、レーテー、リド。レベル4がリュー他5名、レベル3五名。そしてベル達とイサミだ。

 ロキ・ファミリア側がレベル6のフィン、リヴェリア、ガレス、アイズ。レベル5がティオネ、ティオナ。

 ラウルとLv.3組を野営地に残してレベル4四名とレフィーヤがそれに続く。

 ちなみにヘルメスも当然今回は留守番だ。

 

 レフィーヤはレベル3だが魔法の威力ではレベル5に匹敵するものがあり、レベル5の椿が加わったとしても、イサミたちの方が戦力的にかなり不利な構成である。

 

「で、でしたら私も・・・」

「じゃああたしが【アルゴノゥト】くんのほうに行くよ!」

 

 おずおずと手を上げかけたアスフィを遮って、というより気づきもせずティオナが元気に手を上げた。

 

「ンー、じゃあティオナに行って貰おうか。申し訳ないが【万能者】、あなたには僕たちを案内して貰わないといけない」

「そ、それなら大丈夫です! くだんの壁の横に見えない印をつけておきましたので、このレンズで外壁を見れば・・・」

「場所がわかると」

「は、はい!」

「じゃあイサミ・クラネル。君もそれでいいかな?」

「大歓迎ですよ」

 

(探偵秘密ペンとか昔あったよな)

 

 微妙に年齢がばれそうなことを考えつつ、イサミは頷いた。

 その腰の辺りをニヤニヤしながらシャーナが肘でつっつく。

 

「どうよ、チェリーボーイ。あこがれのお姉さんと一緒のパーティで嬉しいだろ?」

「・・・」

 

 シャーナ同様余計な一言を言ったらしいヘルメスの顔面にアスフィの綺麗なコンビネーションブローが刺さる。

 それを見つつ、イサミは割と本気でシャーナの尻を蹴っ飛ばした。

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