ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「【リトル・ルーキー】・・・【リトル・ルーキー】だとぉ!?」
「ひいっ!?」
ベルの顔を見たモルドの喉から怒号が迸った。
立ち上がろうとしていたゲドが再び腰を抜かす。
牙を剥きだし目を赤く光らせた人外の容貌ながら、それは先ほどまでの狩猟生物の愉悦を浮かべる怪物の顔ではない。
憎悪にゆがむ人間の表情だ。
「え・・・あっ!? 【豊穣の女主人】亭で会った冒険者の人!」
十日程前【豊穣の女主人】亭で行ったベルのランクアップ祝い。
その時にからんできた冒険者達がモルドたち三人であった。
もっとも(リューに)手ひどく断られた上にウェイトレスたちに撃退され、それっきりではあったのだが・・・。
「ここにゃあの忌々しいクソエルフもいねえ! ランクアップしたばかりで18階層とはいい度胸だ・・・冒険者の掟って奴を教えてやろうじゃねえか!」
「丁度いいわ、血を吸ってこの坊やもヴァンパイアにして上げようじゃない!」
「いいねえ、溜飲が下がるぜ!」
意味不明のことを言う二人に、ゲドがいぶかしげな表情になる。
モルドがにたにたと言う感じの嫌らしい笑いを浮かべた。
「ヴァンパイアに殺された人間はな、ヴァンパイアになるのよ。そんで新しく生まれたヴァンパイアは、"親"であるヴァンパイアには絶対服従だ。
わかるか? 俺に血を吸われたら、未来永劫おめえは俺の奴隷ってことよ、【リトル・ルーキー】!」
「・・・!」
自分がどう言う運命をたどるところだったのか理解して、ゲドが再び顔を引きつらせた。
兄からざっとレクチャーを受けていたベルは厳しい表情のまま無言。
「へっ、恐怖で声も出ねえか。それじゃ・・・行くぜ? 血を吸いたいから半殺しにするつもりだが、ブッ殺しちまったらゴメンなあ?」
牙を剥きだした人外の顔でゲラゲラ笑いながら、三人が広がって間合いを詰めてくる。
冒険者としての経験は長いのだろう、吸血鬼になってもその動きはごく自然に息のあったものだった。
ベルの【神のナイフ】と【牛若丸】を握る手に力がこもる。
「ゲドさん、立てますか? ぼくの後ろに回って下さい。できれば逃げて・・・」
「!」
がばり、とゲドが立ち上がった。
震えながらも剣を構える。
「てめーはそう言う所が生意気なんだよ! 俺が何年冒険者やってると思ってんだ!
ランクアップしたっつっても、たかだか一月二月のぺーぺーが舐めた口利いてんじゃねえ!」
「・・・はい、すいません!」
歯ぐきをむき出しにして、無理矢理におのれを鼓舞するゲド。
ベルは、こちらは自然な笑顔でナイフとバゼラードを構え直した。
「もう、何よぉ、ゲドちゃんも生意気よ!」
「大人しくしてりゃ、あんまり痛くなくしてやろうと思ってたのによぉ」
モルドの左右に広がったスコットとガイルがにやにやと笑う。
背中を預けるように、ベルとゲドがそれぞれ左右を向く。
「ゲドさん、一人お願いできます?」
「お、おう!」
人外の笑みを大きくしながら三匹の怪物が迫る。
「バッカねえ、ゲドちゃん? あんた、あたしたちが人間だった時でさえ、一対一じゃ全然勝てなかったじゃない?
今のあたし達に一対一どころか、二対一でも勝てるわけが・・・」
「【太古の言葉により命ず 冥府より来たれ死の影 汝にまことの名を与えん 我は汝、汝は我なり】」
「!?」
ゲドの口から流れ出す詠唱に、スコットの動きが驚愕で止まる。
「【
ゲドの影から、もう一人のゲドが立ち上がった。
どことなく影を帯びているように見える以外、外見も武装も動きも、本物のゲドと全く変わらない。
「あんた、いつの間に魔法を・・・!」
「驚いたろう? ランクアップの時に発現してさ。二対一でも勝てないかどうか、試してみようじゃねえか!」
「ふざけやがって・・・あんたなん、かァッ!?」
スコットの語尾が跳ね上がった。
「ギャブゥッ!?」
モルドの左側にいたガイルの体がくの字に折れ曲がっていた。
腹にベルの膝が突き刺さっている。
間髪を入れず、両腕と右のひざ上に血筋が走る。
手足の腱を切られたガイルが、人形のように崩れ落ちた。
「てっ、てめえっ?!」
一瞬前までの余裕が嘘だったかのように、地金をさらした焦り顔でモルドが剣を振り下ろす。
Lv.2どころか、Lv.3としても上位に入るだろう動きでベルはそれを軽くかわした。
「な、ンな馬鹿な・・・」
モルド達の敗因は、三人のうちの誰も魔法を修得しておらず、また魔力発動の気配にも鈍かったことだろう。
無言のままでいた数秒間。モルド達が恐怖を煽るようにじわじわと近づいていた数秒間。
だがベルにとっては十分に過ぎる数秒間だった。
筋力強化・敏捷強化・耐久強化・加速・装甲強化・武器強化。
既にLv.3なみのステイタスを持つベルにそれだけの強化がかかれば、吸血鬼化して辛うじてLv.3に手が届く彼らでは動きを追いきれない。
その結果がガイルの瞬殺だった。
「うおおおおっ!」
「ガッ! このっ!」
その隙を逃さず斬りかかったゲドの剣を、こちらは辛うじてスコットが受け止めた。
更に連続して斬りかかる影のゲドの剣が大きくのけぞったスコットの顔をかすめる。
一瞬遅れてスコットの顔に冷や汗が浮かんだ。
一方でモルドは冷静さを取り戻していた。
この三人の中では彼が一番技量が高い。
十年以上修羅場をくぐってきているのも伊達ではなかった。
確かに目の前の【リトル・ルーキー】の動きは吸血鬼化した自分たちをも上回るが、対応できないほどの差でもない。
やりようはある。
そう、思っていた。
「"
「!?」
ベルの紡いだ魔法に応じ、一瞬にして地面から出現する土の腕。
それは今まさに斬りかかろうとしていたモルドの右足首を掴もうとするが、吸血鬼の怪力の前にあっさりと振り払われる。
が、一瞬体勢を崩すのには十分だった。
「ギアッ!?」
注意が逸れたその一瞬で右手首を半ば切断され、モルドが剣を取り落とした。
次の瞬間、彼も手足の腱を切断され、ガイル同様に地に伏す。
残ったスコットもまたそうなるのに、10秒かからなかった。
貴様はこのモルドにとってのモンキーなんだよベルゥゥゥゥゥ!(なお結果は