ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
戦闘が始まって20秒弱で、モルド達は全員手足を切り裂かれて倒れていた。
うめき声が夜の森に響く。
安堵の余り座り込みそうになるのを我慢しながら、ゲドがベルに尋ねた。
集中が切れたのか、もう一人のゲドは既に影に戻っている。
「そ、それでどうするんだよこれから。モルドさんたちを元に戻せるのか?」
「ええ。今手分けして生き残りの人たちを助けてます。兄さんならこの人達を・・・」
「あぶねえ、ベル!」
声に反応したベルが咄嗟に体を開いて身をかわした。
青白い手の先に生えた長い爪が頬をかすり、僅かに赤い筋を浮き上がらせる。
振り向いたベルの視線の先で、モルドがその爪の先を舐めていた。
「ベル! 大丈夫か!」
「ベル様!」
その場に駆け込んでくる影二つ。
先ほど声を掛けた大剣を持った青年と、大きなバックパックをしょったサポーター・・・ヴェルフとリリだ。
ばらけた吸血鬼達に対処するために分かれた一行の中、三人は一緒に行動するはずだったのだが、悲鳴を聞いて全速を出したベルに二人ともついて行けなかったのである。
それはともかくその四人の視線の先で、地に伏していたはずのモルド達が立ち上がっていた。
「傷が・・・!」
ゲドがうめく。
三人の手足に刻まれていた傷が、にじんだ血だけを残して綺麗に消え去っていた。
切断されかけていたモルドの右手首も、既に半ばまで癒着している。
「"
リリが目を見張る。
"高速治癒"。一部のモンスターが持つ名前の通りの特殊能力で、その中でもヴァンパイアのそれは群を抜いて強力だ。
普通の武器が通用しない防御力や硬い肌と相まって、恐るべき耐久力をこの怪物に与えている。
「やるしか、ねえってことか」
硬い表情でヴェルフが大剣を構える。
ぎり、とベルが歯を食いしばる。
確かにモルド達は粗暴だった。
女性にいやらしい視線を送り、たやすく暴力に訴える、下品で乱暴な冒険者だった。
だが芯から邪悪ではなかった。
人の命を喜々として奪うような怪物では決してなかった。
どんな善良な人間でも吸血鬼になれば邪悪な怪物となってしまう。
魂が汚染されてしまうのだとイサミは言っていた。
それを救うには一度倒すしかないとも。
だが。
「やれるつもりかよ? Lv.1のガキがよぉ? 【リトル・ルーキー】の野郎は完全にびびっちまってるみたいだしなあ?
わかるか? 俺たちを止めたければ殺すしかないんだぜ? てめえには、できねえよなあ?」
「・・・!」
自信を取り戻したモルドの言葉に、ベルの顔色がはっきりと変わる。
そう、ベルにその覚悟はない。
モンスターとなら戦えても、人間の姿をして人間の言葉を喋る存在を殺すことなどできない。
「ちっ」
舌打ちして、ゲドが前に出た。
「【リトル・ルーキー】。お前はモルドさんたちの動きを止めてくれりゃあいい。
とどめを刺すのは俺がやる」
「で、でも」
「できねえなら黙ってろ! これは俺の仕事だ!」
「あんた、同じファミリアなんだろう。俺が・・・」
「お前の剣じゃ威力が足りねえよ。こいつらの肉は固いんだ。Lv.1はすっこんでろ」
「・・・」
弱々しく反論しようとしたベルだったが、ゲドの剣幕に反論することができない。
ヴェルフも絶対的な実力差を持ち出されては押し黙るしかなかった。
「この野郎・・・!」
「悪いな、モルドさん。せめて俺の手で楽にしてやんよ・・・!」
牙をむき出しにして威嚇する三人に、覚悟を決めた表情で対峙するゲド。
ベルとヴェルフもそれぞれ悲痛な表情で武器を構えた。
「リリ、後ろに下がってて。銀の武器しか通用しないらしいから・・・」
「あのう、ベル様。悲愴な覚悟を決めておられるところ申し訳ないのですが、殺さなくても無力化できますよ?」
「「「え?」」」
唖然とした顔でベルとゲドとヴェルフが振り向いた。
「イサミ様の説明をちゃんと聞いておられませんでしたね?
高速治癒とやらは、確かに傷は治りますが、ちぎれた手足がくっつくことはありません。
まあとどめを刺せばそれ以上再生しないらしいので、そっちのほうが楽ではあるのですが」
実際その通りである。D&Dには首をはねられても新しいのが生えてきたり、心臓を貫かれて息が止まってもその内また動き出すような本物の怪物もいるので、その手の能力としてはまだマシな部類だ。
「お、おい、この獣人族、てめえまさか・・・」
心なしか引きつった顔のモルドに、リリがにっこりと微笑む。
「ええ。手足を切り離せばもうくっつかないのでしょう? であれば、切り離させて頂きます。
それならベル様も良心の呵責をさほどお感じにならないですむでしょう」
「そ、それはそうだけど・・・」
「"
それで足止めしている間にゲド様がやっちゃってください。こう、スパッと」
「お、おう・・・」
もはやゲドもヴェルフもどん引きであった。
なおリリはベルと共に受けたイサミからのレクチャーで、下手をすればベル本人以上にベルの魔法に通暁していたりする。
「ささ、お早く! 逃げられてはまずいです!」
「う、うん・・・"
逃げだそうとしたモルド達の足がベルの魔法で止まる。
「じゃあモルドさん、その、そういう事ッスから・・・」
引きつった笑いを浮かべてゲドが近づいていく。
「「「ぎゃ~~~~~っ!?」」」
夜の森にモルド達の恐怖の悲鳴が響き渡った。
「・・・これ、良かったんでしょうか」
「良くないけどこうするしかなかっただろ・・」
お子様には見せられない状態になったモルド達をロープで束ねて引きずりつつ、ベル達はイサミ達と合流した。
無事を喜ばれつつ、どん引きされたのは言うまでもない。
「よかったぁ! アルゴノゥト君、やるじゃん!」
「あ、あはははは・・・」
「ちょっと! ベル様にくっつかないで下さい!」
ただし、似たような事をやらかしたティオナを除いて。
吸血鬼になった者達や彼らに殺害された冒険者達を最早やけとばかりに次々とイサミが蘇生させていく。
「非常に珍しいモンスター」「特殊な状態異常」「仮死状態」と言う事で押し通したが、イサミの口先三寸に丸め込まれたのか、丸め込まれたふりをしてくれたのか、とりあえず不審を口にするものはいなかった。
"
周囲を"
「時間を食っちまった。神様達とはもうかなり離されちまってる。急ぐぞ!」
「うん!」
「ああ!」
「はい!」
「承知!」
「おうっ!」
「「「「・・・・・」」」」
「な、なんだよ?」
周囲から一斉に浴びせられた視線にゲドがたじろいだ。
ちなみにモルド達はベルやゲド・・・特にリリと目線を合わせないようにして、遁走するようにこの場を後にしている。
まあ無理もない。
「何で野営地に行かないんですか?」
「いや、助けて貰ってこのままハイサヨナラってのも不義理だろう?」
意外に義理堅いのか状況の深刻さを理解していないのか、その様子に周囲から溜息が漏れる。
「言っておくけどにーちゃんよ、このまま一緒に来ればさっきの連中とは比較にならないのが来るぜ? 正直第一級冒険者でも危ねえぞ」
「ああもういい、時間が惜しい。ついてきたければついてこいよ。だが死んでも文句は言わせないぞ」
「お、おう」
リドの言葉をイサミが遮った。
ゲドがちょっとびびりながらも頷いたのを確認し、再びイサミ達は移動を始めた。