ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第十七話「D&D20モダン」
17-1 地上にて


 

 

 

『なぜ戦うことしか考えない!』

『帰れるてだてがあるわけがない!』

 

 ―― 『聖戦士ダンバイン』 ――

 

 

 

 かつての――前世で死ぬ前の――自分の部屋。

 数秒で彼の精神は再起動を果たした。

 頭を振って感慨を追い出し、PC机に歩み寄る。

 いや、歩み寄ろうとして足元の違和感に気づく。

 

「・・・靴履いたままだ」

 

 ちょっと悩んでからブーツを脱ぎ、背負い袋に雑に突っ込んでからイサミは椅子を引いた。

 

「こんなに小さかったんだな・・・」

 

 就職したときの初任給の一部で買った、部屋には不釣り合いな革張りの豪勢なPC椅子。

 疲労時にリラックスできる、そのまま眠れるという触れ込みのもので、PC家具屋で気に入って即買いしたものだった。

 前世では体がクッションに埋もれるくらいの大きさだったが、今のイサミには辛うじて尻が収まるサイズだ。

 

 PC画面も低い。キーボードも手をかなり下の方に置かないと打てない。

 今の自分がかつての自分でないことを、否応なしに認識させられる。

 

 幸いPCの電源は入った。

 回線も手を加えられていなかったのか、インターネットに接続できる。

 親が年の割に新しい物好きで、ネットサーフィンもたしなむたちなのが幸いしたのだろう。

 

「今は・・・俺が死んでから三年少しくらいか」

 

 異なる次元界で時間の流れが異なるのは時折あることだ。

 おおよそ五倍から六倍ほど、封印世界の時間の流れが速いのだろう。

 

「余りもたもたしているとまずいかな・・・ん?」

 

 そこでイサミはようやく違和感に気づいた。

 背負い袋に突っ込んだブーツの履き口が後頭部に当たっている。

 入れたものを異空間に収納する魔法の背負い袋なのに。

 

「まさか」

 

 慌てて魔力視覚に精神を集中させる。

 無い。マナ、(ウィーヴ)、その他どんな名前ででも・・・魔法の素、媒介となる要素が存在しない。

 全く存在しないわけではない。だが衛星軌道における大気なみに希薄だ。

 たとえて言うならマナの真空一歩手前。

 魔法的な存在はほぼ活動できず、呪文は発動せず、マジックアイテムも機能しない、そんな空間。

 

(くそっ、そう言えばエルミンスターが言っていたな。

 この世界のマナはほとんど全部封印世界の維持に使われているって・・・)

 

「!」

 

 頭を抱えていたイサミの表情が劇的に変化した。

 次の瞬間、イサミの姿がその場から消える。

 数秒して部屋のドアが開けられ、電気のスイッチがつけられた。

 

 入って来たのは細身で小柄の女性だった。

 老人と言うには若々しいが、髪には白いものが多く混じっている。

 頼りなげな視線を周囲にさまよわせるが、PCモニタは沈黙しており、椅子も彼女の記憶にあるそれと変わらぬ位置にある。

 点灯しているPCの電源ランプは椅子に隠れて彼女には見えない。

 そして視線を巡らせる彼女の直上数十センチ、イサミの巨体が天井に張り付いていた。

 純粋に技術と肉体の力だけで天井の羽目板の枠を手足の指でつまみ、体を支えている。

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 イサミにとっては息詰まる数瞬の後。ほう、とためいきをついて女性は電気を消し、部屋から出て行った。

 自室に戻ったのを音で確認し、音を立てずに巨体を着地させる。

 

(母さん・・・老けてたな)

 

 両親が年を取ってからできた子供で、しかも一人っ子だった。

 あれから三年としても、もう70は過ぎているはずだ。

 先立ってしまった申し訳なさを感じつつ、それらを振り切って今とこれからに思考を戻す。

 更にネットで情報を収集してからPCの電源を落とす。椅子を元に戻してからタンスを漁る。

 

(確かここに・・・あった)

 

 自分が死んだ時のままにしてくれてあるのだろう。

 預金通帳と印鑑をタンスの引き出しから取り出す。

 幸いなことに財布も同じ場所に入っていた。

 クレジットカードやキャッシュカードなども一緒にだ。

 更に幸いなことにクレジットカードの更新期日がまだ来ていない。

 免許証もあったが、顔が変わってしまっている現状では役に立つまい。

 

(よし)

 

 カーテンをめくって外が夜なのを確認すると、イサミは夜の住宅街に身を躍らせた。

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第十七話「D&D20モダン」

 

 

 

「あ・・・あれ?」

 

 ベルが気がつくと、そこはかなり広い、倉庫のような一室だった。

 部屋の半分ほどには木製の棚が並び、開けたスペースには木箱などが積まれている。

 そこに多数の人間がいた。

 

「ここは・・・?」

「あ、アルゴノゥト君だ!」

「ティオナさん!」

 

 弾む声に振り向くと、大双刃をかついだティオナがいた。

 それにレーテー、アスフィ、タケミカヅチやヘファイストス、ロキの面々、リューと赤外套たち。ついでにゲドも。

 

「ひのふの・・・フィンさんたちはこっちには来てないか。あれ、ベル。神様はどうした?」

 

 声に振り向くと、見慣れない格好をしたイサミがいた。

 帆布のような分厚く青い生地の上下に赤い胴衣を着て、つば付きの縁なし帽子を被っている。

 要するにキングサイズのジーンズ上下に赤いTシャツ、野球帽なのだがベルにはわかるはずもない。

 

「にい・・・」

「ふえええええええ! イサミちゃぁぁぁぁん! 怖かったよぉ!」

 

 ぱあっと顔を輝かせるベルが何か言うより早く、レーテーが泣きながらイサミに飛びつく。

 2m超の巨体にフルプレートなのでイサミでも支えるのに一苦労なのだが、完全にガチ泣きしているようなのでその辺はおいておく。

 

「ああ、よしよし。落ち着け。もう大丈夫だからな?」

「うう・・・ぐすっ。うん・・・」

 

 兜を脱がせ、頭を撫でてやりながらレーテーを落ち着かせる。

 

「それより神様はどうした? 神様もこっちに呼んだはずなんだが・・・」

「ええとその、それがね・・・驚かないでよ?」

「今更大概の事で驚くかよ」

「うん・・・」

 

 微妙な表情でベルが腰の小物入れに手をやる。

 取りだしたのは、15cmほどの人をかたどった物体だった。

 

「・・・美少女フィギュア?」

 

 イサミがいぶかしんだ時、その美少女フィギュアが片手を上げて挨拶する。

 

「や、やあイサミ君・・・一日ぶり」

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

 自分でも良くこんなフレーズ覚えてたなと頭の片隅で考えつつ、イサミは心底驚愕した。

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