ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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17-3 ネコと和解せよ

「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってくれイサミ君! タリズダンが復活するとか何それ聞いてないよ!?」

「いや、何で知らないんですか! 普通に今まで何人も俺みたいなのが送り込まれてるみたいなんですけど!? フェルズだってその一人なんですけど!」

「マジで?!」

 

 反応したのは赤外套達。

 明らかに彼らにとっても初耳であったらしい。

 

「というかだ、この際だからぶっちゃけて聞いちまうが、お前らのトップってウラノス様だよな?」

「えっ、そうなのかい!?」

「あ、ああ。俺らが直接会うことはあんまないけどな」

「指示はフェルズが伝えてくるの」

「後ガネーシャ様も知ってるはずだぞ」

「あ、馬鹿!」

 

 赤外套の一人がぽろっと口を滑らせる。

 他の赤外套が色めき立つが、時既に遅し。

 今度はシャーナが驚いた顔になる。

 

「マジか。じゃあガネーシャ様がギルドに積極的に協力してるのも、そのタリズダンとやらの絡みかよ?」

「そこまでは・・・たまに協力を依頼することがある程度でさ」

「あなたに依頼をしたのもガネーシャ様の推薦だって聞いてるわよ」

「あのスチャラカ神・・・知ってたのかよ」

 

 複雑な顔で唸るシャーナ。

 間違った事だとは思わないが、多少思う所はあるらしい。

 

「まあシャーナが"改宗"するときに何やら意味深なことを言ってたのが、そういうことだったんだろうな」

「あー・・・言われてみればフェルズのことを知ってた風だったなあ」

 

 シャーナが頷いた。

 しばらくイサミが沈思黙考し、それに伴って周囲も静まる。

 ややあって、顔を上げたイサミがヘスティアの方を向いた。

 

「そもそも神様達は何故地上に降りてきたんですか?」

「? それは知ってるだろう? 退屈だからさ。退屈しのぎにこうして地上に降りてきてるんだ。分体(アスペクト)といえばわかるかい?」

「ああ、やっぱり分体だったんですか」

「え? 神様って本当の神様じゃないんですか?!」

 

 グラシア絡みで分体という単語を知っていたベルが驚いた顔になり、先のイサミに続いて今度はヘスティアが焦ったような顔になる。

 

「いや、これは本物のボクだよ!? ボクは封印のために殆どの力を使って眠っているような状態だから、残った力でこの体を作って、自由に行動してるのさ! だからこの体もこの心も、もちろんベルくんへの愛も本物だよ!」

「あ、うん、よくわからないけどわかりました」

「スルーされた?!」

 

 がびーん!と棒立ちになるミニ紐神。

 ベルの隣に陣取っていたリリががあっ、と吠える。

 

「はしたないですよヘスティア様! どさくさに紛れて不埒なことを言わないで下さい!」

「なんだとーぅ!?」

 

 一方で反対の隣に座っていた春姫は頬を染めて手で顔を覆う。

 

「あ、あの、わたくしもベル様には・・・」

「いいからお前らちょっと黙れ」

 

 こんがらかりかけた状況にイサミが無理矢理収拾をつける。

 今は女同士のてんぷくコントをしていられる状況ではない。

 

「それはわかりましたが、何故縮んだんですか?」

「うーん・・・封印の外に出て、本体とのチャンネルが細ったせいかなあ。

 この分体は分体とは言うけど本体と意志を共有してるから、普通のそれとはちょっと違うんだよね。

 ちなみに"神の力(アルカナム)"を使うと下界の生活がつまらなくなるから封印してる、って言うのは嘘。

 人に迷惑をかけなければ別に使うのを止める必要は無いからね。

 本来は神の力を使いすぎて、封印に支障が出るのを防ぐための取り決めなのさ」

「そうだったんだ・・・」

 

 はー、と感心するベル。

 興味深い話ではあるが、イサミは好奇心をグッとこらえて話を戻す。

 

「それで、退屈だから地上に降りることを提案したのは誰です? ウラノス様じゃないんですか?」

「え? いや、どうだったかな・・・確かゼウスだったような・・・ウラノスじゃないのは確かだ。

 そもそもあいつはくそまじめなカタブツだし、それが退屈しのぎに下界に降りたんでみんな驚いたくらいさ」

「ふむ。ではもう一つ。"恩恵"というのは誰が考え出したんです? ずっと昔からあったんですか?」

「いや。ボクは知らないなあ。地上に降りて、ヘファイストスから教えて貰ったのさ。そうでなくても一目見れば、どうすればいいかわかるしね」

「・・・」

 

 再びイサミが沈思黙考する。

 

(地上に降りた神の一人・・・最初に人類に"恩恵"を授けた神の一人・・・ギルドを作り、このオラリオを今まで維持してきた。

 エルミンスターによればタリズダンの封印がゆるんだのを察知したのが200年前、時間流の差が五倍から六倍とすると中では千年ほど前。

 オラリオに神々が降り立った時期とほぼ一致する。根拠はない、根拠はないが・・・)

 

「あの、兄さん・・・?」

「ん?」

 

 弟の声に顔を上げ、周囲を見回す。

 集まる視線に、思ったより長いこと考え込んでしまっていたのだと気づく。

 

「ああまあそれは取りあえずおいておこう。今はここからどうオラリオに戻るかだな」

「戻れるのかい? 言っておくけどボクの"神の力"を当てにして貰っても困るぜ。

 言った通り、今はこの体を維持するので精一杯だからね」

「わかってます。非常に強力な魔法が必要でしょうが、不可能ではないんじゃないかと」

 

 イサミの言に口々に反論が上がる。

 

「ですがイサミ君。この世界では魔法もマジックアイテムも・・・」

「そうだぜ。気づいてないのかも知れないが、ここじゃあ魔法は使えないんだ」

「それはわかってます。しかしですね、アスフィさん達をここに集めたのはどうやってだと思います?」

 

 あっ、と全員が声を揃えた。

 彼らをこの場に集めたのは"願い(ウィッシュ)"の魔力である。

 だが当然魔素(マナ)のほとんど無いこちらの世界では呪文を発動できない。

 そこをクリアしたのがイサミの持つ《特技》、《ミストラの秘儀を知るもの(イニシエイト)》だ。

 

 ミストラの秘儀とは周囲の"(ウィーヴ)"、あるいは"魔素(マナ)"を操作し、それらの欠乏空間でも魔法を発動する技術だ。

 59階層でビホルダーの魔法消失力場の中で魔法を発動したように、微量であっても存在するマナを集めれば魔法の発動は可能になる。

 ただしこちらの世界ではマナが希薄すぎて、一回の呪文を発動できるようになるまでに丸一日近くかかったのだが。

 

「だから、望みが全くないわけではありません。とは言えある程度長期の滞在は覚悟して貰わないといけませんかね。

 幸いなことにこちらでの行動には慣れてるので、少し待って貰えれば拠点は用意しますよ」

「イサミ先生、よろしいでしょうか?」

「どうぞ、アスフィくん」

 

 挙手するアスフィをぴし、とイサミが指さす。

 

「少し待つと言いますが、それまではここにいて大丈夫なのですか? 中に誰か入ってくるんじゃないでしょうか」

「ここは町内会の防火用具兼祭り道具の倉庫・・・といってもわかりませんか。

 まあ火事が起こったりした場合や、防火訓練の時、お祭りの時以外は誰も来ないから大丈夫ですよ」

「なるほど。まあ先生がそう言うなら大丈夫でしょう」

 

 教師と生徒ごっこをする二人に周囲から笑いが漏れる。

 先の展望も見え、腹がくちくなったこともあり、イサミが最初恐れていたパニックや不安は抑えられたようであった。

 

 

 

 数日後、ようやく一同は防災倉庫から脱出することができた。

 イサミが調達してきた服に着替え、"願い(ウィッシュ)"で日本語と現代日本の常識を植え付けた上で全員に財布とスマートフォンを渡す。

 が、他の面々が見慣れない服や新しい知識にワイワイと騒ぐ中で、赤外套達だけは困ったような雰囲気を出していた。

 

「なあイサミっち。俺達はどうしたらいいんだ? ・・・俺達のフードの中身、もう知ってるんだろ?」

 

 後半は小声でイサミに話しかけるリド。

 

「もちろん。そのことも考えてあるよ。服装はそのままでいいから、このプラカードを持って歩いてくれ。文字が見える様に」

「? ああ、わかった」

 

 通行人がいないのを見計らって、一行は防災倉庫を出る。

 後は駅前のタクシー乗り場まで歩き、新しい拠点に移動する段取りだ。

 (レンタカーは免許証が使えないので借りられなかった)

 

「・・・なあイサミっち、この看板の文字ってどんな意味だ? と言うか周囲から妙にじろじろ見られてるんだが・・・」

「顔をフードで覆ったらそりゃ怪しいだろうな。ただでさえ目立つ格好だし」

 

 すっとぼけるイサミ。

 手に手に「神の国は近い」「悔い改めよ」「死後さばきにあう」などのプラカードを掲げつつ、赤外套達はしきりに首をひねった。

 

 

 

「あのー、人が寝静まった夜に移動すれば良かったのでは?」

「真夜中に三十人からの外国人が、しかもクッソ怪しいフード姿の連中がうろついてみろ。巡回の警官に見つかって職務質問不可避だろ」

「あ」

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