ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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17-4 駅前徒歩十分

 タクシーに乗って一時間ほど、東京のベッドタウンの一角。

 やや古くなった短期賃貸のマンションが一行の拠点だった。

 

「この人数がまとめて生活できる所を捜すのにはちょっと苦労したぞ」

「お疲れ様です」

 

 この五日間で、仕切り能力の高さ故にイサミの副官のような立場に収まったアスフィが改めて労をねぎらう。

 

「各部屋に小さいが風呂がついてるから、体を洗う事もできる。みんな使い方はわかるな?」

 

 おお、と女性陣から歓声が上がった。

 物陰で濡れた布で体を拭くだけではさすがに限界もあったらしい。

 仕事柄そう言う事を余り気にしない椿でさえ嬉しそうな顔をしているのだから、きれい好きな面々は推して知るべしである。

 

「部屋割りはどうしましょう」

「そうですね・・・俺、ベルで一部屋。うちの女性陣五人で二部屋。タケミカヅチの男衆と女衆、ヘファイストス男衆とロキ男衆で一部屋ずつ。

 ティオナ椿さんとリューさんアスフィさん、赤外套達でそれぞれ一部屋。ゲドさんはロキの男衆のところで。それでどうだ?」

「えー、私イサミちゃんと一緒がいい~」

「それならわたしはアルゴノゥト君と同じ部屋!」

「君たち、男女同室なんて不埒なこと、ボクが許さないぞ! あ、ボクは神様だからベルくんと同じ部屋でいいよね!」

「いいわけないです! 前から思っていましたが、ヘスティア様は自分だけ特別扱いが過ぎますよ!」

 

 またしても始まる女の戦いを我関せずと高見の見物しつつ、シャーナがイサミを見上げる。

 

「俺は構わないけどよ、赤外套の連中は大丈夫か? ちょいと見たが五人で一部屋はちっとばかり狭いだろ」

「ああいや、俺達はそれで構わないぜ! むしろそのほうが好都合と言うか・・・」

「なのか?」

「まあこいつらは色々面倒なのさ」

「ふーん」

 

 首をかしげつつもシャーナは話をそこで終える。

 リドの後ろの赤外套が視線で謝意を伝え、イサミは軽く頷いた。

 

 

 

 それから一週間。

 各人は新聞やテレビ、インターネットで情報収集し、その合間に散歩したり買い物をしたりと、それなりに日本の生活に適応しつつあった。

 食事は朝夕がイサミ及び有志による合作、昼は好きな物を各自で取るスタイルである。

 

「・・・で、戦力になりそうなのが女性陣の半分以下ってのはどういう了見だよ。しかも殆ど極東組だし」

 

 まがりなりにも料理ができるのがイサミ以外では命、千草、飛鳥らタケミカヅチ女性陣とリリの四人だけという事実に軽く頭痛を覚えるイサミ。

 

「申し訳ありません・・・」

 

 実にありがちなことに、「できる女」であるアスフィは料理ができなかった。まあ王女という生い立ち的にある意味当然ではある。

 料理できなくても気にしないのが椿。と言うか彼女は食事自体にさほど興味がない。レーテーは興味は無くもないが食べる方が好き。

 

「火を通すだけでいいならやるぞ」

「おなじく」

「切って焼いて盛りつけるだけなら!」

 

 ヴェルフとシャーナ、ティオナはこのレベル。他の男性陣も大体そのようなものだ。

 というわけで、下ごしらえと皿洗い程度はできるベルと春姫を加えて、この七人で何とか食卓を回している状況であった。

 

「わー、いい匂いだねー」

「お、今日の晩は揚げ物か。俺串カツがいいなあ。どれ、ちょいと味見を・・・」

「出やがったな! ベル、シャーナとレーテーを追っ払え!」

「あ、うん」

「やーん、ベルちゃんのいけずー」

 

 そんな感じで日々は過ぎていった。

 イサミは部屋に籠もりきりで、しばしばヘスティアもそこに連れ込んで何やら作業をしている。

 一方情報収集と言っても、イサミ以外は一緒に転移してきたであろうヴァンパイア達の痕跡くらいしか探すこともないので、大体各自が勝手なことをしている。

 ティオナを含めた女性陣がベルに絡んでヘスティアが地団駄ふんだり、

 シャーナがベルに飲ませて潰したり、

 女性陣が昼ドラにはまって配信サービスに加入したり、

 18禁サイトにアクセスしてノートPCをシャットダウンさせたり、

 某お菓子の粉の中毒になってネットで大量注文したり、

 ソシャゲにはまって重課金する馬鹿が出たりと色々あったが、まあ些細な問題である。

 

 ――些細な問題である。

 

 

 

 そんなある日。

 

「イサミ君! これを!」

 

 一行の中で一番まじめに情報収集にいそしんでいるアスフィが、イサミ達の部屋に飛び込んでくる。

 その後ろにはリューと椿も。

 

「どうしました?」

「これです」

 

 アスフィが差し出したノートパソコンの画面には、ギリシャでの猟奇事件の記事が小さく載っていた。

 

「『病院が連続襲撃、輸血パックが大量盗難』?」

「そうです。これは、あの人造迷宮の闇派閥のものでは?」

「・・・」

 

 画面を見据えてイサミが沈黙した。

 実はこれまでにも一度、ウィッシュで彼らを捜そうとはしたのだ。

 ただ指定した条件が悪かったのか、それとも何らかの妨害があったのか、はたまたマナの希薄な世界故か、明白な答えは返ってこずに(魔法を使える回数が限られていることもあり)そのまま仲間達のインターネット検索にまかせていたのだが・・・

 

「やっぱり連中こちらに来ていたか・・・くそっ!」

「後悔はいつでもできます。今は彼らをどうにかしましょう」

「こちらにはオラリオとは比較にならないほどの高度な治安維持組織があると聞きましたが、高レベルの冒険者相手では・・・どうでしょう?」

「無理ですね」

 

 リューの疑問をばっさりと切り捨てるイサミ。

 経済危機から立ち直りつつあるとは言え、あの国はそもそも警察組織が日本に比べるとかなり脆弱だし、それ以前に高レベル冒険者に常人が攻撃を当てるのは――たとえ銃器でも――不可能だ。

 当たったところで吸血鬼、しかも【恩恵】持ち相手に拳銃程度ではどうにもならない。最低でも重機関銃や対物ライフルがいるだろう。

 

「つまり、こっちの人たちじゃ吸血鬼達には太刀打ち出来ないって事?」

「・・・吸血鬼は太陽の光に弱いし、紫外線照射装置かなんかが有効ならワンチャン・・・か? あるいは銀の弾丸の機関銃とか」

 

 生前に読んでいた漫画や小説を思い出しつつイサミ。

 もっともD&Dの吸血鬼がダメージを負うのはあくまで自然の直射日光なので、科学で作り出した紫外線ではどうにもならない可能性も高い。

 

「そもそも、何故我々の【恩恵(ファルナ)】はいまだに有効に働いているのでしょう? 魔法や魔道具は全く働かないのに・・・」

「単純に言えば神の力、だからでしょうか。もう少し詳しく言うなら、魔法や魔道具は"魔素(マナ)"の存在を前提に作られてます。

 【恩恵】はマナを媒介しない力だから、この世界でも有効に働くんでしょう」

 

 なるほど、と頷くリュー。

 ちなみにリリの変身魔法も働かないため、彼女はこちらへ来てからずっと小人族の姿のままである。

 イサミがノートPCを閉じて立ち上がった。

 

「とりあえず全員集めましょう。今後の方針を決めないと」

 

 

 

 話し合いの結果は全員一致でギリシャ行きだった。

 積極的消極的の差はあるものの、自分たちの世界から来た者達がこちらの世界で犯罪を重ねている、しかもこちらの官憲では対処できないと来てはそれを見過ごせるような面々ではなかった。

 

「しかしギリシャか・・・」

 

 あまり広くないマンションの居間から台所まで、ぎっしりと詰め込まれた面々を見渡してイサミは内心頭を抱えた。

 アマゾネスは外見は褐色肌の人間女性だし、小人族は子供で通せるだろう。

 が、リューをはじめとしてエルフやらドワーフやら獣人やらを連れて飛行機に乗るのがどれだけ難儀なことか。

 変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)の魔力が働かない赤外套達に至っては論外だ。

 

 まあエルフやらドワーフやら小人族やらが冒険して魔法使いが剣を振り回しながら騎馬突撃するファンタジー映画とか、魔法使い見習いの少年が不思議な世界で冒険する映画が世界的に大ヒットして久しいし、コスプレと思ってくれる可能性はあるが。

 

「というか俺もパスポート取得できないから大して変わらんか・・・」

「なんでだ? 空飛ぶ船みたいなものなんだろ? 金払えば乗せてくれるんじゃないのか」

「大概の国は出入りに専用の許可証が必要なんだよ。そんで、この国に住んでる人間はだいたい役所・・・ギルドみたいなもんだな。

 そこに出生からの記録がある。そこに載ってない人間が許可証をとることはできないんだ」

「マジかよ。すげえなこっちの世界」

 

 現代の社会制度のチートさを改めて実感するイサミである。

 素晴らしきかな普通選挙、素晴らしきかな表現の自由。

 もっとも今はそれがイサミ達の行動を縛る枷となっているのであるが。

 

 なお余談だが先進国でもアメリカなどは戸籍がない。だからといってパスポートが不要なわけではないが。

 

「"上級瞬間移動(グレーター・テレポート)"しかないだろうな。まあ"願い(ウィッシュ)"って手もあるが。

 ギリシャの映像はネットで拾うとして・・・いや、その前にあいつらの位置の特定か」

 

 ピンポーン。

 

 チャイムが鳴った。

 

「またセールスかな」

 

 なにぶん古いマンションで、オートロックなどと言うしゃれたものはない。

 新聞の勧誘も来れば訪問販売もある(驚くなかれ、昭和の遺物のような彼らは、この令和の世においてもまだ生き残っているのだ!)。

 

「はーい! ほれ、ちょいとどいてくれな。ヒューマンとパルゥム以外の連中は外から見えないところにな」

「むぎゅ」

「おい、押すな!」

 

 ぎっしりつまった肉の山をかきわけ、イサミが玄関に向かう。

 エルフやドワーフ、獣人や赤外套達が奥に引っ込んだのを確認し、覗き穴からドアの外を伺う。

 予想に反し、外にいたのはスーツ姿の男二人組だった。

 新聞勧誘にしては格好がきっちりしているし、訪問販売にしては荷物を持っていない。

 首をかしげつつイサミはドアを開く。

 

「はい、どちらさまで?」

「・・・上尾勇さんですか?」

「そうですが・・・」

 

 がちゃり、と音を立てて左手首に銀色の手錠がはまった。

 後ろにいた方の男が腕時計を見ながら小さく、しかしはっきりと声を出す。

 

「十時四十五分、被疑者確保」

「自称上尾勇、預金口座等不正利用防止法違反で逮捕する」

 

 一瞬、時間が止まった。

 

「えっ」

「「「「「えええええええええええええええええええええええええええ~~~~!?」」」」」




ちなみにお風呂問題、イサミ君がいれば"小魔術(プレスティディジテイション)"という初級魔法で服も体も綺麗にできるのですが、さすがにこの状況では使えませんでしたw
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