ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
時間はイサミが逮捕連行された直後に巻き戻る。
「どうしよう・・・どうしよう、兄さんが・・・」
「おおおおお落ち着くんだベルくん! イサミ君なら大丈夫だよ!」
動揺を隠せない者。
「イサミが犯罪をやらかしてるわけがねえ。何か誤解だろうが・・・事と次第によっちゃ力づくでも助け出すぞ」
「当然だよ! 何だったら今からでもやっちゃおうよ!」
ぶっそうな覚悟を固める者。
「ここは様子を見るしかあるまいて」
「でも、元々この世界にいない人間だよねー?
この世界の人はみんな名簿に名前が載っているって言うし、調べられたらまずいんじゃないかなあ・・・」
「すげえ世界だと思ったが、こう言う時は困りもんだなあ・・・」
とりあえず静観する気ではあるが、かといっていい思案も浮かばない者。
「落ち着きなさい、あなたたち!」
一喝したのはアスフィだった。
ざわついていた室内が、それだけでしん、と静まりかえる。
レベルは4止まりとは言え、実際に構成員を統率し、派閥を運営してきた経験は重みが違う。
Lv.5で同じ派閥首領である椿や元首領のレーテー、Lv.6のティオナも沈黙させるだけの威厳がそこにはあった。
「まずは事態を静観します。ですが、すぐに動けるように備えてもおきます。
恐らく連れて行かれたのは近くの"けいさつしょ"でしょう。
幸いタケミカヅチ・ファミリアの方々はこの国の人々と外見が同じで目立ちませんから、
近くの喫茶店かなにかで交代で張り込みをして貰い、動きがあったらすぐに連絡して貰います」
「お、おう」
桜花が慌てて頷く。
「夜になったら隠形に長けた方に交代します。とは言っても今だと【疾風】以外にはいませんね・・・
しょうがありません、敏捷度の高い高レベルの人間が交代と言う事で。
日没から真夜中まではティオナさん、椿さん、【疾風】、レーテーさん、シャーナさん。
真夜中から夜明けまでは私と赤外套の方々ということでどうでしょう」
名前を挙げられたメンバーが頷いたのを確認し、アスフィは指示を続けようとするが、それをベルが遮った。
「あの。僕も見張りに加えてはもらえないでしょうか」
「・・・いいでしょう。日没からの組に入ってください。指示には従うように」
「は、はい! ありがとうございます!」
僅かに考えはしたものの、アスフィはベルの提案を受け入れた。
いてもいなくてもさほど影響はないし、足手まといにはならないと思ったのだろう。
「赤外套の方々は今のうちに仮眠を。他の方々は、いつ出撃してもいいように準備を。
ここには戻って来れない可能性も高いでしょうし荷物をまとめて、保存食やロープ、野営用品なども"ほーむせんたー"などで可能な限り調達をお願いします」
視線を向けられたロキファミリアの中堅団員やヘファイストスの鍛冶師達もまた頷きを返す。
最後にアスフィは視線をベルに――正確にはその肩に乗っかったヘスティアに向けた。
「現状ではできる事はこのあたりかと思います。よろしいでしょうか、神ヘスティア」
「うん、文句はないよ。よろしく頼む、"
「それはこの場の全員のがんばり次第ですね――では行動開始してください!」
「はいっ!」
「わかった!」
「おう!」
「任せとけ!」
口々に威勢良く、了承の返事が部屋に響いた。
日中から夜に変わった頃、早くもそれは起こった。
ただし、さすがの"
警察署近くの喫茶店に交代で張り込んでいた命達の携帯に電話がかかってくる。
近くのビルの屋上にアスフィたちが着いたという知らせ。
同じテーブルに着いていた景清、飛鳥と短い会話を交わし、注文票を掴んで立ち上がる。
爆音が響いたのはその時だった。
「!」
ウナギの寝床のような細長い店内であったゆえに、入り口に近い席でないと外の様子はうかがえない。
交通事故か?くらいの表情を顔に浮かべる店員や他の客を尻目に、千円札二枚をテーブルに叩き付けて喫茶店を飛び出す。
街灯がつき始めた薄暗がりの中、覆面の男達が肩に担いだロケットランチャーで警察署を爆撃していた。
ハリウッド映画としか思えない、余りと言えば余りな光景に通行人も呆然としている。
ピルルル、と再び命の携帯が鳴った。慌てて通話ボタンを押した彼女の耳に、さすがに焦りをにじませたリューの声が響く。
「既に待機組には連絡しました! あなた方は彼らと合流して武具を受け取ってください!
それまでは私たちがどうにかします!」
それだけを言って通話は切れ、次の瞬間警察署の前で今度は閃光を伴った爆発が起きた。
一瞬遅れて警察署の周囲がもうもうたる白煙に覆われ、警戒の叫び声が煙の中から聞こえる。
更に続けて上空から複数の影が飛び込み、驚きの声と金属同士が激しくぶつかり合う音。
「くっ・・・魔法が使えれば・・・!」
屋外、開けた場所でこそ命の重力魔法《フツノミタマ》は真価を発揮する。
Lv.2の冒険者が持つには破格の、そして足止めにはこれ以上ない魔法だったが、マナの存在しない世界では発動すらできない。
最低限の武器しか持ってきていない事もあり、命達はしばらく歯がみしているしかなかった。
最初にリューの手から飛んだのは閃光発煙の手投げ弾だった。
強化足止め袋などと並び、アスフィの手持ちの中では数少ない魔力を介さないアイテムである。
(バースト・オイルなどは魔力を秘めた材料を使用しているので、この世界では発動しない)
「イサミさんはどうしますか!?」
「取りあえずは時間稼ぎを優先! きゃつらを止めるぞ!」
椿の言に頷き、リューもまた白煙の中に飛び込んでいく。
「てりゃあああぁっ!」
「グワッ!?」
「ギャアッ!」
真っ先に飛び込んだのはティオナ。
同士討ちなど考えずに振り回された
「こっちだね!」
「しまっ・・・」
野性の勘か、それとも鋭い嗅覚か。
『ぬっ!』
煙を抜けて突進したティオナの目の前には、豪奢な衣装をまとい、長杖を持った死者――死霊王。
「いっただきぃ!」
轟、と空気を切り裂いて
頭から真っ二つになると見えた死霊王の姿が、だがゆらりと揺れた。
「なっ?!」
素人の目には、
中レベルの冒険者ならば、死霊王の体が瞬間移動でもしたかのように真横に50cm程ずれたように見えたに違いない。
そして一級冒険者であるティオナの目には。
「このっ、リヴェリアみたいな事を・・・いや、リヴェリアよりも上・・・!」
死霊王が長杖で
ただの術者ではない、肉弾戦でも侮れない相手とティオナが認識した刹那。
『どうやら貴様が一番の手練れじゃな――"
「えっ? わっ、うわああ!?」
ふわり、とティオナの体が浮いた。
高レベル冒険者であろうと何だろうと、普通の人型生物は空を飛べるようにはできていない。
飛び道具も魔法もなければただの無力なカカシと化す。
「ま、魔法は使えないんじゃなかったの!?」
『ふん』
驚くティオナに、死霊王は一瞥をくれたのみ。
「このっ、無視すんなあ!」
ぶんっ、と空気を引き裂いて飛んで来た
空中でジタバタするティオナがわめき散らすが無視。
「う、うおっ!?」
死霊王が続けて杖を向けたのは椿。
やはり
『残りを包み殺せ』
「はっ!」
「くそっ!」
歯がみするが、やはり椿には何も出来ない。
幸いなのは、(彼らは知らないが) "
圧倒的不利に傾いた状況では大した慰めにもならないだろうが。
"
死霊王は"呪文集中の達人"であり、複数の精神集中を同時に維持することが出来ますが(イサミもできる)それでも最大で三つ(即行、移動、通常アクションをそれぞれ消費)。
三つ同時に維持すると、文字通り身動き一つ出来なくなるので事実上二つが限界なのです。